クラップの立ち上げに奔走し、今ではフランチャイズ展開まで手がける佐々木さん。
福祉業界の常識にとらわれず、“仕組みづくり”と“再現性”をキーワードに、子どもや保護者、そして地域と向き合っている彼に、これまでの歩みとこれからの展望について伺いました。
「立ち上げ」に魅せられた20代
「仕事は、正直そんなに好きじゃないです(笑)」と笑う佐々木さん。けれども、その発言とは裏腹に、彼のこれまでのキャリアは常に“立ち上げ”とともにありました。
前職では、岩手で小規模多機能の介護施設の立ち上げに携わり、3年が経ったタイミングでクラップの代表から声がかかります。「関東で生活したいって気持ちが前からあって。ゼロから何かをつくるっていうのが、自分にはすごく合っている気がしたんですよね」
「一つの場所にずっといて、そこで魂を燃やすっていうよりは、新しいものを作っていって、『形になっていく』過程がすごく面白くて」
立ち上げの経験は、自身の性格にも合っているといいます。「自分が作ったものに対して、変に執着しないんです。次のことを考えられるのが自分の強みかもしれない」
初めて子どもと関わることに対しては不安もあったそうですが、関わる中で世界が広がっていったといいます。「『こんな子もいるんだ』っていう発見があった。『わかってる』って言ってても、大人の感覚とまったく違う解釈をしてたりして。それが面白かったんです」
「仕組み」をつくる人
クラップにおいて佐々木さんが担う役割は、現場に深く関わるだけでなく、そこで得た知見を仕組み化し、次に活かすこと。
「最初の1件目の申請とかは、何が必要か全部わからないから大変なんですけど、一度やれば“次はこうすればいい”って道筋が見えるんですよ」
物件探し、消防とのやりとり、行政書類の準備…。そうした手間のかかる工程を通じて得たノウハウを、次の人にも使えるように整理していく。
「うちはこのやり方で成功した、というのをちゃんと残しておかないと、次の人が困るじゃないですか」
「何かを作ったら終わりじゃなくて、それをどう再現するかまで考えてます。自分がいなくなっても、誰かができる形にするのがゴールですね」
地域に根ざすための目
現在はフランチャイズの立ち上げにも携わり、問い合わせの段階から地域の調査、申請書類の作成、物件の現地確認まで幅広く関与しています。
「千葉県だと県庁とやり取りして、消防署との調整も必要で。書類の数もすごいんです。申請の期限もあるので、関係者との連携が欠かせません」
情報の収集にも手を抜かず、人口分布や競合状況まで把握したうえで開設を提案していくその姿勢には、「調べ物オタク」と自称する一面も垣間見えます。
「知らないまま話すのが嫌なんです。保護者の方に説明するにしても、自分が制度のことちゃんと把握してないと、信用されない気がして」
「自由」であるために
佐々木さんが大切にしているキーワードのひとつが「自由」。それは、何もしないという意味ではありません。
「何もしないで生きたいわけじゃなくて、“選べる状態”が自由だと思ってます」
そんな彼が描く未来のひとつに、「ポニーベース」と呼ばれる構想があります。
「昔、馬が身近にいたんですよ。小さい頃から。今もずっと馬が好きで、いつかポニーと一緒に子どもたちと関われる場所をつくれたらって」
舞台は岩手。「地元に特別な思い入れがあるってわけじゃないんですけど、昔の仲間がまだそこにいて。何か一緒にできたら面白いんじゃないかなって」
自身で法人も立ち上げ、クラップのフランチャイズとして地元での展開を準備中とのこと。「自分は代表というより仕組み側。資金を全部出してるわけでもないし、裏方のほうが向いてると思ってます」
クラップという土壌
クラップという職場について尋ねると、「自由ですね」と即答が返ってきました。
「『やってみたい』と言えば、『やってみなよ』って言ってくれる場所です」
一方で、「でも自由って、全部自分で考えないといけないから、合わない人もいると思う」とも話します。
「何をしたらいいかわからない人には向かない。でも、『これが必要じゃない?』って自分から動ける人には、すごく面白い職場です」
「制度とか肩書きって、守ってくれるときもあるけど、動きを縛るときもあるじゃないですか。クラップは、そういうものを一回置いて、自分で考えて、自分で動ける人が多いんです」
終わらない立ち上げの旅へ
佐々木さんの原動力は、「完成させること」ではなく、「そのプロセス」にあります。
「仕事って、“自分に合ってること”をやってる感覚なんですよ。何かを作るって、楽しいです。どこかで『これでいいか』って思ったら、次のこと考えてる(笑)」
「ゴールを決めて、それを超えたら、また次の目標をつくる。ずっとその繰り返しなんです。でもそのプロセスが、自分にとっては一番しっくりくる」
「たぶん、何もしてないのは逆にしんどいタイプなんです。定期的に予定が入ってる状態がちょうどいい」
「FIRE(経済的自立)みたいな自由の形じゃなくて、自分は“忙しくない社長”みたいな感じを目指してます」
仕事を軸にしながらも、それだけに囚われず、余白のある日常を大切にする。そんな佐々木さんの働き方には、「選べる状態」という本質的な自由へのこだわりが感じられます。
“立ち上げ屋”としての自負と、自らの感覚を信じる軽やかさ。その両輪で、彼はこれからもまた、新しい仕組みと可能性を描いていくのでしょう。