社会の無関心の打破という理念のもと、「社会課題を、みんなのものに。」をスローガンに掲げ、多角的な事業を展開する株式会社Ridilover(リディラバ)。今回は事業開発チームのメンバーであり、省庁案件を統括するサブリーダーを担ってきた国司言美さんにお話をうかがいました。省庁を相手とするプロジェクトを複数動かしながら、育児との両立も果たす国司さん。その言葉からはしなやかに、かつ力強く課題に立ち向かうプロフェッショナルの姿が浮かび上がってきます。
金融の世界から社会課題の渦中へ、異色のキャリアチェンジ
── まずは国司さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
大学が経済学部だったこともあり、日本政策投資銀行という政府系の金融機関でキャリアをスタートしました。もともと就職活動の時からよりマクロな視点で社会を見たいという思いがあり、国家公務員なども視野に入れつつマクロリサーチとミクロなビジネスの両方に関われそうな政府系金融機関を選びました。
配属されたのは航空宇宙産業を担当する部署で、周りは男性ばかり。経産省と連携する機会も多く、また当時は航空宇宙産業が非常に盛り上がっていた時期でもあり、仕事自体はとても面白かったです。ただ、私自身の興味がその産業自体に強くあるわけではなく、3年半の在籍中にかすかな違和感が徐々に大きくなっていきました。
そんな時に転職を考え始め、学生時代に接点があった代表の安部がFacebookで募集をかけているのを見かけたのが、リディラバとの出会いです。話を聞きに行ったら、とんとん拍子で採用が決まりました。2018年のことなので、もうすぐ在籍7年になります。
── まったくの畑違いですが、転職に不安はありませんでしたか?
不安を感じる前に、他に選択肢がほとんどなかったというのが正直なところです。社会人3年目というと第二新卒に近いわけですが、当時はNPOなども含めて私の経験に合うポジションの募集はほとんどなく……マーケティングや採用の経験とかベンチャーでバリバリやってきたようなスキルセットが求められていたんです。やはり大企業向けの仕事のポジションとNPOや中小企業系の仕事のポジションは違うんですね。私は投融資業務しか経験がないので、次のステップに進むにはどこかで別の経験を挟んでスキルを補強しなければならないかも、と思うほどでした。
そもそも当時は、民間の株式会社で社会課題解決に取り組んでいる企業があるということ自体、あまり知らなかったんです。リディラバは安部との縁で知っていましたが、それがなければ見つけられなかったかもしれません。
また、自分の中で「この社会課題に関心がある」という領域が明確に定まっていなかったことも、リディラバを選んだ理由の一つです。リディラバは特定の課題に特化せず、「社会課題全般」を扱っています。まずはそういった場所で様々な課題に触れ、知見を深めたいという気持ちがありました。今思えば、思い切った選択だったなと思います。
── リディラバに入社して最初の仕事で印象に残っている出来事などありますか?
入社して最初に配属されたのは、自治体と一緒に移住定住の促進や関係人口の創出を目指す地域協働事業部でした。私自身は横浜出身で、それまで「地域」というものにほとんど縁がなく、関心も貧困や教育といった分野に向いていました。そんな私が、いきなり地域に入ってツアーをつくれ、と言われたのですから、最初は戸惑うことばかりでしたね。
何より価値観を揺さぶられたのは、地域の方々との関わり方です。前職ではクライアントとのビジネスコミュニケーションには慣れていましたが、地方で暮らす地域住民のみなさんと関係性を築くのは全くの未経験でした。しかも当時は会社にお金がなくて、出張してもホテル代が出ないんです。だから地域の方と仲良くなって、その方のお家に泊めてもらうしかありませんでした。もちろん、今は出張費もきちんと出るようになっています。
── まるでテレビのバラエティ番組みたいですね(笑)
正直に言うと、最初は面食らいましたね。無理かも、と思ったことも。そもそも私は社交的なタイプではありません。何度も後ろ向きになりかけてました。でもこの経験があったからこそ、地域の方々がどんな思いでその土地に暮らし、何に困っているのか、その解像度が劇的に上がったんです。
この時に得た現場感覚は、いま省庁向けの仕事をする上でも間違いなく生きており、私のキャリアにとって非常に貴重な経験だったと断言できます。向いていない仕事に取り組んだことが、逆に大きな自信につながったというわけです。
政策と現場をつなぐ「翻訳者」として、省庁を動かす
──その後、現在の事業開発チームに移られたんですね。
はい、2020年に事業開発チームが立ち上がりました。このチームの設立は、それまで主軸としていた自治体向けの事業をさらに発展させ、中央省庁との連携も本格的に視野に入れるという、リディラバの事業戦略における重要な転換点となりました。この方針転換に伴い、チームの規模は大幅に拡大し、私自身も発足当初から中央省庁向けの渉外業務を一貫して担当させていただいています。
──クライアントが自治体から省庁に変わったことで何か違いを感じたことは?
地方自治体の職員と中央省庁の官僚では、言葉の選び方や心に響くポイントが大きく異なります。この違いこそが、リディラバの活動における最大の面白さであり、介在価値でもあります。
地方自治体の職員、特に小規模の役場の場合は、行政官であると同時に、その地域に根差した住民でもあります。そのため、彼らの視点は非常に当事者意識の高いものであり、日々の生活に密着した課題や住民の細やかなニーズを肌で感じています。彼らが抱く問題意識は、地域の実情に基づいた具体的なものであり、地域住民の生活の質向上に直結する視点が多いです。
一方で、中央省庁の官僚の方々は、その視座が非常に高く、国全体の政策をマクロな視点から立案・推進しています。彼らの関心は国家戦略や制度設計といった俯瞰的なレベルにあり、広範な影響を考慮に入れた政策決定を行います。しかしその分、現場のリアルな温度感や個別の地域が抱える具体的な課題については必ずしも詳細な知識や感覚を持ち合わせていないケースが少なくありません。この、マクロな視点とミクロな視点の間のギャップこそが、リディラバが埋めるべき重要な領域だと考えています。
チーム結成当初、代表の安部に同行して営業活動を行う機会が多くありました。その中で、彼が語る現場のリアルな話が、マクロな政策を担う官僚の方々にどうすれば「面白い」と感じてもらえ、彼らの政策立案に結びつけて考えてもらえるのか。その「語り口」を間近で学ぶことができました。
安部は単なる現場の課題を羅列するのではなく、それが国全体にとってどのような意味を持つのか、どのような政策的なインパクトを生み出すのかを、官僚の論理と関心に寄り添った形で「翻訳」して伝えていたのです。
私たちリディラバは多様な現場の声を、政策というマクロな言語に「翻訳」する役割を担っています。具体的な現場の事例や住民の声を中央省庁の官僚が理解し、共感し、自分たちの政策に反映させられるような政策的示唆に富んだ情報へと変換します。この翻訳作業を通じて現場のリアルな課題が政策に反映されやすくなり、結果としてより実効性の高い政策が生まれることに貢献できると信じています。
──現在、担当されている案件についても教えていただけますか?
最近の大きな案件で言うと、農林水産省と「官民共創による農山漁村の課題解決」をテーマにした事業に取り組んでいます。農山漁村には多くの課題がありますが、企業がビジネスとして関わる機会はまだ多くありません。そこで、どうすれば大企業が農山漁村に関心を持ち、新たな価値創造につなげられるか、という検討部会の運営やリサーチを行っています。
たとえば社会貢献と経済的リターンを両立させる「インパクト投資」のような新しい金融手法が、農山漁村の課題解決にどう活用できるかについて活発な議論を行なっています。さらに実際に地方自治体と企業をマッチングさせ、具体的な課題解決を目指す実証事業も進行中です。理論と実践の両面からアプローチすることで、持続可能な農山漁村の未来を築き上げています。
こうした案件は、昨年度から地道に関係性を築き、対話を重ねて信頼を得る中で、大きな規模の案件として受託できました。単なる一受注業者ではなく、対話を通じて一緒に事業を創り上げていくパートナーとして認めていただけた時は、大きなやりがいを感じますね。
プロとして向きあう社会課題、カッコ悪い自分を認めるということ
──国司さんがやりがいを感じる瞬間はどんなときですか?
私はもともと、自分からぐいぐい話すタイプではないのですが、いろいろな人の話を聞くのは好きでした。リディラバの仕事は地域の住民の方、行政の方、社会課題の当事者の方、支援者の方など本当に多様なステークホルダーと対話する機会に恵まれています。それぞれの立場で見えている世界や課題感が少しずつ違う。その「ズレ」を知ることが、私にとっては知的好奇心をくすぐられる面白さなんです。
そしてヒアリングで得た無数の声や事実を、ただ聞くだけで終わらせない。それを抽象化し「それぞれの立場の人にどういうインセンティブ(動機づけ)があれば社会全体が良い方向に向かうのか」という構造を考え、具体的な政策として省庁に提言していける。このプロセス全体が最大のやりがいだと感じています。
リモートワークで自宅にいる時間が長いのにも関わらず、各関係者との対話を通じて自分の世界がどんどん広がっていく感覚があります。一つのプロジェクトが終わるたびに、膨大な知識と情報が蓄積され、自分の引き出しが増えていく。この感覚は、何物にも代えがたいですね。
──反対に厳しい面、難しい部分はどんなところでしょうか?
省庁の方々からは常に私たちの見識や実力を見極められている感覚はありますね。リディラバは代表の安部の知名度はあっても、会社としてはまだ小さな組織です。小さな会社に大きな事業を委託するのは、行政側にとってもリスクが伴います。だからこそ「この会社に任せて本当に大丈夫なのか」「プロとしてどれだけの実力があるのか」という厳しい目で見られているのは当然のことです。
そのプレッシャーの中で、私たちは常にプロフェッショナルとして高い品質のアウトプットをキープし続けなければなりません。仕事は決して甘くないという厳しさは常に感じていますし、だからこそ新しく仲間になる方にも、その厳しさに向き合う覚悟を求めていきたいと考えています。
──そうした環境下で国司さんが仕事の上で大切にしていることは何でしょうか?
二つあります。一つめはどんな困難な状況に直面しても決して諦めない心です。リディラバの事業は社会課題の解決を目指すという性質上、前例のない、まさに「これは本当に実現できるのだろうか」と多くの人がためらうような難題ばかり。
しかしそこで思考停止することなく「どうすればこの課題を解決できるか」「どうすればこの目標を達成できるか」という問いに対し、粘り強く具体的な方法を考え抜く姿勢が大切なのです。困難から学び、改善策を見つけ出し、何度でも立ち向かう――そうした諦めない心と粘り強さを兼ね備えることこそ、社会を変革していくために不可欠な原動力ではないかと考えています。
そしてもう一つは「とにかく前に進める」という強力な推進力です。前職の銀行では、業務の「正しさ」や「完璧さ」が何よりも求められました。100%の完成度が求められ、些細なミスも許されない、極めて正確性を追求する世界でした。しかしリディラバには真逆の考え方が浸透しています。もちろん最終的な成果物の品質は重要ですが、それ以上に重視されるのは事業が前に進んでいるかどうか、という一点。多少荒削りであっても構わない。完璧でなくても良いからとにかく手を動かして、具体的なアクションを起こし、事業の進捗を止めないことが最も厳しく評価されます。
この「前に進める」推進力を生み出すために必要なのが、カッコ悪い自分を認める勇気だと私は考えています。私たちは誰もが完璧ではありません。知らないこと、できないこと、苦手なこと、行き詰まることは当然あります。しかしそれを隠したり、できないのにできるふりをしていては何も進みません。むしろ後になってから事実が発覚するのでは事態はさらに悪化し、よりカッコ悪い状況に陥ることにもなりかねない。だからこそ、わからないことがあれば「わかりません」と臆することなく、しかもその場で口にすることが重要なんです。
──できる自分をひけらかしている場合ではない、と。
また一人で抱え込まず、上司や同僚、時には外部の人々の力を借りてでもとにかく案件を停滞させない工夫も求められます。たとえ相談の仕方が拙かったとしてもチームの協力を仰ぎながら壁を乗り越えていく姿勢が大切です。自分の弱みをさらけ出すことは時には抵抗を感じるかもしれません。しかし、それを恐れずに自分の不完全さを認め、助けを求めることでチーム全体の力が最大限にひきだされ、結果として事業が力強く前に進んでいく。この、自分の弱みを認め、チームで前に進んでいくというマインドセットへの転換こそが、リディラバで活躍する上では重要かつ不可欠な要素ではないかと思います。
多様性あふれる環境で描く、よりよい未来の姿
──リディラバの働く環境やカルチャーについて教えてください。
まずリモートワークがフルで活用できたりと、制度面では非常に働きやすい環境です。私自身、二人の子どもを育てながら現在三人目を妊娠中なのですが、ハードワークが難しい状況でもしっかりと仕事が回る体制が整っています。
文化的な面で特徴的なのは、プロフェッショナル集団であろうとする意識が非常に強い点です。心理的安全性を担保し、人格否定のようなフィードバックは絶対にありません。その一方で馴れ合いにならず、仕事に対してはシビアな要求もします。この「心理的安全性」と「甘やかさない文化」が両立しているのが、リディラバらしさだと思いますね。
また社内には本当に多様なバックグラウンドや個性を持ったメンバーがいます。私のように固い組織出身の人間もいれば、全く違うタイプの人もいる。この多様性こそが、リディラバの懐の深さであり、面白さだと思います。
──事業開発チームではどんな人を求めていますか?
なによりも、仕事に対する自分なりのWill(意志)を持っている方です。「自分はこの仕事を通じて、こうしたいんだ」という自分なりの軸や正解を持っていること。もちろん、それが常に正しいとは限りません。だからこそ、他者からのフィードバックを素直に受け入れる柔軟性も同時に必要です。この強いWillとしなやかな柔軟性のバランスが取れている方と、ぜひ一緒に働きたいですね。
加えて求めるものとしてあげられるのは先ほどもお話しした粘り強さです。自分にとって難しいこと、向いていないと感じる壁にぶつかった時、すぐに諦めて別の選択肢を探すのではなく「なんとか乗り越えてみよう」と向き合える気概のある方。その粘り強さの先にある成長や課題解決を、信じられる方であってほしいです。
──最後に、国司さんの今後の展望をお聞かせください。
リディラバを単なる省庁の事業受託者ではなく、税制や法改正まで含めた「政策提言のパートナー」へと、さらに引き上げていきたいと考えています。そのためには私たち自身もさらにレベルアップし、より高い視座で社会課題の構造を捉え、民間の力をどう巻き込んでいくかを構想する必要があります。
最近の風潮として日本の未来に希望をもちづらい、という意見や考えをお持ちの方が増えているように感じます。でも私はこの仕事を通じて現場で奮闘する人々や、国の未来を真剣に考える官僚の方々をたくさん見てきました。だから日本もまだまだ捨てたもんじゃない、と心から思っています。
この、省庁や官僚に直接関わっているからこそ見える希望を、もっと多くの人が実感できる社会にしたい。人々が自分たちの国や社会に対して絶望ではなく、確かな希望を持てるようになること。リディラバでの仕事を通じて、その一助となることが私のいまの目標です。
【profile】
国司言美 事業開発チーム プロジェクトマネージャー
1991年、神奈川県横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業。株式会社日本政策投資銀行にて航空宇宙産業企業に対する投融資を3年間担当する。2018年よりRidiloverに参画。地方自治体と協働した関係人口創出事業等を複数担当後、省庁案件を担当。現在に至る。