日本の刃物文化を継承し、世界に発信し続けてきた高橋楠。
刃物職人としての誇りを胸に、創業100年超えの伝統文化を守るだけでなく、新たな技術やグローバルな視点を取り入れながら、革新的な包丁を追求し続けています。
今回は、ドイツ・フランクフルトで開催された世界最大級のBtoB国際見本市「Ambiente(アンビエンテ)」への初出展にフォーカス。世界のバイヤーたちが熱い視線を注ぐ現場にて、初出展の様子や今後の海外戦略について高橋楠の4代目社長に伺いました。
――まずは、今回出展されたAmbiente(アンビエンテ)について教えてください。
Ambiente(アンビエンテ)は、世界中の包丁メーカーが出展を希望する、非常に人気の高い展示会です。出展の枠が限られているため、新規出展は基本的にキャンセル待ち状態が当たり前。そんな中、当社が所在する堺市による出展申請が功を奏し、枠に空きが出たタイミングで、3年前から堺市はブースを構えています。弊社は、今回初めての出展となりました。
会場では、フランス発の自社ブランド「sen(閃)」を展示。藍染を施したハンドルと堺打刃物の伝統技術が融合したオリジナル包丁及び新商品の洋包丁とステーキナイフは、欧州のみならず北米やアジアの小売バイヤーからも高い関心を集めました。中にはすぐに取り扱いたい、具体的に検討したいというお声もいただき、良い手応えを感じています。
欧米には、革小物やキッチン用品などを取り扱う“コンセプトストア”が数多く存在します。そうした店舗のバイヤーからは「価格ではなく、商品そのものの魅力を気に入るかどうかが選ばれる基準である」といったお話もあり、日本国内ではなかなか見られない市場の特性を数年前から実感しています。
――これまでの海外展示会への出展と、何か違いはありましたか?
2018年には、世界の食品イノベーションを牽引するフランスの展示会「SIAL Paris (シアル・パリ)」に堺市のブースにて初出展。2020〜2023年には「Maison&Objet(メゾン・エ・オブジェ)」に継続出展いたしました。展示会出展への経験が浅かったその当時、「3年出て初めて信頼が得られ、成果が出る」とよく言われていたのですが、実際その通りでしたね。初年度は反応が薄く、2年目も様子見といった状況でしたが、3年目にようやく継続的なお取引へとつながるケースが増えました。
Ambiente(アンビエンテ)は今回が初出展だったので、ここから信頼を積み重ね、来年、再来年も継続出展を視野に入れていきたいと考えています。
――製品に対する海外と日本の反応の違いについてはいかがですか?
日本国内では、高価格帯の包丁に対する需要はそれほど多くありません。「量販店で購入できる包丁で十分」と考える方も少なくないのです。
一方で、欧州のお客様は日本の文化や背景に強い関心を持ってくださっています。そのため当社の包丁製品に関しても、ストーリー性やデザイン、素材への深い真価を見出してくださっています。sen(閃)は高価格帯の製品であるため、従来の包丁専門店では導入のハードルが高いと感じられることもありますが、ライフスタイル提案型のコンセプトストアでは非常に魅力を感じていただいております。
現在、弊社の海外売上比率は30%超まで成長しています。国内市場においても、インバウンド需要のある東京や京都といった都市にはまだまだ成長可能性を感じています。
そのため、今後も海外市場への展開にはより一層重視していく必要があると感じています。sen(閃)においては、まずフランス市場での信頼構築に注力し、例えば星付きシェフに使用いただいた実績を基に、今後はアメリカ市場、中国市場への展開を進める戦略を計画中です。
例えば、アメリカではギフト需要のあるステーキナイフや洋包丁の開発を進め、ニューヨークやロサンゼルスなどでの現地調査も行っています。中国においては、競合他社の品質も年々向上していますので、より戦略的なアプローチが求められると認識しています。
――最後に、Ambiente(アンビエンテ)での初出展を終えた代表が考える「今後の展望」についてお聞かせください!
想像以上に地域密着型のバイヤーが多く、当初の予想を上回る手応えを感じることができました。特にsen(閃)のように、これまでの包丁流通とは異なる販路に挑戦するブランドが、実際に高く評価されたことは大きな収穫でした。まだまだ海外展開への戦略には課題を感じる部分をありますが、今後も堺市を代表するリーディングカンパニーとしての矜持を持ち、堺打刃物の魅力を世界に発信し続けてまいります。
――高橋社長、ありがとうございました。