PROFILE
木原 考晃(director / stakeholder support)
大学卒業後、人材ベンチャーで営業・コンサルティング・マーケティングを経験後、京都芸術大学に入職。教務課を経てアドミッション部門に異動し、パンフレット・ウェブ制作、デジタルマーケティング、SNS運用、イベント企画などを担当。志願者数を約5倍に伸ばし、課長職として10年以上学生募集戦略を牽引。
一度は叶わなかった夢が、京都芸術大学で現実に
──これまでのキャリアと京都芸術大学にジョインした経緯を教えてください。
大学卒業後、まずは人材広告・人材紹介ベンチャーに入社しました。当時は本来クリエイティブ系の仕事を志望しており、映像制作や広告業界に強い憧れがありましたが、就職活動では希望通りにいかず、幅広いスキルが身につく環境として人材業界を選びました。営業・コンサルティング・マーケティングなどを経験する中で、自分の成長基盤を築くことができました。
その後26歳で転職。尊敬する映像作家やアーティストが教員として在籍しており、憧れの人たちと同じ場で働けると感じたのです。最初は教務課に配属され、正直向いていないと考え戸惑いもありましたが、やがてアドミッション部門に異動。高校生向けのパンフレット・ウェブ制作、オープンキャンパスでのプレゼン、デジタルマーケティング、SNS運用、新しい企画をイベント化するなど広告代理店に近い業務に携わり、クリエイターと直接協働する機会も得ました。2016年度には志願者数が2,387名だったところから、約5倍まで増加させることに成功。少子高齢化で18歳人口が減少し、全国的に大学志願者数が厳しい状況にある中で、これほど伸ばせた大学は極めて稀でした。志願者増加に伴い、通学課程の定員拡大にも貢献できたことは、自身にとって大きなやりがいとなりましたね。
志願者数急増の成果が、新たな挑戦の扉を開く
──アドミッション部門からクロステック・マネジメントのプロジェクトに関わることになったきっかけを教えてください。
アドミッションで課長を務めていたころ、志願者数が急増したことをきっかけに、「DXをやってみないか」と声がかかりました。当時の構想は、学園全体のデジタル化を推進する“攻めの情報システム室”を新設し、新しいツールや基盤を導入して環境を改善するというものでした。私はデジタルの専門家ではありませんでしたが、CRMを活用した個人資料請求者の一元管理やCXツール導入、学生募集戦略のアナログからデジタルへの転換を進め、成果を上げてきた経験があり、それが選出の背景だったと思います。
最初はアドミッションとの兼務でしたが、2023年10月から本格始動。現クロステック・マネジメント代表の小笠原さんが教員代表、私が職員代表として体制を整え、初期メンバー集めから取り掛かりました。
当初は「業務改善に役立つツール導入」程度の認識でしたが、半年間のDX構想の期間を経て、DXとは単なるシステム化ではなく、学園全体の業務や財務、人の流れを把握しながら環境を再構築する経営的アプローチだと気づきました。その理解が進むほど、大学というフィールドで本質的な変革を起こせる可能性と、そのダイナミズムに魅了されていきました。
──学校法人でデジタル化を進める上で、どのような課題があり、どのように解決していますか?
多くの学校法人ではシステム開発や業務改善ツールの導入を外部のベンダーやコンサルに依存しており、内製化は難しいのが現状です。給与体系や職務範囲の違い、専門人材の確保の困難さなどもあり、外部に頼ることでコストや効果が不透明になり、計画通りに進まないことが多くあります。
そこで私たちは、学園内に専門チームを設置し、外部に依存せず学園の利益最大化を目的に提案できる体制を構築しました。それが現在のクロステック・マネジメントです。これにより、デジタル化を円滑に進めるための環境が整い、理事からの承認もスムーズに得られました。最も重要だったのは、この最初の承認を得るプロセスを成功させたことです。この承認があったことで、専門チームによる内製化が可能となり、学校法人の事業拡大とDX推進の基盤をつくることができました。学園執行部が当初想定していた世界線以上の大きな構想を立てながら、執行部に承認を得つつ、少しずつ実行していった感じです。
学園とテクノロジーの橋渡し──データ化と自動化が描く学びの未来
──現在の具体的な業務内容を教えてください。
私は現在、stakeholder supportとして、学園とクロステック・マネジメントの間に立ち、双方の立場を理解しながら橋渡しをしています。役割としてはカスタマーサクセスやサポートに近いのですが、対象が学生や職員であり、一般的な顧客とは異なるため「customer」ではなく「stakeholder support」と呼んでいます。具体的な取り組みは大きく2つです。まず、教職員や学生の学びを支える基盤ツールの刷新です。SlackやGoogleカレンダー、Notionなどを統一・最適化し、運用ルールや合意形成を進めます。従来の業務方法を大きく変えるため、関係者の理解と納得を得ながら進めることが欠かせません。
次に、自社プロダクトの導入・運用支援です。たとえば、履修登録を容易にし、その内容を学生のGoogleカレンダーに反映させる仕組みを導入する際、私がフロントに立ち、提案から現場での説明などをしています。こうした取り組みを通じて、学園全体の学びの環境をより効率的かつ効果的に整備することを目指しています。
──これらの取り組みがスムーズに進んだ先に、どんな未来を描いていますか?
私たちが目指しているのは、業務のデータ化とプロセスのデジタル化です。すべての業務がデータ化され、検索・活用できる状態を作ることを前提にツールを導入しています。
さらに、SlackやGWSで作られたデータやプロセスをAIで自動化・自律化する未来を描いています。たとえば、これまで口頭や属人的に行われていた説明や問い合わせ対応も、データ化されれば自動応答が可能になります。現在は情報が個人のフォルダやWordファイルに散在しているため、確認や問い合わせに時間がかかりますが、これをすべてデータ化することで効率化された学校運営を実現できます。
まずはアナログ業務をデータ化し、将来的にAIや自動化技術を活用できる基盤を整えることが、私たちの取り組みの核心です。
即時改善が武器になる─教育現場直結のDXチームの強み
── 現在の仕事のどこに魅力ややりがいを感じますか。
1つ目は、教育×AIや教育のデジタル化に取り組むスタートアップが数多くある中で、私たちには大きな優位性があることです。というのも、私たちのチームは、教育の最前線である大学を自ら運営する法人の中にあります。本来であれば、開発したサービスやプロダクトを大学に提案し、導入してもらい、フィードバックを得ながら改善を重ねていく必要があります。しかし私たちは、同じ法人内に大学があるため、実際の教育現場で直接トライアルができ、即座に改善サイクルを回せる。この環境はEdTechを運営する上で非常に強い武器になると感じています。
もう1つは、教育×AIの分野で「日本一を目指す」という大学の明確な方針があり、そのポリシーを前提とした活動ができることです。もちろん同じようなことを掲げる大学は他にもありますが、多くは外部の企業や研究機関に頼るしかありません。私たちにはクロステック・マネジメントという専門家集団が内部に存在し、実装までを自前で推進できる体制があります。だからこそ、掲げた方針を実際に形にできる可能性が高く、教育DXの最前線で本当に成果を出せる環境だと感じています。
こうした強みを武器に、教育の未来を自分たちでつくっていける。その実感こそが、今の自分にとって最大のやりがいです。