【経営編 #4 】 あなたの会社、家事は回っていますか?
もし家事が回っていなかったら、あなたの生活はどうなりますか?
いきなり少し個人的な話から始めさせてください。
僕は2年前に妻と離婚し、昨年、母を病気で亡くしました。今は父と二人暮らしで、家事は僕がやっています。
それまで、正直なところ家事の大変さをちゃんとわかっていませんでした。結婚していたときは妻が、実家にいたときは母が、それぞれ当たり前のように回してくれていたから。でも自分でやるようになってから、毎日ちゃんと食事が出てくる、洗濯されたシャツが着られる、部屋が片付いている——これが本当に大変なことだったんだと痛感しました。
そしてこの経験を通じて、一つ気づいたことがあります。家事が回らないと、生活の質がこんなにも一気に落ちるんだな、と。この感覚は、実は経営にもそのまま当てはまるんじゃないかと思ったんですよね。
今日は、そんな話をしたいと思います。
家事が止まると、生活はこう崩れていく
少しだけ想像してみてください。もし明日から、誰も家事をしなかったらどうなるでしょうか。
朝起きて洗面所に行くと、歯ブラシの横にほこり。キッチンには昨日の洗い物がそのまま。冷蔵庫を開けても、すぐに食べられるものはない。着ていく服は洗濯されていなくて、仕方なく昨日と同じシャツを着る。ゴミ袋は入り口に積み上がり、玄関には脱ぎっぱなしの靴。
1日目はまだ何とかなります。でも3日、1週間と経つうちに、生活の土台そのものが崩れていきます。
食事は毎日コンビニか外食で、栄養は偏るし出費もかさむ。洗濯物は山になって、どれが着られるのかもわからない。掃除されない部屋は埃っぽくて、体調まで崩してくる。探し物はなかなか見つからない。気づけば精神的にも疲れていて、仕事のパフォーマンスまで落ちている。
家事って、やっているときはその存在に気づきにくいんですよね。でも止まった途端、自分の生活がどれだけ家事に支えられていたかを痛感する。見えないけれど、生活の土台になっているもの——それが家事です。
実はこれ、会社の経営にもまったく同じことが言えます。
家事と管理部門は、同じ役割をしている
会社における家事は何かというと、管理部門です。
人事、労務、経理、総務、IT、法務——目立たないけれど、止まった途端に組織全体が機能しなくなる仕事です。
改めて考えてみると、家事と管理部門はいろんな点で共通しています。
どちらも「目立たないけれど、基盤になっている」
家事が回っていることで日々の生活が成り立つように、管理部門が回っていることで会社の日々の営みが成り立ちます。普段は誰も意識しないけれど、止まれば一気に全体が崩れる。この構造はそっくりです。
どちらも「日々の積み重ねが必要」
家事は一度やったら終わりじゃなくて、毎日続ける必要があります。一日サボれば、その分どこかに歪みが出る。管理部門も同じで、毎月の給与計算、日々の経費処理、継続的な労務管理——止められない業務の連続です。積み重ねることでしか成立しないという性質を持っています。
どちらも「やっている人の価値が見えにくい」
家事をしている人が「今日、お米を炊いて、洗濯をして、掃除をしました」と一つ一つ報告することはないですよね。やって当たり前だと思われている。管理部門も同じで、毎月ちゃんと給与が支払われている、備品が揃っている、契約がきちんと結ばれている——これらが当たり前すぎて、やっている人の価値が見えにくい。でも止まった瞬間、その価値の大きさを誰もが痛感することになります。
管理部門が止まると、会社はこうなる
では実際に、管理部門が止まったら会社はどうなるのか。具体的に想像してみてください。
小さい会社でよく起きるのは、こういうことです。
担当者が一人辞めた途端に、業務が止まる
経理も労務も一人の担当者に集中していて、その人が抜けた瞬間に給与計算も請求書発行も動かなくなる。「あの人しかわからない」が、小さい組織ほど起きやすい。
雇用契約書が口頭のまま、トラブルになる
忙しくて契約書の整備を後回しにしていると、いざ揉めたときに「そんな条件で合意した覚えはない」と言われて対抗できない。採用のスピードが整備を上回ると、いつの間にかこういう穴が空いています。
経費精算が毎月後ろ倒しになり、資金繰りが見えない
月次の数字が締まらないから、「今、いくら使っていいのか」がわからないまま経営判断することになる。創業期ほど、このキャッシュの見えなさは致命傷になります。
そしてこれを放置したまま組織が大きくなると、代償も一気に大きくなります。
労務トラブルが大きく育つ
労働時間の把握が甘いまま人が増えて、気づいたら残業代の未払いや有給未消化が積み上がっている。ある日突然、元職員から労働基準監督署に通報されて、過去に遡って数百万円の支払いを求められる——珍しくない話です。
契約書の管理が追いつかない
取引先が増えて、契約書がどこにあるかわからない、更新時期も把握できていない。トラブルが起きたときに対応が後手に回り、信用を失います。
これらは僕が現場で実際に見てきた話です。小さいうちの「ちょっと回っていない」を放置すると、大きくなってから取り返しのつかない形で表面化する。管理部門が機能していないことの代償は、想像以上に大きいんです。
なぜ多くの経営者は、管理部門を軽視してしまうのか
ここが問題なんですが、中小企業の経営者と話していると、管理部門の重要性をちゃんと理解している人は意外と少ないんですよね。
売上を作るのは営業や現場だから、経営者の関心もそこに向かいます。プロダクトを磨くこと、顧客を増やすこと、シェアを取ること——そういう華やかな仕事に時間とエネルギーを注ぎ込む。
管理部門は「やってくれてて当たり前」の存在になりがちです。家事と同じで、普段その重要性が見えにくい。問題が起きて初めて「あれ、こんなに大事な機能だったのか」と気づくことが多いんです。
でもそのときには、取り返しがつかないことも多い。職員の離職、労務トラブル、税務調査での指摘、情報漏洩事故——どれも突然やってくるのではなく、日頃の整備を怠った結果としてじわじわ育ってから爆発します。
そして一度爆発すると、リカバリーに膨大なコストと時間がかかります。弁護士や社労士への相談費用、追徴課税、失った職員の採用コスト、失った信用の回復——気づけば、日頃の整備を怠った何十倍ものコストを払う羽目になるんです。
実は僕の仕事って、問題が起きてから呼ばれることがほとんどなんですよね。給与計算が回らなくなった、労務トラブルが大量発生した、担当者が突然辞めて業務が止まった——そういう「緊急事態」に駆けつけることが多い。
そしてそういう現場に入るたびに思うんです。「こうなる前に手を打っていれば、こんなに余計なコストも労力もかけずに済んだのに」と。
問題が大きくなってから対処するのは、本当に大変です。時間もお金もエネルギーも、問題が起きる前の何倍もかかる。職員の士気も下がるし、経営者自身の精神的な負担も大きい。
もし、小さいうちに少しだけ手をかけて仕組みを作っておいたら——そう思うケースが、本当に多いんです。
小さいうちこそ、整備しないと後が大変
「でも、うちはまだ小さい会社だから、そこまで気にしなくても……」と思うかもしれません。
家事にたとえると、一人暮らしであれば適当でも何とかなりますよね。洗濯物を溜めても、自分が困るだけ。食事も外食で済ませても大丈夫。
でも家族が増えたらどうでしょうか。子どもが生まれて、親と同居して、家族4人、5人となってくると、一人で適当にやっていた頃のやり方では絶対に回りません。家族全員のご飯、洗濯、掃除、スケジュール管理——分担と仕組みがないと、誰かが潰れます。
経営もまったく同じです。創業期の数人の会社なら、経営者が何となくバックオフィスを回していても成り立ちます。でも人が増えて、拠点が増えて、取引が増えていくと、「何となく」では絶対に回らなくなる。
しかも、後から整備しようとすると何倍もコストがかかります。一度できあがったやり方を変えるのは、職員の反発もあるし、既存の業務を回しながら並行して進めなければならない。小さいうちに仕組みを作っておけば楽に済むことが、組織が大きくなってからでは大工事になるんです。
会社の家事は、経営者一人で抱えないでいい
家事が家族で分担するものであるように、会社の家事も経営者一人で抱え込む必要はありません。
家事だって、今は全部を人の手でやる時代じゃなくなりました。食洗機、乾燥機付き洗濯機、ロボット掃除機——便利な道具が毎日の手間を肩代わりしてくれる。会社の家事も同じです。勤怠管理、給与計算、経理処理、人事労務といった毎月のルーティンは、月額数千円から1万円程度のSaaSで自動化できます。小さいうちに導入しておけば、情報が一元管理されて、担当者が変わっても業務は止まらない。
道具を入れても、使い方のルールが曖昧だと結局混乱します。家で言えば「ゴミ出しは誰の担当で、食材の買い出しはいつやるか」を決めておくようなもの。会社でも、誰が何をどこまで決めていいのか、どの業務を誰が担当するのかを明文化しておくと、人が増えても業務がスムーズに回ります。「最初が肝心」というのは、この仕組みを作るのが小さいうちほど楽だからです。
それでも手が足りないところは、外部の力を借りればいい。家事代行やベビーシッターのように、会社の家事にも代行・支援のサービスがあります。SaaSの導入支援、業務フローの設計、バックオフィス全体のマネジメントまで、今は外部で補える時代です。社内に人材がいなくても、整備は十分にできます。
「全部自分でやらなきゃ」「人を雇わないと回せない」と思い込む前に、仕組みで解決する、外部に頼る——そういう選択肢もあることを知ってもらえたらと思います。
まとめ:管理部門は、組織の生活を支える土台
家事が生活の土台であるように、管理部門は組織の土台です。
見えない、目立たない、華やかじゃない——でも止まれば会社全体が崩れる。そういう大事な仕事が管理部門です。
中小企業の経営者の方には、ぜひ一度、管理部門のことを「会社の家事」として捉え直してみてほしいと思っています。
今は誰かが何とか回してくれているかもしれません。でもその「誰か」が突然いなくなったら、給与計算は止まりますか?経費の処理は続けられますか?契約書はどこにあるか分かりますか?
もしそれらの問いにすぐ答えられないなら、管理部門の整備に手をつけるタイミングかもしれません。小さいうちに仕組みを作っておくことが、結果的に一番の近道です。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。みなさまの事業が発展されることを心よりお祈りしています!