株式会社Codence代表の西野です。
4月に入って、新しい期が始まった会社も多いと思います。期初のこの時期は「今年こそ何かを変えたい」「もっと成長したい」という気持ちが自然と湧いてくるタイミングではないでしょうか。
でも、その意気込みが続くのは、たいてい数週間です。
私自身、エンジニアとして現場に入っていた頃から何度も経験しました。「毎日技術ブログを書こう」「業務後に1時間勉強しよう」。始めたときは本気なのに、気づけばやめている。誰かに強制されたわけでもなく、自分で決めたことが続かない。あの挫折感は、地味にこたえるものです。
今日は「続ける」ことについて書きます。派手な話ではありません。成功体験でも、すごいテクニックでもない。でも、エンジニアとして成長したいと思っている人にとっては、きっと一番大事な話だと思っています。実際、この1年間で私が見てきた「伸びるエンジニア」と「停滞するエンジニア」の違いは、才能でも環境でもなく、この一点に集約されていました。
エンジニアの成長に近道はない
エンジニアの世界には「一発逆転」がほとんどありません。資格を1つ取ったから急に市場価値が上がるわけでもないし、話題のフレームワークを触っただけで仕事の質が変わるわけでもない。
変わるのは、地味なことを毎日やった人です。
たとえば、日報を書く習慣。ただの業務報告ではなく、「今日やったことの中で、明日もう少しうまくやれそうなことは何か」を1行だけ書く。たったそれだけのことですが、3ヶ月続けた人と、何も振り返らずに3ヶ月過ごした人とでは、次の案件に入ったときの動き方がまるで違います。
私がCodenceを立ち上げてから、いろいろなエンジニアと話してきました。現場で評価されている人、案件が終わっても「次もお願いしたい」と言われる人。そういう人たちに共通していたのは、特別な才能ではなく、「小さいことを続ける力」でした。
毎朝10分だけ技術記事を読む人。退勤後に今日学んだことを3行でまとめる人。コードレビューで指摘された点を自分用のチェックリストに追加していく人。どれも、1回あたりの労力は大したことがありません。でも、それが半年、1年と積み重なったとき、その人の仕事ぶりは明らかに変わっています。
周囲も気づきます。「あの人、最近なんか変わったよね」と。でも、何が変わったのかはうまく説明できない。日々の積み重ねとはそういうもので、外からは「いつの間にか成長した人」に見えます。本人だけが、地味な日々の連続だったことを知っているのです。
「1%の改善」が見えない時期をどう過ごすか
毎日1%ずつ成長すれば、1年後には37倍になる。よく引用される計算です。SNSでも見かけますし、モチベーションが上がる話ではあります。でも、この話には見落とされがちな落とし穴があります。
1%の変化は、その日のうちには絶対に実感できないということです。
昨日の自分と今日の自分を比べても、違いはわかりません。1週間前と比べても、たぶんわからない。だから「やっても意味がないんじゃないか」という気持ちが忍び寄ってくる。ここが、続けられる人と続けられない人の分岐点になります。
私の経験では、続けられる人は「成果が見えない期間に耐えている」わけではありませんでした。そもそも「成果を見ようとしていない」のです。歯を磨くのと同じように、やると決めたからやる。それだけのことを、淡々と繰り返している。
逆に「今週はどれくらい成長できたかな」と頻繁に確認する人ほど、途中でやめてしまう傾向がありました。成長を測ろうとすること自体は悪くないのですが、頻度が高すぎると、変化がないことに落胆してモチベーションを失ってしまいます。
だからこそ、続けるコツのひとつは「測る頻度を下げること」かもしれません。毎日測るのはやめたほうがいい。月に一度、3ヶ月に一度くらいの間隔で振り返れば十分です。そのくらいの間隔であれば、ちゃんと差が見えます。そして、差が見えたときの手応えが、また次の3ヶ月を続ける燃料になるのです。
SESの現場で「続ける」ということ
SESで働いていると、環境が定期的に変わります。新しいチーム、新しいコードベース、新しいコーディング規約、新しい人間関係。そのたびにゼロからのスタートを強いられるように感じることもあるでしょう。
「せっかく前の現場で覚えたことが、次では使えない」。そう感じたことがある人は少なくないはずです。
でも、実際にはゼロには戻っていません。
たとえば、前の現場で「障害が起きたときに最初に何を確認するか」を自分なりに整理していた人は、次の現場でもその思考プロセスがそのまま使えます。使う言語やフレームワークが変わっても、「問題を切り分ける力」は持ち越せる。コードの書き方は現場ごとに違っても、「チームに早く馴染むための動き方」や「質問の仕方」「報告のタイミング」は再利用できます。
現場が変わるたびにリセットされるのは、環境への慣れだけです。積み上げてきた判断力、コミュニケーションの型、ドキュメントの書き方、レビューを受けたときの対応の仕方。そういった「どの現場にも持っていけるスキル」は、意識して積み上げた分だけ確実に残ります。
ただし、それは意識して積み上げた人に限った話です。何も考えずに日々を過ごしていると、本当にゼロに戻ったように感じてしまう。だからこそ、毎日の振り返りや、自分なりのナレッジ整理が効いてきます。
私が以前一緒に働いたエンジニアの中に、現場が変わるたびに「前の現場で学んだことリスト」を作っている人がいました。技術的なことだけでなく、「この規模のチームでは朝会の進め方がこうだった」「コードレビューの粒度はこのくらいだった」「リリース前のチェック項目はこれだった」といったことまで記録していた。
その人は、新しい現場に入るたびに立ち上がりが早くなっていきました。3つ目、4つ目の現場では、初週から戦力になれていたと思います。同じ年数のキャリアでも、こうした積み重ねの有無で実力に大きな差がつく。SESならではの環境変化を、むしろ成長のチャンスに変えていた好例です。
考えてみれば、SESエンジニアは「新しい環境に適応する」という経験を、自社開発の人よりも圧倒的に多く積んでいます。それ自体が、積み重ねれば強力なスキルになる。ただ、その価値に気づいている人は意外と少ないのかもしれません。
むしろ「現場が変わるのがつらい」とネガティブに捉えてしまう人もいます。気持ちはわかります。でも、見方を変えれば、SESの環境変化は「新しいチームで通用するかどうかを定期的にテストできる機会」でもあるのです。そのテストを毎回少しずつうまく乗り越えていくこと自体が、積み重ねそのものだと私は思います。
「続かなかった」経験も、無駄ではない
ここまで「続けることの大切さ」を書いてきましたが、ひとつ付け加えたいことがあります。
続かなかったとしても、それは失敗ではありません。
私自身、続かなかったことのほうが圧倒的に多いです。英語学習は何度も挫折しました。毎日のランニングも3週間で止まりました。技術ブログの更新も、途中で何度も途切れています。
でも、続かなかった経験から学んだことがあります。「自分は朝のほうが集中できる」「ハードルが高すぎると続かない」「ひとりで黙々とやるより、誰かと一緒のほうが続く」。そうした自分自身の傾向がわかったのは、うまくいかなかった経験があったからこそです。
だから、今まで何かを始めては途中でやめてきた人にも伝えたい。それは黒歴史ではなく、次に続けるための材料です。「前回はなぜ止まったのか」を少しだけ振り返るだけで、次はもう少し長く続けられるかもしれません。大事なのは、やめたことを責めるのではなく、またやり直すことです。
経営者になっても、続けることは変わらない
偉そうなことを書いてきましたが、私自身も「続ける」ことには日々苦労しています。経営者になったからといって、急に意志が強くなるわけではありません。むしろ、やるべきことが増えた分、何かを継続するのは以前より難しくなったとすら感じます。
それでも、意識して続けていることがいくつかあります。
ひとつは、毎朝30分のインプットです。技術トレンド、業界ニュース、他社の採用動向。内容はその日によって違いますが、「朝30分は何かを読む」というルールだけは崩さないようにしています。正直、読んだ内容をすべて覚えているわけではありません。でも、半年前の自分と比べると、業界全体の見え方が明らかに変わりました。ニュースを見たときに「これはあの流れと関係しているな」と自然にピンとくるようになった。点と点がつながる感覚が増えたのは、インプットの蓄積があるからだと思います。
もうひとつは、エンジニアとの面談内容を記録すること。面談のメモを残すのは当たり前に思えるかもしれませんが、忙しくなると後回しにしがちです。でも記録があると、3ヶ月前に話していた悩みが今どうなっているのか、本人よりも先に気づけることがあります。「前にこう言っていたけど、最近はどう?」と具体的に聞けるだけで、面談の深さがまるで違う。
人の成長を支えるには、まず「見ていること」が前提です。そして「見ている」ためには記録が要る。記録を続けるには仕組みが要る。結局、どこまでいっても「続ける」という話に戻ってきます。
「何を続けるか」より「どう続けるか」
「じゃあ具体的に、何を続ければいいですか?」と聞かれることがあります。
正直なところ、何を選ぶかはそこまで重要ではないと思っています。技術書を毎日10ページ読むでも、コードレビューで受けたフィードバックをメモするでも、英語のドキュメントを毎日1本読むでも。内容よりも大事なのは「続ける仕組み」のほうです。
いくつか、具体的なポイントを挙げてみます。
まず、既存の習慣にくっつけること。「やる気があるときにやる」は仕組みではありません。「朝のコーヒーを淹れている間に技術記事を1本開く」は仕組みです。すでに毎日やっていることとセットにすれば、意志力に頼らなくて済みます。
次に、ハードルを徹底的に下げること。「毎日1時間勉強する」は続きません。「毎日5分だけやる」なら続きます。5分やれば気分が乗って15分やることもある。でも、最初から15分を目標にすると、「今日は忙しかったから」とスキップする日が出てきて、そのうちやめてしまう。目標は「たくさんやること」ではなく「やらない日を作らないこと」です。
そして、誰かに宣言すること。「今月はこれを毎日やります」と同僚やチームに伝えるだけで、やめるハードルが少し上がります。人間は自分との約束は簡単に破りますが、他人との約束は破りにくい。この性質を使わない手はありません。
最後に、記録を残すこと。「やった」という事実を記録するだけで、続ける動機が生まれます。カレンダーに丸をつける、ノートに一行書く、アプリにチェックを入れる。方法は何でもいい。連続してやった日数が可視化されると、途切れさせたくないという気持ちが自然と湧いてきます。3日、1週間、1ヶ月と続いた記録を見たとき、「ここで止めるのはもったいない」と思えたら、もう半分は勝ちです。
Codenceでは、エンジニアそれぞれの成長目標を一緒に設定して、月次の面談で進捗を共有する形をとっています。上からの指示やノルマではなく、本人が決めた目標を一緒に追いかける。ひとりで黙々と続けるのが難しいのは当然のことで、だからこそ会社が「続けるための伴走者」になる意味があると考えています。
景色が変わる瞬間
続けていても、変化を実感できない日が大半です。昨日と同じような今日、先週と変わらない今週。その繰り返しに、正直飽きることもあります。
でも、ある日ふと気づくのです。
「あれ、前は読めなかったコードが、すんなり頭に入ってくる」。
「前は聞き取れなかった設計レビューの議論に、自分の意見を言えている」。
「初めての現場なのに、不思議と落ち着いて動けている」。
それは、続けた人だけが見える景色です。
振り返ると、その景色に至るまでの日々は驚くほど地味なものでした。毎日5分の振り返り。週に1本の技術記事。月に1回の面談での目標確認。どれも、やっている最中には「こんなことで本当に変わるのか」と感じるようなことばかりです。
でも、変わります。確実に。
私たちCodenceは、まだ創業2年目の小さな会社です。派手な実績も、大きなプロダクトもまだありません。でも、毎日の積み重ねでしか到達できない場所があると信じて、日々事業を動かしています。
エンジニアひとりひとりの成長を近くで見て、支えて、一緒に喜ぶ。会社自体も毎日少しずつ前に進む。去年の今頃は社員1人だった会社が、今は3人になりました。まだ小さな変化ですが、毎日の積み重ねが形になっている実感は確かにあります。そうやって積み上げた先に、今はまだ見えていない景色がきっとあるはずです。
エンジニアとして「もっと成長したい」と感じているなら、まずは今日から何かひとつだけ始めてみてください。5分で終わるような、小さなことでいいのです。
大切なのは、明日もそれをやること。そして明後日も。
続けた先にある景色を、私たちと一緒に見に行きませんか。