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データを取得し、分析し、役立てる。IT技術を活用した課題解決は、今や一般的なものになりました。しかし、それらがまだ浸透していなかった時代からヘルスケア業界のIT化に光を見出し、その実現に向き合い続けてきた会社があります。
経営数値を中心に扱うコンサルティング会社から、現場で起きている課題に密接してものづくりを行う事業会社へと転身したのが、EMC Healthcare株式会社です。
長年にわたり医療系事業コンサルティングに携わってきた彼らが医療業界に見出した「次代の中心」は、データとIoTでした。医療・保育・介護といった、誰もが人生を送る上で必ず向き合うヘルスケア業界の課題に、IoTおよびデータ分析技術の活用で新たな可能性を切り拓こうとしています。
本日はそんなEMC Healthcare株式会社の浦上さんにお話を伺いました。前編では設立のきっかけやこれまでの実績、そして続く後編では、EMC Healthcareが今取り組んでいる新規プロダクトと、これから描いていく未来についてご紹介いたします。
浦上 悟
EMC Healthcare株式会社 取締役 兼 事業部門責任者
大手コンサルティング会社や慶應大の研究所を経て、EMC Healthcare株式会社にCo-founderとして立ち上げから参画。マネジメント、企画、営業、開発、臨床試験など、事業推進を幅広く担当。
治すだけの医療より、パフォーマンスを上げる医療を実現したい
ヘルスケア領域に着目したきっかけは?
僕と代表の伊達が趣味でやっている、トライアスロンです。トライアスロンは水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を連続して行う、肉体を酷使する耐久競技。実は競技中に、心肺停止を起こしたり突然死してしまう事故が絶えません。そうした事故を、なんとかできないかと考えたのがきっかけです。
スポーツ大会での死亡事故を防ぐために有効なアプローチは、日常的な健康管理です。それをより高い精度で実現するため、ウェアラブル型体動センサーCALM.を開発し、新たな生体データの取得・分析を可能にしたり、健康管理サービス「Wellness Passport (ウェルネスパスポート)」をリリースして、スポーツ大会前の健康管理や非接触での健康チェック・本人確認を可能にしました。Wellness Passportはコロナ対策としての価値も認められ、実際に大会でも使用されました。
また、コンサルティング会社として医療機器・ヘルスケア企業の海外進出、及び新規事業立ち上げを支援する中で、海外の先進的な考え・取り組みに触れてきたこともきっかけの1つです。「患者中心の医療」「データ中心の医療」といった最先端のムーブメントを起こす人々は、医療の新たな形に可能性を感じ、使命感を持って生き生きと将来を語っていました。
テクノロジーの力、つまり、IoTとデータ分析の力を使えば、患者やデータを中心としたエコシステムでヘルスケアの可能性が広がる。そんな期待感を持つと同時に、次に思ったのは「もっとパフォーマンスを上げられるのではないか?」ということでした。「生きていればいいのか?」「病気じゃなければいいのか?」と疑問に思ったんです。
病院に来た人を診断して、治療するのが医療です。とはいえ病気と診断される前も具合が悪いわけですし、治療中も治療後も本調子じゃないので損失があるはずだし、治療には医療費がかかるし、治すだけではプラスにならないですよね。治療後には、今まで以上にイキイキと生活できるようにしたいな、と。
そもそも病気にならないのが理想で、なったとしても軽く済むように早期発見したい。治すことだけに着目した医療ではなく、「CureからCareへ」。病気や事故になる前からパフォーマンスを上げて、スポーツだけでなく、仕事や生活、人との関係性といった、日常生活全般のパフォーマンスを向上させるようなヘルスケアを実現したいと考えるようになりました。
海外で触れた考え方を日本に持ち込み、自分たちが手がけたプロダクトで社会課題を解決していきたいという気持ちを強くしていったんです。
そこから、エッシェンシャルワーカーの業務負担軽減に着目した経緯を教えてください
初期は、医療サービスを受ける側(患者)に着目し、健康管理などのアプローチをとっていました。一方、業務を通じて医療機関や介護施設などヘルスケアを必要とする現場との接点が増えるにつれ、むしろサービス提供者側のパフォーマンスに課題があると分かったんです。
医療・介護の現場は、主にシフト制勤務で不規則に働き、長時間労働、時間外労働が多く、かつ金銭面の条件もよくない業界です。コロナ禍において、さらに厳しい状況に置かれています。その過酷さを肌感覚を持って目の当たりにする中で、なんとかしたいという思いが大きくなるのを感じました。
同時に、現場の過負荷による「負のスパイラル」を問題視する経営層の声を、多く耳にするようになりました。人が辞めてしまい、人員不足でサービスの質が低下してしまうと、経営も難しくなり、現場や採用に投資ができなくなり、さらに負荷が上がっていきます。
こうした労働環境の課題は、施設内部にとどまらず、国や自治体といった社会にとっても大きな課題です。当社の技術でサービス提供者側の課題を解決することができれば、結果としてサービスの質が向上し、患者側にも社会にも、良い影響をもたらすことができる。そう考え、医療介護の現場で働く「エッセンシャルワーカー」に着目しました。
保育業界への挑戦。「ベビモニ」のこだわりは安全性を担保しながらも業務を楽にすること
保育施設向けプロダクトに着手したのはなぜですか?
もともとは医療的な調査を進める中で「乳児突然死症候群」というワードを目にしたのがきっかけです。保育施設で起こる死亡事故の7割が午睡(お昼寝)中に起きており、その発生原因が不明なため、保育士が見回りを強化しているという現状を知りました。
突然死という課題は原体験であるトライアスロンに近い状況でもあり、またコロナ禍において今までの保育ができなかったり、厳しい思いをしている施設が多いという点は、医療介護業界と同様であると感じました。
保育士も重要なエッセンシャルワーカーであり、彼らの業務負担の軽減は社会課題の解決に直結します。赤ちゃんからお年寄りまで、ヘルスケアはすべての方がターゲットですから、僕たちにできることがあると思ったんです。
そうした経緯で、これまで培ってきたカメラ・センシングの技術や、データ分析の知見を活かしながら、保育現場の午睡見守りシステムを作る意思決定をしました。
カメラ型午睡見守りシステム「ベビモニ」は、天井カメラで乳幼児のお昼寝中の姿勢を検知・記録し、突然死リスクの高い「うつ伏せ寝」の状態になると、AIが保育士の持つアプリにアラートを出すプロダクトです。
保育現場では、お昼寝中の姿勢と呼吸を5分〜10分に1度の頻度で記録する必要があります。これは重要なチェックではあるものの、保育士にとってはほとんど目が離せないことになるため、大きな業務負担になっていました。
「ベビモニ」を導入すると、カメラの下に寝かせることで複数人の姿勢を自動で検知・記録できるようになり、業務負担が大幅に軽減されます。うつ伏せ寝のアラートがあることで、うつ伏せになっているかもしれない……という心理的な負担も軽減することができます。
開発はどのように進んだのでしょうか?
はじめは現場の業務知識がありませんでしたから、協力してくれる保育施設を探し、現場に伺い、仕事の様子を実際に見て理解するところから始めました。技術面でも、機械学習に必要な保育データが手元にひとつもなかったため、地道な収集と分析が必要でした。
安全のため、業務改善のために、寝ている子どもたちの映像を撮らせてほしいと説明しました。ありがたいことに、思いやビジョンに共感していただいた施設のご協力があって、カメラを設置しての地道なデータ集めと、プロダクト開発が実現しました。
ご協力のおかげで無事にプロダクトが完成し、ユーザーから嬉しい声が届いています。紙資料に姿勢を記載する運用がなくなって、業務が楽になった分、こどもの方を見て仕事ができるようになったと言われました。
また「ベビモニ」ではウェアラブルセンサーを使わないので、乳幼児が誤って呑み込んでしまうリスクがないし、寝る前後に消毒したり取り付けたりする手間がなくて便利だとも言われますね。
さらに、BabyTech Award Japan2020において、安全対策と見守り部門で優秀賞をいただくことができました。現場に貢献することができて良かったと感じています。
午睡チェックをカメラで実現できたポイントは、デバイスとソフトウェアを両方自社開発したから。カメラセンシングした情報を、分析に最適なデータ形式、最小のラグで取得できるんです。社内で完結するので改善スピードが早いし、課題があった時、ハード面・ソフト面のどちらからでも解決のアプローチができるのも、当社の強みですね。
ありがとうございました!
後編記事【医療・保育・介護の自社プロダクト開発でEMC Healthcareが描く未来】では、EMC Healthcareが今取り組んでいる新規プロダクトと、これからの事業の展望についてご紹介いたします。
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