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雄大な自然と仕事と世界の経済格差 (エリート街道から降りて収入が1/100になっても、今が一番楽しいと思う理由Part2)

ンゴロンゴロ国立公園で撮った写真です。


ブラジルからアフリカへ

ブラジルでの体験で退社の決心はついたものの、その時すでにアフリカ・モザンビーク行きの話が進んでいました。総合商社がすごいのは、こうやって魅力的な機会を次々に投入してくれるところです。僕はアフリカに行ける千載一遇のチャンスをもぎ取ったわけですが、後で聞いた話だと、ブラジルからモザンビーク行きのポストに熱烈応募したのは僕一人だったみたいです。熱烈になる必要はゼロだったという。

南アフリカの右上のこの国での僕の担当は、石炭採掘と、それを港まで運ぶ900kmの鉄道敷設プロジェクトでした。

日本政府のODAやいろんな国との共同プロジェクトです。利益を上げるためには最小限の予算で周辺の村を移動させたり、夏は50℃にもなる炭鉱でアフリカ人に効率的に働いてもらわなくてはいけません。モザンビークは、幼児の10%は5歳を迎える前に死ぬレベルの貧困国なので、先進国の食糧や金銭の支援と引き換えに、過酷な環境での労働や数百年引き継いできた土地を手放す事に簡単に同意します。Win-Winなのですが、じゃあ誰が文化や自然を守るんだ?という疑問は残ります。

僕はプロジェクトの採算が大事なのは承知で「視察先の村の井戸が壊れているから追加してください」とか「学校が足りない」とか予算を引っ張るレポートばかり書いていました、商社マンとしてはゼロ点・失格ですが、もう時効なのでここに告白します。


とにかくアフリカの自然が素晴らしい

アフリカには国立公園(サファリ)がたくさんあるのですが、公園とはいえたぶん北海道より大きく、雄大な自然に溢れています。アフリカは広いので、それぞれの地域で見られる自然や動物の種類も異なり、自分が生物として地球に住まわせてもらってる感じがします。このとき新婚旅行はアフリカに行くと決めてから、現在5年が経過しています。

アフリカの文化や人もおもしろい

街には特に何も無く観光は1時間で終わります。人々は非常にLAZY(怠けるのが好き)でルール無用。僕は一度 ”外国人” という聞いたことのない罪名で警察に連行されて留置所に入り、看守と仲良くなって脱出したことがあります。食堂の店員は、目が合っていても気づかないフリをして注文を取りに来ず、いざ食べ始めると一転して数十秒後に皿を回収しに来ます。早く帰りたいからです。コーラ一本で行政手続きを100人くらいゴボウ抜きにできるし、屋台の鶏肉は「ちゃんと焼いてね」と言わないとピンクで出てきます。でもこれが、この土地のコミュニケーションや慣習なので、それを全て先進国のように平準化するのは、おもしろいのかな、と疑問です。


”経済”で切り取ると明確になる格差

お金という物差しで計らなければアフリカは十分に豊かなのですが、一度先進国の文明を横展開すると、格差が顕在化します。僕は会社に充てがわれたプール付きの六本木ヒルズみたいな家に住み、会食で毎日のようにステーキやシーフードを食べていましたが、その傍らには、火を通さないと毒性が強いキャッサバを食べて死んでしまう子供や、ゴミ廃棄場の近くで異臭の中で暮らしている家族がたくさんいます。

僕のやっていた仕事は、ここで掘った石炭をアジアに運んで現代的な生活の電力供給を支えます。また現地にたくさんの雇用を生み出すので、彼らは稼いだ賃金で美味しいものを食べたり、娯楽に使ったり、服を買うことができます。と同時に、先進国の物差しにより顕在化する貧富の差は、以前あったはずの豊かさを見失わせます。

僕らの生活が便利になることは大切です。しかし、文化や多様性を見失いCO2を排出してまで追求したい利便性とは何か?奇しくも2020年になり日本の石炭火力発電事業やメガバンクの投融資が批判に晒され、商社にバフェット株も入り化石燃料事業の撤退方針ラッシュが続いてますが、そうなる前に自然と気付くようにならないと、日本からサステイナブルな仕事は生まれないんじゃないかと思っています。


人は、簡単に本質を見失う

葛藤の中でせめて自分にできることをと、UNの活動支援や植林の新規事業を細々とやっていたある日、日本からの出張者の女の子が屈託のない笑顔で他の駐在員に囲まれて祝福されていました。聞いてみると、

”石炭輸出先のインドで、火力発電所の建設を受注しました!!どんどん掘ってください!”

ゾッとしました。何が怖いかって、笑顔がキラッキラだったという事。駐在員はもちろん、現地採用のモザンビーク人も祝福しています。喜ぶのは良いけど、2015年当時でも、気候変動や砂漠化、貧困や飢餓問題も顕在化しており、自社の利益とトレードオフで何かを犠牲にしているという後ろめたさを感じるものだと思っていたので。”古巣相手に決勝ゴールを決めたサッカー選手”くらいの複雑な表情をして欲しかったのですが、みんな全力で喜んでいるのを見て、僕だけそそくさとデスクに戻りました。KYという評判は浸透していたので、特に誰も気にしていませんでしたが。


誰かが悪いという事ではない

その子は自分の仕事を全うしたから喜ぶのは当然だし、アフリカ人がお金をもらって贅沢な暮らしに興じるのも自然な事です。考えなくてはいけないのは歴史や社会課題を踏まえてもっと俯瞰的に見た時に、一連の流れとして正しい事なのかどうかです。世界でも有数の余裕のある生活をしている僕たちは、それを考える責任があります。

アフリカの素晴らしさは、人口が多くこれからの成長市場である事や、資源が豊富だから稼ぎやすいという先進国の視点もあると思います。でも僕は、世界で唯一無二の雄大な自然と野生動物が織りなす景色や、何千年と続いてきた文化や種族が紡ぎ出す多様性の方が、長い目で見ると価値があるんじゃないかと感じています。


退職

『モザンビークの竹井です、どうやって退職すればいいんですか?』

電話越しに東京の人事が戸惑っていたのを覚えています、何しろ突然だったので。僕はモヤモヤしたら坂道を走ってスッキリして解決するのですが、この時は長めの坂を10本以上走っても変わらず、さすがに限界かなと診断しました。カヤポ族やMargalida女史の言葉に改めて納得し、60歳まで保証されているエリート街道を降りました。こんなにも後悔しないものかと驚きましたが、今ではなぜそうだったのかロジカルに説明できる気がします。

考え抜いた納得感があれば、裕福な環境や将来の保証などは全然魅力的に見えなくなるのです。

株式会社hakken

僕たちの会社は、”食”の面白さを追求し、フードロスや貧困の解決を目標に掲げるEatTechカンパニーです。いつかアフリカのシェフや生産者とつながる事で、自然や文化を棄損させることなく、土着の文化とテクノロジーを融合させた健全な発展を起こせると良いなと思っています。似たようなベクトルを持つ人や少しでも共感してくれた人は、一度話を聞きに来てください!

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