アンドパッドは、 2025 年の秋に ARR 100 億円を突破 しました。 さらに、エンタープライズ企業への導入拡大やプロダクト数の増加に伴い、システムの安定性や可用性に対する要求は日々高まっています。 その基盤を支えているのが、 SRE / DBRE / セキュリティの 3 チームを管掌するサービスプラットフォーム部です。
今回は、 2019 年の入社以来 SRE チームの中心として大規模なインフラ刷新を牽引し、現在はサービスプラットフォーム部 部長を務める 角井 暖 にインタビューしました。
最速最短で IC (Individual Contributor) としてスペシャリティを磨く道を歩んでいた角井が、なぜマネジメントへと役割を広げる決断をしたのか。 エンジニアなら誰もが一度は悩むテーマを深掘りしました。
角井 暖 (かどい だん) X: @cass7ius
ERP パッケージベンダーで DevOps を経験し、 2019 年 8 月にアンドパッドへ SRE として参画。 コンテナ化プロジェクトを経て、 SRE 、 DBRE チームのテックリードなどを担当し、 2026 年からサービスプラットフォーム部 部長に就任。 SRE / DBRE / セキュリティを管掌し、 ANDPAD の安定稼働を支える。
2 年以上にわたる「EKS 移行」と「バッチサーバーの解体」。大規模プロジェクトがもたらしたもの
―― 角井さんは 2019 年 8 月に入社されて以来、一貫して SRE 領域で基盤を支えてこられました。 これまでのキャリアで最も印象に残っているプロジェクトについて教えていただけますか。
一番長く、規模も大きかったのは、長らく EC2 上で稼働していたモノリシックな Rails アプリケーション(社内での呼称は別にありますが、本稿では「アンドパッドコア」と呼びます)をコンテナ化( Amazon EKS へ移行)したプロジェクトですね。
アンドパッドコアは、ファイル共有や非同期処理の排他制御のために NFS をボリュームマウントしており、これがコンテナ化のネックと考えられていました。 その NFS を廃止できる目処が立ったことで、「本番環境をコンテナに移行できるのではないか」という機運が高まったんです。 2021 年春に EKS の採用を決めて本格的な移行に着手し、プロジェクトが完了してチームが解散したのが 2023 年 5 月。 2 年以上にわたる息の長い取り組みになりました。 マイクロサービス基盤ではすでに EKS を採用していたので、これをもって主要なアプリケーションの実行基盤が EKS に揃う形になりました。
―― 2 年以上ですか。 具体的にはどのような点に難しさがあったのでしょうか。
特に大変だったのは、プロジェクトの最終段階で行った「バッチサーバーの解体」です。 名前こそ「バッチサーバー」ですが、実際には複数の役割が絡み合った状態でした。 開発者が SSH で接続する踏み台兼作業環境であり、 Sidekiq のジョブスケジューラーと定期実行ジョブワーカーでもあり、さらに Linux の cron でもバッチ処理が動いている。 デプロイも AMI のリリースではなく、アプリケーションコードをインプレースで配布してプロセスを再起動する方式でした。
ドキュメントの残っていない歴史的な経緯を紐解きながら、役割ごとに機能を切り分け、それぞれをどの基盤へ移すのか、誰にオーナーシップを持ってもらうのかを一つずつ決めて移行していきました。 当時は大変でしたが、アンドパッドコアのコンテナ化が完了したことで、可観測性・可搬性・可用性が改善し、問題が起きても原因の切り分けが容易になりました。 また、 EC2 時代に比べてデプロイも速く行えるようになりました。
IC としての成長からマネジメントへの移行。視座の広がりがもたらした「エンジニアの成長」の捉え方
―― 大規模な基盤刷新を経て、角井さんは IC から「部長」というトップマネジメントの道へと進まれました。 入社当初からマネジメント志向をお持ちだったのでしょうか。
いえ、入社当時の価値観からすると、現在のポジションにはかなりギャップがありますね。 アンドパッドへの転職自体、「急成長しているスタートアップに行くのが一番速く成長できる」と考えて決めたことでした。 当時は「 Web 業界で生き抜くために、最速最短ルートでスペシャリティを深める IC になる」ということだけを考えていたんです。
転機になったのは、 IC として約 4 年間、障害対応や基盤運用に向き合う中で感じた限界です。 ボトムアップで個別の技術課題に対応したり、プロダクトの要求を打ち返していくだけでは、年間計画や中長期の方向性が曖昧なままになってしまう。 ちょうど同じ頃、事業と組織の急拡大を背景に、開発組織の意思決定を担うトップマネジメント会議での議論を経て DBRE チームやセキュリティチームが新設され、 SRE のミッションもよりシャープになっていきました。
そうした流れを間近で見る中で、「チームのバリューを最大化するには、チームの取り組みを事業や組織の目指す目標と連結させるマネジメント機能が不可欠だ」と強く実感するようになったのです。
―― IC として技術を極める道と、マネジメントを担う道との間で葛藤はありませんでしたか。
経験を重ねて視野が広がるにつれ、「マネジメントの責任を負うことが、エンジニアとしての成長を止めるわけではない」と捉えられるようになりました。
コスト管理や組織構造の設計、採用やチーム編成といったマネジメントの経験は、どのような立場になっても活きる汎用的な知見です。 将来的に再び IC に戻るとしても、あるいは自分で事業を起こすとしても、顧客や社会に大きなインパクトを出すには、周囲を巻き込んでプロジェクトを動かすマネジメントの素養が必要になります。 役割を広げることは、エンジニアとしての可能性を広げる選択だと確信しています。
「足し算ではなく掛け算」SRE・DBRE・セキュリティがシナジーを生み出す自律的な仕組みづくり
―― 現在、角井さんが管掌されている「サービスプラットフォーム部」の体制とミッションについて教えてください。
サービスプラットフォーム部は、 SRE 、 DBRE 、セキュリティの 3 つの横断チームで構成されています。
それぞれのチームが専門的なミッションを持っていますが、共通しているのは「お客様に価値を届け続けるために、開発組織が全力疾走できる状態をつくる」ことです。 そのアプローチがチームごとに少しずつ異なります。
部として目指しているのは、 3 チームの施策が単なる足し算( 1 + 1 + 1 = 3 )で終わるのではなく、掛け算としてシナジーを生み出す状態をつくることです。
―― 3 チーム間での「シナジー」とは、具体的にどのような取り組みから生まれるのでしょうか。
例えば、かつてのように SRE チームがクラウドインフラの全権限を抱えたままでは、 DBRE やセキュリティチームの施策のスピードを落としてしまいます。
そこで SRE 側から責任境界を適切に切り出し、 DBRE チームが自律的に Infrastructure as Code でデータベースインフラをコード管理・運用できるよう、権限やコード管理の区分を委譲する設計を進めてきました。
セキュリティチームは幅広い施策を担っているので、足並みが揃うように施策の優先度や方針をすり合わせています。 さらに、お互いの計画を可視化し、一方のチームの取り組みが他方の足枷にならないようにしています。
また、部長として部全体に発信する場や、チームをまたいだ相談をしやすい環境を作っています。 そうした積み重ねから、チーム同士の相乗効果が自然に生まれると考えています。
組織拡大に合わせた信頼性向上。各開発チームが自ら「信頼性」にコミットできる環境づくり
―― ANDPAD がエンタープライズ領域へ拡大する中で、システム全体の信頼性に対する要求はますます高まっています。 部長としてどのような方針で臨んでいますか。
ANDPAD は元々、工務店やリフォーム会社などのお客様からスタートし、信頼を積み重ね、プロダクトを増やしながら大手エンタープライズ企業へと広がってきた歴史があります。 事業も組織も急成長してきたからこそ、いま向き合うべき課題があります。
ここで大事なのは、サービスプラットフォーム部がすべての運用や信頼性向上の実行主体になるわけではない、ということです。 私たちが目指しているのは、「各プロダクト開発チームが、自律的にサービスをデプロイし、その信頼性にコミットできる環境を作ること」です。
―― 各開発チームが自ら信頼性を高められるようにする、ということですね。
はい。 そのための「型」や標準モデルを提示するのが私たちの役割です。
製品によって対象とするお客様もワークロードの特性も異なるため、一律の指標を当てはめることはできません。 だからこそ、要求水準の高いプロダクトで SLI / SLO の測定手法や SLA の運用モデルを試行錯誤して成功体験をつくり、それを標準的な実装パターンとして他チームへ横展開していく。 そうして各チームが自分たちで信頼性を計測し、優先度を判断できる状態をつくっていきたいと考えています。
―― 最後に、この記事を読んでいる xRE の方々に向けてメッセージをお願いします。
アンドパッドは ARR 100 億円を突破し、エンタープライズ企業への導入拡大やプロダクト数の増加に伴い、アンドパッドの開発組織は、ベトナムの子会社も含めてそれなりの規模になりました。 それでも、事業の急成長に対して解くべき技術課題・組織課題はまだ山ほど残されています。
大きなチームで進める大規模なプロジェクトもあれば、スタートアップのようにクイックに基盤を用意し、走りながら構成を変えていくプロジェクトもあります。 マネジメントとして、あるいは IC として次のステップへ進みたい方にとって、アンドパッドは非常にやりがいのあるフィールドです。 開発者の伴走者として共に基盤を支え、組織の成長を加速させていきたいという方からのご応募をお待ちしています。
―― 成長し続ける技術基盤と組織のリアルなお話をありがとうございました。
ありがとうございました!