愛媛県伊予市は、松山空港から車でわずか20分とアクセスが良く、瀬戸内海に面した穏やかな海と緑豊かな山々が広がる、自然に恵まれた地域です。海と山の両方を楽しめることから、その住みやすさが注目され、近年では移住先としても人気が高まっています。
そんな伊予市の観光地域づくりに取り組んでいるのが、令和5年に地域DMOに登録をされた一般社団法人伊予市観光物産協会ソレイヨ(以下「ソレイヨ」)です。
当社はこのソレイヨを支援先としてサポートしており、現在、観光DMOを推進するリーダー候補を募集しています(求人情報はこちら)。
今回は、当社から派遣された専門人材であり、現在ソレイヨの事務局長を務める清水涼太から伊予市観光の現状や仕事の魅力について話を聞きました。
清水 涼太((一社)地域人財基盤 ディレクター)
大手ホテルにてレストランサービス責任者、料飲部支配人を経て澤田経営道場の一期生として入塾。経営について学んだ後、株式会社かづの観光物産公社の執行役員及びDMO室長務め、 5期連続赤字施設であった施設を3期連続黒字に成功させた実績を持つ。その後も地域経営に携わり続け、現在は一般社団法人地域人財基盤に所属し、地域DMO一般社団法人伊予市観光物産協会ソレイヨの事業部長として伊予市の観光地域づくりに尽力している。
――今日はよろしくお願いします。はじめに、ソレイヨの設立背景からお聞かせください。
清水:ソレイヨは、伊予市に元々あった観光協会の後身として、観光業をさらに盛り上げるために、令和4年1月に設立、令和5年に登録DMOに認定されました。
伊予市の課題として、当時から「JR下灘駅」には多くの観光客が訪れているにもかかわらず、その周辺には観光客が周遊することがなく、地域に利益が生まれる仕組みが欠けていることが挙げられており、地域のマーケティングを通じて、伊予市の「観光」を盛り上げ、地域に利益をもたらすことを目指して立ち上がった組織です。
また、伊予市は温暖な気候で育まれる豊富な物産品を有しているにも関わらず、それらを上手く活用できていない状況にあり、物産の活用は伊予市にとって大きな可能性を秘めているものでした。そうした背景から、ソレイヨの事業軸である「観光」と「物産」という方針が固まりました。
―具体的に、ソレイヨではどのような事業を行っているのでしょうか?
清水:現在ソレイヨでは「観光事業」「地域振興事業」「体制整備事業」「物販事業」という、大きく分けて4つの事業を柱に活動をしています。
観光事業では、伊予市内の穴場をガイド付きでサイクリングすることができる商品を作って販売したり、伊予市内を歩いて散策することで、謎を解くことができるという「謎解き街歩きツアー」の企画・販売を行うなど、旅行で訪れた観光客が伊予市を存分に楽しむことができるような旅行商品を造成しています。
地域振興事業では、伊予市や地域振興協議会と連携をしながら、首都圏などで開催される物産展で伊予市のPRを行ったり、「ふたみほたる祭り」や「夕焼けプラットフォームコンサート」などのイベントを開催して、観光客はもちろんですが、伊予市に住む人々も楽しむことができるイベントを開催しています。
体制整備事業では主に、DMOとして伊予市の観光地域づくりを推進していくために必要なデータの収集やマーケティング、観光案内所の運営などを行っています。
物販事業では、伊予市の特産品の販路拡大を目的とした取り組みを行っています。具体的には、「モノ・ヒト交換交流事業」と題し、提携エリアと共にお互いの地域産品を交換し合い、それぞれのエリアで販売するという内容です。昨年は秋田県鹿角市と連携をして、鹿角市にある「道の駅かづの」「道の駅おおゆ」にて伊予市の特産品を販売しました。
モノの交換を通じて生産者同士の理解が促進されることで、地域のPRにもう一段階広がりが生まれるのがこの事業の特徴です。
ー多岐に渡る活動をされていますが、活動の軸はどのようなものがありますか?
清水:ソレイヨでは、「地域の魅力を最大限に引き出して、訪れる人も暮らす人も笑顔になれる持続可能なまちづくりをリードする」というビジョンを掲げ、その実現に向けて、【地域資源の魅力を引き出す】【人と人の交流を促進する】【新しいことに挑戦する】という3つのミッションを軸に活動しています。
伊予市だけに限った話ではありませんが、日本の地域はどこも人口減少という深刻な課題を抱えており、この状況を変えるためには、地域事業者にただ支援や助言をするのではなく、地域事業者の「共同体」として、地域と同じ目線で一緒に考え、一緒に動くことが必要なのです。
実際、これまで伊予市は「JR下灘駅」以外にこれといった目立つ観光資源がなく、地域の魅力をうまくPRできていませんでした。ただ、伊予市には海・山・街が絶妙なバランスで揃った、他にはない魅力があります。このポテンシャルを磨き上げていけば、きっともっと多くの人に伊予市の魅力を届けられると思っています。そのためにも、観光と物産の両面から地域を盛り上げ、持続可能なまちづくりを目指していきます。
ー 一般的にDMOは「地域の旗振り役」や「司令塔」と表現されることが多いと思いますが、「共同体」として一緒にやっていくことが重要だと言っていました。この「共同体」という言葉に込めた想いについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
清水:そうですね。前述の通りソレイヨは、令和5年にDMOとして認定を受けたばかりの成長過程の組織です。ですので、私たちは地域事業者の先頭に立ってグイグイ引っ張っていくような存在ではなく、何が必要なのかを一緒に考え、主体性を持って地域と共に挑戦をし続けていく姿勢が大事だと考えています。
物産品の販売を伴う「モノ・ヒト交換交流事業」などが良い例ですが、地域の商品をたくさん売るための活動を重ねる、たくさん売れると事業者の方々から喜ばれる、地域の皆さんの利益に繋がる取り組みの輪が広がっていく、共に外貨を稼ぎ伊予市に落ちるお金を増やしていく。そしてそれを持続していけるようにする。そのようなサイクルを生み出していきたいと考えています。
そのためには、私は指示をする人でもなく、支援者でもなく、地域の皆さんと同じ未来を見据えて進む「共同体」のような存在でありたいと願いますし、このスタンスを非常に大切にしています。
(東京で開催した物産展での一枚)
(秋田県鹿角市×愛媛県伊予市で開催をした「モノ・ヒト交換交流事業」の様子)
―「地域事業者の共同体」、素敵な心構えですね。事業を進める中で日々意識していることがあれば教えてください。
清水:私が常に意識しているのは「スピード感」です。事業を進めていくためには、地域と私たちが互いに信頼し合える関係であることが必要不可欠です。そのためにも、まずは行動を通じて熱意と存在意義を示すことが重要だと考えていますし、偶然の出会いから発掘した地域資源を拡販する取り組みでは、スピード感が鍵を握ります。
例えば、伊予市で豆腐を製造している株式会社豆愛という会社があるのですが、この会社が作る豆腐は本当に美味しくて、この味はぜひ県外にも広めるべきだと感じました。そこで、工場見学や試食会を組み合わせた体験型コンテンツとして企画し、今年11月から「じゃらん」で体験販売を開始しました。
このように、地域資源の発掘から商品化までを迅速に進められるのは、事業者と一体となって行動しているからこそだと思いますし、スピード感を持って取り組むことは、地域において非常に重要であると感じています。こうした活動事例を残していったことで、事業者たちから事業の相談を受けることも少しずつ増えてきて、徐々にその輪が広がっている実感もあります。
―観光地として盛り上げていく上で、伊予市とソレイヨ、それぞれどのような課題感が見えてきましたか?
清水:観光地としての伊予市が抱える地域課題は「宿泊施設の少なさ」があります。やはり、旅行に行った際に一番大きな金額が動くのが宿泊なのですが、伊予市は宿泊単価が低く、そこにお金を使ってもらえるような環境に無いのは、観光地としての収入が伸びない大きな要因の一つだと思っています。ただ、そういったハード面での整備などは色々なハードルがありますが、国の補助金を活用しながら伊予市と一緒にプロジェクト化をするなど、伊予市と一体となって解決できたらと思っています。
また、ソレイヨという組織が持つ課題は「プラットフォームがない」という点です。
以前私は「道の駅かづの(秋田県鹿角市DMO)」に勤めていましたが、かづのでは、例えば都心の物産展で地域産品を販売する際も、自分たちの道の駅に置いてある商品をすぐに選んで運ぶことができるため、コンテンツの確保から販売までがとてもスムーズですし、事業者還元のための流通の選択肢が多くありました。
あくまで私の経験則ですが、物や人が集まるようなプラットフォームを軸としたオペレーションを作ることで、物販だけでなく旅行商品販売もスムーズに進められます。
ソレイヨでは、伊予市の商品を全国に展開するための事業として「モノ・ヒト交換交流事業」を行っていますので、伊予市にあった形のプラットフォームを作ることができると、より一層物販も旅行商品も展開が広がるのではないかと思います。
「本気の地方創生」を実現する、チャレンジ精神あふれる仲間を募集
―今後ソレイヨという組織をより一層強くしていくためには、どのような方に加入して欲しいでしょうか?
清水:伊予市はポテンシャルがありながらまだまだやれることがある地域だと思います。ある意味、0からの観光地域づくりに取り組みたいという挑戦心と情熱を持っていることが一番重要なことです。
また、これまで、市や事業者とのコミュニケーションを通じて、「何が必要なのか」をキャッチしながらスピード感を持って行動してきました。地域事業者と共に伊予市の観光を盛り上げていく取り組みの初動としては、このやり方で間違ってはいなかったと思います。ただその一方で、エビデンスに則った行動戦略づくりは十分ではありませんでした。
DMO事業をさらにレベルアップさせ、地域により大きな利益をもたらす存在になるためには、マーケティング視点でデータや人の動きを見ながら、DMOとして取るべきアクションプランを考え、実行する機能の更なる強化が必要だと考えています。
観光物産における商品・コンテンツづくり、流通網の構築、インバウンドの強化、受入環境の整備などやるべきことはたくさんあるので、自分たちで形を作り上げていくことを楽しめる方が仲間になってくれると嬉しいですね。
―地域の声を聞きながら、マーケティングによるデータを活用して強くしていく、というイメージでしょうか。
清水:そうですね。ただ、マーケティングによるエビデンスに基づいた戦略を策定することは重要ですが、それに縛られるのではなく、臨機応変に「走りながら考える」という姿勢でいることが大切だと思っています。地域に寄り添いながら共に活動を積み重ねていくと、その時その時で何が必要なのかが見えてきます。大切なことは、そういった時にスピード感を持って地域のために行動を起こす、ということです。
―ソレイヨではまさに「走りながら考える」姿勢で多くの取り組みを形にしてこられた清水さんですが、そうした実体験から、ソレイヨの仕事にはどのような面白味があると思いますか?
清水:この地域には既に、海や山、夕陽などの豊富な資源や歴史、文化、空港や都市へのアクセスなどの環境面での優位性など、多くの輝かしい価値があります。その上で、今よりもっと多くの人をこの伊予市という町に集めることができる伸び代があると本気で感じているのです。
ポテンシャルがあり、前を向いている人々と一緒に「本気の地方創生」に挑戦できる環境があります。地域の人々と力を合わせ、伊予市が持つ潜在的な魅力を0から1へ、そして10から100へと育て上げます。地域の枠を超え、その価値を日本全体に発信していくことは、大きな挑戦であり、同時に大きな誇りでもあります。
目の前の課題を一つひとつ解決していく地道な取り組みとチャレンジの先には、必ず大きな喜びや感動が待っていると確信しています。地域とともに成長し、伊予市の未来を創る一端を担えることが、今の私にとって情熱を注ぐべきことであり、それを共有できるメンバーを増やしていきたいと思います。