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クルージングヨット教室物語74

Photo by Clay Banks on Unsplash

「隆くん、かなり上位にいくかもしれないよ」

隆が、陽子と香織と横浜のマリーナ敷地内に戻ってくると、中村さんに呼び止められた。

隆が、陽子、香織と一緒にアクエリアスをバースに置いて戻ってくると、マリーナ敷地内には何個もパラソルが開かれていて、大きなビア樽に入ったビール、バーベキューの上では肉や焼きそばが焼かれていて、レース後のビールパーティーが既に始まっていた。

「上位に入るとは?」

隆は、中村さんに聞き返した。

「この成績表を見てみてよ」

中村さんは、隆たちに本日のクラブレースの各艇のレース結果が書かれた用紙を見せた。

「ほら、レーティングで、うちの船が修正で上位に入りそうなんだよ」

中村さんは、隆に話していた、

「そんな上位にいきますか?」

隆は、中村さんから見せられたレース結果の表を覗きこんだ。

「だめだ。俺には、この複雑なレーティングの計算はわからない」

会社の経理だって、いつも麻美子に任せっきりの計算が苦手な隆は諦めたように呟いた。

「このレーティングで、上位でゴールしたのって、うららとかレース艇だけじゃないですか。うちのアクエリアスと同じクラスの艇は皆、隆くんが追い抜いてくれているでしょう」

「なるほど。上位艇が皆、レース艇ばかりだから、修正で追い抜けるってことですか」

隆は、再度レース結果の書かれた用紙を覗きこんだ。

「え、アクエリアスってこんなにレーティング低いんですか」

隆は、うららたちレース艇に比べて、アクエリアスが随分と数値が低いことに驚いていた。

「これなら、修正で追い抜けるかな?」

隆は、横にいる陽子に用紙を見せながら、聞いた。陽子の後ろから香織も覗きこんだが、さっぱりチンプンカンプンだった。

「うーん、どうだろうね」

やはり、隆と同じで、あんまり計算が得意でない陽子の返答も曖昧だった。

「瑠璃子なら、パッと計算できてしまうんだろうけどな」

隆は呟いていた。

「ああ、なんかお腹が空いた」

香織はバーベキュー台で焼かれているお肉の匂いにお腹の音を鳴らしていた。隆も陽子もだが、香織もレース中はヨットを走らせることだけに夢中で、まだお昼を何も食べていなかった。

「なんか食べに行こうぜ」

中村さんは、既に焼きそばのお皿とビールの紙コップを手に持っていて食していた。

「食べよう!お腹が空いた」

隆、陽子に香織は、バーベキュー台のところに歩いていくと、肉を焼いていたフェリックスの市毛さんから、お皿に盛り付けられた肉と焼きそばを受け取っていた。

「飲み物も、もらいに行こう」

陽子が言って、3人はビア樽の置かれているところへ向かった。

「ビールって、もらってもいいの?」

「もちろん」

隆は、香織に答えた。香織は、ビア樽から紙コップにビールを注いでいた。陽子も、自分の分のビールをコップに注いでいた。隆は、近くに置いてあったソフトドリンクからオレンジジュースを選んだ。

「隆さんって、お酒が飲めない人なんだ」

隆がオレンジジュースを飲んでいるのを見て、香織が尋ねた。

「そう、下戸だから」

隆は、香織に答えていたが、

「うそうそ、それなりに飲めるから」

すぐに、陽子にバラされてしまっていた。

「え、それじゃ、飲まないんですか?」

「帰りの自動車を運転しなきゃいけないからでしょう」

陽子が、隆に聞いた。

どうせ、麻美子がビールを飲んでしまっているだろうから、帰りの車は、自分が運転しないとだめだろうと思って、飲むのを辞めていた隆だった。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など

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