第8回 開園準備と地域とのつながり〜保育園を立ち上げる現場〜
福岡で保育園を立ち上げる決意を固めた私たちは、具体的な開園準備に取りかかりました。物件探しや設備の整備、行政手続き、保育カリキュラムの作成……やることは山積みで、毎日があっという間に過ぎていきました。大学で学んだ知識や仙台での現場経験が頼りでしたが、それでも現実は想像以上に複雑で、課題に直面するたびに試行錯誤の連続でした。
中でも、地域とのつながり作りは重要で、開園の成功に欠かせないものでした。近隣の住民や自治体の方々に挨拶回りをし、子どもたちの安全や地域への配慮を丁寧に説明しました。「地域の中で子どもが安心して過ごせる場」をつくるためには、住民の理解と協力が不可欠です。初めは緊張しましたが、少しずつ「応援したい」「手伝えることがあれば言ってほしい」と言ってくれる人が増え、心強さを感じました。
また、保育園を運営するためには、優秀で理念に共感してくれる職員の存在が不可欠です。人材を確保するため、過去の職場の仲間や、現場での出会いを頼りに声をかけました。理念や思いを直接伝え、子どもたちや家庭、地域と向き合う意義を共有したことで、共に歩んでくれる仲間が少しずつ集まってくれました。
物件や設備の準備も一筋縄ではいきませんでした。安全性や子どもたちが自由に遊べる環境を優先しつつ、限られた予算の中で工夫を重ねました。どの教材や遊具を選ぶか、室内の配置や動線をどうするか……細かいこと一つひとつが、子どもたちの生活に直結する大切な要素です。母と相談し、時には地域の方々のアドバイスも取り入れながら、一つずつ決めていきました。
こうした日々の積み重ねの中で、私は改めて感じました。理念だけでは保育園は成り立たない。現場の知恵、仲間の力、地域の支え――すべてが重なって初めて、子どもたちが安心して過ごせる場所が生まれるのだと。開園準備は大変でしたが、その過程そのものが、保育園の心臓部を形作る貴重な時間だったのです。
こうして、保育園の開園に向けて着実に歩みを進める中で、私は「理念を現実にする力」と「人とのつながりの大切さ」を、身をもって学んでいったのです。