「麻美子は、最初のラッコが進水した頃の俺と2人で乗っていた時からほぼ成長してないが」
隆は、陽子と話していた。
「周りの皆が成長してくれたおかげで、ラッコとしては大きく成長したってことか」
「そうそう、そういうことよ」
陽子は笑顔で隆に答えた。
「さあ、そろそろ保田の港も近づいたし、セイルを下ろしましょうか」
隆は、瑠璃子とアクエリアスのマスト下に行くと、メインセイルを下ろした。
隣を走っていたラッコでも、メインセイルを下ろしていた。
「麻美子!今日初めてのヨット作業か?」
隆は、アクエリアスからラッコの麻美子に向かって呼びかけた。
「え、何が?」
航海中、麻美子は、ほぼずっとフォアデッキで寝転がっていたか、キャビンの中、パイロットハウスのソファに腰掛けていただけに見えていた隆だった。
港に入港すると、香代が上手にラッコをポンツーンへ着岸させていた。
「フェンダーもう少し下にしようか」
香織と雪がラッコからポンツーンに飛び移ると、舫いロープで船を結んでいた。
隆は、そのポンツーンの向かい側にアクエリアスを着岸した。
「私、漁港に挨拶に行ってくるね」
麻美子は、ラッコを降りると、雪たちに声をかけるとポンツーンを上がって漁港事務所に行ってしまった。
「ね、香織。今日って麻美子は何かヨットの作業をしていた?」
隆は、アクエリアスのデッキ上からポンツーンにいた香織に聞いた。
「え、うん」
「何もしていないでしょう?」
「そんなことないよ、サンドウィッチ1人で全部作ってくれたし」
「ヨットのことは?」
隆が香織に突っ込んでいた。
「していないよね。今だって着眼するのに、舫いロープもフェンダーも何も触っていなかったものな」
隆にはお見通しだった。
「でもさ、ごはん作ってくれるのも、クルージング先で漁港とかに挨拶に行ってくれるのも大切よ」
陽子が、隆の頭を撫でながら言った。
「まあ、そうなんだけどさ」
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
東京国際ボートショー開催中の横浜マリーナではクルージングヨット教室生徒募集中!