こんにちは。世界中でモノつくりの連載を起こす GAOGAO で、プロジェクトマネージャーをしている『しまむ』(@smtrdev) です。
最近は開発組織の英語化変革(EX)を伴う開発支援に従事しております。これまでの海外メンバーとの協業経験を踏まえつつ、今回グローバル開発チームの組成からリード・マネジメントに携わる中で感じた点を、いくつかご紹介させて頂きたいと思います。
グローバル開発チームの詳細
- 数十人規模のエンジニア組織における1チーム
- 5人チーム(PjM1 日本人1名 / PL日本1人名 / 日本人・マレーシア人バックエンド2名 / ベトナム人フロントエンド1名)
- 日本国籍、マレーシア国籍、ベトナム国籍の多国籍チーム
- アジャイル開発(スクラム)
- フルリモート
- 英語公用語は弊チームのみ
想定読者
- グローバル開発チーム立ち上げを検討中の方
- グローバル開発チームに興味のある方
1年間グローバル開発チームを率いて感じたこと
感じたことはここには書ききれないくらい沢山あるのですが、代表的なものを5つ選んでみました。
1. 日本のITのものづくりのクオリティはとても高い
「阿吽の呼吸」という言葉があるくらい、「言われなくても当然する」習慣が高い水準で備わっている人の割合が、世界の中でも群を抜いて多いのではと思います。(もちろん例外はあると思いますが)
日本的な「言われなくても当然する」vs 世界的な「言われてないから当然しない」のカルチャーギャップを上手に埋めることが、グローバル開発チームを機能させる上で重要な点だと思いました。
2. 関係者全員の理解が必須である
初めて海外メンバーを受け入れる際に、現場の理解を事前に得ることも重要になります。
仮に英語をチームの公用語とする場合は、当たり前ですが英語を使うことになります。日本語だけのやり取りでスムーズな開発を実現してきた現場にとって、+αの負担を強いるような構図になってしまうことは十分に考えられます。
海外メンバーを受け入れることが事業の拡大、組織開発に寄与するという絵を、現場で共通認識を持てているだけでも、海外メンバー受け入れに対する心理的障壁の軽減につながると思います。
組織フェーズにおいては、必ずしも英語化変革が重要ではないケースも往々にしてあると思います。弊社では、まずは日本人英語話者エンジニアをベースにした1チーム内での英語化を推進するところから始め、段階的にそれを拡大していくような取り組みを行なっております。
3. コミュニケーションは妥協せず徹底的にすべき
仕様認識や品質水準に関しても、徹底的に認識を合わせることも重要です。
「海外の人材のスキルは低い」という言説をたまに目にすることはありますが、マネジメント側の問題に起因する場合も十分考えられます。
「何を、どの基準を満たして、誰が、いつまでに、どうする」という話を、明確に、口酸っぱく、丁寧に対話できているかが、グローバル開発チームでの成功の鍵になります。
また大前提として、伝える側が仕様理解・技術理解をできていることが必要です。日本人同士ですら認識ズレの起こりうる世の中で、伝えたいことを英語にした際「抜け落ちているニュアンスがないか」「余計な情報を足していないか」を意識する必要があります。
DeepL や Google の機械翻訳は便利ですが、過信は禁物です。大元の日本語の主述が曖昧であったりするだけで、一気に英語としての文章の質は下がります。なので、それらのツールの恩恵に預かり上手に活用しつつ、その違和感に気づける英語力を持つ人がチームに1人いるだけでも、十分コミュニケーションの質の改善に繋げることができます。
会話の頻度と、トリガーの設定も重要です。例えば、「何かあったらメッセージして」というコミュニケーションをすると、高確率でメッセージは返って来ません。なぜなら「何かあった」の判断基準はその人で異なるからです。日本人にとっての「何かあった」は、海外メンバーにとっては「何もない」ことも多いです。
「oo時までにはxxしてほしい」「yyまでできたらzzしてほしい」などど、次のコミュニケーションの起点となるトリガーも明確にセットして伝えるとなお良いです。こういう場合はきちんと連絡をしてくれる場合がほとんどです。
4. 日本人だけでのプロダクト開発の延長線にあると認識する
グローバル開発チームという言葉の裏には、「グローバル」「英語」「外国人」というニュアンスが潜んでいて、少し身構えてしまう方もいると思いますが、それは全く身構える必要はありません。そこにいるのは、生身の人間たちです。
本質的には、日本人だけでのものづくりの現場に、たまたま母国語が違うメンバーがいることだと思えるかが、1つの心理的障壁を減らす鍵だと思います。
よく「英語が大事」という言説も目にしますが、では果たして本当に英語ができれば、どんな組織でも、誰でも海外メンバーと素晴らしいものづくりができるのでしょうか?
私はその限りではないと思います。姿勢も重要だと考えます。
壁を作らず、1人の大切な仲間として受け入れ、尊重し、彼らが最大限パフォーマンスを発揮できる環境を作り出すことに全力を注ぐこと。
そのための道具が英語であり、すべてではありません。英語が公用語の国々は、母語の心配をすることなく、それらをナチュラルに実行できるので、最初から有利な状況にあります。
英語圏の国々の開発組織に対して、英語力の向上のみで戦いを挑むのは至難の業です。
日本の強みである高品質なものづくりは、すでにそれ自体が十分に誇れるものであり、あとは少しだけマインドをグローバル基準に寄せていくだけで、一気に世界を巻き込んで飛躍していけるポテンシャルを持ち合わせていると思います。
5. 旗振り役が折れてはいけない
プロジェクトを進める上で、思い通りに進められることなんてほぼないのではないでしょうか?
- 予定要員の参画キャンセル
- 役割の兼務による負荷
- 要員確保が難航
- 仕様認識の齟齬
- 品質管理の不備
挙げればキリがないですが、組織で初めてグローバル開発チームを立ち上げる場合には、想定通りに動かないことばかりです。それを乗り切るためには、周囲からの好意的な支援を仰げる体制を作っておくことが重要です。
特に、PjMの開発スキルがメンバーと同程度の場合、悪手ではありますが「巻き取ってなんとかする」すらも困難な場合があります。技術面でのバックアップ体制を確立することも重要です。
グローバル開発チームに対して「お手並み拝見」のようなムードが広がると、周囲への支援を仰ぐ難易度が上昇し、チーム単体での解決を図り、解決が遠のいていく負の悪循環に陥る可能性があります。
それを防ぐためには、後述のプロジェクト始動前、チーム組成前の動きが鍵になると考えます。
今後に向けて
グローバル開発チームの成否はほぼ、プロジェクト始動前の初期段階で確定しています。
そしてそれらは、旗振り役の行動次第でいくらでも好転できるものでした。
具体的には以下の内容になると思います。
- プロジェクトの意義・ゴール認識が関係者全員で認識できている
- なぜ海外メンバーを交えて開発を推進するのか
- プロジェクトのスコープ
- QCDの明確な合意ができている
- 特に品質厳守のプロジェクトの場合、品質基準を明文化できているか
- 品質を担保できる人材がチームにいるか
- 採用要件の合意
- 専門人材か、職能横断人材か
- 要求水準を満たす人材が確保できているか
- 満たさない場合、チームとしてのフォロー体制ができているか
- レビュー・品質保証の体制を確立できているか
- 初期要員を十分に確保できているか
- 無理な体制でスタートしていないか
- チームメンバーの役割分担が明確であるか
- リードとマネジメントが混在していないか
もちろん、プロジェクト始動後にするべきことも多々あります。ドキュメントの整備や頻繁なコミュニケーションなど、述べたい事柄はたくさんありますが今回は割愛します。
今回取り上げられなかった内容に関しても、整理して今後改めて記事にできればと思います。
グローバル開発チームでプロジェクトを推進していくために重要なのは、初期段階から、プロジェクトマネジメントで大事とされる原則に立ち戻り、そして始動後も愚直にチームに向き合い、プロジェクトを前に進めていくことだと考えます。
「グローバル」という単語のもつ高揚感に踊らされることなく、地に足ついて、粛々と目の前のプロジェクトを遂行していく。そのための重要な手段として英語がある。
この認識をベースに持ちつつ、グローバル開発チームを好きでいること、絶対に成功させるという気概を持ち続け、今後もよりよりグローバル開発チームを作り上げていけたらと思っております。
まとめ
- 日本のITのものづくりのクオリティはとても高い
- 関係者全員の理解が必須である
- コミュニケーションは妥協せず徹底的にすべき
- 日本人だけでのプロダクト開発の延長線にあると認識する
- 旗振り役が折れてはいけない
- プロジェクト初期段階が肝
今回書ききれなかった内容もあります。文章に至らない点があるかもしれません。
補足・修正なで出来ればと思いますので、ご意見、ご感想などございましたら遠慮なくお声がけください。
今後も、グローバル開発チームに関する発信を強化していこうと思いますので、ぜひXのフォローもよろしくお願いいたします!