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ネット専用スーパーのシステム開発を支え「スピードとコミュニケーション」

各部署とIT部がワンチームとなって革新に挑戦するイオンネクスト。海外発のシステムと日本特有の現場ニーズを掛け合わせた“最適解”の創出に挑戦しようとしている。大型物流拠点を中心としたビジネスを下支えするのは「組織の壁を壊し、つなぎあわせる」PdM(プロダクトマネジャー)の存在だ。

グローバルに利用されるOSPと日本市場独自のニーズの間を埋める

イオンネクストが運営するネット専用スーパーGreen Beans(グリーンビーンズ)。そのビジネスの根幹を構成するのが「CFC」(顧客フルフィルメントセンター)と呼ばれる大型物流拠点と、Ocado社の提供するプラットフォーム「OSP」(Ocado smart platform)だ。Ocado社はイギリスで20年以上、ネットスーパーに特化したビジネスを展開しているネットスーパー企業である。同社のCFCは、ロボット技術やAIによる高度な自動化によって、高い生産性を提供するのが特徴だ。現在世界各国のパートナー企業に提供されており、世界的に拡大が進むネットスーパー業界を牽引している。

しかし一方で物流の現場はすべてAIやロボティクスで対応できるほどシンプルなものではない。人間が関わる作業もまだまだ多く、小売業の物流センターにおけるロボットとシステムと人間の協業は一つのテーマとされている。

 イオンネクストは2022年、千葉県の誉田にCFCを竣工し、今後東京八王子と埼玉の宮代町にも開業を控える。誉田CFCは、延床面積4万8000㎡に、約3万品目のアイテムを在庫しており、お客さまから受けた注文内容に従って、最大1,000台のロボットが商品を自動でピックしていく。300名以上の人が働き、入荷・出荷のトラックも1日に数百台単位で立ち寄る。目まぐるしく商品と人が行き交う場だ。

 このCFCを管轄するのがCFCオペレーション部である。CFC戦略の策定、人材採用、新しい機器の導入・開発、新CFCの立ち上げなど、CFCに関わるありとあらゆることを職掌とする。

 一般的に物流センターの運営では、運営者自らが機器やシステムの実装を行うが、イオンネクストはOSPというプラットフォーマーを活用していることもあり、システムの修正・実装をOcado社に依頼して行う。つまり、同社のビジネス推進にとって肝となるのは、ここをいかに機動力高く開発し、現場の課題を改善していくかにかかっているということだ。

 CFCオペレーション部 部長のS.Hは言う。

 「Ocadoさんのシステムは、世界各国の名だたるリテーラーに活用されています。OSPを活用することで、私たちもOcadoさんの持つさまざまな知見を得られるというメリットがあります。なかには日本のマーケットには適さない機能などもありますが、逆に私たちも日本のマーケットに必要な機能をOcadoさん側に提案していくこともできるというわけです」

ここで、グローバルに利用されるOSPと日本市場独自のニーズの間を埋める存在となるのが、 イオンネクストのIT部だ。

 CFCオペレーション部とタッグを組むのがIT部フロントエンドのリード、T.Aである。イオンリテールで現場経験を積んだあと、企業内大学(イオンビジネススクール)でITについて学び、イオン㈱でICT企画やDX推進に携わった。2022年からイオンネクストIT部に出向し、OSPの専門家として、CFCオペレーション部の課題を抽出し、Ocado社との橋渡し役を果たす。

粘り強く論理的な説得でプラットフォーマーを動かす

イオンネクストの現場から生まれたアイデアを、T.Aがすくい上げ、Ocadoを動かした一つの事例が「バキュームリフター」の導入に伴うシステム改変だ。

 ネットスーパーではペットボトル飲料のように重量がある商品の人気が高い。そのため、たとえば1箱12kgあるペットボトルの水を1日に何百ケースも入荷・棚入れするという重労働も発生する。そこで現場の入荷担当の作業を軽減するため、CFCオペレーション部は「バキュームリフター」という、吸着によって重量物を扱いやすくする作業機器の導入を決定した。

しかし元々のOSPの仕組みは、入荷担当者に重労働が偏らないように、複数ある入荷ステーション重いもの、軽いものをバランスよく分散させるような仕組みになっている。

 CFCオペレーション部のN.Kは当時を振り返る。

 「バキュームリフターを効率的に活用するため、重い商品をバキュームリフターの設置されている入荷ステーションに集中して送り込むようなシステムの改変をOcadoさんに提案しました。しかし

Ocadoさんは当初『なぜそのような改変が必要なのか?』と反応が鈍かったのです。海外の物流拠点で働くのは比較的男性が多く、日本のように女性が多い現場というイメージができなかったこともあるようです」

膠着しそうになった議論だったが、T.AはOcado社に対する説得の視点を変えることで状況を打開した。

「日本固有の物流現場の事情が背景にありますので、今回私たちが感じた課題はOcadoさんには伝わりづらいと考えました。そこで、なぜ困っているのか、今回の改善でどのようなビジネスインパクトが見込めるのかを、できる限り数値化してお伝えすることにしたのです」(T.A)

 T.AによるOcado社への粘り強い説明と現場ニーズの共有が功を奏し、先方もその重要性に納得。2024年10月の依頼から数週間でシステム改修が完了した。バキュームリフターも稼働を開始し、2024年12月現在、現場作業の軽減が大きく進む結果となった。

 それだけではない。今回の実証実験によって、Ocado社も重量物への対応の優先順位を上げたようで、現在OSPの開発のロードマップに複数の重量物対応に関する課題が入っているという。

 「今回イオンネクストからお声がけをさせていただいたことがきかっけで、Ocadoさんや他の  Ocadoパートナー企業さんの考え方を広げていくことができたことはよかったと思っています」とT.Aはいう。

 このように、CFCの現場の課題に合わせて、OSPの改善をOcadoに提案する一方、IT部にはOSPの専門家として、「まだ利用していないOSPの機能を発掘する」という役割もある。

 OSPは世界中のパートナーシップを組んでいるリテーラーからの要望をもとに、常に新機能の追加や改善が行われ続けている。しかしそれらをすべて理解し、使いこなすのは容易なことではない。そこでIT部は、現場からの改善依頼を読み解き、そのままOcadoに新規開発を依頼するのではなく、OSPの既存機能の中から活用可能な部分を探してCFCオペレーション部に提案する役割も担っている。

 Ocadoへの提案による新規開発に関しても、OSPの既存機能活用についても、必要とされるのは現場の課題に対する解像度の高さだ。現場のことを何も知らない人が、その課題や熱量を一から把握するのは困難が伴う。しかしT.Aは週次の定例会議やチャットツールでのやり取りに加え、普段から積極的にCFCの現場に足を運び、現場の課題や温度感を把握するよう努めている。「背景を積極的に知ろうとしてくれる彼女の姿勢には、我々CFCとしてもとても助けられています」とN.KはT.Aの仕事を評する。

 コミュニケーションを重視することによって、システム開発に関するドキュメンテーションも最低限のもので済むとS.Hは言う。

 「T.Aさんに少ない情報で多くを理解してもらえていることが、我々がアジャイルに開発を進められる背景にあるのではないかと思います。CFCオペレーション部で提示するのがたとえ1枚の資料だったとしても、T.Aさんがそれを元にIT視点から検討を加えて、Ocadoさんによる新規改修案件なのか、あるいは小規模なのか大規模なのかと振り分け、案件に応じた適切なドキュメンテーションの量に抑えることができているのです」(S.H)

 これまでそのキャリアの中でさまざまな物流センター運営に関わってきたS.Hは、イオンネクストのシステムの進化のスピードを「他では見られないスピード感」とコメントする。

現場がノーコードでアプリを作るための基盤づくりも

このように、急拡大・急成長を志向するイオンネクストはアジャイルな開発を重視している。その一端を示すのが、現場従業員による業務アプリケーション開発文化だ。Green Beans全体を統制するためのプラットフォーム「イオンネクストプラットフォーム」には、従業員の生産性向上や労務改善を目的とした業務アプリが150ほど展開されていて、その中には現場従業員が自発的に開発したものも含まれている。

 イオンネクストの技術責任者T.Mは「この数年でイオンネクストの現場の人たちが、自分たちのニーズに合わせて業務アプリをどんどん改良し、よいものにしていく世界観を作っていきたい」という。

「当初は80程度の業務アプリがありましたが、今も増え続けています。イオンネクストプラットフォームでは、OSPも含めた関連するデータをすべて社内に公開しています。これに加え今後は、業務部門の人たちがそれぞれPower Appsなどのノーコードツールを用いて自分たちのための業務アプリを作れるような基盤を作るという方針を採っています」(T.M)

 業務改善のためのアプリ開発にいちいちIT部が関与していては飛躍的な拡大は見込めない。データを開放し、アプリ開発を解放する。各部門がそれを自由に活用する。そのような基盤と文化を作り上げようとしているのである。

 現場によるアジャイルな開発の一例が、「不適合報告アプリ」だ。

 入荷した商品に問題があった場合、イオンネクストではこれまで「不適合報告」として紙の帳票に手で商品名、JANコード、不適合の内容などを記載し、関係各所に報告を行っていた。しかし手での記入は時間がかかるし、転記ミスも頻発する。そこでCFCのスタッフが「不適合報告アプリ」をPower Appsで自作。商品に貼られたJANコードをスキャンし、不適合内容を選択するだけで、正確に報告ができるようになった。入力時間は短縮され、関連部門にも自動的に情報が共有される。

開放されたデータをうまく活用した事例の一つとしては、「顔認証システムの転用による安全確認アプリ」が挙げられる。

イオンネクストはCFCへの入館に顔認証システムを導入している。あらかじめ顔写真を登録しておけば、入口のカメラに顔をかざすだけでゲートが開く仕組みだ。そのデータを何らかの形で活用できるのでは…?と考えたCFCオペレーション部は、IT部に安全確認アプリの開発を依頼。入退館のデータをレポート化し、大地震などの際に「誰がCFC内に残っているか」をスマホで即座に把握できるようにした。S.Hは「顔認証をただの入館手段で終わらせず、安全管理に活かせる形にできたのはIT部とCFCオペレーションが一緒に考えた成果」と語る。

 「ローンチから約1年半が経過し、売上・入荷・出荷の規模は10倍以上に増加していますが、タイミングに合わせてさまざまな機能を追加しながら、急激な規模拡大を大きなトラブルなく乗り越えてきました。ビジネスが急激に成長する過程においては、想定していたオペレーションが回らなくなるということがしばしばありますが、アジャイルに進めているからこそ成立しているのだと思います」(T.M)

急成長を支え続ける“スピードとコミュニケーション”

 T.Aに仕事で配慮している点を尋ねると、返ってきたのは「自分の業務に境界線を引かないようにしている」という言葉だった。CFCのオペレーションに関する課題でも、自分ごととして捉え、関係者が納得できる言葉で伝える努力を惜しまない。

 「新機能のリリースでも、改修のリリースでも、できるかぎり3時間以内に関係各所に連絡するようにしています。少し考えて関係がなさそうだったとしても、CFCに影響が出ることはありえますので」(T.A)

 またもう一つのステークホルダーであるOcado社に対しては、上下の関係ではなく、飽くまでもパートナーであるという。常にコミュニケーションをとりながら、できるだけOcadoの仕事も順調に回るよう、意識しているそうだ。

 「OcadoさんでもIT部でもCFCでも、今何がそれぞれの人にとってホットなトピックで、どのあたりの開発が関心事なのかを知っておくようにしています。そういったことを知っているからこそ、インシデントの対応もスピーディーに行えるのかもしれません」(T.A)

 CFCオペレーション部のS.Hも「関係なさそうな情報でも、共有することで思わぬアイデアが生まれることもあります。」T.Aから、一見私たちには関係ないように思えるラストワンマイルの開発に関する情報などをもらうことがあるのですが、そこから話がつながっていくこともあってありがたいと感じています」と話す。

 N.KもT.Aのコミュニケーション能力を評価する。「イオンネクストは組織が急拡大しており、セクショナリズムが生まれてしまう可能性は否定できません。しかしT.Aさんの前向きな性格のおかげで、意見がぶつかることなく、むしろお互い支え合える体制ができている」。組織の壁を壊すのは、相互理解とリスペクトなのかもしれない。

 CFCはハードウェアとソフトウェアの両面で複雑な開発が絡み合う場だ。現場の要求に合わせたハード導入や改修だけでなく、システム改変や海外との交渉など、多層的なコミュニケーションが必要になる。技術責任者のT.Mは、「今後事業がさらに成長するためには、T.Aのように“垣根を越えてつなげることができる人材”を増やし、組織全体を強くしていく必要がある」と強調する。

 10倍どころか、そのさらに先を見据えるイオンネクスト。ハードとソフト、国内と海外、そして多様な部署が交わるところに、新しい価値が生まれる。現場のリアルな声を糧に進化を続けるチームワークこそが、未来を切り拓く原動力となっていく。

プロフィール

 T.Mイオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、2022年1月に退職。2022年3月より現職。

 T.A

IT部 WMS/TMSリード

2016年イオンリテール入社、その後イオン株式会社ICT企画、DX推進を経て、2022年より現職

 S.H

CFCオペレーション部 部長

サードパーティーロジスティクス、国内通販企業等で物流、品質、製造管理のマネジメントを経験後、2021年8月にイオンネクストに入社。イオンネクスト1号センターとなる誉田CFCでは、センター立ち上げまでの物流プロジェクトを牽引した。

 N.K

CFCオペレーション部 ロジスティクスプランニングSV

衣料品製造小売業、フルフィルメントサービス企業を経て、2023年より現職。


 

 

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