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朝日新聞社とリンクアンドモチベーションが広木大地氏と語る、開発内製化の道のりとエンジニア組織の文化の作り方

 株式会社朝日新聞社と株式会社リンクアンドモチベーションは、両社の技術顧問で、株式会社レクター取締役、一般社団法人日本CTO協会理事の広木大地氏をモデレーターに迎えて、DXを目指す企業向けのウェビナーを2022年1月にレバテック株式会社主催で開催しました。プロダクト開発の内製化に舵をきった2社は、どんな歩みでどんな困難を乗り越えてきたのか?朝日新聞社朝デジ事業センターカスタマーエクスペリエンス部・都田崇氏と、リンクアンドモチベーション執行役員モチベーションクラウドシリーズ開発責任者・柴戸純也氏が、内製化の最初の一歩から今までの過程を語りました。

(ウェビナーのトークセッション部分を採録しました)


 司会者:まずは各社と広木様との出会いからお伺いできればと思っております。

 都田:2018年頃に、DXが進んでいそうな会社さんをいくつか訪問したり、ネットで調べたりして、技術顧問になってくださる方を探していました。そのなかで、とある会社さんを訪問した際に広木さんをご紹介いただいて、すぐに連絡しました。

 広木:都田さんが、同じ業界から他の業界も含めて、いろいろ調べていらっしゃったんですよね。柴戸さんは、どうでしたっけ?

 柴戸:広木さんは、2018年の僕の入社よりも前から、リンクアンドモチベーションに技術やエンジニア組織の顧問のような位置づけで関わっていただいていました。

 広木:朝日新聞社さんもリンクアンドモチベーションさんも、世の中に対してのソーシャルグッドの価値というのをすごく追求していますね。その観点とエンジニアのビジョンが重なる部分があると思っています。いろいろ新しいものを入れて、組織をあれこれ変えていく中でも、ちょっと会社の存在意義、最初に提供したかったソーシャルグッドに立ち戻りましょう、と。それが大事かなと思います。


 司会者:ミッション・ビジョン、あるべき姿にいったん立ち返って、その上で内製化を考えていくところがポイントですね。現在の開発組織をつくっていく上で、具体的に直面した課題、それをどのように解決したのでしょうか。都田さんはいかがでしょうか?

 都田:そうですね、当時、プロダクトの品質が伸び悩んでいるということは社内でも皆思っていたので、そんなに抵抗感はなかったかもしれません。プロダクトが良くなるなら、と。

 一番の課題は、やっぱりマネジメントのところですよね。優秀な方に集まっていただいても、まとまりがないというか方向性が定まらないという時期もあった。そこにマネジメントする人が来てくれたので、進んでいけたと思います。

 広木:実は、朝日さんって、デジタル化に関しては、結構早い時期から取り組んでいるんです。都田さんから過去のアーキテクチャをいろいろ見せてもらったときに、あれ、この時期にこれやっていたんだったら、結構先進的なんじゃないの?という要素もあって。だけど、時代が変わっていって、そのノウハウが消えてしまっていた。継続していくための文化的な土壌がないと、都田さんがすごいチェンジマインドを持っていてもうまくいかない…というところが当初はありました。

 チェンジマインドがあるというのは、リンクアンドモチベーションさんにもかなり共通する部分があると思っていて、そのあたりを柴戸さんに伺いたいと思います。

 柴戸:課題はいっぱいありました。まずコミュニケーションで言うと、元からテクノロジー企業だったわけではない分、会話をしていくことには工夫が必要でした。例えば、なんでMacBook必要なのか、AWSって何か……みたいな部分もすぐに通じるわけではありません。なので、できるだけ相手の頭の中にある単語を使って、例えば営業の人には「AWSが止まったらJRが止まったのと同じです」と説明していました。

 次は、文化ですね。文化のないところに、エンジニアがぽんと放り出されたらすぐ辞めると思うんですよ。やっぱりエンジニアリング、作るプロセスのことを、ちゃんと相手に理解してもらう。逆に僕も相手のことを理解する。そういうことには、今も結構力を注いでいます。

 司会者:柴戸様はエンジニア1人目だったので、開発以外の方とのコミュニケーションから始められたんですね。まだ内製化していない企業の共通の課題だと思います。

 広木:(外注の場合)SIの人や営業さんがすごくうまくやってくれたりするので、何もエンジニアの言葉が通じてなくても、意外と物を作ってくれたりしちゃう。ただ、エンジニア同士がうまく話せれば、もっとスピーディーに解決できる。プロダクト部門にも、エンジニアの言葉で喋るハブとなる人を、いろんなレイヤーにちょっとずつでも増やしていくことが大切です。

 お手伝いしている会社で、エンジニア採用ができました、でもすぐ辞めちゃいました、っていう苦い経験が僕にもあります。なんで?と聞くと、やっぱり「言葉が通じなくてつらい」と。

 柴戸さんのようにすごくタフネスがある方ならいいけれど、やっぱりそういう人って珍しいです。技術力が高い、マネジメント力がある、かつ、話が通じないことに対してコミットするタフネス、この三つを獲得しようとすると、やっぱりレアになっちゃう。そうじゃなくてもいい状況に、いかに近づけていくかを意識することは大事だと思います。

 司会者:そうですね、そういったゼロベースのカルチャーの中でタフになれる方は、本当にすごく希少な方だと思います。

 広木:時間をかけるのかスピーディーにやるのか、お金をかけるのかかけないのかという要素はあっても、そういう人を上手く見つける活動にコミットし続けることが大事だと思います。都田さんも、ネットで調べるだけじゃなくて、プロジェクトに関わる人とちゃんと会話をして、ものすごい勢いでレベルを上げてこられた。最初お会いしたころは、なんか言葉としては聞いたことあるけど…というレベルだったものが、実際に目の前で見たことあるというレベルにどんどん変わって、判断がとんちんかんなことにはならなくなっていきました。その辺りの意識を持って学んでいくことが、非常に重要かなと思います。


 司会者: DXの過程で、技術者以外の技術理解を広げる必要があると思うのですが、どのようにすればうまくいくのでしょうか。

 広木:僕は、体感していただくというのが大事だなぁと思っています。誰からどんな順番に体感してもらうか、そのあたりは都田さんや柴戸さんから聞きたいですね。いかがでしょうか?

 都田:やっぱり改善が早くなってきているっていうのは、社内で体感できてきていますね。最初は小さくアプリから始めて、うまくいったからどんどん社内で広げていくという形をとりました。本当はお客様に向けてすべてやりたいのですが、社内の人にも同時に認めてもらえるような形で、アウトプットをコツコツ出し続けていくことかなと思います。

 柴戸:小さな「良くなった」「面白いじゃん」を積み重ねていくこと、そこまでの体験を共有することが大事かなと思っています。プロジェクトを一緒にやってみて、何か小さな成功を作ることで、いい流れを感じてもらうことは大事だと思います。


 司会者:フリーランスを入れた内製開発の体制作りの中で、何か困った、これが不安だったみたいなことはあるでしょうか。

 都田:不安ですか。最初、慣れるまでは「アウトプットは大丈夫かな、でも、もう信じるしかないよな…」みたいに思っていました。幸い、来ていただく方が良い方が多かった。ただ、常にその方がスキルアップできるような環境をうちが提供できるかどうかというところは、良いエンジニアに継続していただけるかのポイントだと思っています。朝日新聞社がレベルアップして、エンジニアがスキルアップできるような会社になって、優秀な方に是非来てもらいたいなと思って頑張っています。

 柴戸:一般論ですけど、フリーランスとパートナー企業さんとの違いを言うと、メリットデメリット双方があると思います。

 例えば、フリーランスの直接雇用だと、何らかの理由でその人がいなくなったら、代わりを自分たちで何とかしなきゃいけない。反対にパートナー企業さんだと何とかしてくれる。コストはどっちが高いかっていうと、そのときの人数によって変わってくる。

 僕たちも内製化する直前は、フリーランスの人にたくさんご協力いただきました。何が良かったのかという話をすると、パートナー企業さんだと、もちろん良いパートナーさんも多くいるんですけど、やっぱり当然売り上げが目標なんですね、リアルな話。そうすると僕らのやりたいこととコンフリクトしやすい、あまり一致しない局面も多いかなって思います。内製化を進めるためには、そういうコンフリクトのリスクが少ないフリーランスの方々にも力をお借りできたのはよかったと思います。

 広木:やっぱりSIに近い形では、1人優秀なエンジニアさんがいて、後ろにジュニアな人もつけてトータル4、5人のチームになる。これは生産性が少し下がりながら、けっこう教育コストを(発注元が)払っちゃってるところがある。フリーランスの方だと、個別にお話聞きながら、この人ってこういう領域強いんだなとか、ちゃんと一人前にテックリードができそうだなとか、ちゃんといい人をピックしてチームを作っていけるメリットがありますね。

 その分、マネジメントは大変なんですよ。ちょっとしたコンフリクトなら良いのですが、大きな揉め事になると困るので、そうならないくらいにうまくしながらノウハウを貯めていけると、気づいたらエンジニアと働くことが得意な組織になってくると思います。だけど、フリーランスでも、全然勉強する気ないとかキャッチアップできてないとかっていう人もいっぱいいて、いろんな力学が働いているところを管理しようとすると、めちゃくちゃ大変ですね。


 司会者:そうですよね。エンジニアの方にモチベーション高く働いていただくために工夫されていることはありますでしょうか。

 都田:モチベーションの維持については、エンジニアマネージャーとエンジニアとで「面白いもの、なんか作ってもらえません?」「こんなのどう?」と提案したり提案されたりみたいなコミュニティをやっています。モチベーションについては正解がわからなくて、色々な姿勢を試している感じですけど、なんとか頑張っています。

 柴戸:そうですね、WHYの部分と、あとは期待値ですね、エンジニアが何を得たいのか、どういう経験を積みたいのかっていうところをちゃんと最初に握ることかな。入社前後のギャップがないようにすることが、まず大事かなと思います。


 司会者:ギャップが生じないようにというところがポイントなんですね。内製化の初期にフリーランスを採用する際は、技術力をどのように評価していましたか。初めてのときは難しかったのでしょうか?

 柴戸:システム構成図を書いてもらったりプログラミングみたいなものをしてもらったり。僕自身は自分で見極めようとしていました。ただ、それだともしかしたら期待に応えられていないかもと思ったので、広木さんや別の技術顧問の方にも面接はお願いしました。

 司会者:外の方に面接に同席してもらって、採用の見極めを学ばれたということですね。

 都田:やっぱり最初は全くわからなかったですね。最初にスクラムのメンターを誰かにお願いしようと思ったときは、広木さんに面接に立ち会っていただきました。でも、だいたい広木さんと意見は一致しましたね。お互いに関心を持って話したり聞いたり…という面接のやりとりの中で、コミュニケーションの印象が大体一致するというか。

 エンジニアマネージャーが入社してからは、彼に同席してもらっています。たくさん会って、たくさん話をして、断られたり断ったりということを、本当に100人とか200人とか繰り返していく。まずは面接してみる、面談してみるっていう行動を起こすのがいいと思います。

 広木:多分、人柄と技術力ってそんなに分離しているわけじゃないと思います。問いかけに対してどう返答する人か、ちゃんと技術に対しても真摯にやっている人なのか、そこが類型としてわかってくると、技術畑じゃない人であってもポイントが見えてきます。こういう人はふかすんだなとか、逆にこういう人は誠実なんだなとか。

 別に技術用語そのものがわかる、わからないというよりも、コミュニケーションの仕方で見えるものが増えてくるかなあとは思います。当然、全部ではないんですけど。


 司会者:最後に、今後の展望について、お伺いできれば。

 都田:ネイティブアプリとWebは内製化できたので、課金決済をやるバックエンドのシステムの強化をしていきたいと思っているところです。事業としての成長に直結している部分なので、ここができたら自信がつくと思います。「システムを作る」ではなくって「サービスを作る」というマインド、内製化を通じて部として事業に貢献することを今後も表現していけたらと思っています。

 柴戸:僕たちは、日本のエンゲージメントを高めて、組織改善をもっと楽しいものにして、国の課題である低い生産性を高めていきたいって思っています。ただ、そのやりたいこと、作りたい世界に対して、正直、全然エンジニアの人数が少ないんです。割合としても少ない。当社のビジョンはいいなってちょっと思ってくれる人がいたら、仲間になって一緒に課題を解決していけると楽しいなと思っています。

 広木:僕個人としては、どんどん労働人口が減っていく日本で、事業を成長させていく、あるいはGDPを成長させていくためには、うまくエンジニアリング、ソフトウェア、DX、これらを活用していくことが必要不可欠だと思っています。うまく説明できなかったり理解が及んでいなかったりするがゆえにDXが進んでいかないという問題を、なくしていきたい。そういった変革に興味があって、自社でそれができるんじゃないかと思っていらっしゃる方がいたら、ぜひ僕も協力させてほしいと思っています。

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