「地域おこし協力隊」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
都市部から地方へ移住し、地域活性化の担い手として活動する制度です。
「地方で暮らしてみたい」
「地域に貢献したい」
そんな思いを持つ人にとって、魅力的な選択肢の一つですが
「実際にどんな活動をするの?」
「未経験でも大丈夫?」
「移住後の生活は?」
といった不安や疑問も多いはず。
今回は、富山県高岡市で地域おこし協力隊の担当者として活躍する山嵜寛純さんにインタビュー。自身の経験や、隊員たちとの関わりを通して見えてきた「地域おこし協力隊のリアルと魅力」について、本音で語っていただきました。この記事が、あなたの挑戦を後押しするきっかけになれば幸いです。
話し手:山嵜 寛純(やまざき ひろすみ)
高岡市役所 職員。大学卒業後、高岡市役所に入庁。スポーツ、広報、県庁出向、法務・選挙担当などを経て、現在は地域課に所属し、地域おこし協力隊の採用・支援を担当。
聞き手:田中 伸弥
目次
「とりあえず公務員」から始まったキャリア
失敗から学んだ公務員時代
地域と向き合う、協力隊担当者の仕事
ミスマッチを防げ!本音で語り合う採用の舞台裏
移住者目線がもたらす気づき:協力隊員が語る高岡の魅力
個性が光る!多様な仲間と創る未来
一歩踏み出すあなたへ:地域おこし協力隊という挑戦
「とりあえず公務員」から始まったキャリア
田中: 山嵜さんは、市役所に入られる前はどのようなキャリアだったのですか?
山嵜: 大学を卒業してからすぐ市役所に入りました。就職活動も、他の民間企業は受けていなくて。公務員試験はいくつか受けたんですが、全滅で…高岡市だけが拾ってくれた、という感じです(笑)。
田中: そうだったんですね!最初から公務員志望だったのですか?
山嵜: いや、正直に言うと、当時は特に「やりたいこと」がなかったんです。とりあえず地元で公務員として働きながら、やりたいことを見つけようかな、くらいの軽い気持ちでした。周りの友人や先輩にも公務員を目指す人がいた、という環境も影響していたかもしれません。就職活動を始めるのも遅くて、大学3年生の秋くらいからでしたね。
田中: それで、気づけば17年も!
山嵜: そうなんです。あれよあれよと(笑)。深く考えていなかったからこそ、続けられたのかもしれません。「このままでいいのかな」とか、あまり悩まないタイプだったので。実家が呉服の卸売業をしていたんですが、兄も僕も継ぐ気は全くなくて。民間企業で働くなら家業を継いだ方が良かったのかもしれませんが、当時の自分にはその魅力が見つけられませんでした。
失敗から学んだ公務員時代
田中: 市役所に入られてから、特に最初の頃に苦労した経験などはありましたか?
山嵜: 色々あったと思いますよ。最初の配属がスポーツ課だったんですが、入って2年目に全国規模の大きなスポーツ大会の担当になったんです。何千人もの人が来る大会だったので、準備も大変で。開催の直前は本当に夜中まで仕事をしていました。
田中: それは大変でしたね…。
山嵜: ええ。経験も知識もない中で、とにかく必死でしたね。その時にやらかした失敗があって…大会プログラムの印刷で、担当していたソフトテニスの種目名を、間違えてグラウンドゴルフのまま入稿してしまったんです。届いたプログラムを見て「やべえ!」ってなって(笑)。刷り直しをお願いしまして、大事には至りませんでしたが。忙しすぎて、チェック体制も甘くなっていたんだと思います。恥ずかしい思い出です。
田中: その後は、どのような部署を経験されたのですか?
山嵜: スポーツ課に3年いた後、広報誌の担当を3年、県庁への出向が2年、法務と選挙の担当を5年経験して、今の地域づくりを担当する部署に来て4年目になります。公務員は異動が多いので、一つの仕事に慣れた頃にまた新しい部署へ、という感じですね。
地域と向き合う、協力隊担当者の仕事
田中: 現在は地域おこし協力隊の担当をされているとのことですが、具体的にはどのような業務を?
山嵜: 協力隊の募集活動や、採用後の隊員さんのサポートが主な業務です。協力隊の担当になったのは、去年からなので、まだ1年弱くらいですね。 それと並行して、「地域運営組織(高岡市では『多機能地域自治』)」づくりにも力を入れています。これは、人口減少が進む中で、一つの町内会や自治会だけでは地域の様々な活動を維持していくのが難しくなっている現状を受けて、もう少し広い範囲の地域住民や地域のあらゆる団体が連携して、自分たちの地域のことを考え、活動していくための組織を作っていこうという取り組みです。
田中: 高岡市も人口減少が課題になっているのですね。
山嵜: はい。富山県内では第二の都市ですが、やはり人口減少は深刻です。小さな単位のコミュニティだけでは、地域の担い手不足が目立ってきています。だからこそ、広域であらゆる団体も連携して地域を守り、盛り上げ、将来的には地域で稼ぐような仕組みも作っていきたいと考えています。その担い手としても、地域おこし協力隊の力に期待しています。
ミスマッチを防げ!本音で語り合う採用の舞台裏
田中: 協力隊の採用はどのように進めているのですか?
山嵜: 担当になって最初の頃は、正直ノウハウもなくて、書類選考と面接だけで採用を決めていました。でも、他の自治体の担当者の方の話を聞いたり、研修に参加したりする中で、採用前の「お互いのビジョン共有」がいかに重要かを痛感したんです。
田中: 事前のコミュニケーション不足によるミスマッチがあった、ということでしょうか?
山嵜: そうですね。そこで、去年の途中から、正式な面接の前に「カジュアル面談」の機会を設けるようにしました。オンラインなどで、私や担当課のメンバーと応募を検討されている方が、ざっくばらんに話せる場です。「市としてはこういう活動を期待しています」「今の地域の状況はこうです」とお伝えした上で、応募者の方が感じている疑問や不安、逆に「こんな活動をしてみたい」という思いなどをじっくり聞かせてもらうようにしています。
田中: 応募者の方からは、どんな不安や疑問が多く聞かれますか?
山嵜: 最近面談した方々は、移住そのものへの不安というよりは、「ミッション(業務内容)は具体的にどんなことをするのか?」「自分のスキルをどう活かせるか?」といった、活動内容に関する質問が多かったですね。もちろん、「富山や高岡ってどんなところですか?」という生活環境に関する質問もあります。
田中: 移住経験のない山嵜さんにとっては、生活環境の質問は答えにくい部分もありますか?
山嵜: 正直、あります(笑)。ずっと地元にいるので、他の地域と比較して説明することができないので。そこは私の人柄というか、雰囲気で感じ取ってください、みたいな感じで話していました(笑)。でも、最近始めた試みとして、カジュアル面談に現役の協力隊員にも同席してもらうようにしたんです。
田中: それは良いですね!移住者のリアルな声が聞けるのは、応募者にとっても心強いはずです。
山嵜: はい。実際にやってみて、すごく良かったです。隊員からは、「ご飯が美味しい」「水が美味しい」「意外と交通の便が悪くない」といった、私たちが当たり前すぎて気づかないような魅力が出てくるんです。「もっと自慢していいですよ!高岡、めちゃくちゃ良いですから!」って逆に励まされたり(笑)。
移住者目線がもたらす気づき:協力隊員が語る高岡の魅力
田中: 移住してきた隊員さんから見て、高岡の特に良いところはどんな点だと言われますか?
山嵜: やっぱり「食」ですね。特に魚が美味しいと。先日も隊員の方と飲む機会があったんですが、「スーパーで売ってる刺身だけでも、めちゃくちゃ美味しい!」って感動していました。
田中: へえ!スーパーの刺身ですか!
山嵜: 私たちにとっては、食卓に魚が並ぶのは当たり前の光景なんですけどね。刺身もそうですし、焼き魚とかも。都会だと美味しい魚は高価でなかなか手が出ないけど、高岡なら安くて美味しい魚が普通に手に入るのが嬉しい、と。居酒屋の刺身も、1人前700円か800円くらいで美味しいものが食べられますし、盛り合わせでも2~3千円くらい。回転寿司のレベルも高いって言われますね。
田中: それは魅力的ですね!ブリや白エビなども有名ですよね?
山嵜: 高岡自体というよりは、隣の氷見市が寒ブリ、射水市が白エビで有名です。富山湾は「天然のいけす」なんて言われるくらい、魚が美味しく育つ環境なんです。地元民は「高岡には何もないちゃ(何もないよ)」が口癖だったりするんですが、外から来た人にとっては、美味しい魚や水、空気があるだけでもすごく価値があることなんだな、と改めて気づかされました。
個性が光る!多様な仲間と創る未来
田中: これまで採用された隊員さんで、特に印象に残っている方はいらっしゃいますか?
山嵜: どの方も個性的で印象深いですよ。カジュアル面談を経て採用が決まった方は特にですね。 一人は、タイでホテルマンとして働いていた経験を持つ方です。今は「移住コンシェルジュ」として、移住希望者の相談に乗ったり、情報発信をしたりしてくれています。先ほど話したカジュアル面談にも同席してもらっています。
もう一人は、竹内さんという方で、高等教育機関で働いていた方です。募集テーマが「伝統産業(高岡銅器や漆器など)の海外販路開拓」という、かなり難易度の高いものだったんですが、ご自身のスキルを活かして新しいチャレンジをしたいと応募してくださいました。
田中: 海外販路開拓とは、またすごいですね。
山嵜: 竹内さんは、元々翻訳の仕事もされていたそうで英語も堪能ですし、前職では多くの部下をまとめる役職も経験されていて、マネジメント能力も非常に高い方です。まだ着任されて間もないですが、「市としてどういう戦略で海外に売り込んでいくか、その共通認識を事業者も含めて作っていく必要がある」と、すでに本質的な課題に取り組んでくれています。聞いているだけで圧倒されますよ(笑)。
田中: 素晴らしい方が来られたんですね!
山嵜: 本当に。竹内さんが来てくれたことで、隊員同士の横のつながりも生まれ始めています。「個々の活動も大事だけど、協力隊というチームで高岡のことを考えていくことも重要だ」と、他の隊員にも働きかけてくれているんです。私たち行政側も、そういう動きをサポートしていきたいと思っています。
一歩踏み出すあなたへ:地域おこし協力隊という挑戦
田中: 最後に、地域おこし協力隊に興味を持っている方へメッセージをお願いします。
山嵜: 私自身、協力隊の担当になって、外部からの視点がいかに地域にとって刺激になるかを実感しています。協力隊員という新しい風が入ることで、地域や特定の業界が変わっていく様子を間近で見られるのは、本当に素晴らしいことだと感じています。
高岡市としても、せっかく来てくださる隊員の方には、「やりたい」と思ったことに挑戦できる環境をできる限り提供したいと考えています。そのためにも、採用前のカジュアル面談などを通じて、お互いの思いをしっかり共有することを大切にしています。
地域おこし協力隊の募集は全国的に増えていて、自治体間の競争も激しくなっています。だからこそ、私たちは「テーマ(活動内容)」だけでなく、受け入れ側の体制や思いをしっかり伝えることで、選ばれる地域になりたいと考えています。
もしあなたが、「何か新しいことにチャレンジしたい」「自分のスキルを地域のために活かしたい」「地域の人たちと一緒に未来を創っていきたい」そんな思いを持っているなら、ぜひ地域おこし協力隊という選択肢を考えてみてください。そして、もし高岡市に少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ一度お話ししましょう。美味しい魚を用意してお待ちしています(笑)。
田中: 山嵜さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!