「才能がない」で片付けられていた遅さ。その正体を、私たちは秒単位の映像の中に見つけた。
はじめに、一人の店長の話をさせてください。名前は伏せます。ある大手外食チェーンで、担当する店の提供スピードが、全店でも下位だった人です。
彼は、決して怠けていたわけではありません。むしろ真面目で、誰より早く店に立ち、遅くまで残っていた。それでも、数字は上がらなかった。そして周囲からは、こう見られていました——「あの人は、要領が悪い」。
努力しているのに、結果が出ない。原因もわからない。これは、働く人にとって、いちばん苦しい状況だと思います。やがて本人まで、「自分には向いていないのかもしれない」と思いはじめる。この物語は、そこからの逆転の記録です。
「なんとなく」を、私たちは信じない
私たちトリノ・ガーデンは、サービス業のオペレーションを科学する会社です。ステーキ・ハンバーグを128店舗展開するブロンコビリーとは、4年にわたり5つのプロジェクトをご一緒してきました。この物語は、その途中のひとコマです。
外食の現場には、「できる人・できない人」を分ける“なんとなく”が、いたるところに残っています。でも私たちは、その「なんとなく」を信じません。遅いには、必ず理由がある。その理由は、精神論ではなく、事実の中にあると考えています。
そもそも、人が動く現場は変数が多く、科学するのが難しい領域でした。だから誰も、本気で数えてこなかった。私たちは、その手つかずの場所に、動画の目視計測という地道な方法で切り込んでいます。松屋フーズやドトールコーヒーといった大手と、20名あまりで真剣勝負ができているのは、この一点に賭けているからです。
動画を、1コマずつ
私たちの仕事は、とても地味です。現場の動画を、秒単位で、目視で計測していく。誰が、いつ、何を、どの順番でやったのか。人の動きを、ひたすら数字に変えていきます。派手さはありません。けれど、この一次情報こそが、すべての土台になります。
その店長の動きを、全店トップクラスのベテランの動きと並べました。一コマ、一コマ。巻き戻しては、また見る。すると、見えてきたのです。差は、手の速さではありませんでした。違っていたのは、もっと手前——「何を、どの順番で手にとるか」でした。
この計測は、本当に地道です。何時間も、人の手元だけを見つめ続けることもある。効率だけを見れば、割に合わないかもしれません。でも、その根気の果てにこそ、感覚では決してつかめなかった『差』が、はっきりと姿を現す瞬間があります。
彼に足りなかったのは、能力ではなかった。ベテランの頭の中にしかない、“段取りの地図”を知らなかっただけだった。
熟練者は、混み合う時間ほど、無意識に次の一手を先読みして動いていました。彼には、その地図がなかった。裏を返せば——地図さえ渡せば、変われるということです。問題が「才能」ではなく「情報」なら、それは必ず解けます。
見えれば、人は変わる
私たちは、ベテランの頭の中にあった段取りを可視化し、彼に渡しました。「あなたは能力が低いのではない。この順番を、まだ知らなかっただけだ」と、事実で伝えた。あとは、彼自身の力でした。
大事なのは、私たちが特別なことを言ったわけではない、という点です。ただ、彼自身の動きとベテランの動きを、並べて見せただけ。「気合が足りない」と百回言われるより、一本の映像のほうが、人を動かす。事実には、人を納得させ、前に進ませる力があります。
そして2週間後。全店で下位に沈んでいた彼の店の提供スピードは、全店トップクラスにまで変わっていました。たった2週間です。もともと努力の量は、十分すぎるほどあった人でした。足りなかったのは、努力の方向だけ。それが定まった瞬間、積み上げてきたものが、一気に結果へと変わったのです。
彼はトリノ・ガーデンさんの分析をきっかけにオペレーションの見方を学び、自信を持って仕事に取り組めるようになってくれた。(ブロンコビリー 営業企画 山口さん)
彼はその後、エリアマネージャーに登用されました。かつて全店最下位だった店長が、いまは複数の店を率い、後進に“地図”を渡す側に回っています。
もう一つの現場——巨大組織の、分厚い壁
同じことは、一人の店長の中だけで起きたのではない。ときに私たちは、組織そのものを相手にしてきた。1,000店を超えて展開する、ドトールコーヒー。そこは、外部のコンサルタントに強い拒否感を持つ組織だった。「現場を知らない人間に、何がわかるのか」。その空気の中に、私たちは入っていった。
やったことは、いつもと同じだ。動画を目視で、1コマずつ計測する。机上の理屈ではなく、現場で実際に起きている事実だけを、積み上げていく。派手な提案はしない。ただ、誰も見ようとしなかった細部を、これでもかと可視化していった。その地道さが、やがて分厚い壁を溶かしていった。
トリノさんは動画を目視してこれでもかと可視化し、最終的には結果にフォーカスしてくれる。経営層の信頼を得られたのはそこ。(ドトールコーヒー 店舗運営本部 長谷川さん)
「常識」を、ひっくり返す
50年以上続く、立ち食い蕎麦の業態。フランチャイズ化を前に、オペレーションを見直したいという相談だった。動画を分析していくと、ピーク時に一度も使われない「死に席」があることがわかった。そこで私たちが提案したのは、常識とは正反対のことだ。「席を、減らしましょう」。
席は増やすもの——本部の常識に、真っ向から反する提案だった。だが、事実がそれを支えていた。結果、総席数を減らしたにもかかわらず、席の稼働率も、客数も、むしろ良くなった。データが、長年の“あたりまえ”を、静かにひっくり返した瞬間だった。
必ずしも席数だけを増やすことが最適ではないと明らかになり、社内説明もスムーズでした。(しぶそば・東急グルメフロント 事業推進 林さん)
一人の店長。巨大組織の壁。業界の常識。相手はさまざまだが、やっていることは、いつも同じだ。誰も数えなかったものを数え、「なんとなく」で語られてきたものに、事実の光を当てる。ただ、それだけだ。
「才能」で片付けない、という仕事
どんな職場にも、「できる人・できない人」の線引きがあります。でもその境界は、たいてい根拠のないまま引かれている。一度「できない側」に置かれた人は、直し方もわからないまま、静かに自信を失っていく。私たちの仕事は、その根拠のない線引きを、事実で引き直すことだと思っています。
「あなたは能力が低いのではない。まだ方法を知らないだけだ」。これを精神論ではなく、動画と数字で証明する。できない理由を、直せる課題に翻訳する。それができたとき、人は自分の足で立ち上がっていきます。
なぜ、人の目で数えるのか
「自動解析でいいのでは」と聞かれることもあります。でも私たちは、あえて人の目で1コマずつ数えます。人の現場は、機械が拾いきれない文脈に満ちているから。なぜためらったのか、なぜこの順番なのか——その“意味”は、人が見て初めて拾える。地道で、時間もかかる。それでも、この泥臭さの先にしか本物の発見はないと、私たちは知っています。
この仕事の、面白さ
才能の問題にされていたものは、「見えていなかっただけ」だった。見えさえすれば、人は驚くほど速く変わる。
私たちの仕事は、レポートを納品して終わりではありません。数字が現場で使われ、一人の人間の自信を取り戻し、その人のキャリアまで変えていく。その最後の瞬間まで見届けられる。ここに、この仕事のいちばんの面白さがあります。
必要なのは、特別な才能ではありません。街を歩いていて行列のできる店に「なぜ?」と思う。人の動きをつい目で追ってしまう。そんな観察の好奇心があれば十分です。あとは、その「なぜ」を、地道に数えて確かめていくだけ。分析の経験がなくても、ゼロから育っていける環境と研修があります。
派手ではありません。動画を1コマずつ数える、根気のいる仕事です。でもその地道さの先で、私たちは何度も、人が変わる瞬間に立ち会ってきました。「なんとなく」で語られてきた現場に、事実の光を当てる。その一つひとつが、静かで確かなやりがいになります。
そして、こういう瞬間は、特別なものではありません。「才能」で片付けられてきた課題の多くは、実は「まだ見えていないだけ」。それを見える形にするたびに、現場で誰かが自分を信じ直していく。私たちはその現場に、何度も立ち会ってきました。
いま、この物語の続きを書く仲間を探しています
会社はいま、「第3章」に入りました。積み上げてきたオペレーション分析を、いよいよ世の中へ本格的に広げていくフェーズです。飲食チェーンだけでなく、プロスポーツ、医療、建設——まだ誰も数えていない現場は、世の中にいくらでも残っています。私たちは20名あまりの小さな会社ですが、だからこそ一人ひとりが、日本を代表する企業の経営課題に、直接向き合えます。
学歴も、これまでの職歴も問いません。私たちが見ているのは、いまのスキルではなく、「なぜ?」を放っておけない好奇心と、地道を面白がれる姿勢です。あの店長の2週間のような物語を、次はあなたの手で生み出す。誰かの「才能がない」を「まだ知らなかっただけだ」に変える。その現場に、一緒に立ってくれる人を探しています。
誰も数えようとしなかったものを、数える。「なんとなく」に、光を当てる。もし、そんな地味で、でも確かに人の人生を動かす仕事に少しでも心が動いたなら、ぜひ一度、私たちの話を聞きに来てください。あなたのその観察力が、いつか、次の誰かの“地図”になるかもしれません。その日を、楽しみにしています。