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「石の上にも三年」は本当に意味がないのか?早期退職するかどうか悩んでいる人に伝えたいこと

「辛くても我慢強く辛抱して入れば、いつか成功する」といった意味で使われる「石の上にも三年」ということわざ。たとえ冷たい石でも、三年間座り続けて入ればあたたくなるということから転じて、「成功したいなら、忍耐や辛抱が大切だ」「はじめはうまくいかなくても、しばらく我慢する覚悟をもとう」という意味で、たびたび職場でも使われるようになった。

私自身も20代で入社したブラック企業を「辞めたい」と両親や職場の上司に相談したところ、「石の上にも三年」に近いニュアンスの言葉をかけてもらった記憶がある。しかし今と昔では、時代が違う。辛抱すれば成功するとも限らない。一方で、今の職場を辞めたいと思っている若者に「石の上にも三年」と諭したくなる大人の気持ちもよくわかる。そこで本記事では、「石の上にも三年」が果たして若者のキャリアに役立つのか解説したい。

「石の上にも三年」の由来とその意味

冒頭説明した通り、「石の上にも三年」は日本の古いことわざで、時間と忍耐が重要であることを表している。字面通りに理解すると、石の上に3年間座っていれば、その石も温まるという意味になる。起源についてはっきりしていないが、一般的には時間をかけてじっくりと物事を成し遂げる重要性を示しているとされている。

一見動かないような固い石も、長期間にわたって一定の熱源(この場合、人の体温)にさらされ続ければ石自体が温まるということから、「時間と忍耐がもたらす結果」を表す意味で使われるようになった。 特に昨今では職場や人間関係、学問など、新たな環境や困難な状況に適応するのに時間がかかることを示す際によく用いられる。そこには一時的な困難やストレスに打ち勝つためには、忍耐強く耐え忍ぶことが重要であるという教訓も含まれている。つまり、長期的な視点での労働や困難に対する耐久性を奨励しているのだ。

また、職場に対するロイヤルティや長期的なコミットメントの重要性も表している。職場を頻繁に転々とすることは組織の安定性やチームワークに悪影響をおよぼすことから、早期退職希望者を諭す際によく使われる。

忍耐を強いることによる弊害

上述した「石の上にも三年」の意味についてある程度の年を重ねた人たちなら、納得することも多いだろう。社会人歴15年以上の私自身も辛抱が成功につながると信じてブラック企業に3年以上勤めたし、実際に辛抱したからこそ得られた経験やキャリアがあることも事実だ。しかし時代が変わった今、「石の上にも三年」という古典的な考え方が、自己成長やキャリア形成においてネガティブな影響をおよぼす可能性も否めない。その理由について説明しよう。

うつ病になるリスク

もし職場が個人の健康、幸福、成長に悪影響をおよぼす劣悪な環境だった場合でも、「石の上にも三年」の価値観は、無理な忍耐を奨励することになる。パワハラやセクハラに耐えながら、自身のスキルや価値観と一致しない仕事を続けることで、精神を病んでしまうリスクがある。

モチベーションや能力の低下

職場の状況が改善しない場合や個人の能力が十分に活かされていない場合でも忍耐を続けていると、自己成長の欠如やモチベーションの低下を引き起こす可能性がある。その結果、キャリア形成やパフォーマンスの向上が妨げられ、長期的な仕事の満足感に影響を与える恐れがある。

不適切な状況の合理化

「石の上にも三年」の思考は、組織の問題点や個人の苦境を見過ごし、合理化する可能性がある。例えば、明らかに従業員のスキルや志向とかけ離れた仕事を任せ、パフォーマンスが上がらなかった場合、「忍耐が足りないから」と切り捨てたり。パワハラに対して声をあげた従業員に対し、「自分たちが若い頃はもっと過酷だった」と突き放したり。職場内で噴出するあらゆる課題から目を背けるために、「石の上には三年」という価値観が都合よく使われるケースもある。

チャンスの損失

忍耐力を重視する価値観は、転職のチャンスを逃すことにもつながる。特に昨今は労働市場で求められるスキルが目まぐるしく変化している。特にAIなどのテクノロジーが急速に発達し、あらゆる職場に浸透している今、これまでの常識やスキルがあっという間に通用しなくなることも珍しくない。そんな変化の激しい時代において、古いスキルや価値観に固執することはリスクになるケースもある。

「石の上にも三年」が有効な場合

ただ、一方的に「忍耐がダメ」と言いたいわけではない。自分に合っていない職場や過度なストレスがかかる職場での我慢は良くないと言いたいだけで、今の仕事がキャリア形成につながると思えるなら、やはりある程度の修行は必要になるだろう。

業界や職種にもよるが、そもそも新卒1〜2年でベテランと肩を並べて活躍できる仕事はそう多くない。ある程度ベースとなる知識やスキルを身につけ、顧客に価値を提供できるようになるには3年以上かかる仕事がほとんどだろう。

また転職活動の際に、3年以上の経験が求められるケースがいまだに多いのも事実だ。実際、応募資格欄に「◯◯経験が◯年以上ある方」と書かれた求人を目にしたことがある人も多いのではないだろうか。もし、応募資格に経験年数の記載がなかったとしても、転職回数や経験年数といった書類上のスペックにこだわっている企業も多い。

「そんな会社こっちから願いさげ」と思えるスキルと自信がある人はいい。しかし特筆できるスキルを身につけずに早期退職を繰り返すと、転職で不利になる可能性も否めない。

忍耐重視の価値観を見直す新たな視点

では、「忍耐」や「耐久」重視の概念を見直し、現代の労働環境とどのように調和させればいいのか。ここからは新たな視点で、「石の上にも三年」を解釈する方法を提案したい。

耐久性と適応性の統合

現代の労働環境は変化が激しい。古典的な忍耐を持ちつつも、適応性と柔軟性を身につけよう。新しい環境に耐えながら適応し、自分自身を成長させるために必要なスキルや知識を獲得することが、新しい時代を生き抜く上で欠かせない。

職場のコミットメントの再定義

変化の激しい時代では、忠誠心やコミットメントの意味を再定義する必要がある。御恩と奉公的に終身雇用が約束され時代においては、組織に対する長期的なコミットメントが重要だった。しかし、これからは勤め先の企業があなたを守ってくれる保証はない。自分の身は自分で守らなければいけないのだ。職場ではなく、自分自身のスキル、成長、そして価値観と合致する仕事にコミットすることが、今後はより重要になっていくだろう。

成果と経験のバランス

「石の上にも三年」の思考が、成果の追求よりも長期的な経験の価値を強調する一方で、現代の労働環境では、即時の成果も求められる。長期的な経験を重ねると同時に、短期的な成果をバランスよく追求することが、変化の激しい時代には重要になっていく。また、自身のスキルと能力を伸ばすためには、ただ時間を費やせばいいわけではない。質の高い経験を積むために、環境が大きく影響する。自分を成長させてくれる適切な先輩・上司・メンバー選びも欠かせない。

最後は自分の心に従おう

「石の上にも三年」という価値観を一概に「善か悪か」で判断することは難しい。ただ、明らかに自分にフィットしない職場や過度にストレスがかかる職場で長く頑張ってしまうと、あなたのキャリアに大きな悪影響をおよぼす。

もし過度なストレスを感じたり、自分の能力が十分に発揮できないと感じているのなら、それは新たな環境や機会を模索するシグナルかもしれない。違和感を感じたら、まずは自分の心の声に耳を傾け、自分自身の健康、幸福、自己実現を重視しよう。周囲の期待に応えようと自分を押し殺して無理をしてしまう人ほど、心を壊し、キャリア形成のチャンスを失ってしまう。もし、あなたが早期退職するか否かで悩んでいるのなら、本記事を参考にぜひ自分の人生を歩んでほしい。

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