PROFILE
松本 慶一郎(Design Engineering Unit Lead)
熊本県天草市出身。高校卒業後に上京し、Web制作会社で家電や消費財のブランドサイトの構築を10年間経験。Goodpatchではプロトタイピングツール「Prott」のサービス設計を主導。その後フリーランスとして独立し、Tayori、BONX WORK、KARTE、JOMYAKUなど多様なドメインのプロダクト開発に関わる。教育プラットフォーム「まなびポケット」では立ち上げからサービス化までのリサーチ・開発のPMを担当。デザイナーとエンジニアをつなぐ橋渡し役として、立ち上げ期のプロダクトを次々と軌道に乗せてきた。2023年12月よりクロステック・マネジメントにジョイン。Design Engineering Unit を率い、学びを支えるデザイン技術基盤の構築に挑んでいる。
子ども時代から続く「環境を整える」原体験
──キャリアの原点を教えてください。
実家はワイシャツの縫製工場を営んでいたんですが、CADのデータをパソコン通信でやり取りしていたらしく、パソコン(PC-9801)がありました。そのパソコンに入っていたゲーム(Bio_100%のSuperDepth)が面白くて、興味を持ったのが原点だと思います。他にも父の影響で『AKIRA』『GHOST IN THE SHELL』『マクロスプラス』などの作品に触れました。進歩への憧れと、それが行き過ぎたときの畏れの両方を肌で感じました。こういった意識が、いまの自分の根底にあるように思います。
自分用のパソコンを手に入れると、Flash や 3DCG、ウェブサイトを作ったり、BBSやチャットでの交流に明け暮れました。25年前のことです。交流した仲間の中には、今でも仕事でつながっている人がいます。上京後はWeb制作会社に所属しながら勉強会コミュニティで学び、オープンソース IDE のローカライズや技術書執筆も経験。当時から「人が快適にものづくりに向き合える環境設計」へと意識が向いていました。
橋渡しとしてプロダクトを育てる
──そこから、どのようにキャリアを発展させていったのでしょうか。
Goodpatchでは自社サービス開発担当として入社し、「Prott」というプロトタイピングツールの設計・フロントエンド実装を主導しました。その後フリーランスとして、カスタマーサポート、教育、医療、フィンテック、産廃など多種多様な領域に関与。意思決定者や現場メンバーと直接対話しながら、PdM・デザイナー・エンジニアを結ぶ橋渡し役として課題に挑みました。
プロダクトをゼロから立ち上げ、チームが自走できる状態まで持っていく。ユーザーの置かれた状況を直視し、共感しながらプロダクトを育てていくこと。必要なことはなんでもやるというスタンスで取り組んできました。
クロステック・マネジメントとの出会い
──ジョインのきっかけを教えてください。
Goodpatch時代の同僚の齋藤さん(現クロステック・マネジメントChief Design Officer)から声をかけてもらったことが始まりでした。齋藤さんをGoodpatchに紹介したのは自分だったという縁もあります。
──どのような点に惹かれましたか。
当時の組織は少人数で決まったやり方もほとんどなく、まさにこれから環境を整えるフェーズでした。最初にまずはこれを読んでくださいと渡された冊子のなかに、「まだ見ぬわかものたちに ――瓜生山学園設立の趣旨――」という文章がありました。この文章にいたく共感するとともに、プロダクト開発において重要なことがすべて詰まっていると感じました。
また、集まっているメンバーも魅力的でした。僕は何でもやるタイプで、以前関わっていた会社でも「フリーランスじゃなくて社員だと思っていた」とよく言われていました。自分としては契約形態がちょっと違うだけで、プロダクトをよくするには当事者として共感して、働き方を柔軟に適応させることが重要だと思っています。これまで見てきたなかでは滅多に見ないスタイルなので、自分のセールスポイントにしていたんですが。この組織では同じようなスタンスを持った多様なスキルを持った人が多く集まっている。こんな環境はなかなかないんじゃないかと思います。
加えて、業務委託中心の組織でありながら、目標設定の機会があって、それが全社で共有されているのもユニークです。僕はまず人を助けることを大事にしているので、目標が共有されていると参考にできます。ブートキャンプや、メンバーエージェントというメンバーに寄り添う仕組みもあります。スキルを使い潰すのではなく、一緒にアップデートしていける環境だと思っています。
コンポーネントで余白をつくるデザイン技術基盤
──現在、Design Engineering Unit ではどんな業務に取り組まれているのでしょうか。
Design Engineering Unit の役割は、誰もが闊達自在に学べる世界を実現するために、デジタルキャンパス全体のデザイン技術基盤を整えることです。
プロダクト横断で「Simple,Quick,Smooth」な構造、表現、経験を提供するために必要な要素を形にする取り組みです。
手始めにおよそ50の基本コンポーネントを整えました。ボタンや入力フォーム、ダイアログといった、プロダクトの呼吸をつくるパーツたちです。そして、いったんそれを手放し、再構築に踏み切りました。これからつくるものや、集まったメンバー、生成 AI の状況などを見て、まったく違う形にする必要性を感じたからです。違うと思えば作り直す――それができる環境であることが、いちばん大事だと思っています。
クロステック・マネジメントの Value に掲げられた With Unlearning という考え方があります。これまでの経験で得た方法論に固執することなく、新しい組織構造に適応しながらコンポーネント基盤を整備しています。
誤解されがちですが、僕たちが目指しているのは属人性の排除ではありません。
むしろ、人の感性や身体感覚、現場で培われた暗黙知が生きる仕組みをどう整えるか、どう支援できるかを考えています。形式知や合理的な判断は重要ですが、それだけでは、プロダクトは人の芯に届かない。単なる情報処理ではなく、真実を見ようとし、立ち止まり、悩み、思考してきたか。ほんのわずかな違和感を拾えるかどうか。そういうところと向き合ってきたかどうかで、プロダクトが受け入れられるものになるかが決まることが多いと思います。
だからこそ、そうした余白や暗黙知に向き合える時間と選択肢を増やす。そのための基盤づくりを目指しています。
──今後の展望について教えてください。
今後はプロダクトでの成功事例を積み上げ、よい実装パターン集を整えたり、ナレッジを分かち合っていく。ワークショップ等を通して誰もが参加できる場づくりや、情報発信や教育の仕組みづくり、生成AIとの協業や個別最適化など、総合的に進めていくつもりです。