「正論」だけでは人は動かない。17年の経験を一旦捨てて挑んだ「Rebuild(再構築)」と、その先にあるもの
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(この投稿はnoteの転載です)
全3回ですので、過去2回分と併せて読んでいただけると理解が深まります。
1. 2025年、テーマとして「Rebuild(再構築)」を掲げた理由
(前回のあらすじ) こんにちは、APCの小山です。 前回の記事(第2回)では、「専門性が信頼されていない」「御用聞き状態」「数値の誤認」という厳しい現実に直面し、そこから「対話」と「言語化」などによって期待値のすり合わせを始めたプロセスをお話ししました。
2024年末に「方向性の間違い」に気づいた私が、2025年度の採用チームの全体テーマとして掲げたもの。 それが「Rebuild(再構築)」でした。
(再掲:2025年のチーム内テーマ)
なぜ「改善」や「強化」ではなく、「再構築」だったのか。 それは、私たちが向き合うべき課題が、施策の表面的な見直しではなく、採用活動をしていく上での根幹に関わるものだと気づいたからです。
その上で以下の3つを再構築すると定義しました。
- 事業成長に耐えうる採用体制を再構築する (=御用聞きからの脱却、数値管理の適正化)
- 採用に向き合う姿勢を再構築する (=「人事の仕事」から「全員採用」へのカルチャー変革)
- 自分自身、チームメンバーへの向き合い方を再構築する (=慢心を捨て、フラットに対話できるチームへ)
ただ、これらの定義はあくまでスタート地点に立ったに過ぎませんでした。更に壁が立ちはだかります。
2. 更に立ちはだかった「5つの壁」。正論では組織は動かない
テーマを掲げ、ミッションを言語化し、いざ実行フェーズへ。 しかし、ここで本当の戦いが始まりました。
頭では分かっていても、現場も、そして自分たちさえも、そう簡単に変われるわけではありません。 私たちが直面したのは非常に生々しい「5つの壁」でした。
- 壁1:そもそも、採用チームの方向性を間違えたのは自分である
「Rebuildが必要だ」と言われてもチームメンバーからすれば寝耳に水だったと思います。なぜなら、特に誰かからそれを言われていたわけではないから。要は変える必要性をあまり感じておらず、「なぜそこまでやる必要があるのか?」という戸惑いがあったはずです。ただ、実際のところは事業部からはかなり厳しいフィードバックが来ている現実もあり、まず変えるべきは、現場ではなく「採用チーム自身の意識」でした。ただ、これは部門長として2024年に舵取りを間違えてしまっていたわけですから、自分自身のミスを受け入れることが最も必要なことでした。 - 壁2:人の「行動」は簡単には変わらない
意識が変わったとしても、長年染み付いた行動習慣はそう簡単に変わるわけではありません。中には過去、「それはやらなくてもよいよ」と言っていたことをやってもらうなど、矛盾した提案をすることもあるため、戸惑いや違和感を感じさせてしまっていた時もあるかと思います。実際に、厳しいフィードバックをもらうこともあったわけですが、時間をかけてやっていくほかありませんでした。ただ、当初掲げた方針と、経営や事業部から期待されていることは、ぶらさないこと(なぜなら、役割的には経営と事業成長に向いてなければいけないから)も忘れてはいけないポイントでした。 - 壁3:「結果はまだか?」——タイムラグの苦しみ
カルチャー変革(Rebuild)には時間がかかります。しかし、事業はそれを悠長に待ってくれるわけではありません。 再構築を進めている間も、「本当に成果が出るんですか?」「あまり変化を感じない」という、厳しいフィードバックとプレッシャーを感じることもありました。「もう少し待てば結果が出るはず」と思い続けながら、粛々とコトに向き合う必要がありました。 - 壁4:「専門性」で期待を超え、結果を出さないと信頼は得られない
「パートナーとして対等に」と口で言うのは簡単ですが、そんなに簡単なことではありません。少なくとも専門部署として、専門性においては事業部を超える知見は必要です。ただ、専門性だけがあっても信頼されるわけではなく、専門性を活かして結果(ここは各社違うので、評価者側との期待値調整は必須)も出さなければいけません。実際のところ、採用チームは専門性を信頼されているとはとても言えず、マイナスに近い状況からのスタートであり、信頼獲得のハードルは、想像以上に高いものでした。それは私自身に対してもそうだったと思います。
加えて、人は慣れがあります。昨年と同じ状態では良くても、昨年と同等程度の満足度や評価にしか至りません。考えている以上に期待を超える、そして超え続けることは簡単ではないのです。 - 壁5:「採用の常識(セオリー)」だけでは通用しない
これが最大の壁であったかもしれません。「現場が採用に協力してくれない」など、よく採用担当者からの悩みとして上がってきますが、もしかしたら「採用とはこうあるべき」「これがセオリーです」と正論を振りかざしているからかもしれません。確かにそれは、採用担当者としては常識かもしれませんが、「正しいことだから」といって、みんなが納得して動いてくれるわけではない。人は感情で動く生きものだからこそ、いかに納得感をつくっていくかが重要なのです。コトがうまく進まないと、ついつい常識に囚われがちになってしまいますが、過去を振り返ると自分自身もそのスパイラルに陥っていたんだと思います。
3. So, We keep moving on(それでも、私たちは進み続ける)
これらの壁に対し、銀の弾丸はあるはずもありません。出来ることはただ一つ、困難や壁に対し向き合い、以下のように前に進み続けることでした。
- 「正論」では、仮に正しくても人は動かない。感情に寄り添う「対話」を諦めない
人事のセオリーで物事を見ることを、出来る限り控えることにしました。確かに私が言っていることは人事という枠組みや、これまでの経験を踏まえると正しいのかもしれません。ただ、だからと言って相手がそれに対して納得するかは全くの別問題です。正論を押し付けるのではなく、対話を通して、相手の「納得しない理由」や「やれていない理由」にとことん耳を傾ける。その結果、割と多くの部分で私たちの過去の立ち振る舞いが原因で、前に進んでいなかったこともあったのです。
特に、この点は重要だと思っています。やってくれない理由を事業部側だけに向けないことです。過去を紐解くと、そのような状況に至った経緯がわかり、対応する上での選択肢が変わってくることもあるからです。 - 「専門性」は自らアピールすることも必要だ
採用担当としての専門性を磨くことは非常に重要です。専門性が高まるからこそ高い結果に繋がり、それが信頼性の高まりにつながります。ただ、残念ながら専門性はこちらから一定のアピールをしないと伝わらないという側面も持っています。「自分たちは何が得意で、どんな知見、実績があるのか、課題に対して専門的な視点から解決策を提案する」など、そういった地道なアピールも必要です。もちろん節度は必要ですが、「私たちは何者なのか」を伝えることも重要なのです - 専門性だけではなく、「コミュニケーションでもプロ」であれ
納得感をつくるためには、個人的には共感力、言語化力、構造化力この3つ(壁4の部分も含む)が必要だと経験上感じています。
・共感力
まずは相手(部門)に寄り添い、傾聴し、どうしてそう感じているのかなどを理解出来る力
・言語化力
相手の専門性、理解力、状況などを把握した上で、どのような表現であれば相手に伝わるかを考え、伝えられる力
・構造化力
抽象的な状態を共感力と言語化力を駆使し、具体的にしていける力。加えて、具体的なものを抽象化できる力。
あくまで個人として言語化したものですが、ぜひ参考にしてみてください。 - プレッシャーに耐えうる術を身に付ける
ここでは採用をしている側の視点、そしてステークホルダーの視点で2点お伝えしたいことがあります。
◯採用活動をやっている人向け
自分自身も成長していきたい、もしくは市場の中でプレゼンスを上げたいという意志をお持ちであれば、一定以上のプレッシャー(=ストレス)がある環境でないと、向上することはかなり難しいです。つまり、成長し、プレゼンスを高めるためには、うまくプレッシャーと付き合わなければいけません。
そんな中で最もやってはいけない悪手は、「特別な事情がない中で、プレッシャーに押されて安易に方針や施策を変えないこと」です。これは本末転倒であり、ほとんどうまく行った記憶がありません。そのほか、ステークホルダーの意向に沿った情報提供も重要です。正しく情報提供をしていれば、意外と快適に出来るのですが、ついついその辺りは怠りがちです。
◯間接的に採用活動に関わる人向け
「短期的な成果を求めないこと」「採用には変えられない定数の部分があり、採用活動だけでは変えられない部分もあること」は、ぜひ理解しておいていただきたいです。過去の経験上、うまくいかないケースはこのいずれかの部分に原因がある印象です。まずは信じて待つこと、そして採用活動は自分たちではどうにもなりにくい部分もあることを理解しておくべきです。 - 他責にならず変数に目を向ける
誰かのせいにしたくなる時は、誰にでもあります。ただ、長年採用をやってきた中で、他責(例えば市場、誰かがやってくれないなど)な状況でうまくいった経験は記憶の限りありません。うまくいく、いかないは環境要因もあるため自分ではコントロール出来ませんが、うまくいっている人は、少なくとも自分に向き合い、そして変えられる部分に目を向けてきた人だと思います。
加えて言えば仮にその時はうまくいかなくても、その経験がいつか自分を助けてくれることを信じている人でもあるかと思います。
4.結果
ここまでくると、「実際の成果はどうだったのか?」を気にされる方もいらっしゃるかと思います。ここでは簡易的ではありますが、採用関連の数値で変化があった部分と、その改善のためにやったこと(Howの提供が目的ではないのでこちらも簡略に)を共有させていただきたいと思います。
全体的な結果の概要をまとめると、「採用数は増加し、内定承諾率も改善。加えてわずかながらではあるが、エージェント経由の採用が減り、採用単価も減。加えて経験者層の採用数が大きく増えた」といった形で、改善点はまだまだありますが、数値的にはこの2年で変化が見られています。
①採用人数の増加
当社の採用数は、新卒も合わせて年間60名〜70名超の推移でしたが、2025年は新卒採用数が平年の半分以下だったにも関わらず、80名を超える採用数となりました。仮に、例年通りの新卒採用数であれば90名に近い数値となり、APC史上で最も採用数が多い1年になりました。この結果に特に繋がったのは、以下の②、④の影響が大きいです。
②内定承諾率の改善
APCでは以前から内定承諾率を含めた歩留まりの部分に課題があり、2025年にこの点は最も注力しました。採用ボリュームが多い職種、特に経験者層の承諾率は30%台と非常に厳しい状態でしたが、応募対応のフローの見直し、選考体験の向上施策としてHaul様が運営していたRekMA(現在はHR Brain様が運営)の導入により、60%前後まで改善しました(逆にポテンシャル層の承諾率は大きく減)。note内でも少しだけ触れていますが、成果が出るまで時間が掛かるのでいつもヒヤヒヤでした・・!
③採用のボリュームゾーンの変化
経験者よりポテンシャル層に採用が寄ってしまっていた2024年までの状態から、2025年はポテンシャル層の採用が半減し、その分、経験者採用が大きく増えました。特に、より経験の高い経験者層の採用が10%程度増えた点は2025年に起きた大きな変化の一つだと思います。これはチームの方針を経験者採用への注力へとシフトし、リソース、予算、そしてコミュニケーションも含めて全振りした点が大きかったように思います。
④採用経路の変化、採用単価の減少
元々私が入社した2023年時点は、82%が人材紹介会社からの採用というエージェント依存の状態で、経営陣の中でも課題の一つとなっていました。2024年以降はスカウトの強化や社員紹介の促進を地道に続け、人材紹介採用の比率が12%下がる結果になりました。それにより、エージェントフィーや提示給与が高騰する中でも、1名あたりの採用単価が減っている部署もあるなど、ポイティブな変化が出ています。特にリファラルについては、Refcome Teamsを活用しつつ、毎月の新規入社者にワークショップの実施がフロー化され、タレントプールが出来るようになった点が大きかったように思います。
ありがたいことに、これらの成果は経営会議でのプレゼンや、全社MTGで副社長を通して社員にも共有されました。関わったチームメンバーも含めた、関係者のみなさんでの成果だと思います。本当に感謝です。
5. Rebuildのその先へ。「Acceleration(加速)」
こうして「Rebuild」にもがき苦しんだ2025年。 正直、まだ道半ばです。完璧に再構築できたわけではありません。
しかし、この「根本から向き合う」という苦しいプロセスを経たからこそ、ようやく土台が固まりつつある手応えを感じています。
「専門性」とは何か。「信頼」とは何か。そして「APCらしい採用」とは何か。 それらがクリアになってきた今、私たちは次のフェーズを見据えています。
そんな今期のテーマは、「Acceleration」です。
Rebuildで築いた土台の上で、今度は採用スピードを、質を、そして事業成長を、一気に「加速」させる。 守りを固めたからこそ、次は思い切り攻めに転じることができる。
17年の経験を持つ私にとっても、ここからの挑戦こそがAPCでの本番だと思っています。
そんな想いを込めて、実は部署名を2026年からTalent Acceleration部に変更しました。APCの採用を2025年までのAcquisition(獲得)からAcceleration(加速、促進)へと転換出来る良い1年にしていきたいです。
2026年の挑戦についてはまたnoteにまとめたいと思います!
6. おわりに
ここまで3回にわたり、私のAPCでのリアルな葛藤と挑戦にお付き合いいただき、ありがとうございました。
もし、あなたが今、採用の壁にぶつかっているなら。 「正解」や「セオリー」を探すのではなく、まずは目の前の現場と、そして自分自身と、じっくり対話することから始めてみてください。
遠回りに見えて、それが一番の近道だと、今の私は確信しています。 私たちの「Rebuild」と、これからの「Acceleration」が、皆さんのヒントになれば幸いです。
もしこの内容について聞きたいことや、質問があればお気軽にご連絡ください。お待ちしています。