組織改善が進む会社と、進まない会社の決定的な違い
組織改善が必要になる理由は企業によってさまざまだ。事業の停滞、人材の定着率、部門間の摩擦、責任の所在の曖昧さ──表に出てくる症状は違っても、根本の構造は似ている。ただ一つ言えるのは、組織改善は、社長だけが本気でも進まないということだ。専務、常務、部長、課長といった管理職が、最低限のルールを守る姿勢を持たなければ、改善は成立しない。
ここでいう“本気”は精神論ではない。決めたルールを守る。それだけの話だ。給与が下がるわけでもない。大きな負担を強いるわけでもない。ただ、今の組織がうまくいっていない原因──古い考え方、現代に合わないルール、意味をなしていない風習──を見直すだけである。
小さな改善が、最初の分岐点になる
たとえば、役職者を呼称で呼ぶ。これだけでも組織改善の第一歩になる。しかし、フラット組織だったり、役職者と一般社員の距離が近い文化の会社では、呼称を変えるだけでも抵抗が生まれる。長年「〇〇さん」「〇〇ちゃん」と呼び合う関係が当たり前になっていると、役職名で呼ぶことが“距離をつくる行為”のように感じられるからだ。
外から見ると、こうした会社は一見、和やかで風通しが良いように映る。しかし実務の視点で見ると、役割と責任の境界が曖昧なまま放置されている状態でもある。この曖昧さは、事業が順調なうちは表面化しない。売上が伸びている時期は、多少の非効率や責任の曖昧さが“勢い”で吸収されてしまうからだ。
しかし、企業業績が悪化したり、事業が停滞した瞬間に、この曖昧さが一気に“構造的な歪み”として現れる。意思決定の遅延、責任の所在不明、部門間の摩擦──普段は見えなかった問題が、一気に噴き出す。その影響は最終的に現場のスタッフに集中し、業務負荷や不満として蓄積されていく。
指示命令系統の曖昧さは、組織の成長を止める
社長 → 専務 → 常務 → 部長 → 課長 → 一般社員。この階層構造は、組織運営の基本原則としてはごく当たり前だ。しかし、従業員数が少ない段階では、指示系統が曖昧でも“属人的な調整”でなんとか回ってしまう。むしろ、小回りが利く会社として評価されることすらある。
問題は、組織が成長し、マネジメント可能人数(Span of Control)を超え始めたときだ。一般的に、管理職1人が効果的にマネジメントできる人数は5〜8名が理想とされている。しかし実際には、管理職の約半数が11名以上を抱えているという調査もある。この“管理限界”を超えた状態で指示系統が曖昧だと、組織は一気に混乱する。
誰の指示を優先すべきか分からない。役職者が横から指示を出す。責任の所在が不明確になる。現場のスタッフが板挟みになる──こうした抽象的な問題は、実務ではもっと具体的な形で表れる。
たとえば、部長が「Aを優先しろ」と言った直後に、別のラインの課長が「いや、先にBをやってくれ」と指示を出す。現場はどちらを優先すべきか判断できず、結果として両方の期限が遅れる。遅れた理由を確認すると、部長と課長の間で指示が食い違っていたことが原因なのに、責任の所在は曖昧なままになる。
また、役職者が正式なルートを通さず、現場に直接指示を出すケースもある。現場のスタッフは「上司の上司から言われたから従わないといけない」と考えるが、直属の上司は「なぜ勝手に動いたのか」と叱責する。こうして、現場は常に“どちらに従えば怒られないか”を探るようになり、本来の業務に集中できなくなる。
さらに、複数の役職者がそれぞれの判断で現場に指示を出すため、業務の優先順位が日によって変わる。結果として、現場のスタッフは「今日の正解」が分からなくなり、業務品質が安定しなくなる。これは組織論でいう“指揮命令系統の多重化(Dual Command)”そのものだ。
組織改善は「上が本気であること」からしか始まらない
改善を進めるには、管理職が率先してルールを守る必要がある。上が守らないルールを、下が守るはずがない。だからこそ、組織改善には“本気”が必要なのだ。精神論ではなく、最低限のルールを守るという実務的な姿勢である。
私は、組織改善の依頼をいただいても、「コンサルが入れば会社が変わる」と考えている社長からの依頼は受けていない。中途半端な気持ちで依頼されても、会社にとっても、社長にとっても、私にとっても、無駄な時間と費用になるからだ。
組織改善は、外部のコンサルが魔法のように変えるものではない。
社内の人間が“まず自分たちがルールを守る”と決めた瞬間からしか動き出さない。
その覚悟がない組織は、どれだけ制度を整えても、どれだけ外部の支援を入れても、結局は元に戻る。