ClipLine株式会社は9月から新しい期に入り、組織体制も変更されました。このたびABILI事業部の責任者になった取締役CSOの植原に、外食や小売を中心とするサービス業界の支援において進むべき道について聞きました。
慢性的な人材不足、人件費や材料費などの上昇、お客様や商品の多様化など目まぐるしい外部環境の変化の中、「次の一歩」をどう踏み出すのかが各社に問われています。
植原 慶太 Keita Uehara
大学卒業後、三菱総合研究所に入所し、都市、交通、観光、社会保障、消費者政策などの分野で産官学のクライアントへのコンサルティング業務に従事。2014年から2年間は三菱地所に業務出向し、再開発エリアのエリアマネジメントや新規サービス開発を担当。
2018年にClipLineに入社し、カスタマーサクセス部門でコンサルタント、導入支援部長を務める。その後、カスタマーサクセス全体統括を経て執行役員に就任。
現在、取締役CSOとして、ABILI事業部の責任者を務める。
家ではジャックラッセル2匹に癒される愛犬家。週末は料理も楽しむ。
外食DXの表側と裏側
――当社のお客様であるサービス業、特に外食産業ではどんなふうにテクノロジーが活用されていますか。
いまやどの業界でもDXが進み、外食産業も例外ではありません。チェーン展開する企業であれば、現場オペレーションに何かしらのデジタルサービスが導入されているのは当たり前になっています。コロナ禍前まではPOSシステムやハンディターミナルなど、限定的な対応で止まっていた企業も多かったのですが、コロナ禍をきっかけにセルフオーダーシステムや配膳ロボットなどが一気に普及しました。
ただ、私たちが支援しているのは、こうした目に見える部分ではなく、企業の内側──人材のスキルアップやマネジメントの領域です。本部からの情報を各地のスタッフ一人ひとりにしっかり届ける。拠点同士でノウハウを共有する。そして本部が離れた場所から現場の様子をきちんと把握できる。ABILIはそんな役割を担っています。
企業の内側でもテクノロジー活用は進んでおり、本部の業務は効率化されています。その一方で、人員削減が進みすぎて「新しい取り組みをやりたくても動けない」という声も出てきています。DXで既存業務はスリムになったけれど、新しい挑戦には結局“人”が必要なんです。
本当に大事なのは、現場が長期的に利益を生み出せる体制をどう作るか。そして私たちはそれをどう支援していくのかが最大のテーマになっています。
プラットフォームが乱立する中でABILIが果たす役割
――最近の動向で目立つものはありますか。
大手ITベンダーがこぞってAI開発を加速させている影響もあり、グループウェアの機能がかつてないほど充実してきています。チェーンビジネスの現場ではさまざまなITツールをパッチワークのようにつなぎ合わせて使っているケースが多く、管理が煩雑になっています。利用ツールの数を減らし、経費も削減できることから「個別ツールをやめてグループウェアで代替できないか」と考える企業が増えてきました。
――そのような中、ABILIの果たす役割はどんなことでしょうか。
例えばABILI Clipでサポートしている従業員教育、業務連絡、マネジメントなどをグループウェアでやろうとすれば、部分的にはやれなくはありません。しかし多くのグループウェアは本来、事務職を想定して開発されており、知識だけでなく動作などの情報共有が必要なサービス業のシフトワーカーにとって使いやすいとは限らないと言えます。
そうすると結局、システムと現場の両方に詳しい人が間に立って調整したり、別のコミュニケーションで補足しないといけないため、本部コストが発生してしまいます。
そこはやはりサービス業の現場に特化して開発されたABILIの強みが光るところですので、改めて価値を伝えていく必要があると考えています。
さらに、アルバイト全員がアカウントを持っているので、個別の学習データを取得できることも大きな強みです。LMS(ラーニングマネジメントシステム)では「誰が何を見たか」までしか追うことができませんが、ABILI Clipなら視聴履歴だけでなく、業務連絡の確認やToDoの実施履歴まで個人単位で把握できますので、理論上のその人のスキルや実力(私たちは「戦闘力」と呼ぶことがあります)を定量化する助けになるでしょう。
構想段階ではありますが、プロダクト開発もひとりひとりの活動情報のデータがマネジメントに活かされるよう進めるべきだと考えています。まだモニタリングが十分でない部分もありますが、それを補完し、教育強化が店舗力向上につながり、業績に反映されることを実感していただきたいと思っています。もちろんAI機能の開発も引き続き進めていきます。
関係者全員の動きを加速する組織へ
――ABILIの進展、変化にあたり、事業部はどういったことに取り組んでいくか教えてください。
大きな組織変更はありませんが、ABILI事業部では私が責任者となり、レポートラインが一本化されます。これにより意思決定のスピードが上がり、よりスムーズに業務推進できるはずです。また、コミュニケーションの質を高められると考えています。
特に、マネージャーや役員の仕事は意思決定ですが、ここが滞れば、事業のスピードは一気に落ちてしまいます。そのためには、日頃からお互いが理解している情報を揃えておく必要があります。会議体の設計や部署横断の情報共有の仕組みも、そのために整えていきます。
まず、部署横断の連絡会をスタートしました。役割を担ったメンバーが集まり、議論し、アクションを明確にしていく。大切なのは、しかるべき関係者が常に巻き込まれている状態を維持することです。これこそが、新体制の肝だと思っています。
お客様情報に関しても、CS(カスタマーサクセス)チームだけが詳細を把握しているのではなく、他のメンバーも常に最新情報をキャッチアップできる環境が必要です。定量情報だけでなく、日々の定性的な情報も自然に共有される仕組みがなければ、お客様に向き合った共創的な動きが生まれないからです。
日々の何気ない交流から得られる情報は多い
ITだけでは届かない外食の課題
――私たちの強みのひとつに伴走支援がありますが、新体制になり、さらに今後どうすべきか考えを聞かせてください。
ABILIは特定の業種だけにフィットするサービスではないのですが、外食業界のお客様が多くを占めています。それは「提供する付加価値に対して人が介在する比率が圧倒的に高い」という特性に起因するものだと考えています。
外食の現場は課題も解決策も本当に多様で、「これが最適解だ」といえるシンプルなソリューションはまだ存在しないと思います。だからこそ私たちは、ITツールを提供するだけではなく、マンパワーをかけて現場に寄り添い、泥臭く伴走する支援を行っています。
DXの波が一巡したいま、次に求められるのは「効率化の先にある価値」をどう生み出すかです。私たちはAIを活用しながら、お客様の現場に新しい付加価値を届けていかなくてはなりません。
サービス業では、現場の大多数を非正規社員が占め、正社員が一人もいないという現場も珍しくありません。多様な人材が多様な働き方をする中で、お客様に正しく価値提供できる環境を構築する必要があります。AIも「ピープルマネジメント」の観点で取り入れ、どのように人と現場を前進させられるのかを、お客様と一緒に考え、形にしていく必要があります。
現場にAIを届ける挑戦を通じて、お客様とともに価値を創り出していくことこそが、まずは直近の使命です。