ママリを中心に、多様な家族像を実現するべく事業を展開するコネヒトの代表高橋恭文が、同じく家族に伴走するかかりつけ助産師サービスを提供するnicomama代表の江釣子千昌さんと、家族向けの事業のあり方について語り合いました。
まずは2人の経歴をご紹介。
江釣子千昌(写真右):1987年岩手県出身。大学卒業後、東京都港区愛育病院で助産師経験を積む。その後、2019年に助産院を開業。地域で活動する中、不安が生み出される日本の子育て環境を目の当たりに「妊娠・出産・子育てに本質的な安心を生み出すこと」をミッションに掲げ起業を決意。株式会社ボーダレス・ジャパンが運営する、ソーシャルビジネススクール ボーダレスアカデミーで優秀賞受賞。2020年7月7日「株式会社 nicomama」創業。かかりつけ助産師が伴走する子育て社会の定着を目指し、事業展開している。
高橋恭文(写真左):株式会社アルバイトタイムスに新卒入社し、求人広告営業を経て、外食起業支援・定着支援事業を立ち上げ。2010年に株式会社カカクコムに入社し、『食べログ』のマネタイズ草創期から、チャネル責任者、ビジネスプロダクトマネージャーとして食べログの課金店舗を拡大。その後、2014年にRetty株式会社に入社し、執行役員、営業責任者として『Retty』のマネタイズに従事。2018年にコネヒトに入社し、営業部責任者、社会発信を担当し、2019年より執行役員として企画戦略室で社会性事業を立ち上げ、2022年4月より代表取締役に就任。
家族に伴走する会社が考えるサービスの在り方
―ともに「家族」に向けたサービスを提供している両社ですが、お互いの会社やサービスにどのような印象を持っていますか。まずは助産師さんとしてご活躍された後、専門的な知見を活かしながら家族に寄り添う事業を運営する江釣子さんのnicomamaの印象からお願いします。
高橋:nicomamaというサービスは、助産師がお産だけじゃなく、家族というものに向き合い続けることを事業としているというイメージです。
助産師という職業は、社会的に「お産」というタイミングに関わるピンポイントな仕事だと捉えられているイメージがあると思うのですが、そういった職業の制限を取り払うというか、より長く家族に向き合い続けることを大切にしている事業だなという感覚をもっています。臨床だけじゃなく、助産師の役割を幅広く事業化しているという印象です。
江釣子氏:確かに助産師は妊娠中や出産に携わり、子どもが卒乳したら関わりがなくなる職業だと思われていると感じます。
高橋:でも、僕を取り上げてくれた助産師さんと高橋家の繋がりはすごく長かったんです。自分の親より厳しくその助産師さんに怒られた記憶もありますし、僕への教育のことで親が助産師さんに怒られている姿を見た記憶もあり、高橋家という僕の家族のメンターだったんだなっていう印象があるんですよね。
助産師さんという存在が家族に与える影響が大きかったですし、長く家族に寄り添い続けてくれたんだなと考えると、そこがすごく僕の家族にとって大事だったなと感じます。そしてそういった関係性を事業化しているのがnicomamaかなと思うと、家族に伴走するサービスとしてすごく共感できる部分が多いんですよね。
江釣子氏:高橋さんが生きてきた中に、助産師がキーマンとして存在しているというのは、聞いていてすごく嬉しいお話です。
助産師の仕事は医療の領域でもあるのですが、同時に家族の「暮らしごと」に向き合う仕事だとも思っています。家族が新しい命を向かい入れるタイミングだけでなく、産後や育児中でも家族が心の余白を作っていけるようなサポートをし続けたいと思っています。これは、母親だけでなく父親にとっても同じかなと思っています。
―江釣子さんは、コネヒトが運営するママリをどのように見ていますか。
江釣子氏:ママリの印象をシンプルに言うと、温かいということでしょうか。これまでもママ向けのサービスをたくさん見てきましたが、ユーザ視点で目に入る運営側からのひとことひとことに温かみを感じることが印象的です。例えば、「質問は、きちんと言葉にできなくても、かぶっていてもOKです」など、参加しやすい環境を整えたいという運営側の温かみを感じます。
高橋:確かにそういう部分は大切にしていますし、サービスを立ち上げた当初に大事にしていた価値観が受け継がれているのだとも思います。
ママリを立ち上げた時は、ママ達が感じていること、救いになる声がけ、不安に思う内容など、日々の感情をすごく大切に当事者と共にサービスを作っていました。ありがたいことに、その環境に満足したユーザ達が、ママリ内の先輩ママとして後輩をサポートしていくという状況が作られたんですよね。
サービスとしての価値観がユーザに浸透し、それがユーザ間で受け継がれていっているというコミュニティが今のママリを作っているのかもしれません。
江釣子氏:先輩ママが得たものを後輩ママ達にパスしていくという恩の連続性ってコミュニティならではですよね。
ママリの圧倒的なユーザ数はそういうところからきていると感じますし、もっと大事なのはそのユーザ数が家族の多様性を担保していることかもしれませんよね。多様な家族がそれぞれに新しい気づきを得られる存在になっているということがいいですよね。
nicomamaでは、個の家庭環境や生活背景であったり、親子の特性や社会的役割など、多様な状況に向き合うことに長けた専門家として助産師が活躍しています。個々の特徴に合わせた柔軟なサポートができることは助産師の得意分野でもあるんですよね。
そういう意味では、ママリもnicomamaも多様に存在する個をサポートしながら、家族という集団にアプローチしていきたいという想いは共通しているのかもしれませんね。
一家族という個の多様性と、今妊娠・出産を迎える家族達というモーメント的な集団をどう両立するかという問いは面白いですね。
高橋:ママリの場合は、その時々のタイミングで多様なママ達を先輩ママ達の多様性で補えるようにサポートできるコミュニティを作ってきました。例えばですが、初めて出産を体験するママをコミュニティが包括的にサポートできることは大事だと思っています。
同時に、そういった多様なママ達の悩みや不安を統合して上手に活用すると、例えばスーパーやドラッグストアに家族が行った時に、求めている商品がアクセスしやすい場所に陳列されているような利便性を提供することもできるんですよね。
例として小売業界の話をすると、業界的に常に物が売れる状況を整えるために情報を収集していると思うのですが、集団としてのママ達や家族がどのタイミングで、何を求め、何に悩み、何に迷うのかが科学できれば小売側の行動が変わるんです。そういったデータは、マーケの戦略に影響を与えることもできますし、もっと細かくいうと売り場の設計にも、陳列する商品の個数にも大きな影響を与えます。
ママリのユーザの声を元に、ママリを使っていない家族にとっても有意義な環境が作り出せるんです。スーパーやドラッグストアに行った時に求める商品がアクセスしやすい場所に陳列されているとありがたいわけですし、我々はそこの橋渡しができるといいなと思っています。
「気づき」を日々の生活に散りばめていくことで成長する家族
ー「家族 = 子ども」という概念がまだ強い中、家族の領域に事業として魅力を感じる理由を教えてください。
高橋:妊活、妊娠、出産、育児というプロセスは、「母親」や「父親」としての役割を踏襲することが求められ、1人の人間としての成長実感を妨げているのかもしれないですよね。
母・父というロールとしての自分ではなく、1人の人間として自分が成長できているという実感って大切。そこで得られる成長を個人として有意義に感じられるようになると、妊活、妊娠、出産、育児というプロセスがよりポジティブに捉えられるのかなと思ったりします。
江釣子氏:そうですよね。どうしても子どものことから考えるので、子どもにとっての親という視点で、自分の理想を描くのかもしれません。
子育てというライフイベントのみに着眼せず、ひとりの人として生きてきた背景が家族像に与える影響は大きいと感じます。子どもがいる、いないに関わらず、一人一人が子どもたちを包括的に見守っていくことにも繋がるのかなと。
大人が子どもと共に成長することって、大人という立場にある個人にとってもすごく大事で、貴重な経験だと思うんですよね。子どもは親の背中を見て育つと言いますが、その成長に必要なのは親にも子にも「気づき」の場を広げることだと思います。
ー「気づき」を広げるということについてもう少し教えてください。
江釣子氏:伝え方がすごく難しいのですが、自分を尊く感じられているかという自分自身への問いがスタートですかね。母親・父親という役割だけではない自分を誰よりも大切にすることができていますかという問い…。大切にするっていうのは「子どもを大切にできていますか?」じゃなくて、「自分を大切にできていますかって?」ことなのかな。
高橋:それって、すごく大事ですよね。
妊娠、出産を踏まえて1人の個人として歩むことを「成長」と捉えられるようになると、一時的に職場を離れる後ろめたさなどを含めて、色々と見え方が変わるような気がします。
江釣子氏:そうですよね。
子どもたちが「気づき」を得られる瞬間を日常に散りばめていくことが大人の仕事だと思う部分があり、その子ども達に背中を見せる大人達が「気づき」を得て成長することが大事だと思います。
子育ては「親子育て」だなと感じる瞬間が多くあります。子どもを育てる親が体験や周りとの接点を通じて成長していく過程こそが、背中を見て育つ子どもたちにとって有意義な体験になるのではないかなと。
高橋:そういう意味では、「家族」に伴走する事業を展開する我々として、新たな発見体験を与えられるような環境を作ること。または、新しい気づきの体験ができる環境を作り出すことが大事なのかもしれませんね。
それが個としての家族の多様性を尊重しつつ、集団としての家族を支えるひとつの糸口なのかもしれません。
ーありがとうございました。