私たちぴたカフェは、「保育業界の採用をカフェから変える」という独自のアプローチで、保育業界における採用課題に挑戦しています。一見すると「カフェ」と「採用支援」は結びつかないように思えるかもしれませんが、この組み合わせが生み出す相乗効果が、保育業界に新しい風を吹き込んでいます。
今回は、私たちの挑戦の軌跡と、保育人材確保の新しいモデルについてお話しします。
ぴたカフェとは - 保育者のための第三の場所
ぴたカフェは、保育士・保育学生に対して、職場でも学校でもない「第三の場」として機能するコミュニティスペースです。
具体的には以下の3つの分野をケア・サポートしています。
- 保育の職能
実習準備、課題対策、保育案、絵本、季節の制作など - キャリア
実習園選び、就活相談、キャリアデザイン、転職相談など - コミュニティ
保育学生・保育士・園長先生・地元企業の交流の場
施設は主に以下のスペースで構成されています。
- カフェスペース
学生が空きコマで友達と過ごしたり、昼食を取ったりするフリースペース - 工房
フェルトや工作用紙などの保育材料が無料で使えるスペース - 情報掲示板
保育施設の情報を掲示し、就職活動をサポート
2021年には第15回キッズデザイン賞(主催:キッズデザイン協議会、後援:経済産業省、内閣府、消費者庁)の「子どもたちを産み育てやすいデザイン部門」で受賞しました。
教材から見えてきた、採用という課題
私たちと保育業界との出会いは、教材の提供から始まりました。1,000種類以上の教材の中から、現場の保育士の方々と共に108種類を厳選。その過程で、単なる教材の提供に留まらない工夫を重ねていきました。
108種類全ての教材に保育案を付け、「狙い」や「声かけ」など具体的な実践方法を記載。さらに写真も撮影し、読み合わせを通じて研修にも活用できる内容を目指しました。特に新人保育士の方々が、保育案と教材があれば安心して保育に取り組めるよう、細かな配慮を心がけています。
この過程で、保育現場が抱える深刻な課題が見えてきました。朝から晩まで子どもたちを預かりながら、保育や事務作業など全ての業務をこなす保育士の方々。本来でも体力的・精神的に負担の大きな仕事ですが、「早期離職」による人手不足がその負担をさらに重くしています。
現場の保育士の方々からは「人手が足りず、一人あたりの仕事量が増えている」「新人の先生が定着しないため、残されたメンバーの負担が増える」という切実な声を聞きます。この負のスパイラルを断ち切るためには、採用時のミスマッチを防ぎ、新人保育士の定着率を上げることが不可欠です。
従来の採用・就職の仕組みは、養成校への求人票の提出とハローワークでの募集が主流。しかし、この方法では学生と保育施設の相互理解が十分に深まらず、ミスマッチによる早期離職につながるケースが少なくありません。
この状況をデータで見ると、保育業界では約25%が入職後3年以内に離職するという厳しい現実があります。この早期離職の主な原因の一つが、就職前の「相互理解の不足」でした。
カフェという選択 - 出会いの質を変える場所づくり
試行錯誤の末に行き着いた答えが「カフェ」です。ただし、私たちが作ったのは一般的な飲食店としてのカフェではなく、セルフサービスの飲み物コーナーを備えたコワーキングスペースのような空間。リラックスできる「サードプレイス」としての機能を重視しています。
私たちが目指したのは、単なる情報提供の場ではなく、「本音で語り合える関係性」を生み出す場所です。
カフェには不思議な力があります。緊張感のある就職説明会や面接室とは違い、お菓子やアイスを囲みながらの何気ない会話の中で、学生も保育施設の方々も自然と打ち解けていきます。一人暮らしの学生が「実家のような居心地の良さ」と語るように、ぴたカフェのスタッフとの何気ない日常会話を通じて、悩みや不安も少しずつ言葉になっていきます。
実際に、ぴたカフェを利用した学生からは「保育施設の方と話すのが怖かったけど、カフェだったからこそ質問できた」「園の雰囲気や日常が具体的にイメージできた」という声を多くいただいています。
コロナ禍を経て、学生の就職活動に対する意識も変化してきました。インターンシップに対する腰の重さや、園の情報を聞くだけで足踏みしてしまう学生の増加。そんな状況を受けて、私たちは「保育園ピクニック」という新しい取り組みを開始。ぴたカフェのスタッフが同行して園見学を行うことで、学生の一歩を後押ししています。小さな一歩ですが、確かな変化を生み出すきっかけとなっています。
新しい採用モデルの実績と成果
コロナ後の来店者数は大幅に増加し、2024年度には約2,000名が来店。また、インターンを活用した園訪問も増加し、2024年度は273名が参加しています。参加者は福岡県内の養成校を中心に、県外からも広がりを見せています。
カフェを起点に構築した私たちの採用支援モデルは、具体的な成果を生み出しています。
例えば、当社がサポートする保育施設では、従来の「求人票を出して待つ」という方法から、「認知→母集団形成→インターン→求人」という体系的なプロセスへの転換を行いました。この新しいアプローチにより、採用活動の質が向上し、安定的な採用を実現できる保育施設が着実に増えています。
JR博多駅での子育てイベントは、学生と保育施設が協働で企画・運営する取り組みとして、保育の仕事の魅力を広く発信する機会となっています。
また、私たちが企画・運営するHOCARI JOBは、学生主体の就職イベントとして、多くの学生のインターンシップ参加につながっています。
最大の特徴は、学生自身が企画・運営を担うこと。スタッフが学生というだけで、会場の雰囲気は驚くほど和やか。参加者もスーツではなく私服で参加し、就職学年に限らず、実習先を探している下級生も参加しています。参加施設からも「従来の就職説明会とは学生の質問の質が全く違う」「採用活動の効率が格段に上がった」という評価をいただいています。
各保育施設の理念やビジョンの言語化支援も行っています。インタビューやアンケートを通じて、スタッフ全員が無意識に大切にしている価値観を見出し、言葉にしていく。この過程で、それぞれの園の独自の魅力が明確になってきています。
数字で見ると、私たちの活動は:
- 年間約2,000名の学生との接点創出
- 280名のインターン・バイト参加実績
- 35法人の保育施設との継続的な連携
これらの成果は、カフェという「場」と、一般企業の採用ノウハウを組み合わせた新しいアプローチの有効性を示しています。
共に挑戦する仲間へ
保育業界の採用に、カフェから挑む。一見遠回りに見えるかもしれませんが、この「遠回り」こそが、実は確かな「近道」だと私たちは確信しています。
この記事を読んで、私たちの挑戦に共感いただけた方、興味を持たれた方は、ぜひ一度ぴたカフェにお立ち寄りください。
保育の未来を変えるきっかけは、ふらっと立ち寄った場所での何気ない会話から生まれるかもしれません。
いつでも気軽に、お待ちしています。