1
/
5

【note投稿しました】食品スタートアップが勝つために、持つべき構造とは? by 代表 杉岡 侑也


目次

  • はじめに

  • 食品スタートアップが勝つための「3つの考え方」

  • 1. ライフスタイルごと提案する

  • 2. 未成熟な市場に、IT時代のブランド構築手法で参入する

  • 3. 突然のチャンスに、“全張り”できる準備をしておく

  • 大企業とスタートアップの“構造の差”と、そのリアル

  • 一方、商品企画こそが、価値創出の始まりである

  • 機能の価値を測る4つの変数

  • 最後に:構造を持つ者が、生き残る


はじめに

日本の食品業界は、世界でも屈指の“成熟産業”だと思います。
まず、市場規模でいえば、2022年の国内食品市場は約70兆円。
これは製造業としての日本の自動車産業(約60兆円)をも上回る規模感であり、国民生活の基盤を支える産業として、極めて巨大だといえる。
(日本の労働者において13%が食に関する仕事についているそう。)
さらに、その歴史も非常に長い。
発酵、醸造、乾物、加工。
日本人の食文化の土台を作ってきた加工技術は、産業としてすでに数百年の歴史を持ちます。 江戸時代には味噌や醤油の商人が活躍し、明治以降は包装や冷蔵技術の進化とともに「保存可能な食品」が家庭に浸透してきました。
つまり、日本の食品業界は“長く積み上がった信頼と常識”の上に存在しているマーケットといえます。
ただし、それは同時に、変化が極めて起きづらい構造をも意味していると思います。
なぜなら、この業界は「分業」の歴史で成り立ってきたから。
食品メーカーはあくまで「作る人」。 そして問屋がいて、小売がいて、その先にやっと生活者がいる。
従来、メーカーは基本的に「売り場」や「顧客」との直接的な接点を持たない。 小売に置かれなければ売れないし、問屋を通さなければ出荷もできない。
これは、自動車業界と決定的に異なる構造です。
自動車は、トヨタもホンダも自社ディーラーや販売チャネルを持ち、顧客の声を直接吸い上げる体制がある。 一方、食品業界の多くは“BtoBtoC”の構造であり、製造者と顧客の間に構造的な距離があります
だからこそ、機動力やスピードに限界がある。
変化に対応しづらい。 棚の流動性が低く、そこに並ぶ商品は簡単には入れ替わらない。
なので、時間がブランドを作ってきた、と考える方が正しいように思います。
つまり、「信頼」と「取引履歴」と「棚の慣性」がブランドそのものであり、それが食品業界における最大の参入障壁になっている。
たとえSNSでバズっても、それだけで棚には並ばない。
製造、ロジ、商流、営業、販促、あらゆる機能を揃えなければ、持続的なビジネスにはならない。
これは、スタートアップにとって、極めてハードな構造だと思いませんか。。。笑
そんな中で、スタートアップはどう戦っていくべきか?
答えは、“構造を理解し、持つべき強みを持つ”ことから始まると思います。
スタートアップとして、難易度が高い食産業において勝つためには、スピードと柔軟性、そして持続的な価値創造を両立するために、個人の能力や熱量に頼らない「再現可能な機能群」=構造を持たなければならない。

食品スタートアップが勝つための「3つの考え方」

食品スタートアップがこの難しい業界で勝っていくためには、大きく3つの考え方が重要になると思っています。

1. ライフスタイルごと提案する

これからの消費者行動は、カテゴリごとではなく「ライフスタイルごと」に分散していく未来が予想されます。
つまり、単体の商品ではなく、「その商品が存在する生活」全体をブランドとして提示する必要があります。
関連性のある商品を群として提案し、ブランドの世界観を届けていく。これはアパレル業界では一般的な「ブランドアンブレラ戦略」と呼ばれるものですが、食品業界ではまだ主流ではありません。
長らく食品業界は「カテゴリ」で区切られてきました。
ニトリはトータルコーディネートでマーケットを切り開きました。
私の地元を代表するミキハウスも帽子から靴までミキハウス、とトータルで提案しました。
では食品はどうか?
飲料のメーカーは飲料だけ、菓子メーカーは菓子だけ。
垂直的な開発体制が当たり前です。
ですが、私たちはすでに飽和したマーケットにいます。
そしてIT時代においては、製造における競争優位性は薄まりつつあり、「どのメーカーが作ったか、どんな技術があるか」よりも「どんな価値観を体現しているか」が問われる時代になりつつあります。
現在のコンビニ棚を見ても、セブンプレミアムやローソンセレクトがあらゆるカテゴリに浸透しているように、境界線はすでに溶け始めているのです。

※「ブランドアンブレラ戦略」については、別の記事で詳しく解説予定です。

2. 未成熟な市場に、IT時代のブランド構築手法で参入する

すでに商品は存在しているが、あるライフスタイルを持つ人にとってNo.1が明確に定義されていないジャンルに対して、現代的なブランド構築の手法を持ち込む。
必要な機能とは、原料を調達する、加工できる、職人がいるといった“ハードアセット”ではなく、IT企業がソフトウェアを開発するように、顧客接点・体験設計・データ活用・ブランドのUI/UXをプロダクトのように作り込む、“ソフトアセット”を持つ組織。
ブランドとは“記号”であり、生活者にとって「◯◯といえばこのブランドだよね」と瞬時に想起される状態を意味する。
重要なのは、そのジャンルにおいて「純粋想起No.1」になれるかどうか。
スタートアップが目指すべきは、単なる商品の差別化ではなく、その市場の“象徴”になること
その組織で活躍し評価されるのは、美味しいを作る職人と同時に、体験設計をするUXデザイナーかもしれない。
そして最も重要なのは、これらを再現性持って実現できる組織を作り上げられたかどうか?にあります。

3. 突然のチャンスに、“全張り”できる準備をしておく

たとえば、完全食のように、急に世の中があるテーマに注目する瞬間があります。
また、圧倒的にポテンシャルがあるが、経営者不足、上記のような機能不足によって、ポテンシャルを発揮できていない企業があるとする。
そのときに一気に商品ラインやマーケティングを展開できるよう、事前にチーム・サプライチェーン・企画体制を整えておく必要があります。
ベースフードが市場に出たときのような“風が吹く”瞬間に、逃さず勝負できるようにする。
そして、その為には十分な機能と、資本体力が必要です。
来るべきタイミングに、全張できるような資本体力を持ち合わせないと、勝負にすらならない。 ベースフードはその点において、素晴らしかったと言えると思います。

大企業とスタートアップの“構造の差”と、そのリアル

たとえば、私たちが「the kindest」のベビーフードを初めてリリースしてから、赤ちゃん本舗さんをはじめとする専門店に並ぶまでに、実に2年半かかりました。
さらに、そこから本格的に全国の売り場に並ぶようになるまでに、追加で約3年
つまり、構想から実現まで合計で約5年の時間を要しています。
私たちのブランドに至らない点が多々あったことは十分理解していますが、それ以上に業界が持つ一般的な参入障壁を感じる期間でした。
一方で、同じカテゴリーにいる大企業「ピジョン」さんのような企業が新商品を出すときは、まだ市場に浸透していない段階から、すでに全国の主要店舗に売り場が用意されている。(もちろん営業さんの努力ありきです。素晴らしいです)
ただ、この差を見ても、スタートアップと大資本の差は火を見るより明らか。
それは、単なる商品のクオリティやマーケティング力の差ではありません。
大資本がもつ「既存の販路」「取引の信頼」「スケールできる仕組み」といった構造的なアセットの違いが、そのまま難易度、そして結果に現れているのです。
そんな中で唯一スタートアップが戦う可能性が残されているとしたら、上記アセットとは関係のない、意思決定のスピード、打席数、仮説の精度、カテゴリーを超えてライフスタイルで捉える新しい発想など、明らかに若い組織が持ちうる要素に全振りし明確に優位に立つ必要があります。
両者は強みと弱みが明確に異なります。
だからこそ、私たちスタートアップはこの構造の違いをしっかりと理解し、自分たちの“勝てる領域、エントリーの角度、アセットの活用方法”を見極めて、準備を重ねていくことが重要なのだと実感しています。
準備を重ねた先に、良いエントリーののち、大資本が持つ強みを活用する協業を繰り返し、スタートアップしかなし得ない戦いを繰り広げていく。
ここまでの絵がある程度あった上で、やっと勝負が始まるように思います。

一方、商品企画こそが、価値創出の始まりである

これまで、構造や機能の話をしてきましたが、やはりすべての起点は「企画」にあります。
お客様に課題がなければ、企画は成立しない。企画がなければ、成長はない。
実際、多くの企業が商品企画に多くの人材とコストを投下しています。
研究開発、マーケティング、リサーチ。
ですがこの10年、「会社を代表するブランド」が生まれたかというと、答えは厳しいものになる企業が多いのではないでしょうか。
これはつまり、その膨大な人と時間が、価値に貢献できていないということです。
食品業界の生産性の低さ、給与の伸び悩み、それらの背景には「商品企画が成長に寄与していない」という構造課題があると私は考えています。
冒頭説明した、食品業界は時間を武器にブランドを作ってきた。
ブランドが際立っているあの企業もこの企業も、実はブランドを作っていくノウハウを持っているのではなく、結果的にブランドが出来上がった会社だっただけである。
これこそが実態であり、この実態を理解しないことには、スタートアップも大資本も、大きくチャレンジすべき課題を間違えるように思います。
逆にこれが解決されれば、食品業界の生産が変わり、報酬水準も劇的に変わるのではないでしょうか?

機能の価値を測る4つの変数

では、実際に商品企画を“機能”として運用するとはどういうことか?
そして、そうした機能を本当に持っている会社かどうかを、どのように判断するのか?
僕は、以下の4つの変数によって、構造的にどれだけ効率よく“価値”を生み出せるかを測ることができると考えています。
打席数 × 関わる人数 × かける時間 × ヒット率
これは単なる精神論や努力量の話ではなく、企業の中にある商品開発機能を「再現可能な仕組み」として捉えたときに、最も定量的に価値の源泉を見極められるフレームです。
もちろん、企業ごとに開発体制や製造能力は大きく異なります。だからこそ、「年間◯本の新商品を出しているか」ではなく、自社なりにこの4変数を測定・改善しようとしているかどうかが最も重要です。
この4変数を上げていくために必要なのが、「マーケットの解像度」と「組織文化」です。
なぜなら、どんなにたくさんの打席に立っても、どんなに短期間でリリースしても、その仮説が外れていたら意味がないから。
• 本当に困っている人は誰か?
• その人はなぜ既存商品では満たされていないのか?
• どうすればその人の感情や行動を動かせるか?
そうした問いに対して、精度の高い仮説が立てられているかどうかが、結果的にヒット率を決めます。
そしてその仮説の精度を決めるのが「マーケットの解像度」です。
マーケットの解像度を高めるには、顧客と直接向き合うしかない。
広告代理店任せや店頭のPOSデータだけでは届かない「生々しい声」に触れ、課題そのものの姿を自分たちで理解し、定義する能力があるかどうか。
MiLがメディア運営にこだわってきたのも、自社ECに大きく投資をしてきたのも、D2Cが流行っているからではありません、すべてこの思想に基づいています。
課題が大きく、しかも潜在的課題が山ほど眠っている「子育て世代」に対して、誰よりも多くの接点を持ち、誰よりも深く理解し、声にならなかった声を拾い上げて、仮説に変える。
その“仮説の質”こそが、食品スタートアップが持つべき最大の武器だと信じているからです。
加えて、AIやデータも当然活用する。
感性だけに頼るのではなく、確率的に勝率を上げる工夫をする。
そうした企画と仮説検証のサイクルを、プロダクト開発と同じように“高速・反復・学習”で回す。
これが、僕たちが目指している「企画機能を構造化する」ということです。

最後に:構造を持つ者が、生き残る

歴史ある大企業は、長年積み上げたブランド資産、圧倒的な製造能力、チャネルへの信頼、品質の安定性など、揺るがない基盤を持っています。
そしてこれが人間が増えて、棚に商品が不足していた時代においては重要な機能であり、構造でした。
一方で、時代は変わりました。
次の時代は、意思決定のスピードや実験の柔軟性、新しい価値を試す自由度。
またITを駆使した新しいニーズへ理解、そして企画への速やかな連動なのではないでしょうか。
スタートアップの強みは、まさにそこ。
スモールチームで素早く意思決定し、小さく試し、早く学ぶ。
PDCAではなく、“LDLD(Learn-Do-Learn-Do)”を高速で回しながら、仮説検証の精度を上げていく。
そして、そのスピードと柔軟性に「大資本が持つ構造」が加われば、スタートアップは単なるアイデア勝負ではなく、真っ向から食品業界のゲームチェンジャーになれる。
スピードだけじゃ足りない。構造だけでも足りない。 でも、その両方を持つことができたら。
10年後の棚には、自分たちが作っていくブランドが「当たり前のように」並んでいる未来。
価値ある企画だが、アセットがなく棚に並ばない——そんな企業へのM&Aなども含めた市場全体への貢献。
その未来を信じて、今日もスタートアップとして真っ向から挑戦を続けていきたいと思います。

【noteはこちら】https://note.com/milyuya

Invitation from 株式会社MiL
If this story triggered your interest, have a chat with the team?
株式会社MiL's job postings
1 Likes
1 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
Like 山田明也華's Story
Let 山田明也華's company know you're interested in their content