私がゲーム業界に入ったころは、PSやセガサターンなどの次世代機が大きな話題になっていました。
それまでのゲーム開発では、限られたCPUやメモリの中でどう動かすかを考え、アセンブラで処理を細かく詰めるような仕事も珍しくありませんでした。
私自身もそうした開発を経験していましたが、当時はむしろ、もっと潤沢なリソースを使ってリッチなゲームを作ってみたいと思っていました。
アセンブラで1クロックを削るより、表現力の高いハードウェアで、これまでできなかったゲームを作ってみたい。
それが最初の転職を考えた理由の一つでもあります。
自分がやりたかったことと、実際に得意だったことは違った
ところが、実際の自分の適性は少し違いました。
得意だったのは、CPUやメモリに余裕がある環境で大きなものを作ることより、制約がある中でどう成立させるかを考えることでした。
アセンブラで1クロックを削る。
データを1ビットでも小さく持てないか考える。
そのままでは実現できない表現でも、「見せ方」を変えることでゲームとして成立させる。
もちろん、スペックの高いハードウェアでも処理速度やメモリを考えなくてよいわけではありません。ただ、自分の場合は、使えるリソースが限られている状況で工夫するほうが得意だったのだと思います。
転職後の配属も、その適性を考慮したものでした。
当時の私は次世代機のような環境で開発したくて転職していたので、正直なところ少し拍子抜けしました。
せっかく転職したのに、また自分がこれまでやってきたことに近い仕事なのか、と感じたのを覚えています。
数年後、その経験がそのまま必要になった
そのときは、自分の希望とは少し違う配属だと感じていました。
ところが、その後にガラケーや初期のスマートフォンでゲームを作る時代が来ます。
そこで再び必要になったのが、限られたハードウェアの中でゲームを成立させる考え方でした。
ハードウェアが変わっても、使えるリソースに制約があること自体は変わりません。
処理を軽くする。
使用するデータを減らす。
全部を正直に計算したり描画したりするのではなく、プレイヤーからどう見えるかを考えて別の方法で表現する。
昔やっていたことが、そのまま別の環境でも役に立ちました。
転職した当時には、もちろんガラケーやスマートフォンの時代を見越していたわけではありません。
自分がやりたかった仕事とは少し違った配属が、結果として後の仕事を続ける力になりました。
振り返ってみると、不思議なものです。
「やりたいこと」と「得意なこと」は分けて考える
この経験以降、キャリアを考えるときには、「何をやりたいか」だけでなく、「自分は何を比較的うまくできるのか」も分けて見るようになりました。
この二つは一致することもありますが、必ず一致するとは限りません。
新しい技術を使いたい。
上流工程をやりたい。
マネジメントをやってみたい。
ゲーム業界へ行きたい。
Web系へ移りたい。
そうした希望は、キャリアを決めるうえで当然大切です。
ただ、自分がこれまで仕事をしてきた中で、何度やっても比較的うまくできた仕事が何だったかも確認してみると、別のものが見えてくることがあります。
私の場合なら、低いスペックのハードウェアで、処理やデータを詰めながらゲームとして成立させる仕事でした。
本人にとっては昔から普通にやっていたことなので、「これは自分の強みだ」とは意外と気づきにくいものです。
周囲より短い時間でできる仕事、何度担当しても大きく品質が崩れない仕事、難しい状況になると自分に相談が集まる仕事などを振り返ると、自分の適性が見えることがあります。
適性に合わせることは、ずっと同じ仕事をすることではない
適性を考えるといっても、得意なことだけを一生続ける必要はありません。
私自身、ゲーム開発だけでなく、その後は会社経営や組織づくり、採用、エンジニアの育成など、仕事の範囲はかなり変わってきました。
仕事内容が変わっても、過去に身につけた考え方までなくなるわけではありません。
限られた条件の中で何を残し、何を削るか考える。
そのままでは難しい場合に、別の方法で目的を達成できないか考える。
制約条件を確認して、その中で現実的な方法を組み立てる。
ゲームプログラムをアセンブラで書いていたころとは対象が違いますが、考え方そのものは現在の仕事にも残っています。
そのため、キャリアを考えるときも「次に何の仕事をするか」だけを見るより、自分がこれまで何を繰り返しうまくやってきたのかを一度棚卸ししてみる価値はあると思っています。
自分が希望している仕事と重なっていれば、そのまま伸ばせます。
違っていたとしても、すぐにどちらかを捨てる必要はありません。
「やってみたい仕事」と「すでに自分が持っている武器」を両方把握したうえで、次の仕事を選べばいい。
少なくとも私の場合は、当時それほど望んでいなかった方向の経験が、何年か経ってから仕事を続けるための武器になりました。
20代のころに考えていたキャリアと、その後実際に役に立った経験は、きれいには一致しませんでした。
目の前では遠回りに見える仕事でも、自分の適性に合っていて、その後も使える技術や考え方が身につくのであれば、後になって意味が変わることがあります。
おわりに
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