6. ベンチャーは、稟議が通る仕事だけしていては勝てない
これは、持論です。
正直、すべてのベンチャー企業に当てはまるか、あるいは大きく資金調達してスケールを狙う会社にとって本当に正しいのか、それは分かりません。
しかし、この10年でたどり着いた感覚であり、私の言葉としてあえて書きます。
ベンチャーは、「稟議に書けない仕事」をやるべきだ。と思っています。
ここで言う「稟議に書けない」というのは、もちろん不正をしろとか、ルールを破れとか、そういう話ではありません。
そうではなくて、
最初の段階では、きれいな企画書に落とし込めない。
やってみないと形にならない。
合議では通らない。
しかし、そこにしか新しい価値がない。
そういう仕事のことです。
この考え方を強く持つようになったきっかけがあります。
創業した当時、QRコード決済の世界では、Origami Payが「次のユニコーンだ」と言われていました。
会社はこのまま大きく成長して、上場していくんだろうと思っていました。華やかで、先進的で、時代のど真ん中にいるように見えた。
しかし、状況は一変します。
大企業が本気で入ってきた。PayPayです。
もう、ベンチャーから見たら桁が違う。人材も、お金も、広告も、営業も、圧倒的なリソースを投じて、市場そのものを取りに来た。
その時、二つのことを感じました。
一つは、大企業が本気でやると決めた時の力は半端じゃない、ということ。
私も大手出身なので、その怖さはよく分かります。
大企業が「やる」と決めた時の、人材の張り方、お金の入れ方、組織の動き方。それは、ベンチャー企業が真正面からぶつかって勝てるものではない。
その一方で、もう一つ感じたことがありました。
それは、大企業は合議制で進むということです。
つまり、大企業は基本的に「稟議が通る仕事」しか大きく動かせない。
多くの人が理解でき、説明でき、納得できる形にしないといけない。
きれいに言語化できないもの、最初は不格好で、何度も壊しながら作るしかないものは、どうしても進めづらい。
そこで思いました。
「ああ、ベンチャー企業が戦うべき場所は、ここなんだな」と。
おまかせ貿易をやろう!と発案した時、社内では反対が多かったです。
社員10人中、6~7人は反対しました。
「こんなの事業化するわけがない」
「貿易はそんなに簡単じゃない」
「絶対にやめた方がいい」
そう言われました。
逆にそれを聞いて、やろう!と決めました。
過半数が反対するということは、
これを稟議書に落としこんだら通らない事業なんだな。
と、思ったからです。
つまり、大企業が参入しにくい。
きれいな0→1の事業計画にしにくい。
最初から正解の絵を描けない。
だったら、そこにベンチャー企業の勝ち筋がある。
実際、「おまかせ貿易」はそうでした。
やってみないと分からないことだらけだった。
やって、失敗して、直して、またやって、また崩して。
4年間、本当にそんなことばかりでした。
それでようやく、今の形が見えてきた。
まだ完成ではありません。
今もブラッシュアップし続けています。
そういう事業は、たとえ大企業が本気でやろうと思っても、
お金と人材を入れればすぐに勝てるものではありません。
なぜなら、最後に必要なのは時間だからです。
時間だけは平等です。
ベンチャー企業が、人海戦術と資金量だけで勝つモデルを作ってしまったら、いずれ大企業に飲み込まれる。
最初は理解されにくく、稟議に書きづらい、何度も現場で仮説検証しないと形にならない。そういう事業には、ベンチャー企業の居場所がある。
一言でいえば、それは参入障壁とか差別化とか、そういう言葉になるのかもしれません。
しかし、感覚では、もっと生々しい。
その仕事は、稟議書にきれいに書けるか。
きれいに書けるなら、もしかしたら大企業の土俵かもしれない。
逆に、簡単には書けないなら、そこにベンチャー企業の勝負どころがある。
7. 起業家にとって一番大事なのは体力だ
起業家に必要なものは何か。
・頭の良さか?
・発想力か?
・カリスマ性か?
・運か?
もちろんすべて持ち合わせていた方がいいです。
この10年やってきて、本音で思うのは、
一番大事なのは体力だということです。
結局、体力がないと、気力が持ちません。
そして、気力が持たないと、経営は続きません。
これはシンプルな話で、ものすごく重要なことです。
創業してからこの10年、体調不良で会社を休んだことは一回もありません。
もちろん、もともと体が強いというのもあるかもしれません。
しかし、それだけじゃない。
体を維持すること、そのものが経営の仕事だと思っています。
土曜日は朝からトレーニング⇒整骨院⇒極真空手でフルコンタクトに取り組んでいます。
なぜそこまでやるのか。
健康のため、というのもある。
しかしそれ以上に、戦える状態を維持するためです。
経営は、きれいごとじゃない。
常に判断し続ける。
責任を背負い続ける。
何か起きた時に、一番最後に立つのは経営者です。
戦争で、隊長が一番病弱で、すぐ倒れるような軍が強いわけがない。
それと同じです。
サラリーマンなら、体調を崩したら誰かが代わってくれることもある。
でも、起業家はそうじゃない。
自分が落ちたら、その分だけ会社が落ちる。
自分の健康すら、会社のアセットだと思っています。
自分の体を壊すというのは、言ってしまえば会社の資産を毀損することです。
少し厳しい言い方かもしれません。
起業家を目指す人に伝えたいのは、
頭の良さも大事だけど、その前にまず体だということです。
体力がない人の起業は、正直おすすめしません。
夢や情熱だけでは、10年は戦えない。
最後に残るのは、倒れない人間です。
8. 自分より優秀な人を集められるかどうかで、会社は決まる
何度も言います。
私がSTANDAGEをここまで持ってこられた理由の一つは、
自分より優秀な人に、STANDAGEに入ってもらえたことだと思っています。
一人で大きなことができるとは思っていません。限界がある。
自分自身の能力については、かなり冷静に見ているつもりです。
経営者ができることは何か…
諦めないこと。
事業に命をかけること。
最後の責任を取る覚悟を持つこと。
たぶん、それくらいです。
しかし、それだけでは会社は大きくならない。
事業も組織も、結局はチームでしか前に進めません。
そのため、優秀な人が思い切り力を発揮できる場所を作ることが
大事だと思ってきました。
自分はそこに変なプライドはありません。
むしろ、自分よりできる人から学びたいと思っています。
色々なことを教わりながら、経営能力を上げてきました。
本当に優秀な人が入社すると、組織の景色が変わります。
議論の質が変わる。
意思決定のスピードが変わる。
事業の見え方が変わる。
チームの基準値そのものが変わる。
それは、この10年で何度も体感しました。
だから経営者にとって重要なのは、
自分が一番優秀でいることではない。
自分より優秀な人が、この会社で戦いたいと思える状態を作れるかどうか
と思います。
9. どれだけ優秀でも、採ってはいけない人はいる
この10年で痛いほど分かったこともあります。
それは、
どれだけ優秀でも、採用してはいけない人はいる。
ということです。
採用で一番重視しているのは、能力だけではありません。
一番見ているのは、バリューです。
会社の最大の資産は文化だと書きました。
ベンチャー企業は、文化が色濃く出ます。
良くも悪くも、少人数だからです。
一人の影響力が大きい。
そのため、文化に合わない人が入ると、組織は簡単におかしくなる。
どれだけ優秀でも、
どれだけ経歴が良くても、
どれだけ数字を持っていても、
その人が会社の文化を壊すなら、長い目で見てプラスにはならない。
むしろ、短期的な成果と引き換えに、
組織の深いところが壊れていく。
ベンチャー企業は、採用を一度間違えただけで、一気に空気が変わります。
会議の言葉が変わる。
責任の取り方が変わる。
挑戦への向き合い方が変わる。
誰かが言い訳を始めると、それは周りに伝染する。
誰かが他責で動くと、それもまた広がる。
そして、そういうものは数字にはすぐ出ない。
しかし、時間差で必ず効いてきます。
だから今、採用で一番大切にしているのは、
「この人は優秀か」だけではなく、
「この人はうちの文化を強くするか」
ということです。
文化を強くする人なら、会社は積み上がる。
文化を壊す人なら、どれだけ優秀でも入れてはいけない。
この10年で、そう強く思うようになりました。
10. 最高に辛くて、最高に楽しい10年だった
ここまで、10年やってきて学んだことを書いてきました。
シンプルに、この10年を一言で表すならどうか。
それは、
最高に辛くて、最高に楽しい10年だった。
これに尽きます。
私は起業家の家に生まれました。
だから、「会社を起業する」ということは、どこかでずっと意識していました。
伊藤忠商事に新卒で入社して、大企業で働くことは誇りで、恵まれた環境だったと思います。
世間的に見れば、そこそこの大学に行って、大企業に入って、安泰の人生だったのかもしれません。
しかし、ずっとどこかで思っていました。
このままの人生… 自分が死ぬ時に振り返ったら、どう見えるんだろう、と。
自分の人生を“履歴書”みたいには見ていません。
どちらかというと、漫画みたいなものだと思っています。
そう考えた時に、
きれいに整っていて、何も起きなくて、安全で、失敗もなくて、予定調和で終わる人生は、
たぶん面白くなかった。
最後にページをめくり終えた時に、
「いやあ、むちゃくちゃだったけど面白かったな」
「バカみたいに走ったな」
「よくこんな展開になったな」
そうやって笑える人生にしたい。
ドキドキする人生にしたい。
そう思って、起業しました。
実際、その通りになりました。
特にこの直近1~2年は、もし密着ドキュメンタリーを撮ってもらっていたら、面白かったと思います。
半沢直樹よりも展開があるんじゃないか、と思うくらい、色々なことがありました。もちろん、それは楽しいことばかりではありません。
起業も経営も、表に出ているキラキラした部分だけではありません。
むしろその裏にある、泥臭くて、人間臭くて、時には目を背けたくなるような現実の方が、圧倒的に多い。
人間関係のしんどさ。
裏切り。
期待外れ。
すれ違い。
責任の重さ。
数字が足りない苦しさ。
孤独。
誰にも見せられない焦り。
誰にも言えない判断。
そういうものが、どの会社にも、どの経営者にもある。
この10年を経て、すべてのスタートアップ経営者、起業家を尊敬しています。本当にすごい。
これは、生半可な仕事じゃない。
続けているだけで、すごい。
孤独の中で、責任を背負いながら、誰かの生活を背負いながら、それでも前を向き続ける。
それをしているすべての経営者を、心から尊敬します。
この10年を走ってきて、もう一つ強く感じることがあります。
それは、時間は残酷だということです。
現在40代に入り、当然、20代や30代前半と比べれば、体力は落ちてきます。
普通に考えれば、気力も落ちてくる年齢です。
そして残酷なのは、30代で頑張れなかった人が、40代になって急に頑張れるようになることは多くないということです。
20代でついた差は、まだ30代で埋められると思います。
でも、30代でついた差は、40代で簡単には埋まらない。
なぜなら、30代をギリギリで戦ってきた人は、40代になってもそのまま走り続けるからです。
頑張ることが習慣になっている。
修羅場をくぐることが当たり前になっている。
疲れても、きつくても、走ることが普通になっている。
だから、30代をゆっくり過ごした人が、40代でそこに追いつこうとするのは、正直か難しい。
この10年、自分の最大限で走ってきました。
命をかけて、STANDAGEを大きくしてきました。
もっと上手くやれたこともあるでしょう。
もっと賢く、もっと器用にできたこともあるかもしれません。
少なくとも、自分なりに出し切った。
そこに関しては、胸を張って言えます。
そうやって生きられたこと自体が、とても幸せだと思っています。
私が社長をやるのは STANDAGE だけでいいと思っています。
会社をつくって売って、また次へ行く、何社も立ち上げながら生きていく、 そういうタイプではありません。 それもすごい才能だと思います。
しかし、私が本気で向き合いたいのはSTANDAGEです。
STANDAGEに自分の経営人生を懸ける。
STANDAGEをやり切る。
その覚悟でここまで来ました。
この十年で うれしいことも、苦しいことも、山ほどありました。
逃げ出したくなった日もあります。
もう無理だと思ったことも一度や二度ではありません。
それでも続けてこられたのは、この仕事が面白かったからです。
苦しいのに面白い、足りないからこそ面白い、私は今、その感覚をいちばん大事にしています。
今の私の関心ははっきりしています。
「本当に刺さるサービスをつくる」ことです。
時価総額千億円を超える会社になりたい、ただ大きくなりたいわけでも、有名になりたいわけでもありません。
この十年でわかったのは、本当に大きくなる会社は、勢いやカリスマだけでは続かないということです。
最後に残るのは、ちゃんと世の中の不を解決するサービスです。
お客様に必要とされ 使われ続ける価値です。
結局、そこにしか本物の強さはありません。
だから私は、社長が有名な会社ではなく、サービスが語られる会社をつくりたいと思っています。
私が惹かれるのは、ティム・クックのように会社と事業を着実に強くできる経営者です。創業者の名前よりも製品やサービスが先に思い浮かぶ会社…
STANDAGE をそんな存在にしたい。
あの会社のあのサービスは本当にいい。助かった。
そう言われることのほうが、 ずっと価値があると思っています。
創業十年を迎えた今、ようやくスタートラインに立てた気がします。
まだ弱い、まだ足りない、だからこそ面白い。
次の十年も、その先も、 STANDAGE をもっと強く、もっと本質的な会社にしていく。
お客様の不を解決するサービスを磨き抜く。
そのために、次の十年、また本気でやっていきます。