マイクロベースは、人口減少社会における住まいとまちのあり方を、データとテクノロジーの力で描き直すことをミッションに掲げています。空き家対策や住宅政策をはじめ、地域に根差した課題に向き合い、AIやデータを活用したプロダクトを開発してきました。
データを集め、構造を捉え、予測し、よりよい選択肢を提示する。AIは、複雑な問題を整理し、業務を効率化し、一つひとつの課題を解決するための強力な手段です。私たちも、その可能性を信じて開発を続けてきました。
しかし、現場の声を聞き、提供いただいたデータを分析するほど、ある限界を強く意識するようになりました。
「最適化」だけでは届かない場所
AIやデータ解析が得意とするのは、目的や評価基準が定められた世界での最適化です。時間、費用、距離、利便性など、何をよしとするかが決まっていれば、膨大な選択肢のなかから合理的な答えを導き出せます。
一方で、地域が抱える課題のなかには、個別の業務を効率化するだけでは変えられないものがあります。利便性の高い地域には人や資本が集まり、そうでない地域では将来の見通しを描きにくくなる。空き家への対応を一件ずつ高度化できたとしても、人口減少や一極集中といった構造そのものが解消されるわけではありません。
AIで「正しい答え」を速く出せるようになっても、そもそも何を答えとするのか。どのような未来を望むのか。その問いまでAIが自動的に定めてくれるわけではありません。
ここに、AI開発会社としての私たちの限界があります。
最短経路は、いつも最良の道なのか
この限界について考えるとき、思い出すのが2014年のTED Talk、Daniele Quercia氏による「Happy Maps」です。
一般的な経路探索は、時間や距離を基準に最短・最速のルートを示します。しかし、最も効率的な道が、最も楽しく、心に残る道とは限りません。目的地へ早く着くことが大切な場面もあれば、途中の景色や偶然の発見にこそ価値がある場面もあります。
これは、住まいやまちについても同じではないでしょうか。
駅からの距離、都心へのアクセス、周辺施設の充実度。こうした指標は、住まいを選ぶうえで重要です。しかし、それらだけで測ろうとすれば、同じ尺度のなかで高得点を得る地域に選択が集中します。そして、その尺度から外れた場所にある豊かさや可能性は、評価されないまま取り残されてしまいます。
私たちはこれまで、社会にある問題を見つけ、それを解決するための方程式をつくり、AIやデータによって最適化してきました。けれども、方程式をつくった瞬間から、世界はその尺度でしか評価できなくなります。
最適化の精度を高めるだけでは、既存の価値観を超えた未来は生み出せない。私たちが直面しているのは、技術力だけの問題ではなく、問いの立て方そのものの問題です。
AIをつくる会社から、実行する会社へ
では、限界の先へ進むにはどうすればよいのでしょうか。
必要なのは、AIの性能をさらに高めることだけではありません。これまで評価の対象にならなかった価値を見つけ、別の尺度をつくり、実際の暮らしや地域のなかで確かめることだと考えています。
空き家や空き地も、問題としてだけ捉えれば、減らすべき対象になります。しかし見方を変えれば、新しい活動や暮らしを始めるために残された余白であり、地域の未来を試すことのできる資源でもあります。
データを分析して終わるのではなく、そこから仮説を立て、自分たちで実践し、得られた経験を再びデータやプロダクトへ還元する。生活者、事業者、研究者、開発者といった立場を越えながら、まだ名前のない価値を探っていく。
その循環をつくることが、AI開発会社としての限界を超える一つの手立てになるのではないか。私たちは、そう考え始めています。
これから、動き出します
まだ、明確な答えがあるわけではありません。どのような方法が有効なのか、どこまで形にできるのかも、これから検証していく段階です。
ただ、AIが既存の課題を効率よく解くための道具にとどまらず、これまでとは異なる未来を構想する力になるためには、開発する私たち自身が現場へ踏み出し、試し、学ばなければならないと考えています。
マイクロベースはこれから、AIとデータによる「最適化」の先にある価値を探るため、新たな挑戦を始めます。
その取り組みを定めました。今後の記事で改めてお知らせしていきます。