今回の記事は、宇宙分野に挑戦する学生団体「ASE-Lab.」の皆さんと、当社の毛利啓太が行った対談をもとにした特別記事です。
ASE-Lab.は、宇宙工学・情報・理学系をはじめとする学生が集い、
研究活動だけでなく、宇宙業界で働く人への取材や情報発信を通じて、
「宇宙を仕事にすること」をより具体的に考える場をつくっている学生団体です。
Fusicはこれまで、ASE-Lab.が運営する学生向けイベント「アストロキャンプ」のスポンサーとして関わってきました。
そうしたご縁をきっかけに、今回の対談企画が実現しています。
なお、ASE-Lab.として社外の人を取材し、記事として発信するのは今回が初めての試み。
学生ならではの率直な問いを通して、技術やキャリア、そしてモノづくりへの向き合い方が、自然な対話の中で語られています。
ぜひ最後までご覧ください!
1. キャリアの変遷:ゲームの最前線から、Fusicへ
ーまずは、毛利さんのこれまでのキャリアについて詳しく教えてください。
私は九州大学の電気情報工学科を卒業し、大学院を修了した後、新卒で福岡に拠点を置くゲーム会社に入社しました。
約5年間、エンジニアとして当時まさに社会現象となっていたプロジェクトの開発に没頭していました。
その後、株式会社Fusicへ転職し、現在は先端技術チームのチームリーダーを務めています。
Fusicに入ってからは今年で12年目になりますが、最初はIoTプロジェクトの受託開発からスタートし、自社プロダクトのプロダクトオーナーやIoTチームのリーダーを経て、現在の宇宙関連事業を牽引する立場に至ります。
ーゲーム業界から現在の宇宙事業へ至るまで、どのような変遷があったのでしょうか。
実を言うと、最初から「宇宙をやりたい」という強い動機があって転身したわけではないんです。
先ほどお話しした通り、最初はIoTの案件を担当したのですが、実際に開発を進める中で「IoT開発のしにくさ」を痛感したことが転機になりました。
そこで、IoT開発者向けの自社サービスを自分で考案し、会社に「これをやりたい」と提案したんです。
そこからプロダクトオーナーとして、開発・運用・営業、さらにはエバンジェリスト的な活動まで幅広く経験することになりました。
その後IoTチームのリーダーとなり、機械学習チームと共に先進技術部門が作られて現在に至ります。
ーそこから宇宙分野へはどう繋がっていったのでしょうか。
宇宙事業に本格的に関わり出したのは、ここ数年のことです。
先進技術部門でIoT・機械学習に限らず面白そうな案件をこなしていく中で、宇宙・3D・GIS(地理情報システム)案件も実績ができ、部門の規模がだんだん大きくなってきました。
そこでIoT・機械学習以外のもの(宇宙・3D・GIS)を引き取って先端技術チームで扱うようになったのが、宇宙分野に大きくかかわるようになったきっかけです。
たまたまこの3つを持つことになりましたが、宇宙と3D、GISは親和性が高いことに気づき、3DやGISにも専門性を持つことでより多様な宇宙関連プロジェクトに対応できると考えました。
ーかつてのゲーム開発のスキルが、宇宙という全く別の分野で活かされたということですか?
まさにそうです。例えば、衛星のシミュレーションを3Dモデルで可視化したり、衛星画像を元にデジタルツインを作ったりといったプロジェクトが考えられます。
衛星のデータ解析というと、以前は複雑な数値やグラフを追うだけのようなイメージが強かったかもしれませんが、そこに「3Dで見せる」という要素を加えることで、より楽しく、かつ分かりやすく情報を伝えることができます。
ー特定の目標に向かって進んできたというより、持っている技術を繋ぎ合わせてきた結果なのですね。
そうですね。宇宙事業に関しても、3Dに関連する取り組みがようやく「実を結び始めてきた」という感覚があります。
自分が持っているゲーム由来の3Dスキルを捨てずに引き継ぎつつ、新しい領域と掛け合わせていった。これが今の私の立ち位置を作っています。
2. Fusicという会社:OSEKKAI×TECHNOLOGY
ーここで、毛利さんが所属する「株式会社Fusic」についても伺わせてください。毛利さんから見て、Fusicはどのような会社ですか。
一言で言えば、「世の中にあるいろんなテクノロジーを、みんなが受け取りやすい形に加工して提供している会社」だと思っています。
世の中には高度な技術がたくさんありますが、それ単体では誰もが幸せになれるわけではありません。
その間に私たちが立って、いい感じに加工して、お客さまやその先のユーザーに届ける。
非常に抽象的ですが、これが私たちの役割です。
ーFusicの具体的な強みはどこにあるのでしょうか。
大きく3つあると考えています。
1つ目は、「AWSの圧倒的な強さ」です。
認定資格数は直近で300を超え、AWSからトップエンジニアとして表彰されるようなメンバーも多数在籍しています。
2つ目は、「技術の幅の広さ」。
Web、クラウドはもちろん、IoT、機械学習、宇宙、3D、GISなど、これらを掛け合わせられる会社は、この規模(約130名)ではなかなかない自負があります。
3つ目は、エンジニアが主体的に顧客の課題に踏み込む姿勢を持っていることです。
私たちは創業時から、エンジニアであってもお客さまと対面で話す姿勢を大切にしてきました。
だからこそ、「言われるがままに作る」のではなく、お客さまが本当にやりたいことを汲み取り、主体的に「より良いものを一緒に作り上げるための+αの提案」を行う。この姿勢が、私たちの全てのプロジェクトに根付いています。
ー受託開発という枠を超えた、パートナーのような立ち位置ですね。
はい。私たちは社内でこの姿勢を「おせっかい」という言葉で呼ぶこともありますが、その本質は、
「顧客のビジネスを自分事として捉え、本質的な価値を提供するために踏み込む」ことにあります。
「お客さまはこう言っていますが、目的を考えたらこちらのほうが適切ではないか」といった提案を惜しみません。
この一歩踏み込んだ信頼関係が、私たちの全てのプロジェクトの基盤になっています。
3. Fusicが挑む「宇宙×クラウド」:「ミッション」への集中を支えるクラウドの力
ーFusicが宇宙事業において掲げているビジョンと、具体的な取り組みについて教えてください。
私たちは主に、宇宙業界に対する「AWS技術の導入支援」を行っています。
今の宇宙業界を俯瞰すると、多くの事業者が人工衛星の製造だけでなく、地上局との通信インフラや、運用・解析システムまで、すべてをゼロから「自前」で作ろうとする傾向があります。
しかし、衛星事業者の本来の価値は、「衛星を使って何を成し遂げるか」にあるはずです。
地上インフラの構築にリソースを割かれすぎるのは、業界全体の発展を遅らせてしまうと私たちは考えています。
ークラウド技術を宇宙開発に持ち込むことで、具体的に何が変わるのでしょうか。
クラウドを活用すれば、サーバーの調達やデータの保存・管理といったインフラの苦労を大幅に削減できます。
私たちが汎用的な地上システムやデータ管理プラットフォームを提供することで、事業者の皆さんは本来やりたかったミッションに集中できるようになります。
ー実際の開発現場では、どのような技術スタックを使用しているのですか。
宇宙プロジェクトだからといって特殊な言語を使っているわけではなく、基本的にはモダンなWeb技術が中心です。
言語はPythonやTypeScript、フロントエンドにはReact、インフラ管理にはTerraform(IaC:Infrastructure as Code)を採用しています。
IT業界では一般的ですが、宇宙開発の現場にこれらを持ち込むことで、変更に強く、透明性の高いシステム構築が可能になります。
特にTerraformを使ってインフラをコード化することで、テスト環境と本番環境で全く同じ構成を瞬時に再現できるメリットは非常に大きいです。
4. エンジニアとしての成長論:鳥人間コンテストでの原体験と学習法
ー毛利さんのエンジニアとしての姿勢に影響を与えた、学生時代の経験はありますか。
九州大学時代に参加していた「鳥人間コンテスト」の活動は、私の原点と言えます。
宇宙飛行士の若田光一さんは大先輩で、サークルの倉庫にはサイン入りの旗がありました(笑)。
このコンテストを通して文字通り「命を削って本気でモノを作る」という経験をしました。
四六時中、機体のことを考え、日常のあらゆるものが「これ機体の機構に使えるんじゃないか?」と結びつく。
あの時の圧倒的な熱量と、主体的に動く感覚は、社会人になって新しいことを成し遂げる際の大きな糧になっています。
ー今の学生が身につけておくべき最も大切な能力は何でしょうか。
大きく分けて2つあります。
1つ目は「新しいものを取り込む力」です。
重要なのは「何を知っているか」という知識の量そのものよりも、「新しいものの取り込み方」を知っていることだと思います。技術の世界は流行り廃りが激しいです。学生時代に「これをたくさん知っています」という状態は素晴らしいことですが、そこに満足してしまうのは危険です。
新しい技術が出てきたときに「いかに早くキャッチアップして自分のものにするか」というやり方が身についているかどうか、それが将来の生存戦略になります。
学生のうちにいろんな技術に触れて、実際にそれを取り込むという「経験」を積んでおく。そうすると、全く新しいものが来たときでも、過去の経験則から苦労なく適応できるようになります。
現状の知識量に満足せず、新しいものを常に取り込み続ける、アップデートし続ける感覚を磨いてほしいです。
2つ目は「何かに本気で取り組む経験」です。
「常に課題をバックグラウンドで考え続けている状態」を一度経験しておくことは、非常に大きな糧になります。
この経験の価値は、社会人になって困難な壁にぶつかったとき、その「本気モードの入り方」や「集中した時の感覚」を自分自身が知っているという点にあります。
この感覚を一度掴んでいれば、将来何かを成し遂げようとしたときに、そのモードを再現できるんです。
ー「何かに本気で取り組む」とはモノづくりに限らず、どんな分野でも共通して言えることでしょうか。
もちろんです。スポーツでも研究でも、あるいは別の活動でも構いません。
大切なのは、「自分事として考え、主体的に動く経験」をすることです。
他人が作った場に参加して楽しみを享受するだけの人になるのではなく、自分から入り込んで、その場に何らかのインパクトを与えてやろう、自分で何かを変えてやろうという意志を持って動く。
この「自分でやってやろう」という主体的な動機で動いた経験こそが、社会に出てから何事も自分事として捉える力に繋がります。
ー毛利さんは学生時代どのように技術を身に着けておられたのですか。
私の場合は、「作りたいものをとにかく作る」というスタイルでした。
もちろんモノづくりをするための入門書は必要ですが、本の通りにプログラムを書いていてもあまり面白くはありません。
まずはその技術を使って「何か楽しいものが作れないか」を考えます。
「作りたいもの」が決まると、それを作るために必要な技術やモノを必死に調べるようになります。
最初はつまみ食い程度にはなりますが、手を動かしているうちに、自分が作ったモノに対してある程度「どんな仕組みか」が分かった状態になります。
その段階で改めて本や資料を見直すと、「あ、こういうことをやってたんだな」「そういう原理だったんだな」と体系的に理解が繋がるんです。
ぼんやりしていたところの解像度を上げていく作業みたいな感じですね。
ーまずは手を動かす、ということですね。
その通りです。
不完全な知識でもいいので、まずはアウトプットを出す。その過程で足りない部分を補うというサイクルを繰り返すことが、エンジニアとして成長する最短ルートです。
学生の皆さんには、ぜひ今のうちに「自分の力で何かを作り切る」という経験をたくさん積んでほしいと思います。
5. 宇宙業界の面白みと未来:人間の「感覚の拡張」としてのテクノロジー
ー毛利さんが宇宙の業務に携わる中で、最も面白いと感じる部分はどこですか。
大きく2つあります。
1つは、宇宙事業は「究極のIoT」だという点です。
よく「IoTは人間の感覚の拡張だ」と言われます。例えば、遠隔地にカメラがあればそれは「人間の目」の拡張ですし、センサーがあれば「触覚」の拡張になります。
宇宙の場合、自分の目が宇宙にあって、そこから地球を見下ろせている。一度も見たことがない衛星から、間違いなくデータが届くという不思議な感覚。
自分の感覚が宇宙規模まで広がっているという壮大さは、何物にも代えがたい楽しさがあります。
ーもう1つの面白みは何でしょうか。
「人類の英知の結晶」の一端を担っているという実感です。
宇宙開発の歴史は、気の遠くなるような積み重ねの上に成り立っています。自分たちが関わっているのはそのごく一部ですが、人類が宇宙へ進出しようとしている大きな流れの最前線にいると思えることは、エンジニアとしてこの上ない喜びです。
ーこれからの宇宙業界はどう変わっていくとお考えですか。
衛星データの利活用がもっと身近になります。
以前、自治体から「田んぼの補助金不正受給を防ぐために、衛星画像で耕作状況を確認できないか」という相談がありました。当時はコストと頻度の面で断念しましたが、衛星の数が増え、価格が下がれば、こうした身近な社会課題の解決が当たり前になります。
私たちは、その「楽ができるベースのセット」を揃えていきたい。
「衛星データを気軽に利活用できるような技術基盤」を整えたいと考えています。
6. 学生へのメッセージ:情熱がすべての垣根を超える
ー最後に、宇宙に興味を持っている・宇宙に本気で取り組みたいという学生に向けてメッセージをお願いします。
宇宙業界は、他の業界に比べて「情熱」でできている業界です。
今は裾野が広がり、文系を含めどんな学部学科の学生でも関われるようになってきています。
大切なのは、自分の興味や強みを、いかに宇宙と繋げるかです。
この記事を読んでいる皆さんは、すでに「情熱を持つ」という一番大切なハードルを越えています。
ぜひ、その情熱を大切に、主体的に挑戦してください。
今回の対談を通して伝わってきたのは、
分野や肩書き以上に、
どれだけ主体的に、本気でモノづくりに向き合うかが、
その後のキャリアを形づくっていくということでした。
正解が用意されていない環境でも、
情熱を持って自分事として踏み込み続ける。
その姿勢こそが、新しい挑戦や領域を切り拓いていきます。
この記事が、
これから何かに挑戦しようとしている人の背中を、
少しでも押すことができたら嬉しいです。