ABEJAにジョインした元戦略コンサルタント2人が語る「ABEJA Meet Up!」コンサル編の後編です。 話の途中でSlackのアイコン「うずまきマーク」を見せた山本さん。「2週間後に自分が何やってるか全然想像がつかない」という職場環境で、「溺れないように」という気持ちを込めたといいます。 一方、佐久間さん。「キャリアが完成したと思っていたけれど、もう一回やり直している心境。今年40歳なんで二度目のハタチみたいなもの」とたとえます。 経験豊富なコンサルタントが、ABEJAという企業に入って見えた、組織と仕事の「いま・ここ」とは。
山本直樹: わたしの与太話のためにこんな時間に来てもらったので、資料を用意しました。本当に価値があるかと言うと、これがまた怪しいんですが(笑)。
まずは、私が入った時の執務室の状況です。この歳でこんな若い会社に入ったら、そりゃ浮くなと思うわけです。みんなに腫れ物に触るように接せられたらちょっと嫌だなと最初は思いました。「フリーアドレス」と言われて、いったいどこに座ろうかと。はじめのひと月くらいはドキドキしてました。
周りの人はどう思ってるかよく分かりませんが、少なくとも私はすごく快適に仕事しています。初めに本当に驚いたのは、若いのにみんな大人だなということ。何が大人かというと、みんなそれぞれindependentと言うか、やりたいことがあってABEJAに来ている。
コンサルティングファームは「人より早く上がりたい」という、割に一次元的なところがある気がします。ABEJAは多次元ですね。だから、ジジイが来ようが来なかろうが、あなたはあなた、私は私。
分からないことがあれば、すぐ本当にみんな教えてくれるし、コラボレーションが必要ならするし、そうでなきゃしない。極めて自立しているので、すごく気持ちがいい。
山本) これ =上図 は、私のSlackのアイコンです。
前の会社ではTeams使ってたんですが、使い方が全然違う。何て言うんですかね、スタンプの数が結構大事だ、みたいなコミュニケーションをとる(笑)。「スタンプで仕事するんかい」みたいな。
執行役員のアイコンが「ゴルゴ13」だし、みんなおかしなアイコンなんですよ。これで本当に仕事してるのかな、と(笑)。
ある時、あなたもアイコン作ってくださいと言われて、困ったな、どうしようかなと思った時に、自分のABEJAでの状況を振り返りました。お風呂の栓を抜いた時にグルーーッと水が渦になる、そこにいるような気がしてきた。
ABEJAの中でグルグルグルグル回っている中で溺れないようにしなきゃと思って、これにしたという訳です。
あと、さっきの佐久間が言った「ヒエラルキーかフラットか」という話。
私、たまたま前職、前々職も含めて通信系・ネットワーク系の仕事がすごく多かったので、それに例えると、今までの仕事の仕方が「交換機」だったとすれば、ABEJAは「ルーター」なんですね。
「交換機」の時代は、効率が悪くても回線を確保しなければならなかった。これに対して、「ルーター」の時代は、10個のパケットをポーンと送ったとして、あるパケットは東名高速通っているけど、他のパケットは中央道通っているかもしれない。でも最終的に順番にそろって着いていればいいので、非常に効率がいいというのが「パケット」です。
こういう「パケット」のようなABEJAの仕事の仕方は、極めてフラットで、誰かがやってくれるだろうとSlackに書くと、きっと誰かがやってくれて、結果的に、統計的に、何か出てくるというか(笑)。
「これは本当に文化違うわな」と思いました。
ここから真面目な話をします。
=ガートナーのプレスリリースより 山本: これはGartner(Gartner, Inc.)が出している「 ハイプ・サイクル 」です。AIはいま期待のピークで、あとは落ちるだけと言われています。そんな時にABEJAに入って大丈夫か、と思いもしました。でもこれ、「期待値」ですからね。ちょっとそこはポイントで。
私が日立製作所にいた91年ごろはMBAの全盛期で、そこから今まで30年ほど経っています。当時マイケル・ポーターが、バリュー・チェーンという概念を出して「おおっ」と驚きました。
で、フィリップ・コトラーがマーケティング概念を出して、クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」を出す。あとはEVA(経済的付加価値)とか……最近では「オープンイノベーション」、もっと最近だと、トマ・ピケティの「資本主義の将来」とか。まあそういう話になってくるわけなんですけど。
「ハーバード・ビジネス・レビュー」はビジネススクールの人たちにとって聖典みたいなもので、「ここにいつか私も載りたい」とみんな思っていたんですよね。クリステンセンの著書を読んだか読んでないかでも、すごくバリューの差が出た。
ところが最近は「ハーバード・ビジネス・レビュー」も「バリューのハピネス」「オーセンティシティ」という言葉が出てくるようになった。要は「自分らしくあれ」みたいな話です。バリューもハピネスも大事だけど、もしかするとその辺で売られている自己啓発本の言ってることとあまり変わらない。
かつてのような、読んでる・読んでないでものすごく差が出た時代と違い、もうサチュレーション(飽和)状態です。新しいものはあまり出なくなったと痛感しています。
対して、AIの領域は、ABEJAに入ったこの1年あまりだけでも、エンジニアがSlackで「これ見た?」「これ見た?」と毎日新しい情報を交換している。
さっきの「ハイプ・サイクル」の期待値で言うと、テクノロジーの進化という意味では、むしろAIはこれから立ち上がるんじゃないかな、という感じがするほどです。
例えばGoogleの自然言語処理エンジン「BERT」。今までの自然言語処理は、例えばAという文章を要約するとか、AとBという文章を同じかどうか判定するとか、穴埋め問題を埋めなさいとか、それぞれの課題にチューンしたエンジンがあって、それぞれのエンジンがワールド・レコードを持っていた。
それがBERTが出た瞬間、たった1つのエンジンで全てのワールド・レコードを書き換えることが起きたわけです。そのくらい革命的なことがAIの世界で毎月起こっている。
2012年に、ジェフリー・ヒントンがディープラーニングで、あっと言わせるようなベンチマーク・レコードを出し、そこからディープラーニングの期待値が立ち上がりはじめましたが、サイクルがどんどん短くなっていると感じます。そんな状況に身を置くのは、ついていくのは大変ですがとっても面白いです。
司会:佐久間さんもABEJAでの驚きやギャップはありますか?
佐久間: 「テクノプレナーシップ」の実践を見られることですね。毎週金曜日の夕方、「ABECON(アベコン)」という自主勉強会が開かれています。
アーティスト、マーケターの講演や、メンバーによる制作物の発表があります。メンバーの回の時、「これ、一人で本当にやったんですか?」と思うくらい完成度が高い。
自宅の庭に誰か侵入していないかを調べる機器を、Raspberry Piで作りましたとか、自分の顔をカメラで撮ってもらうと、モバイルにコインがたまるアベコインというものを新卒3年目が自分で作って商用利用され始めた、とか。そういう「テクノプレナーシップ」を体現している人たちがそこら中にいます。
あとは「逃げ道がない」ことですね。
コンサルタント時代、何でもやってやるぞという気概で仕事していたし、組織の上にいたので、あらゆることを勉強して提案しました。でも今は構想だけじゃなく、インフラ、ハードウェア、ソフトウェア、全ての領域を理解しないといけない。全部自分でやり切らないといけない。
20年経って、なんとなくキャリアが完成したと思っていたけれど、もう一回やり直している心境です。今年40歳なので、これは二度目のハタチだな、と思ってます(笑)。
質問:ABEJAで最低限求められるスキルは何ですか。
佐久間: 私の直感ですが、ないですね。そもそも、ABEJAの文化が「ここまでやればいい」というレールを敷いていないんですよ。これさえやっていれば大丈夫というのは、自分が極めたい分野で発信できるだけのアンテナを持っている人とか、すごい能力を持ってる人くらい。
なので、最低限これはできてるという人より「ぶっ飛んだ何か、持ってます」みたいな人のほうが重宝される感覚はあります。
質問:取引先企業のAIの知識は、どんな感じですか?
佐久間: まだ入社半年なのですべてを知っているわけではありませんが、二極化していると思います。AIは本当に仕事の仕方を変える、経営を変える、と信じてくれている方々と、SIerからソフトウェアを買う、みたいな感覚で様子見されている方々と。
前者の方々は、ABEJAのような小さい会社でも面白い提案で、これができると話した時、確実に成功するかどうかが見えてなくても、ウン千万円の契約をポンと交わしてくれるところもある。
逆にコスト原価を厳密に計算するかのように「200万~300万ぐらいでできないの?」というところもあります。買えるものが何だか分からないし投資したくない、という姿勢の方もいる。
30年後も100年後も見てらっしゃる方々は、覚悟も違うのだろうと思います。
質問:コンサルタント時代とABEJAとで、提案の仕方は違いますか。今までは、提案書をある程度フレームで作ってお客さんに提案し、お客さんが腹落ちしたところで、何か始めましょうかという感じだったと思うんです。今は事前に作って持っていって、こういうのができるんですよと説明して、お客さんが驚いて提案が成立する、ということが多いかと。その点、どうアプローチかけているのですか。
山本: 今おっしゃった二つは両方ともやっていますね。特に私は、前職の人脈を大事にしているので、以前から付き合っているシニアエグゼクティブに、経営課題をAI課題までビューッと持ってきた提案をすると、AIのプロジェクトが売れる場合がある。
あとは「実はAIでこんなことができるんです。お気づきじゃないかもしれませんけど」と品揃えして持っていく。すると「おお、そんなことができるの、じゃあやってみよう」となる場合がある。
だから、両方あるというのが、私の答えです。
佐久間: ちょっと補足すると、我々は、最近どうしても売りたいものは何だと言われると、実は、AIは、普通に運用していく技術だという、文化、あるいはスタイルを売りたいんです。昔のコンピュータとかインターネットを今の企業がモノにしていったように。
電話が発明されたばかりのころ、受話器を取ったり「ハロー」と言ったりすることを習慣化させるための啓発があったから、それが日常の風景になりましたよね。同様に、AIをどう使うかというMLOpsが必要です。
そのための研修サービスなど、ある程度、啓発をやらせていただかないといけない。けれど、そもそも「知る」という機会もないなら、入門編のような提案をさせていただくこともあります。
質問者:ABEJAで苦しいところ、変えていきたいと思っていることは?
佐久間: まず、すごい幸せです。元々、私、完成されたところにいるのが大嫌いなので。コンサルタントになったのも、白紙の状態からいろいろなものを生み出せる仕事だからです。
ABEJAもいっぱい改善したいところはあります。AI企業なのにまだまだ手作業が多いし、「紺屋の白袴じゃないか?」と思うところもあります。
テクノプレナーたちが「ちょっとしたギミック作りました」「勤怠用のボタン作りました、これ押したら出勤です」みたいなものを生み出す一方、情報システムが社内で統合されないままSlackを始めとするたくさんのシステムを使っていて、未統合の部分がいっぱいある。そこは直したいです。
ただ、大企業なら普通こうする、という「常識」は、むしろ「ありがたくない」と思うような人たちが集まった「個性的」な会社なので、なぜそのツールを選んだのか、を丁寧に紐解きながら、今後の変化に耐え得るような何かを一緒に考えたいと思っています。立場的に、プロセスは改善していこう、ということも結構やってます。
山本: 冒頭申し上げたように、クライアントたちに「お前は来なくていい」って言われるんじゃないかという日々を送っているので、楽しいわけがなくてですね(笑)。
これから大きくなっていくスタートアップは、成長への欲が非常に強い。となると成長のドライバーはやはりスケールです。グローバルでスケールした会社は、一つのプロダクトがいっぱい売れるというモデルが、やはり一番スケールしています。
一方、コンサルティングは、結構逆のパターンです。特に、プロダクト単価の高い戦略コンサルファームなどは、オートクチュールの世界です。テイラーメイドでお客様のギリギリの満足度を最大限実現するという。この二つは結構相容れないものがあります。
でも、AIはまだ黎明期だから、スケールとオーダーメイドの両方がないとうまくいかない。頭では分かってます。でも現場では「一生懸命やったって、スケールしないじゃないですか」とエンジニアが怒ることだってある。
でもきっと、こうしたせめぎ合いのなかで、何かが出てくるんだろう、と感じるから、この会社にいる、という面があります。
質問:やりたいことがいろいろあるのは素晴らしい半面、個人のベクトルがバラバラだと、会社がいい方向に行かないイメージもあります。ABEJAでは、会社自体をどんな方向に向けたいのか。「みんなやりたいことやっていいけど、全体はこう」という方向性をどう浸透させていくのですか。
人事担当・山田裕嗣: いまのABEJAは、正直もがいているフェーズです。2カ月ほど前に調べたんですが、今メンバーが80人強ぐらいで、2018年の1月以降に入社したメンバーが50%を超えていました。それだけ急速にメンバーが増えています。それぞれがビジョンや事業に共感しつつも、多様なバックグラウンドの人が混じり合っている状態です。
それぞれがやりたいこと、やれることを踏まえて自律的に動きながら、組織としても成果を出したい。ぱっと見「コンフリクト」しがちなこの2つをどう揃えていくか、まさに今試行錯誤しながらチャレンジしています。
一方で、ABEJAは「イノベーションで世界を変える」を掲げ、「テクノプレナー」という考え方を大事にしています。テクノロジーとリベラルアーツとアントレプレナーシップ、全部持ってる人の集団でありたい。こうした世界観は、組織としての「管理」や「統制」と必ずしも一致しない。
イノベーションを生み出し続けることと、成果を狙い通り出す。この二つを、ABEJAが次に目指しているような規模で実現できた事例はなかなかありません。本丸の事業が儲かってる中で、新規事業や別会社として独立させてチャレンジするような事例ならありますが。
簡単ではありません、でもチャレンジ中ですというのが、正直なところです。
司会:ABEJAに来たから得られていることや、選んでよかったと思うところは。
佐久間: ABEJAに来た理由は、いくつかあります。コンサルタントという仕事は「ある意味、知のフロンティアだ」とずっと思っていました。
でも当時、コンサルティングファームにいるのが自分にとって「正解」かどうかを考えた時、もしかしたら今、個人が複数の草鞋を履きながら新しいことを生み出すムーヴメント、ヴェロシティは、やはりスタートアップ側にあるような気がする、と思うようになったんです。
役割分担しながら進めていく大企業的働き方から、個人が自立して働くような時代になり、一人ひとりがアンテナを立てて組織にパワーを吹き込んでいくような文化のある企業の方が、「成長」「イノベーション」に影響を与えていくだろうと感じ始めたのです。
限界に挑戦したいのなら、そういう会社に入ればいい。きっとそういう人がたくさんいて、刺激を受けられるに違いない、と。だから、マシンラーニングとディープラーニングは全然知らなかったけれど、ABEJAに飛び込みました。
年収は本当にもう、ドラスティックに下がりました。でも「自分への投資」と思って。実際、そこはまさに期待どおりでした。
「一兵卒で入る」という気持ちで入ったのですが、意外に評価された部分もあります。前職時代の仕事内容を知ったメンバーが「佐久間さんのこういう経験、ABEJAに役立つから生かしてくださいよ」と、ちょっと違う観点で私の能力を見そめてくれるんですね。
例えば、「ABEJAの今の組織ステージでいくと、将来どういうことが起こりそう?」「踏んではいけない地雷とか、一丸となって100人200人の組織に成長する際のポイントは?」といった質問を受けたり、取締役に助言したりすることもあります。
山本: 私は、一言で言ったらワクワク感ですね。やっぱり歳を取ったのかなと思いますけど。コンサルティングファームが大企業にコンサルティングを提供していくと、こうなるんだというのは、だいたい見えてしまう。でもABEJAでは、2週間後に自分が何やってるか全然想像がつかないんですよ(笑)。
たとえて言うなら、乗っているのが豪華客船なのかジェットコースターなのか、くらいの違いです。
豪華客船に乗っていると、優雅な毎日を送れますが、ひと月先自分が何をやっているかも想像がついてしまう。ジェットコースターは先が見えますけど、乗っている間はしがみつくのが精一杯で、とにかく「この瞬間」を生きている感じです。
もう、ワクワク感が全然違いますよね。
山本直樹(やまもと・なおき) 慶應義塾大学理工学部卒業、マサチューセッツ工科大学スローンスクール卒業(MS in management of technology)。日立製作所事業開発部門を経て、A.T.カーニー入社。パートナーとしてハイテク、通信・メディア業界を中心に、「技術」と「事業」の橋渡しを一貫したテーマとして、成長戦略、国際提携戦略、R&D戦略、事業戦略、技術戦略などの支援を行う。2018年よりABEJAに参画しUseCase事業部でコンサルティングを担当。 佐久間 隆介(さくま・りゅうすけ) 慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、アビームコンサルティング(当時デロイトトーマツコンサルティング)に入社。2014年より最年少執行役員。DX戦略、新規事業戦略などの戦略コンサルティング、組織・人事制度改革などの経営改革プロジェクト、大規模基幹業務システム・BIシステムなどのIT導入に従事。自動車製造・販売、広告業、総合化学、精密機器、電子部品、公共サービス、大学、電力業、総合商社など幅広い業種のクライアントへサービスを提供。2019年よりABEJAに参画しグローバルビジネス展開、AI活用のプロジェクトマネジメントなどを担当。
(2019年12月17日掲載の「テクプレたちの日常 by ABEJA」より転載)