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京都のコーヒーショップが、ジャカルタでカフェ2店舗を連続オープンさせるまで

京都から世界へ向けてコーヒー文化を発信していくことをビジョンとするスペシャルティコーヒーショップ「Kurasu」。2017年のシンガポール出店を皮切りにグローバルにカフェ事業を展開しており、2023年にはインドネシア・ジャカルタに2つの店舗をオープンさせました。

インドネシアで日本のコーヒー文化やKurasuはどのように受容されているのでしょうか。そして、京都生まれのスタートアップ企業が海外展開をする難しさやおもしろさとは。Kurasuの創業者で代表のYozo(大槻洋三)に話を聞きました。


Yozo Otsukiのプロフィール - Wantedly
合同会社Kurasu, CEO 京都生まれ。幼少時代はマンハッタン、ニューヨークで育ち、高校からカナダに留学。ウォータルー大学卒業のち、ゴールドマンサックス証券日本法人入社。 日本の文化を世界へ伝えたい思いと、幼い頃に両親がジャズ喫茶を営んでいたことに影響を受け、日本のコーヒー文化の魅力に着目。 ...
https://www.wantedly.com/id/yozo_otsuki

インドネシアの人々が抱くコーヒーへの熱量

——今回、海外出店にあたってインドネシアという国を選んだ理由を教えてください。

インドネシアは僕たちのコーヒーショップ(オンライン)の海外売上上位にランクインしており、京都の店舗「Kurasu Ebisugawa」にもインドネシアの方が多く来られていて、需要の高さをはっきりと感じていました。

その需要の背景にあるのは、インドネシアの関税の高さです。コーヒー生産国であるインドネシアでは、地場産業を守るために海外からの輸入に規制をかけています。インドネシアから日本のコーヒーや器具を買おうとすると、高い関税がハードルになってしまうんです。

お客様の反応を見ていると、インドネシアの方々のコーヒーへの情熱は世界一といっても過言ではありません。「Kurasuでコーヒーを飲みたくて京都に来ました」と言ってくださる方もたくさんいます。

加えて、インドネシアはこれから成長していくマーケットでもあり、海外展開をするならいつかはインドネシアにお店を出したいと考えていました。

——インドネシアには熱狂的なコーヒーファンが多いのですね。コーヒー生産国とのことですが、現地では皆さんインドネシア産のコーヒーを飲まれるのですか。

インドネシアのコーヒーの生産量は世界3位(2022年のデータ)で、国内でもコーヒーがよく飲まれています。ただ、インドネシアで生産されるコーヒー豆の大部分は、缶コーヒーやブレンド用に使われる安価なロブスタ(カネフォラ)種なんです。

ロブスタ種は大量生産には向いていますが、日本で一般的に飲まれているアラビカ種の豆に比べると、コーヒーらしい香りやコクが少なく、ドリップ向きではありません。しかし、近年は徐々に生産者やコーヒー農園の取り組みも変化してきて、質の高いアラビカ種の豆も流通し始めています。それにともなって、インドネシア国内でも高品質なコーヒーを選んで飲む方が増えてきている印象です。

コーヒー文化の発展において、ロースターとコーヒー農家さんは、車の両輪だと思っています。コーヒー豆を買う側が質の高いものを求め、それに対して適正な対価を払うことで、農家さんも「それなら質の高いものを生産・提供しよう」と思えますから。

そして、ロースターとコーヒー農家さんとの距離が近ければ近いほど、シナジーが発揮しやすいですよね。日本からだと難しいですが、現地にお店があれば、すぐに農園に行くこともできますし、「こういうものが欲しいです」「一緒にこんな取り組みをしましょう」といえます。

インドネシアのお店でも、もちろんインドネシア産のコーヒーを取り扱っています。現地で生産されている豆を使えることは強みなので、今後もっと力を入れていきたいですね。

ジャカルタ「Kurasu Senopati」オープンの経緯

——どのような経緯でインドネシア・ジャカルタに出店する話が持ち上がったのですか。

2022年9月頃、現在のパートナー会社が「一緒にやりましょう」と声を掛けてくれたことが直接のきっかけです。彼らは、独立系レストランや、ファンがついてブランドが確立されている飲食系のようなスモールビジネスをサポートし、拡大させていくファンドです。

それまでに、ケーキ屋さん、アイスクリーム屋さんなど複数のブランドを手掛けた実績があり、ポートフォリオを見ることができました。ブランディング目線でもマッチしていると思えましたし、それぞれのブランドをすごく大切にされているのが伝わってきて、最初から好印象を持ちました。

彼らはファンドなので投資して回収することを目的としていますが、単に大きくすればいいと考えるのではなく、そのブランドのアイデンティティや世界観を尊重しているんですね。資金面、マーケティング、バックオフィスといった部分を引き受けて、事業者がやりたいこと・パッションを持っていることにフォーカスできるよう、サポートに徹する理念に惹かれました。

——インドネシアの他社さんと比較検討はされなかったのですか。

実は、コロナ禍前にインドネシアの別会社からお声掛けをいただいて、実際に現地に行って契約直前まで話を進めたことがあるんです。ただ、「悪くはないけれど、うまくいくかな」と、なんとなく引っかかるものがあり、正式な契約には踏み切れませんでした。

その後コロナ禍で数年空いてから、2022年に現在のパートナー会社にお声掛けいただいたとき、「ここは、うちとフィットするだろう」という直感を持ちました。すり合わせをしていく中でその直感は確信に変わり、契約を結んでジャカルタ出店を決めた次第です。

「どこでやるか」も大事ですが、「誰とやるか」はそれ以上に重要だと思っています。

スモールスタートのつもりが、予想を超える反響

——Kurasu Senopatiは、どのような戦略・コンセプトで出店したのでしょうか。

パートナー会社がそれまで手掛けてきたのはすべてインドネシアの現地ブランドで、海外のブランドをインドネシアで展開するのはKurasuが初めてのケースでした。彼らにとってもリスクがあったので、いきなり莫大な投資をするのではなく、スモールスタートで手応えを確かめていくのがいいだろう、となりました。

1号店のKurasu Senopatiが位置するのは、ジャカルタの中心地です。隣のアパレルショップ(ALTR Store)がリノベーションをするにあたってカフェを置きたいという話があったので、そこで始めてみることにしました。

2階なので表から見えにくくはあるのですが、その分家賃も安めでしたし、隠れ家的なお店づくりもいいなと思ったんです。アパレルショップがカルチャー寄りのハイエンドなお店だったので、感性の高い人たちが集まってきてくれるのでは、という期待もありました。

——お店のデザインは現地の方に依頼したのでしょうか。意識したこともあれば教えてください。

デザインに関しては、パートナー会社の紹介で、日本の「空間構想(kousou inc.)」という建築事務所のジャカルタ支店に依頼しました。その支店に東京大学で日本の建築の研究をされたブルガリア人の建築士がいて、会って話したら、Kurasuのアイデンティティもよく理解してくれ、とてもマッチしそうだと感じたため、お任せすることにしたんです。

京都のKurasu EbisugawaやKurasu Kyoto Standを参考にしてもらったものの、まるっきり同じにするのではなく、この空間に合うように、現地の人たちに好まれるように、意識してデザインしてもらいました。

たとえば、天井の照明には、バナナの繊維を使った和紙のランプシェードを採用しています。これは現地の職人さんに依頼して、作っていただきました。

意匠がすばらしいだけでなく、バナナの名産地であるインドネシアとKurasu本拠地の日本とのあいだにローカルな結びつきが生まれ、それがこの店舗のオリジナリティにつながっているところも気に入っています。

そのほか、天井を吹き抜けにして自然光を採りいれ、和紙の素材感が際立つようにしたり、カウンターの素材や商品の見せ方は日本の店舗に近い形にしたりといった工夫もしました。

——実際にオープンしてみて、反応はいかがでしたか。

Kurasu Senopatiの席数は多くはなく、外の席を入れてもせいぜい15席ほど。「どのくらい人が来てくれるんだろう」「お客さんが少なくてもコストも抑えているし大丈夫だろう」。そんなふうに考えていましたが、いざオープンしてみたら、想像をはるかに超えるお客さまが来てくださって、驚きました。

隠れ家的なお店、ゆったり落ち着けるスペース……そんなイメージだったのに、お店の外に行列ができてしまい、「えらいことになった、どうしよう?」と思いました(笑)。

パートナーは非常にプロモーションのうまい会社なのですが、プロモーションを行なう前から人が来すぎて、パンクしてしまったんです。それだけインドネシアでKurasuのブランドが認知されていたということで、もちろん嬉しくはありましたが、オペレーションやコンセプトの問題もあり、何らかの対応が必要だと感じました。

人気に応えて2号店をオープン、コンセプトは日本の「喫茶店」

——Kurasu Senopatiがオープンした2023年に、続けて2号店を出店されましたが、どのような経緯だったのでしょうか。

1号店のKurasu Senopatiに予想を超える数のお客様が来てくださったので、その混雑を緩和させたいという考えで、1号店から2kmほど離れた場所に2号店を出すことにしたんです。

近くに出店してもなお人が減らないのであれば、僕たちの想像以上に需要があるということなので、次の店舗を作ることも視野に入れられます。ジャカルタはかなり大きな街ですが、そういった意図があって、あえて近くに出店しました。

——2号店のコンセプトは「喫茶店」とのことですが、このコンセプトはどのような経緯で決まったのですか?

2つめの店舗を作ろうという話になったとき、パートナー会社の代表・マイケルさんに京都に来てもらい、Kurasu Ebisugawaを見てもらった上で、アイデアの壁打ちをしました。

彼はこのとき京都に来て初めて、個人が営む昔ながらの喫茶店を見たそうで、「日本にはこういうお店がたくさんあるんですね」と驚いていました。それで、僕の母が若い頃に京都でジャズ喫茶を営んでいたことや、育った家にはいつもたくさんのレコードがあり、母が淹れるコーヒーの香りがただよっていた……という思い出を話したんです。

僕の家族の歴史や、京都でマイケルさんが見た昔ながらの喫茶店について話をするうちに、そうしたルーツを体現するようなお店ってすごくいいんじゃないか、となりました。

20代の頃に東京のジャズ喫茶店で働き、京都で自らジャズ喫茶「Nica」をオープンしたYozoの母

落ち着いた雰囲気で程よく暗い照明、座り心地の良いソファ、スピーカーから音楽が流れる空間といった日本の喫茶店のコンセプト。そして、コンテンポラリーな音楽や、しっとりとしたイメージよりも活気のある感じ、いろいろな人がつながれるソーシャルな体験といったモダンなコンセプト。その両者を組み合わせたことで、インドネシアのコーヒーシーンにKurasuならではの形を作れたと思っています。

——実際にオープンしてみて、反応はいかがでしたか。

パートナー会社がいうには、今ジャカルタで一番ホットなお店になっているそうです。週末は夜の12時、1時まで営業しているので、夜お酒を飲みに来る場所としても使えますし、外の広いスペースでゆったりと過ごしてもらうこともできます。

ただ、この2号店も予想以上に流行りすぎて、毎日行列ができてしまっていて。もちろん、嬉しいのですが、人が多すぎてゆったりした雰囲気ではなくなっているジレンマもあって、「こんなに需要があるのなら」と、現在、もう少し南にある中央ジャカルタのビジネス街に3号店を作っているところです。

Kurasuブランドの定義と、インドネシアで目指すこと

——順風満帆といった印象ですが、初の試みをするにあたって、不安はなかったですか。

京都でやっていないコンセプトを海外でやることに不安がなかったわけではありませんが、うまくいくだろうなという予感はありました。それは、「喫茶店の定義ってなんだろう、Kurasuの定義ってなんだろう」という問いに向き合い続け、パートナーさんとコミュニケーションを取って認識をすり合わせてきたからです。

京都でやっていないコンセプトを海外で体現することは、これからも続いていくでしょう。こんなことをやってみたい、こういう形はウケそう……そんなアイデアがたくさん出るのはよいことですが、共通認識を持たないと「何でもあり」になって、Kurasuの目指すものと乖離してしまうリスクがあります。

そうならないよう、日本と海外で離れていても、きちんとコミュニケーションを取り、「ちょっと違う」と思えばそれを伝え、協議して軌道修正していくことがとても大切です。それを繰り返すことでしか、Kurasuのアイデンティティは伝えられないと思うので……。

現地にKurasuのやろうとしていることをしっかり理解してくれる人を増やすことが、海外展開をしていく上での課題ですね。属人的で、数値化は難しいけれど、だからこそやる価値があることだと思っています。

——これからの展望や、感じている課題があればお聞かせください。

現在は日本で焙煎したコーヒー豆を海外店舗に送るケースがほとんどですが、ゆくゆくはそれぞれの地域で焙煎をしていきたいと考えています。インドネシアはコーヒー生産国なので、農園と協力体制を取り、Kurasu独自の生産方法、独自のサプライチェーンも作っていけたら、生産国に拠点を置く意義があるといえるでしょう。

インドネシアは、成熟したマーケットではなく、今まさにぐんぐん伸びている市場なので、できることがすごく多いです。早い段階で、そうした市場の中に存在を定着させていくことが課題だと思っています。

店舗情報

1号店(Kurasu Senopati)

■所在地:Jl. Tulodong Bawah I No.9, Senayan, Kec. Kby. Baru, Kota Jakarta Selatan, Daerah Khusus Ibukota Jakarta 12190
■公式Instagram:https://www.instagram.com/kurasuid/

2号店

■所在地:Jl. Iskandarsyah Raya No.1, RT.5/RW.2, Melawai, Kec. Kby. Baru, Kota Jakarta Selatan, Daerah Khusus Ibukota Jakarta 12160
■公式Instagram:https://www.instagram.com/kurasuid/



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