オーリーズは、ミッションに「あなたを、叶える。」を掲げており、メンバーに向けたメッセージとして「自分を殺すことなく、自分を叶える場所へ。そのために必要な環境を、追求し続ける」と明言しています。そして、その実現度を測る指標として、Wellness Quality(以下、WQ)という独自の指標を開発・運用しています。
WQインタビューと称して、マネジャー・役員陣が、年に1回メンバー全員と1対1でインタビューを行います。インタビューでは、1時間かけて11個の項目について深くヒアリングし、一人ひとりがより良く生きるための振り返りを支援したり、組織の仕組みづくりへのフィードバックを得ることを狙って実施しています。
今回はこの仕組みの導入に至った背景や考え方について、代表の鈴木とHRチーム責任者の藤井にインタビューしました。
- WQを導入した背景を教えてください。
鈴木:まず、私たちはサービスファームという業態上、メンバー一人ひとりの活躍がサービスの提供価値に直結するので、メンバーがパフォーマンスを最大限発揮できるように「いきいきと働ける」環境をつくることは、経営上、心情の面からも、合理の面からもとても大切なことだと考えています。そのため、企業としてのミッションも顧客・市場に向けたものだけではなく、メンバーに向けたものがあるべきだと考え、そのための制度や仕組みづくりに優先度高く取り組んできました。
検討を開始した当時、いろんなサービスファームのミッションから組織設計を調べていましたが、サービスファームだけではなく、サウスウエスト航空さんやザッポスさんのお話を見聞きしてすごく感動したんです。例えば、何より「社員が第一」であるとして、社員への投資や行動規範の優先度をとても高く置いています。言うは易く行うは難しで、それによって実際に生まれている社員の行動のエピソードに、これはすごいな、と。「株主第一」のアメリカの文化からすると型破りであるものの、それを貫き、同時に業績が成長している事実に感銘を受けました。
そういったなかで、「自分を殺すことなく、自分を叶える場所へ。そのために必要な環境を、追求し続ける」として辿り着いた一つのキーワードがウェルビーイングでした。今から2年ほど前に、北欧の教育や文化について実際に現地に行って学び、「自分の人生を主体的に生きる」ことに繋がる文化に出会ったんです。ウェルビーイングについては、様々な解釈や表現がありますが、私が特に印象的だったものは、「対話をベースにした関わり方」や、人と比較するのではなく「自分自身の可能性や情熱に正直になる」ことの重要性を感じて、藤井とWQの仕組みに落とし込んでいきました。
- この取組みを通しての狙いや、重要視していることは何ですか?
鈴木:制度上の狙いは、WQインタビューは人事制度の屋台骨であって、インタビューを通して拾い上げた声を、制度や仕組みにつなげていくことです。ですが、これまでオーリーズを経営する中で、メンバーの採用や退職にも向き合ってきましたが、そのたびに「本当にお互いにとって良い選択に寄り添えたのか」と自問自答してきました。メンバーがいきいきと働き、オーリーズで働いたことがかけがえのない経験になり、心底ここに来てよかったと思える状態を目指したい。ただ、経営者としてそう考えるのは当然で、「どこまで具体的な施策・仕組みがあるか」の方が重要だと考えていますし、それを追求し続ける姿勢の証明として、WQという仕組みに込めたメッセージでもって体現したいと思っています。
藤井:WQに限らず、オーリーズは仕組み化に強いこだわりを持っています。言い換えると「具体的に、どうやって現実を変えるのか?」を追求する姿勢です。達成したい目標に対して仕組みを作ること・観察できる状態にすることへのこだわりは非常に強いと思いますね。
- 別途行っている1on1とは、どのような役割の違いがあるのでしょうか? また、会社にとっての価値や重要性をどう捉えていますか?
鈴木:1on1はメンバー個々人が「自身のコンディションや将来を見据えつつ、今抱えている成長課題」に焦点を置きモニタリングを行っているもので、WQは「成長課題に留まらず、人間関係や職場環境全体に至る総括」だと捉えています。また会社としては、WQは性質上、短期的に成果が可視化されるものではないし、一つの打ち手では解決し得ないような課題が産まれますので、長期的に腰を据えて取り組むような重要性が高い項目と考えて取り組んでいます。
一方で、WQではインタビュアーがコーチングに近い関わりをして、自身の理想状態をしっかりと問うことになるので、本心から個人のやりたいことやありたい姿に焦点があたる。それにより、会社との方向性の違いによってメンバーの退職につながる可能性もありますが、もとよりそれは本質的に正しい判断だと思っています。
- WQの設問は「人生全般の充実度」をはじめ踏み込んだ内容が多いですが、運用上工夫していることはありますか?
藤井:冒頭で必ず、WQの背景・思想について伝えています。具体的には、事業面で最重要指標として扱っているサービス評価制度「SQ(サービス・クオリティ)」と同列であること、個人の評価には一切紐付かないことを強く伝えています。その上で、メンバーにとって有意義な場にするために、以下の2つを工夫しています。
- インタビュアーは内省につながる質問を心がけること
- インタビュアーを選択できるようにすること
各項目に対して10点満点で評価をしてもらいますが、その点数の価値は本人の価値観に強く依存します。点数が高かったら良いという単純な捉え方ではなく、その点数をつけた理由や背景、内省にこそ価値があるという前提があります。
そのためインタビュアーは、「前回のインタビューの時と比較して、どんな点が変わったか?」「話していて、改めて気づいたことはあるか?」など、自身の内省に繋がるような問いを投げかけます。
そして、こういった個人の思いや価値観を話す際は、インタビュアーの技術だけでなく、二者間の関係性が大きく影響を与えるので、メンバーがインタビュアーを選択できるようにしています。
- WQを運用してみてどうでしたか?
藤井:良かったことが、大きく2つあります。1つ目は、WQをきっかけに新しい制度に落とし込めたことです。例えば、現在制度として確立されているコーチングサービスを当社の経費で全メンバーが本人希望で受けることができる制度などは、WQインタビューをきっかけに生まれたものです。
2つ目は、WQの思想に強い共感を示してくれたメンバーや、WQが入社のきっかけになったメンバーがいたことです。第1回目のWQインタビューを実施した際「ここまで深い質問をされたのは、社会人になって初めてです。」と感動してくれたり、「入社の最終意思決定はWQです。」と言って入社してくれたメンバーもいます。それを聞いた時は、僕たちが大事にしている思想に共感してくれたんだなと感じて嬉しかったですね。
鈴木:私がおもしろいと感じたのは、メンバーの内観状況を客観的に前後比較できることです。例えば、1年を振り返って、本人は成長や学びをあまり感じられていなかったしても、客観的に見ると「習熟度があがることで技術的な学びの量が少なく済んだ」とわかったり、クライアントワークは上達していることがわかったり。本人が自覚できていないことを可視化できるケースは、効果として分かりやすいですね。
なにより、1年に1回こういった問いを考え、記録に残す時間を取ること自体が、大事なことだと感じます。社会人になって定期的にしっかりと内観し、それを文字として記録していくことってあまりない機会なので、 今の自身のコンディションやありたい姿、考えている事を文字に残し続けることで、人生の記録になると思っています。
あとインタビュアーを選択制にして面白かったのは、「マネージャーには感謝しているが、対面で伝えるのは恥ずかしい」という声があったことです。当然その内容は私からマネージャーにフィードバックするんですが、そのマネージャーが涙目になって聞いていたことはとても印象に残っています。ポジティブな話でも他のインタビュアーの方が言いやすいこともあるので、選択制にすることで色々な声を拾いやすくなっています。
- これからの展望を教えてください。
藤井:WQインタビューの場が、よりメンバーにとって価値あるものにするために運用改善をしていきます。年に一回の振り返りの場でもあるので、インタビュー内容を日記のように見返せるようにしたり、インタビュアーの問いの品質を高めることで、本人の内省をより良いものにしていきたいです。
鈴木:WQの場合、職場環境のみに閉じない点と、成長実感一つをとっても各個人によって尺度は様々なので、組織全体で点数が上がったから良い、と短絡的に評価することができないので、よりインタビューの場づくりをしたり、情報のとり方を工夫して各個人、そして組織の課題を見極めていきたいですね。そして、「WQインタビューを実施するたびに、その空間は当社の象徴的な場であって、この組織に所属して、自身にとって大事な時間を過ごせたなと実感してもらえるような場にしていきたい」と考えています。
[取材構成編集・文]石高志保 [撮影]足立誠愛