「紳士」のための純チタンプロダクト【hikiZAN】
「紳士」のための純チタンプロジェクト【hikiZAN】の個性豊かな4タイプのチタン製酒器をご紹介します。茨城県日立市の今橋製作所が世界へと仕掛ける新たな挑戦です。
https://www.hikizan-titan.jp/
この記事はnoteに掲載したものを転載しています。Wantedlyでは“TRUNKで働くことに関心がある方へ”の観点で紹介しています。
TRUNKのブランディングは、すべてお客さまとの共創によってできあがったものです。課題を解決するための進行過程で得られた気付きや、制作の裏側にあるストーリーをお伝えしていきます。
茨城県日立市で産業用切削加工を手がける今橋製作所は、2024年秋にチタン製テーブルウェアブランド「hikiZAN」をリリースしました。同プロジェクトは立ち上げからBANSOを利用し、プロダクト開発、販売計画の立案などもTRUNKと共創しています。代表取締役の今橋正守さん、プロジェクトリーダーの所純さんと、約1年間の取り組みを振り返りました。※2024年10月取材時
今橋 正守(いまはし まさもり)
日立市の株式会社今橋製作所 代表取締役社長。若手社員の活躍の場を積極的に広げている経営者。
所 純(ところ まこと)
株式会社今橋製作所 hikiZANプロジェクトリーダー。異業界から転職し、hikiZANプロジェクトリーダーに抜擢される、期待の若手社員。
社運は賭けていない。 だから挑戦できるプロジェクト
やはりチタンしかない。 コンセプトのおかげで確信が持てた
「プロダクトアウト」のアプローチという壁
BANSOで得た経験を、新事業にも生かしたい
笹目:今橋製作所さんは、今回本業からスピンオフしたプロジェクトの立ち上げにBANSOをご利用いただきました。経緯を改めて伺えますか?
今橋:事の発端は、所が担当する当社のYouTubeチャンネルの企画で、切削加工を使って酒器をつくったことでした。社外からの評価が高く、「本格的に製品化したらどうか?」という話になったのですが、うちにとってBtoC事業はまったく未知の領域。そこで、地元で日本酒ブランドを立ち上げて成功している『森島酒造』さんに話を聞きに行ったんです
所:当初はプロダクトデザイナーさんに加わってもらえればいいかな、くらいに考えていましたが、日本酒「森嶋」のブランディングの課程を伺うなかで、プロジェクトのあり方を根本から考えていく必要性を痛感しました。そこで、TRUNKさんをご紹介いただいたんです。
今橋社長(左)と所さん(右)
笹目:まず今橋さんのような老舗企業が、このようなユニークな取り組みをされていることに驚きました。さぞ強い意気込みのあるプロジェクトだろうと思っていたので、社長がきっぱり「社運は賭けていません」とおっしゃったことも意外でした。聞くと今回のプロジェクトは、チャレンジし続けるという会社の理念のもと、若手社員の活躍を応援する取り組みのうちのひとつでもあるとのことでした。
これまでBANSOのブランディングサービスは、会社やメイン事業への活用についてご相談いただくことが多かったんです。しかし今橋製作所さんのように本業が安定しているからこそ、ビジネスの新たな一手、挑戦的な取り組みにもお役に立てるんだなとハッとしたんです。企業が長く存続するためは、つねに時代に合わせたチャレンジが必要ですし、TRUNKもそこをお手伝いしていく大切さに気づかせていただきました。
笹目:BANSOの最初のステップとして、まずプロジェクトの大元の方向性を示すコンセプトを決定します。そのため今回は社長へのヒアリング、所さん含め4名の若手社員さんとのワークショップを実施し、最後にターゲットに近い方々として経営者やギャラリーのオーナーさんから意見を伺う座談会を行いました。
ワークショップを通して感じたのは、今橋製作所さんが大切にされている、何事も果敢にチャレンジする姿勢が、今回のプロジェクトにも通底するということでした。そこから「未知を切り出す」というコンセプトが生まれました。
今橋:この言葉を聞いたとき、違和感が全然ありませんでした。何と言っても私が「未知を切り出す」のが好きなんです。自分がなぜ会社を継いだのかっていったら、既存事業を踏襲するだけじゃない、誰もやっていないことをやるためだ、と思っているくらいなので。
所:社長からは常日頃「失敗してもいいから挑戦するように」と言われていて、まさにそれを体現した言葉だと感じました。じつは当初から今回使用する素材はチタンを想定していたのですが、迷いが生じた瞬間があったんです。経営者さんを集めた座談会で「価格が高いのでは?」という声があり、もっと安価な金属でもいいのでは…と揺らいでしまって。
そんなときコンセプトのおかげで、「自分たちは挑戦するためにこのプロジェクトに取り組んでいるんだ。だから高い加工技術が求められる難削材のチタンを使うんだ」と、原点に立ち戻ることができました。
器を削り出す前のチタンのインゴット
笹目:コンセプトを核に「hikiZAN」というプロジェクト名や、「紳士のためのチタンブランド」といった方向性が決定したところで、いよいよデザイン開発に入っていきます。
これまでTRUNKでは完成した商品のブランディングに入ることが多く、今回プロダクト開発から関わることは大きな挑戦でした。ここで壁となったのが、つくり手の想いを先行して製品を市場に投入する「プロダクトアウト」の難しさです。
一般的なマーケティングのアプローチでは、市場が求める製品をつくる「マーケットイン」が主流です。しかし今回は「自社の技術を使った挑戦」をプロジェクトの主旨としているからこそ、逆方向から成功の道を探らなければなりません。
打開策は、あえて従来のプロダクト開発の型にとらわれず独自性を追求することで、唯一無二のポジションを確立することでした。その具体例のひとつが、製品の原型制作をプロダクトデザインのプロではない、陶芸家に依頼することです。
所:ご協力いただいた船串篤司さんは、笠間を拠点に世界的に活躍されている陶芸家さんで、ジャンルを超えたコラボレーションは、当社にとって刺激的な経験でした。また当プロジェクトは地域の活性化に寄与することも目指していたため、地元の技術を生かし発信していく活動の親和性も感じています。
今橋:船串さんをはじめ、森島酒造さん、茨城県産業技術イノベーションセンターなど多くの協力を得てつくりあげたチタン酒器は、金属のロマンを形にしたようなまさに「一生もので一点もの」の逸品になったと考えています。
個人的に手応えを感じたのは、知り合いの経営者の方に「これは売れない」と言われたとき。逆に、いける!と思いました。つまり世の中にまだないものを生み出せたということだから。
笹目:逆に確信になったんですね。実際、中小企業発信のプロダクトアウトのアプローチでは、まさに社長がやられているような地道なセルフマーケティングの視点が大事だと考えていて、今後も試行錯誤しながら進めていく必要があると感じています
hikiZANプロジェクトチームの皆さん
笹目:ご相談から約1年、製品のお披露目として「DESIGN TOKYO」への出展を最初のゴールとして進行してきました。振り返っていかがでしたか?
所:今だから言えますが、苦しい時期もありました。私はリーダーとして現場の技術者に作業を依頼する立場だったこともあり、採算がとれるかもわからないこのプロジェクトに時間を割いてもらうことに心苦しさがあったからです。
また、私たちは製品の出来に満足していましたが、すべては売れるかどうか。反応次第では、撤退もやむを得ないという覚悟で展示会を迎えました。結果、来場者から多くの好意的な声をいただき、やっと「今までの努力は間違ってなかったんだ」と思えました。最近オンライン販売もスタートしたばかりですが、順調にご予約をいただいています。
笹目:当初20代でリーダーを任されて、ご苦労も多かったと思います。立ち上げ当初と比べて、現在の所さんの発言はとても自信に満ちていて、ご自身もすごく変化されたように感じます。社長はいかがでしたか?
今橋:やはり良い製品をつくれば売れるかというとそうではない。本気で売るためには、ブランディングという指標、プロセスが欠かせないんですよね。それを今回実感しました。
じつは最近、当社では本業とは別にコンサルティング事業を立ち上げたんです。県内には良い技術やサービスを持ちながら、ビジネスの展開に課題を抱えている企業が多く、そこをお手伝いをしていきたいという想いがあって。この事業に、まさに私たちが今回体験したBANSOでの気づきが生きてくるだろうなと思っています。
笹目:まさに「挑戦」を一貫して続けられていますね!「hikiZAN」プロジェクトの今後の展開も引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
ライティング|平嶋さやか