CDO(Chief Design Officer)として2019年3月にキュービックに入社した篠原健さん。キュービックの誇るデザイン組織エクスペリエンスデザインセンター(XDC)を直轄する立場でもある篠原さんに、これからキュービックで求められるデザイナー像について伺いました。
◆話し手
・篠原健(@Topogon)
1972年長野県生まれ。映画製作会社に新卒入社後、数社で映像やスチル、デジタル、紙媒体などの企画からデザイン、アートディレクションを手がける。2012年株式会社ドリコムに入社。執行役員として、デザイン・アートディレクションの他、デザイナー採用の戦略設計・実行も兼任。その後、株式会社Speee、株式会社NextBeatではCDOとしてアートディレクション、クリエイティブ組織の開発などを経験。2019年3月キュービックへ入社し、CDOに就任。
◆聞き手
・市原純(@Junomi_icchi)
2018年新卒入社。北海道生まれ。キュービックに内定後、内定者インターンとして転職領域のコンテンツメディア運用チームに配属される。新卒入社後、クライアントのオウンドメディア運用チーム→営業部署の立ち上げ→ウォーターサーバーメディアの広告運用と営業を兼務→社長室に所属。
就任から2年半で、組織偏差値が33→68に
——篠原さんがキュービックに入社されてから約2年半が経ちました。篠原さんがリーダーを務めるXDCは、組織偏差値が33から68にまで上がりましたよね(リンクアンドモチベーション社の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」による数値)。この短い時間の中、会社やデザイン組織を作っていく上で篠原さんがどんなことを考えてらっしゃったのか、お聞かせください。
篠原:
入社時社員のデザイナーは私1人しかいなくて、ほかは業務委託のデザイナーさんばかりでした。その状態で半年後にXDCを作りましたが、XDCの組織偏差値が33だったんです。そこで私はXDCを率いていくにあたって、3年後のビジョンを描きました。組織軸、事業軸、それと内部、外部を含めたコミュニケーション軸それぞれについてどう進めていくかを設計したんです。それを実現するためにCDOとしてさまざまな活動に取り組んできました。
なので、入社時に描いたビジョンがそろそろ実現できていないとやばいよね、というのがまさに今です(笑)。
——なるほど(笑)。実際に今、そのビジョンと比較して組織は思い描いた通りになっていますか?
篠原:
点数で言うと70点です。ただ、描いたビジョンの通りには進んできていると思っています。私は前々から、「広義のデザインを実現したい」という話をし続けてきましたよね。
——はい、覚えています。
篠原:
その前に、「そもそも広義のデザインって何よ」という話なのですが。
私の入社当時、キュービックに関わるデザイナーはマーケティングやエディトリアルの担当者からの指示を受けてデザイン業務をしていました。いいか悪いかの話ではなく、つまり、言われたものを作るというのが基本的な仕事です。
もちろん、マーケとデザインの重要性は、それまでもキュービックが意識してきたことです。そういう中、会社のCI(コーポレート・アイデンティティ)、VI(ビジュアル・アイデンティティ)の見直しに私も加わり、マーケとデザインを内外とのコミュケーションの要素としていく形を整えていきました。
それを機に、CUEM(キューム/CIをスキルとして定義したもの、コンテンツ制作のためのフレームワークの考え方)や会社のビジョンに関するワークショップをデザイナーが主導して開催するようになりました。SNSで話題になりテレビドラマ化されたアニメ「モモウメ」のような新規事業もXDC主体で生まれたサービスです。
そういう意味では、キュービックのさまざまな事業において、「デザイナーがいないと進みにくい状態」が起きつつあるんです。つまりデザイナーが従来の仕事を超えて「広義のデザイン」を目指し始めたということですね。このことは社内の誰しもが実感してくれているんじゃないかと思います。これが何よりの成果ですよね。
——確かに、それは私も感じます。
篠原:
何かあればデザイナーに相談する。社内の仕事の進め方がそんなふうに変わってきましたよね。「(制作を)お願いしよう」から、「相談しよう」への変化。デザインのことはデザイナーに協力してもらおうという、「一緒にやろう」という状態にできたのが大きいと思います。
「どれだけのロイヤルカスタマーを持てるか」が今後の課題
——先程、点数で言うと70点とおっしゃいました。足りない30点を埋めるための課題はどういうところにありますか?
篠原:
私たちは事業会社です。ユーザーに対してどんな価値を提供するか、できるかをまず考えなくてはいけない。その価値に対しての見返りをいただいているわけですから。その意味で、提供価値の最大化が一番の課題です。
そのためには「どれだけのロイヤルカスタマーを持てるか」が大切だと思っています。私たちキュービックが作った何かを、リリースする前から期待してくれるような。「キュービックさんが作ってくれるなら、すぐに使いたい」と言ってくれるような。「キュービックさんの作ってくれたサービスで自社の課題が解決できた」と喜んでくれるような。そういう存在がロイヤルカスタマーです。
正直、まだそのレベルには達していません。そこに達するには、それこそ全社一丸となっていないといけない。100点に足りないところは、そういう部分だと思います。
——それが、キュービック社内で篠原さんが今後取り組んでいこうと思っている課題なのですね。XDCはどうですか? なんというか、「熱中している」感じが、社内のほかの組織とは違っているように見えるのですが……。
篠原:
違ってはいないですよ(笑)。
私たちXDCは「3年後や5年後を見据えたwill型」を目指しています。特に私なんかは、よく「WILL(やりたい)型」の人間だと言われるんですが、実は、めちゃくちゃMUST型です。
あくまで、「将来的に広義のデザインを実現するには何をしないといけないのか」ということから逆算して、一つひとつやっているだけなんですよ。周りからすれば「篠原さんはやりたいことをまっすぐやってるな」って見えるかもしれませんが、そうではないんです。「ここまでにこれを実現したい」という目標があって、「ならば、いまこれをやらなきゃまずい」と思ってやっているだけ。
なので、もし熱中しているように見えるのだとしたら、それはひたすら目標に向かっている感じがそう思わせているんでしょう(笑)。
スキルよりも、「キュービックのカルチャーに合うかどうか」が最重要
——では、そんなXDCに今後求められているのはどういう方でしょう? どんなスキルが必要ですか?
篠原:
例えばヒアリングして何かを組む力など、いわゆるデザイナーとしてのスキルは最低限必要です。ただ、何よりも大切なのは、キュービックのカルチャーに合うかどうか。泥臭さがある、利他的である……そういうことですね。
次に、発想力。デザイナーにとって、構造化する、整理する、形を作るという力はもちろん必要ですが、その前段階として、思考すること。発想すること。これが大事です。すぐに思考を諦めてしまうような方は厳しいですね。そして、思考、発想したことを行動に移すこと。こういう人材が欲しいです。
さらに言うなら、好奇心がある人。「何かに挑戦したい!」という気持ちですね。市原さんが先程「XDCは熱中している」と指摘してくれましたが、ひょっとしたらそのような挑戦する姿勢が表面化してそう見えている部分もあるのかもしれません。ただ、挑戦しても失敗することはあるので。そういう意味では、好奇心にはいいところも悪いところもあるんですけどね(笑)。
デザイナーには「みんなの中心に入れる人」であってほしい
——似た質問になるかもしれませんが、キュービックのXDCで活躍できる人はどんな人でしょうか?
篠原:
「みんなの中心に入れる人」でしょうか。
誰かに言われて何かをするのではなく、みんなの中心に入っていける人、ですね。デザイナーはみんなの中心にいるべき職種だと思っていますので。
事業部とエンジニアを結ぶとか、これは抽象的な言い方になりますが、ユーザーと会社を結ぶとか。いろいろな意味でデザイナーの役割があると考えているんです。そういう意識のある人は、XDCで実際に活躍していると思います。
もちろん、自分自身もそうありたい。CDOとして経営層と会社、経営層と組織をつなぐ役割を果たしたいと日々思っています。
——いわゆる現場で働くデザイナーの中には、篠原さんのおっしゃる「広義のデザイン」との乖離を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
篠原:
それはね、おっしゃる通りなんです。現実としては、めちゃくちゃギャップがある。正直なところ、最近悩んでいるところです。
デザイン業界の中では、デザインは確実に「広義のデザイン」の方向へ進化を遂げていて、私は自分自身、スタンダードなことを言っていると思っています。でも、デザイナーになりたいと考えている人が全員そう思っているとは限らないわけです。需要と供給のバランスがずれているとも言えるかな。
ただね、今は割り切っています。デザイン業界の中で一定の立場で仕事をさせていただいている人間として、現場でデザインをしている人と業界全体との、それこそ中心に立ってハブになりたい。そのギャップを埋めていきたいという気持ちです。
——どうもありがとうございました! XDCのみなさんの「熱中」の背景がよくわかりました。次回は事業企画から採用担当に異動した鳥谷雄治さんにインタビューします。どうぞお楽しみに!