ザクッ ザクッ ザクッ
ザクッ ザクッ ザクッ
….
ああ ちょっと待って!
まだ諦めるのは早いかもしれませんよー!
騙されたと思って僕の話を聞いていきませんかー?
これは大学4年生の僕︎(だいち)が、この会社と出会って入社するまでの物語です。
2022年の春に起こった、なんでもないけど、僕にとっては大切なお話。
桜の散った4月。
黒いリクルートスーツと白いマスクを纏った若者たちが作りだすモノクロームで殺伐とした空間を不規則なリズムで揺らしながら、地下鉄は進む。
直前で忘れたことに気づいて近くのドン・キホーテで購入した金属製の腕時計の付け心地を気にしながら揺られる面接帰りの僕も、例外なく、このモノクロームな演出に加担していた。
JRに乗り換え、最寄り駅に止まる。息継ぎをするように、降車してホームの空気を吸い込んだ。外はこの時間だと少し寒い。腕時計の金属のひんやりとした感触のこれのどこがいいんだろうと思っては、自分と「大人」との距離を実感して不安になった。
半年ちょっと前、大学に言われるがままダウンロードした就活アプリに、僕らは突然「23卒」とそう名付けられた。
「業界」「職種」「スキル」「資格」「給与」「福利厚生」「年間休日」「離職率」「平均残業時間」「有給取得率」…..
僕のまわりをそんな言葉が埋め尽くした。エントリーシートなんて書いた覚えもないのに、とても大きな一つの競争に気づけば参加させられていた。
アンケートが教えてくれた”あなたに向いてること”や、周りのみんなが口を揃えて”これが良いっていうこと”、それを勝ち取るためにとりあえず戦った。
ありがたいことにいくつか勝利もあげた。それは安心に繋がったが、その安心が決して長く続くものではないことをどこかで分かりながら安心して、またすぐにやってくる次の戦いに挑んだ。とにかく矢継ぎ早に。
「仕事」や「将来」に対する不穏に気付かないフリをするために。
最寄りから家までの徒歩15分。
スマートフォンで音楽を聴きながら歩いていると、就活アプリの通知音が音楽を遮った。
腹が立った。
心底腹が立った。
自分はいったい何をしてるんだろう。
たくさんむかついた。
あああああ。
就活アプリを削除してやった。
ちょっと道を遠回りしてやった。緑地公園に寄ってやった。明日の企業の面接対策もブッチしてやる。本当に入りたいのかどうかもわかんないし。暗くなってもいてやった。
それにしても久しぶりにきた。小学生の時は楽しかった。この緑地公園の遊具を使ったオリジナルの遊びを僕らは日が暮れるまで考えては遊んだ。家に帰ってからもこんな遊びを明日はしてやろう、提案してやろうって「大作戦」を企てて眠りについた。懐かしい。毎日が楽しかったなあ。って
ん?あれ?
こんな遊具、ここにあったっけ?
緑地公園に新しい遊具ができていた。この遊具が小学校の時にあったら僕らはどんな遊びをしていたろう。そんなことを考えたらワクワクした。
そしてもう一つ気がついた。
この世には遊具を作る仕事が存在している。
またワクワクした。
気がつけば僕はしゃがみ込んで遊具の下の方に貼ってある銀色のシールをスマホのライトで照らし、そこに書いてある会社名を検索にかけていた。
会社のホームページを読んで、さらにワクワクした。新卒募集をしていたから、ホームページからさっそく応募してやった。エントリーシートもスラスラかけた。だってワクワクしたことをそのまま書けば良いだけなのだから。
初めて前向きに「仕事」や「将来」に向き合えたように思えた。
というよりももっと幼稚な言い方の方が正しくて、「宝探しみたいで楽しいかも」って思った。
モノクロームだった世界に彩りがわずかに戻った気がした。とても明るい夜だった。
そして僕はついに”この宝物”を見つけることになる。
数日後、大学の授業からアルバイトまでの空き時間、例の遊具を作る会社の件でふと気になった。
遊具の会社のオンライン説明会に参加した際、zoomの画面には僕を含む50人ほどの緊張した大学生の顔がランダムに映しだされた。
しかし、この会社の募集情報は先日削除したような全員が入れている就活アプリには掲載がなかった。では、どうやって僕以外の参加者はこの会社を見つけたのだろう。まさかみんな散歩してたら新しい遊具を見つけて応募したのだろうか。そんなはずはない。よく調べるとWantedlyというアプリに掲載があることがわかった。
そしたらもうそのあとはこの記事を読んでいるあなたと同じ。
ユメフルサトのページを見つけるに至ったのです。
僕はWantedlyでこの会社の概要やこの記事を読んだ。
https://www.wantedly.com/companies/f-money/post_articles/126046
なぜか涙が出た。ワクワクして涙が出た。
それは僕が何となく抱えていた不安を言葉にしてくれたようであったし、それはあまりに「大作戦」であったから。
宝物を見つけてしまったかもしれない。
心が躍った。
他の記事もいっぱい読み漁った。
おかげでアルバイトには遅刻したが、涙ぐんでいる僕を見て社員さんは怖くて何も言えなかったようだ。
そして、僕はそれが宝物かどうかを確かめにいくことになる。
エントリーし、代表の大さんとリモートで面談したあと、現場を実際に体験した方がいいからということで、この会社のメイン事業である「こども夢の商店街」にボランティアとして参加することになった。
アリオ鷲宮という埼玉のショッピングモールで土日二日間の開催。オフィス(当時)も自宅も名古屋にある。大さんと、社員のほっちゃん、そしてインターンの学生と同じ車で埼玉まで向かうらしい。大さん以外は初対面であったため、一体どんな人たちだろうと期待と不安を募らせながら、前日金曜日の16:00に集合場所に指定された名古屋市のレンタカー屋の前についた。持ち物で唯一指定のあった「白黒以外のマスク」を持って。
指定の時間から少し遅れて、オレンジのTシャツに薄い色のジーパンの丸眼鏡をかけたボブの少女がキャリーケースをひきながら現れた。彼女は店前の歩道にある配電盤の上にキャリーケースから取り出したパソコンを置き、カタカタとキーボードをうち鳴らしながらディスプレイの向こうにいる誰かと話だした。すると、そのあとすぐにボストンバックを肩に担ぎ紺色の軽めのジャンパーを羽織った逆立った短髪の大男がやってきて、「よっ」と少女に挨拶した。それはまるでどこかの秘密組織のデータキャラとパワーキャラのバディみたいに見えた。
おそらく荷物と年代から推察するに、このアニメのキャラクターみたいな人たちと僕は2日間と少しを共にするのだろうと悟った。
そのあと大さんとほっちゃんがやってきて、案内されたレンタカーにデータキャラとパワーキャラと僕は乗り込んだ。
ちなみにデータキャラは学生インターン(学生リーダー)組織「こども夢の商店街実行委員会」の委員長の りか で、パワーキャラもそのメンバーの けいや である。自分より年下の大学2年生と大学3年生だそうだ。
運転席に大さん、助手席にほっちゃん、2列目に僕、そして3列目に りか と けいや という秘密組織の一団を乗せて、レンタカーは夜の高速道路を進む。
埼玉について一泊して、朝7:00、会場へ到着。右も左もわからない中、まっさらな施設の床にこども店長がお店を出す枠をテープで区画したり、こどもがオシゴトをするブースを作ったりするのの手伝いをした。しばらくして、こどもたちのオシゴトをサポートするため、サクラドロップスみたくいろんな色のマスクをしたボランティア(こどもサポーター)たち50人ほどがやってくる。ピンクのスタッフTシャツを着た社員と学生リーダーの りか や けいや がボランティアたちをまとめ、オシゴトの内容とこどものサポートの仕方をレクチャーしていく。そうしている間に息つく間もなく、参加するこどもたちが会場にやってくる。学生リーダーやこどもサポーターの案内で、あっというまにショッピングモールはオシゴトをするこどもたちと個性豊かなこどものお店たちでカラフルに埋め尽くされた。
いろんな声が聞こえてくる。
「いらっしゃいませー!」(こども店長)
「いいじゃん!その調子!」(こどもサポーター)
「1個3むすびでーす!安いよー!」(こども店長)
「オシゴトお疲れ様でしたー!」(こどもサポーター)
「(ピンポンパンポーン。)16:00になりました。オシゴト終了の時間です。」(こどもアナウンサー)
楽しかった。そして、それはきっと僕だけじゃなく、一緒に活動していたこどもサポーターも、もちろん参加していたこどもたちもそのほとんどがそうだったんじゃないかなと思えた。
すれ違うみんなが笑顔だった。
二日目の早朝も、誰もいない会場にこども夢の商店街を設営する。
昨日見たあの空間を、いま僕は作っている。
こどもサポーターがやってくる。昨日の けいや に習って、警察官のオシゴトの内容を担当のこどもサポーターにレクチャーした。
昨日聞いた声を、いま僕は作っている。
それは考えるまでもなく、とても素晴らしくて、ワクワクして、楽しいことだった。
ハタラク笑顔で溢れる時間はあっという間に終了の時間になった。
みんなで会場を撤収し、19:00ごろレンタカーで帰路に着く。
往路と同じ座り順。窓を通り過ぎていく首都高沿いの摩天楼。
後から りか と けいや のこんな会話が聞こえてくる。
「あそこああしとけばよかったなあ。反省!」
「あれもっとこうしたほうがスムーズになるんじゃない?」
「もっとこういう風に新人に教えるようにしたらチームのレベルが上がると思うんだよね」
2時間くらい盛り上がったそんな明るい話が聞こえなくなってきて振り返ると、
彼らは眠っていた。その寝顔はなんだか嬉しそうで、楽しそうで、やりきったようで、まだまだやりたいようで、とにかく希望に満ち溢れていて、
光り輝いていて、眩しかった。
あの帰り道からもうすぐ3年が経つ。
正直、あのとき行われていた会話の細かな内容までは覚えていない。
確か、りか が「ピンクのTシャツに合わせた黄色いジーパンを買おうかな」とも言ってたっけ。(こども夢の商店街のロゴがピンクと黄)
それもものすごく良いなあと思ったのだけど。他はうろ覚えだ。
でもあの光景や声のトーンははっきり覚えている。
10年,20年たってもきっと忘れられない。
僕は今日も、りかとけいやを心から尊敬する。
だからイベント終わりは、もし疲れてなかったら、自分が学生リーダーを乗せて帰りたいなってそう思う。
(安全のため現場に入っていた人は翌日にゆっくり帰って、学生は別の人が連れ帰るかバスで帰るというルールなのでご安心を)
助手席にベテラン学生リーダーを乗せて。くっちゃべってやるんだ。
後部座席の誰かにとって、宝物になるかもしれないから。
ザクッ ザクッ ザクッ
ザクッ ザクッ カキンッ
あれ?
何か音が聞こえた気がしませんか??
そんな気がしたらぜひ話を聞きにきてください!
宝物が見つかるかもしれませんよ!