クルージングヨット教室物語208
Photo by S. Noguchi on Unsplash
「香代ちゃんって意外に大人だね」
麻美子は、横浜のマリーナからの帰り道、東京まで車を運転しながら助手席の隆に話しかけた。
「ね、聞いてる?寝ちゃった?」
麻美子は、返事がないので聞き返した。
「うん、聞いているよ」
隆が答えた。
「大人ってどう言う意味。大人じゃん、香代だって」
「まあ、そうなんだけどね」
麻美子は言った。
「なんか香代ちゃんって可愛いからさ、私から見ると娘のような・・子供な気がしちゃって」
麻美子は、母親の目になっていた。
「でもさ、香織ちゃんがラットの練習しなきゃ、あんたに怒られるって言ってさ」
麻美子の話は続いていた。
「そしたら、練習しないと上手くならないよねって、香織にラット手渡して、香代ちゃんが」
「香代、そんなこと言ったんだ」
隆は、麻美子に聞いた。
「言ったよ」
麻美子は断言した。
「一生懸命、香織ちゃんに操船の仕方を教えちゃって」
麻美子は、香代の成長を嬉しそうに話していた。
「ふーん」
隆は、黙って麻美子の話を聞いていた。
「良いかもしれないな。香代がボースンで中心になって」
隆は考えていた。
「レーシングチームを作ろうか」
隆が突然思い出したように麻美子に提案した。
「レーシングチーム?」
「ああ。ラッコじゃ船が重たくて走らないからさ。別に、うららみたいなヨットを用意して、来月、4月からのクルージングヨット教室で生徒を何人か取って、香代が中心になってレースに出場するの」
隆が言った。
「香代ならば、生徒たちを引っ張って各地のヨットレースで勝ち続けられそうじゃないか」
「何を言っているのよ」
麻美子が一笑した。
「だいたい、うららみたいなヨットになったら、どこかにクルージングに行く時どうするのよ。うららって船内にトイレも無いのよ。バケツでトイレするんだから」
麻美子は、松浦さんとうららの船内を案内してもらった時のことを思い出していた。
「いや、クルージングはラッコで行くさ」
隆が麻美子に言った。
「ラッコは、俺の愛艇だからずっと手放したりはしないさ。別に、香代とかが乗るレース艇を・・」
「2艇もヨットを所有する気なの?」
「うん。おもしろいと思うけどな」
「隆って、そんなお金あるの?」
「え」
隆は、運転する麻美子の横顔を見て、以降黙ってしまっていた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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