データサイエンティストとして、企業のコンサルティングからシステム開発まで手掛けている株式会社エルデシュの代表取締役岩永二郎さんとコネヒトの代表高橋恭文が、主軸事業であるママリを通じて蓄積してきたコネヒトのデータの特徴と活用方法について話しました。
まずは2人の経歴をご紹介。
岩永二郎(写真右):株式会社エルデシュの代表取締役データサイエンティスト。数理最適化や機械学習、自然言語処理などの数理科学全般に関するコンサルティングからシステム開発まで手掛ける。気軽に相談できるデータサイエンティストとして、多くの企業の支援をする傍ら、筑波大学や上智大学などで非常勤講師を務めるなど、教育活動にも注力。
高橋恭文(写真左):株式会社アルバイトタイムスに新卒入社し、求人広告営業を経て、外食起業支援・定着支援事業を立ち上げ。2010年に株式会社カカクコムに入社し、『食べログ』のマネタイズ草創期から、チャネル責任者、ビジネスプロダクトマネージャーとして食べログの課金店舗を拡大。その後、2014年にRetty株式会社に入社し、執行役員、営業責任者として『Retty』のマネタイズに従事。2018年にコネヒトに入社し、営業部責任者、社会発信を担当し、2019年より執行役員として企画戦略室で社会性事業を立ち上げ、2022年4月より代表取締役に就任。
ママリのデータにポテンシャルを感じ、プロダクト開発から参画
ー岩永さんにはここ数年にわたりコネヒトのデータを活用したプロダクトづくりをサポートしていただいていますが、実はお2人は前職からの繋がりなんですよね。
岩永氏:そうなんです。高橋さんにはお互いの前職であるRetty時代にお世話になった背景があります。私がRettyでデータビジネス事業の起ち上げを経験していたこともあり、Rettyを卒業したタイミングでお声がけいただきました。
高橋:そう、懐かしいですね。ママリのデータを活用したプロダクト設計の部分からサポートしていただけないかと声をかけさせていただきました。
岩永氏:具体的には「家族ノート」というデータプロダクトの企画から開発まで一緒に伴走させていただき、もう3年目になります。
独自性と価値を持ち、収集コストが高いのがコネヒトのデータの特徴
ーコネヒトが扱っているデータの特徴を岩永さんは「データ優位性」という文脈で話されることが多いですよね。具体的に「データ優位性」とはどのようなことを指しているのでしょうか。
岩永氏:「データ優位性」とは、まず独自性と価値を持ち、収集コストが高い状態であることを指します。近年、経営戦略の文脈でDXが取り上げられていますが、そのひとつとしてデータ優位性は実態を持つ有望な戦略になります。
高橋:企業の「テクノロジー優位性」をPRする会社はよく見かけますが、「データ優位性」とはまた違うという認識ですがいかがですか。
岩永氏:おっしゃっていただいている通り「テクノロジー優位性」という言葉は企業PRによく使われており、データ優位性の文脈では、データを価値に変換する方法が長けている状態を表現しているという認識です。
料理を例にするとわかりやすいのですが、データ優位性は特徴的で美味しく、なかなか手に入らない素材を持っている状態。一方のテクノロジー優位性はその素材を活かした料理を提供できる状態だと想像してもらうとよいかもしれません。
レストランにとって素材そのものの質は大事ですし、素材を料理するスキルも大事。データ優位性とテクノロジー優位性を同時に持つことで、ビジネスとして成立する可能性が各段に上がるというイメージです。
高橋:ごはんに例えちゃうところが、Rettyらしいですね。しかもわかりやすい!
ーコネヒトが扱っているデータの特徴はどのようなところにありますか。
岩永氏:「データの優位性」という文脈に従って説明すると、コネヒトのデータには独自性、ユーザ視点・ビジネス視点での価値、収集コストの高さという3つの特徴があります。
独自性という部分から話しますと、ママリ内で投稿されるQ&Aデータは出産前後の課題と解決方法が集まる場というだけでも貴重ですが、さらに出産予定日などがわかりますので、出産日起点で母親が何に悩んでいるかがわかるデータになんです。
高橋:例えば、出産予定日の2か月前に多くの妊婦さんが悩んでいることがわかったり、産後4か月で悩むことがわかったりするということですよね。悩み始めるタイミングと悩みが終わるタイミングがわかるデータは、活用方法がたくさんありますよね。
岩永氏:その通りです。ただ、このように出産というイベントを起点に母親が悩みを抱えるタイミングを把握できるデータはほとんど目にしません。それだけ独自性のあるデータということです。
コネヒトのデータの特徴の2つ目は、ユーザー視点とビジネス視点で価値を持つ点が挙げられます。ユーザさん視点では、出産前後の多くの不安や心配、問題を抱える母親の課題を先回りしてフォローでき、適切なタイミングで先人の課題解決方法を提案することができることです。
高橋:例えば、生後5か月くらいになると離乳食に関する投稿が多くなることがデータ上わかっていたら、もう少し前の段階から離乳食に関する情報を提供するなどといったサポートができるということですね。ユーザさんが悩みに向き合う前からサポートすることができるので、データを活用することで本人が気づく前から手厚くサポートできるわけですね。
岩永氏:一方でメーカーに所属するマーケターであれば、母親が困るタイミングで商品・サービスを訴求したり、届けたりしたいわけですよね。面白い例ですと、学資保険の場合は産後ではなく「妊娠10ヶ月目」頃に母親の関心がピークになることがママリのデータを見るとわかるんです。
高橋:出産直後に合わせて学資保険の広告をうっても当事者の関心のピークは過ぎてしまっているということですね。最も関心のあるタイミングで商材に出会ってもらうことが効果に繋がるので、こういったデータを持っているというのはビジネス面での大きな価値だと我々も捉えています。
岩永氏:そうですよね。企業にとっては、マーケティングの効果を上げることができれば売上の増加、マーケティング予算の削減などにつながります。コネヒトが持っているデータは家族向けの商材を抱えている企業のマーケティング施策に直接ヒットするので、ビジネス的な価値は非常に高いはずです。
最後に、コネヒトが持っているデータの収集コストがそもそも高い点が挙げられます。これは完全にビジネス文脈の話ですが、ママリのデータのように長期に渡って収集したデータは他社が簡単に得られるものではないということです。コネヒトが得てきたデータは、ママリというサービスとユーザさんの関係性があってこそ蓄積してこれたもの。市場調査やアンケートなどで補えるデータではなく、ユーザにおけるサービスとの信頼性が構築されていないと不可能なデータを抱えていることが魅力なんです。
高橋:これは参入障壁の話ですね。出産日起点で分析できる行動データは量だけでなく、自然なコミュニケーションの中で出てきたという質の高さも特徴なんですよね。手前味噌ですが、ユーザさんへのインタビューやアンケートなどといったサービス提供側ありきのタイミングや設問に左右されるデータではなく、日々の生活の中で出てくる悩みや課題を自然に拾えるのが我々のデータの特徴なんだなと思います。
岩永氏:そう、それなんです。ユーザさんの生活から自然に表面化される悩みや課題を拾うためには、ユーザさんとサービスの関係性が構築されていないと不可能なんです。でも、その関係性を作るにはノウハウも時間も必要ですよね。データが欲しくなったからといって、簡単に集められるものじゃないんです。
データは経験していないことを学び共感できるツール
ー収集したデータをどう活用するか、どう社会に還元するかが大切なテーマだと捉えています。コネヒトのデータはどうユーザの生活や社会を変えうる可能性を持っていますか。
岩永氏:私も経験してますが、妊娠、出産、育児は人生にとって大きなイベントです。私の家族の場合、妻も働いているので多くの人のサポートがないと仕事もままならないですし、何よりも子どもにとって親が働いている姿に触れることって大事だろうとも思っています。
親が充実して仕事ができなければ家庭は安定しませんし、家族が安定しなければ仕事も安定しません。そして、家族の不安定さは子どもの成長に影響するかもしれません。
高橋:そう。でも、そういった悩みが子育て家庭にしか理解できない文脈で語られているのが現状の大きな課題。ちょっと前にファミワンの石川さんと話したのですが、当事者じゃないからこそ事業を客観的に進められることって実はすごく大事で、当事者じゃないと語ってはいけないような、語る立場にいないような社会の雰囲気が弊害になっている。
当事者の声や感情はもちろん大切で、多くの場面でそれらがコネヒトの原動力になっています。同時に、客観的に物事を進めることも大事。データを活用することで、当事者じゃなくても子育て家庭のリアルを知りえる人はいるはずで、コネヒトにはそういう人たちがたくさんいます。
経験していないことを学び、共感し、自分なりの言葉で他者に伝えられるだけの知識をつけるための最大の武器がデータであり、そういったスキルが社会を変えると信じています。
ー岩永さんは筑波大学や上智大学などで非常勤講師を務めるなど、教育領域でもご活躍されています。コネヒトではそういった取り組みに対し前向きにデータを提供するなどの試みを行っていますが、コネヒトでも教育観点からの社会貢献はできるのでしょうか。
岩永氏:コネヒトのように「データ優位性」があれば研究対象となりますのでアカデミックへの貢献もできます。研究者の誰も触ったことがない独自性の高いデータを持っているわけですから、誰も研究したことがないことにチャレンジできるわけですよね。
大学の研究者の課題のひとつは、実データの入手が困難であるということ。でも、コネヒトが提供するような独自性の高いデータがあれば、研究者にとって自分だけの分野を切り開くことができます。ちなみに私もコネヒトのデータを使って論文を書かせていただきました。
「研究」と言ってしまうと、どこか実社会から駆け離れた印象を与えるかもしれませんが、コネヒトが持っているデータは、妊娠、出産、育児という全ての人間にとって関係のあるイベントであり、かつ多く人が課題に思っていることですから、いま解決しなければいけない社会課題という意味で必要とされていることです。
高橋:コネヒトのビジョンは「あなたの家族像が実現できる社会をつくる」という壮大なもので、そこに行き着くための方法はひとつではないはず。アカデミックな領域に貢献することで変えられる社会もあれば、我々のプロダクトやサービスを通じて理想を実現できる部分もある。HOWの選択肢は複数あって、ビジョンが達成できるのであれば我々はそんなにHOWに拘らないんです。
様々な角度からアプローチし続けること、そこを大切にしていきたいと思います。
ーありがとうございました。