【COO/CHRO代行のリアル⑥】【実録】新卒採用ゼロが、毎年2〜3名採用できる組織に変わるまで
【サマリー】
「新卒採用は無理」と諦めている地方中小企業は多い。ある金属加工業(年商5億、従業員30名)は、新卒採用ゼロから毎年2〜3名の採用が可能な組織に変わった。ただし、2年目に入社した新卒1名が3ヶ月で退職。その失敗から、金属加工業特有の「職人文化」を変える必要があると気づいた。さらに、「なぜ新卒を採用するのか?」を社員に腹落ちさせる必要もあった。オンボーディング・1on1・評価制度を設計。制度が行動を変え、行動が習慣を変え、習慣が文化を変えた。3年目以降、定着率100%を実現。
【この記事で分かること】
・新卒採用の必要性を社員に腹落ちさせる方法
・新卒が3ヶ月で辞める本当の理由
・金属加工業特有の「職人文化」の問題点
・オンボーディング設計の本質
・1on1の役割分担(社長と指導係)
・制度→行動→習慣→文化の変え方
【こんな経営者におすすめ】
・年商3〜10億、従業員10〜50名規模の成長企業
・「新卒採用は無理」と諦めている
・新卒を採用したが、すぐ辞めた経験がある
・職人気質の現場を持つ製造業
【本文】
「新卒採用は無理」という諦め
「新卒は無理です。うちは職人の世界ですから」
福岡県の金属加工業(年商5億、従業員30名、平均年齢45歳)の社長は、そう言った。過去10年、新卒採用はゼロ。「10年前に1名採用したが、3ヶ月で辞めた。職人の世界は厳しい。新卒には無理だ」。
ところが3年後、この会社は変わった。毎年2〜3名の新卒採用が可能になり、定着率100%を実現した。何が変わったのか?
なぜ新卒採用をするのか? 社長の危機感
事業拡大のため、社長は新卒採用に再挑戦することを決めた。でも、それだけではない。社長には、強い危機感があった。
「平均年齢45歳。ベテラン職人が10年後には引退する。技術が途絶える。中途採用だけでは、深い技術は継承できない。だから、新卒を採用し、10年かけて育てる必要がある」
社長は朝礼で、全社員に伝えた。「10年後、この会社を誰が支えるのか? 新卒を育てることは、会社の未来を作ることだ。協力してほしい」
社員(職人)は、最初は懐疑的だった。「新卒なんて、手間がかかるだけだ」。でも、社長の本気を感じた。「分かりました。やってみます」。
この説明があったから、社員は協力的になった。ただし、それだけでは不十分だった。
1〜2年目:失敗
1年目は内定辞退。2年目、ようやく1名が入社した。社長は喜び、ベテラン職人を指導係に任命した。
入社日、社長は歓迎した。でも翌日から、社長は現場で機械を動かしている。納期に追われ、忙しい。新卒を見かけたら「頑張ってるか?」と声をかける。でも、それだけ。社長は「指導係に任せているから大丈夫だろう」と思っていた。
指導係も忙しい。新卒が「この工程、どうやるんですか?」と聞く。指導係は機械を動かしながら「見てろ」と言う。手元を見せるが、説明はしない。「背中を見て覚えろ」という職人気質。新卒は「何をどう見ればいいのか」分からない。聞くタイミングも分からない。
入社3ヶ月後、新卒は退職した。理由は「自分が何をすべきか分からなかった」「誰に相談すればいいか分からなかった」。
なぜ失敗したのか? → 職人文化と社員の納得感不足
私はCHRO代行として、社長と振り返りを行った。問題は2つあった。
問題①:職人文化
金属加工業にありがちな文化:
- 「技術は盗むもの」(昭和の職人気質)
- 「背中を見て覚えろ」(教えない)
- 「一人前になるには10年かかる」(新卒なんて無理)
- 現場は忙しい。納期に追われている。新卒に構っている暇はない。
この文化は、ベテラン職人には機能する。でも、新卒には機能しない。新卒は「背中を見て覚える」ことができない。「何を見ればいいか」も分からない。
問題②:社員の納得感が、まだ不十分だった
社長は朝礼で「新卒を育てよう」と伝えた。社員も「分かりました」と答えた。でも、本音では「面倒だ」と思っていた。「協力する」と言いながら、具体的に何をすればいいか分からなかった。
社長は言った。「『新卒を育てよう』という掛け声だけでは不十分だった。具体的な仕組みが必要だった」
文化を変えるために、制度を作る
社長と私は、「新卒を全員で育てる文化」を作ることにした。ただし、文化は掛け声だけでは変わらない。制度が必要だ。制度を通じて、社長と職人の行動を変える。行動が習慣になり、習慣が文化を変える。
3つの制度を設計した。
制度①:オンボーディング(入社前〜3ヶ月)
なぜオンボーディングが必要なのか? 新卒は、内定から入社まで不安を抱えているからだ。「本当にこの会社で良かったのか?」「職人の世界についていけるだろうか?」。この不安を放置すると、内定辞退か早期退職に繋がる。
入社2ヶ月前:社長と面談(30分)
社長が「君に期待していること」を具体的に伝える。「3ヶ月後、この機械を一人で操作できるようになろう。最初は失敗して当たり前。一緒に頑張ろう」。
ここで重要なのは、「失敗しても大丈夫」と伝えること。職人の世界は厳しいイメージがある。新卒は「失敗したら怒られるのでは?」と不安に思っている。社長が「失敗して当たり前」と言うことで、新卒は安心する。
入社1ヶ月前:指導係との顔合わせ(1時間)
工場見学を兼ねて、指導係の職人と顔合わせ。「分からないことがあったら、俺に聞いて。最初は誰でも分からないから」。新卒は、相談相手が明確になる。
入社日:社長が全社員に伝える
朝礼で社長が全社員に伝える。「今日から新卒の〇〇君が入社します。3ヶ月後、基本的な機械操作ができるようになることが目標です。皆さん、声をかけてあげてください」。
これで、新卒は「全員が自分を見守っている」と感じる。また、社員も「自分の役割」を意識する。
入社1ヶ月:社長と1on1(30分)
「困っていることはない?」だけでなく、「入社前と比べて、できるようになったことは?」と聞く。小さな成長を言語化し、実感させる。
制度②:1on1(社長と指導係、両方が必要)
1on1は、社長と指導係の両方が行う。役割が違うからだ。
社長との1on1(月1回、30分)
- タイミング:入社1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月...
- 話すこと:成長実感、キャリアの希望、会社への期待
- 目的:新卒が「社長に見守られている」と感じる
社長との1on1で重要なのは、「成長を言語化する」こと。「入社時と比べて、できるようになったことは?」と聞く。新卒は「最初は機械の名前も分からなかったけど、今は基本操作ができます」と答える。社長は「すごいじゃないか。3ヶ月でよくここまで来た」と承認する。新卒は、成長を実感する。
指導係との1on1(週1回、10分)
- タイミング:毎週金曜日、終業後
- 話すこと:「今週どうだった?」「困ったことない?」
- 目的:日常的な不安を解消
指導係との1on1は、日常の小さな不安を拾う。「この工程、まだ自信がないです」「次はこれを教えてほしいです」。指導係は「来週、一緒にやろう」と答える。新卒は、安心する。
社長だけでは、日常の不安を拾えない。指導係だけでは、キャリアの話ができない。両方が必要だ。
制度③:評価・キャリアパス
新卒は「自分の成長」が見えないと不安になる。マイルストーンを設計した。
- 半年後:基本的な機械操作を一人でできる
- 1年後:後輩に教えられる
- 3年後:難易度の高い加工を任せられる
これを入社日に伝え、3ヶ月ごとに進捗を確認する。新卒は「次に何をすべきか」が見える。
制度→行動→習慣→文化
3年目、この制度で新卒2名を採用した。1年後、2名とも在籍(定着率100%)。4年目も2名採用し、半年経った現在も在籍している。
制度が、行動を変えた。社長は毎月新卒と話すようになった。指導係も毎週声をかけるようになった。他の職人も、朝礼後に「昨日の加工、どうだった?」と声をかけるようになった。
行動が、習慣を変えた。社長は「新卒と話すのが当たり前」になった。指導係も「新卒に声をかけるのが当たり前」になった。他の職人も「新卒を気にかけるのが当たり前」になった。
習慣が、文化を変えた。「新卒を全員で育てる」という文化が根付いた。新卒が失敗しても、「最初は失敗して当たり前。一緒に考えよう」と受け止める。朝礼でベテラン職人が新卒に「昨日の加工、良かったぞ」と声をかける。新卒は、孤立しない。
毎年2〜3名の新卒採用が当たり前になった。従業員は30名から35名に増え、平均年齢も45歳から42歳に下がった。
文化は、一朝一夕には変わらない。制度→行動→習慣→文化。この順番でしか、変わらない。
制度は、文化を変えるための道具
新卒採用の本質は「文化」だ。でも、文化は掛け声だけでは変わらない。制度が必要だ。制度を通じて行動が変わり、行動が習慣になり、習慣が文化を変える。
この会社は、職人文化を捨てたわけではない。「技術を大切にする」という文化は残した。でも、「新卒を全員で育てる」という文化を加えた。両方の文化が共存している。
あなたの会社に、新卒を育てる制度はあるだろうか?
次回予告
第7回:事業戦略と採用戦略を連動させる「壁打ちDay」
月1回の経営者との壁打ちで、事業と組織をどう連動させるか。