株式会社GEOTRA 公式note|note
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こんにちは!GEOTRAインターン生の百瀬です。
2025年の夏、日本は観測史上最も暑い夏となりました。気象庁の発表によると、6-8月の日本の平均気温は、統計開始(1898年)以降で最も高く、10月にかけても平年より気温が高くなる見込みです。
全国各地で熱中症への警戒が呼びかけられるなど、猛暑は私たちの生活に直接的な影響を及ぼしています。
このような極端な暑さは日本だけの問題ではありません。世界でも熱波や干ばつ、山火事などの異常気象が増加し、各地で深刻な被害が報告されています。気候変動は「災害」としての側面だけでなく、人々の日常的な行動や移動のパターンそのものを大きく変えつつあります。
近年では、気候データと人流データを組み合わせた分析によって、これまで見えなかった人々の行動の変化が明らかになってきました。こうした知見は、防災政策や都市計画、企業の施策を考えるうえでも欠かせません。
そこで今回は、気候変動と人流の関係性を示す海外の研究事例を2つ取り上げ、人々の移動や行動が猛暑によってどのように変化しているのかをご紹介します。
2022年のヒューストンの猛暑を対象に、携帯電話の位置情報を活用して人々の行動分析が行われました。
研究チームは、移動量の変化率を示す指標と活動時間帯のずれを示す指標を作成し、人々の行動の変化を定量化しました。
平日/休日の人々の移動量の比較
(出典)論文より引用
上のグラフは、2022年の熱波の発生した時期(赤点線)と熱波の発生していない時期(青実線:2019年、緑実線:2021年)の人々の移動量が比較されています。
グラフから熱波発生時は人々の移動が約10%減少することがわかります。特に通勤ラッシュの朝、正午、午後5時で移動量が顕著に落ち込んでいることから、通勤などで移動する時間帯を調整したり、最小限に抑えたりすることで暑さへの曝露を回避している可能性があることがわかります。
一方で、早朝や夜間の移動が増加する現象も見られました。
下のグラフを見ると、2022年の熱波発生時の夜間移動量は2021年と比較して10%から20%も増加していることがわかります。
日中の暑さを逃れるために、人々が移動・活動時間帯をシフトさせていることが明確になりました。
2022年熱波発生時の、2021年に対する移動量変化率
(出典)論文より引用
研究の中では、地域特性や社会経済的な背景との関係も分析され、以下のような示唆が得られました。
・少数派住民や低所得層の多い地域では、暑さによる移動量の変化が少ない
→勤務形態や生活上の制約が大きく、出勤時間をずらす・在宅勤務に切り替えるなどの柔軟な対応が難しいため、暑さを回避する行動が取りにくい可能性がある
・都市では夜間活動が増える一方、郊外ではその傾向が弱い
→ショッピングや娯楽施設の有無など、都市構造の差が暑さ回避行動の大きさに影響している
【参考】
H. Tian, H. Cai, L. Hu, Y. Qiang, B. Zhou, M. Yang, B. Lin, 2024. Unveiling community adaptations to extreme heat events using mobile phone location data. Journal of Environmental Management, 366, Article 121665.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0301479724016517?via%3Dihub=&utm_source=chatgpt.com
携帯電話の位置情報(GPSデータ)と屋外の熱環境を評価する指標(UTCI)を組み合わせて、様々な気候において猛暑が人の行動に与える影響の調査が行われました。
下図aは調査対象地(インドネシア・インド・メキシコ)の年間を通した気温変化を示しており、それぞれ異なる気候であることを示しています。
インドネシア・インド・メキシコの一年間の気温変動
(出典)論文より引用
調査の結果、前に紹介したヒューストンでの研究と同様に、猛暑によって人々の行動が制限される様子が確認されました。
下の図bはメキシコシティでの猛暑による人々の移動量の変化を示しており、大きく減少している地域(青、紫)が多いことがわかります。
猛暑による移動量の変化(メキシコシティ)
(出典)論文より引用
また、各地点での移動量の変化を比較することで、気温と行動の関係は地域によって異なることが示されました。
以下のグラフcは、暑い日(ピンク色)と寒い日(青色)における移動量の変化を示しています。
グラフの見方は以下の通りです。
・縦方向:各地域の「朝・午後・夕方」の移動量を示しています。
・横方向:右に行くほど移動量が多いことを意味します。
・各データの横棒:標準誤差を示し、長いほどデータのばらつきが大きいことを表します。
暑い日(赤)、寒い日(青)の移動量の変化
(出典)論文より引用
このグラフから、各国における気温と行動の関係を読み取ることができます。
例えば、インドでは暑い日の午後に移動量が減る(左側にシフトする)一方、夕方には逆に活動量が増えている(右側にシフトする)ことがわかります。つまり、暑い日の午後の活動が夕方にシフトしていることがわかります。
また、メキシコでは暑い日に一日中移動量が低下しています。
一方、インドネシアでは標準誤差が大きいことから、気温変化の影響が個人によって異なり、明確な傾向は確認できません。
これらの結果を踏まえ、気温と人々の行動の関係について詳細な分析が行われ、以下のような内容が示唆されました。
さらにこの研究では、将来的な気温上昇の予測を元に、2050年頃に年間の行動量が1-2%減少し、地域によっては10%近い落ち込みが見込まれることが示されています。
気候変動を緩和する取り組みも重要ですが、気温の上昇に適応する戦略を考える必要性も増してきています。
【参考】
Renninger, A., Holubowska, O., & Blanchard, P. ,2025. Remote sensing and GPS mobility reveal heat’s impact on human activity across diverse climates. (arXiv:2409.20437v2)
https://arxiv.org/html/2409.20437v2
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事では、猛暑が人々の行動に及ぼす影響について、2つの研究事例を紹介しました。
猛暑の影響は、気候や文化、住民の属性によって地域ごとに異なりますが、いずれの場所でも人々の行動に大きな変化をもたらしています。
こうした知見は、防災政策や都市計画、企業の取り組みを検討する上で、地域の人々がどのように猛暑に適応しているのかをデータから把握し、適切に対応していく重要性を示しています。
GEOTRAでは、独自の個人情報保護技術により、人々の動きや行動目的などが高粒度に可視化された人流データ、GEOTRA Activity Dataをご提供しています。更に人流データのご提供に留まらず位置情報データ全般に関する利活用促進のためのご支援を行っております。
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