探究学舎で長きに渡り、講師や授業制作に携わってきた向 敦史さん。現在は毎週通塾して授業を受ける”探究ウィークリー”を中心とした、教室事業部長も務めている彼に、探究学舎の仕事において、大切にしている哲学や文化を伺いました。
▼プロフィール
向 敦史(むかい あつし) 愛称"あつし"
教室事業部長・講師/授業制作を担当
高校に4年、大学に6年通い、3つ下の妹と一緒にようやく大学を卒業。高校在学中に休学し、アメリカ留学。
大学在学中に休学し、岡山県立和気閑谷高等学校にて2年間、中山間地域における学校の魅力化に従事。
休学マニア。卒業論文「変容的学習論にみる教員の変容の促進要因に関する一考察」では、
人はどのように変容するのかについて、上記の高校を題材に研究。人の変容を分析するのが好き。
最近ハマっているのは、島巡り。屋久島、青ヶ島などの離島で石ころを拾い、
その島がどうやってできたかに思いを馳せて感動している。
■教育への道と、探究学舎との出会い
:自己紹介をお願いします!
向 敦史(むかいあつし)です。
探究学舎では授業を制作したり、子どもたちに授業を届けたり。
現在では教室事業部長として、リアルの現場で子どもたちや保護者との繋がりを楽しんでいます。探究学舎に関わって、もう7年になりますね。
:探究学舎に出会ったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。
探究学舎は「受験勉強を教えない」という哲学をもって、子どもたちとともに学びを深めていますが、実は僕、受験勉強は嫌いではなかったんです。
ゲーム感覚で点数を取りにいく感じだったので、成績も右肩上がりで楽しかったです。
でも、その楽しさが大学に入ると一変しました。
大学での学びは、受験勉強とは違い「答え」がない。
正解がない問題を考え続けていく。
それが、とても面白くて。
なぜ、子どもたちはもっと早くから、この面白さに出会えないのか?
その視点から、教育方法についてリサーチを始めたところ、実はPBL・知識構成型ジグソー法・アクティブラーニングなど、すでにそうした実践事例があることや、先達たちがいることに気づきました。
僕が興味を持った学びの方法は、すでに世界のだれかがやっている。
ならば自分もやってみたいし、本当にそれがうまくいくのかを確かめてみたいと、教育の世界に興味を持ち始めました。
その頃、岡山県の高校で働きながら、面白い学びを作ることができる仕事(高校赴任の地域おこし協力隊制度)があったので、早速大学を休学して、カリキュラムを考え、教材を作りながら生徒たちに向き合う二年間を過ごしました。
二年間はあっと言う間でした。
子どもたちに届けるカリキュラムを実際に作ってみることができる得難い経験になりましたし、意欲がある子の背中を押してあげることもできて、楽しかった。
でも一方で、なかなか学校の授業の枠の中で、活力が湧かない生徒の姿を見ながら、
「どうやったら意欲が湧くんだろう?」と、
僕の中での「問い」が出てきたのもこの頃です。
その岡山にいたタイミングで、探究学舎の出張授業を見る機会があり、それが探究学舎との出会いです。
探究学舎の出張授業では、中学生が興奮して授業を楽しんでいたことが記憶に鮮明に残っており、岡山県の高校の任期が終わってから、東京に戻り、探究学舎の門を叩いてみました。
:探究学舎に入って、「どうやったら意欲が湧くんだろう?」という問いの答えは見つかりましたか?
探究学舎の授業を改めて見学して、子どもが楽しそうに授業に臨んでいる姿を目にした瞬間に
「そうそうそう、こういうことだった。」
と思いました。
それは言葉にはできないけれど、これなんだ、という強い確信を掴んだ感覚でした。
入った当時は、すぐに興味を持ったり、意欲が湧いたりすることを意識していた気がします。
でも、子どもたちとともに学びを深めるうちに
「そんなにすぐ効果がでるものではない。子どもたちの変化は、ずっと見えないところで育まれ、あるとき立ち現れてくるものなんだな」
と思うようになりました。
子どもたちのなかで
「なんか大事なことを言っている気がしたんだよなぁ・・・」
と言葉にはならない・・・でもなにかを感じた体験が生じることが大切なんだ。
という思いを深めていきましたね。
■言葉にはならない、でも、なにかを感じた体験
:特に印象に残っている、そのような体験の場面はありますか?
2023年の年末に、マザーテレサについての授業をオンラインで配信した時のことは、強く記憶に残る授業です。
授業は、マザーテレサの人生を追体験できるようにつくりました。
彼女の人生の場面場面を取り上げ、
彼女がどう感じたか、どう考えたかを子どもたちとともに向き合い
彼女がどのような選択をしたかを伝え、
そして、そこで彼女の周りで起きた反応を、マザーテレサとともに僕たちも受け止めるような
そんな授業を届けました。
授業の終盤、マザーテレサの人生の終わりに近づいた時、
次第にチャットへの投稿がなくなっていきました。
受けてくれている子どもたち、保護者の方々が、
息を呑むように居合わせていることが画面越しにも伝わってきた。
最後に紹介したのは、墓標に書かれた
「Love one another as I loved you」という言葉。
授業の最後に、「一番身近な人を愛して見ませんか?少し見つめるだけでもいい。手を取るだけでもいい。恥ずかしいなら、想いを寄せるだけでいい。
そこから平和を広げていきませんか?」そんな提案をしました。
授業後、参加された保護者から
「小学二年生の息子が感動で泣いていました。
お互いハグして大好きだよ、と伝え合いました。身近な家族を愛すること、
世界平和のためにわたし達も貢献できてるなって思えて嬉しかったです。」
という言葉が届きました。
年齢に関係なく、本当に大切なことは、心で感じることができる。
ちゃんと伝わる。
いま思い出しても、涙が出てきます。
マザー・テレサの授業で感じたような、
緊張感のある静寂。
語り尽くせないんだけど、なにか感じるものがある授業。
きっとそれは、言葉として頭の中で理解するものではなくて
心で感じ、胸をわしづかみにされるような感覚に近いと思います。
:“ことばにできないけど、なんかいい”という体験は、小学生の時はなかなか体験できないと思うんだけど、どうやったらできるのでしょうか?
共感・没入・感情が動くこと、かなと思います。
それをファシリテーターも本気で共感していて、今ここにいるって感覚が深まっていくとそういう体験につながると思う。
どれだけイマ・ココにいられるか?
:それは、不快感もありそうですね。
そう!
拭いきれない感覚がある。湧いてきちゃう感覚。
「もやもやする・・・」「なんでだろう?」って
ずっとひっかかっている。
逆に嬉しい感覚だと
思わず拍手しちゃうとか、身体的反応が出てくるのだと思います。
そういうことが起こるといいなと思いますね。
:インタビューの後編では、探究学舎のやっていること、興味開発とはなにか、なにかを感じられる授業作りとは、などを話してもらいます。
お楽しみに!
(インタビュー:えびん・撮影:真渓・編集:下川/伊藤)