京都大学大学院(修士課程) / 工学系研究科社会基盤工学専攻
修士論文の要旨
以下に私が執筆した修士論文の引用し、私が3年間研究してきたことの概要とします。 1891年の濃尾地震を契機に耐震設計の必要性が問われ始めた我が国では,大きな地震被害の度に耐震設計法及び耐震基準の見直しが繰り返し行われてきた.そして現行の耐震基準も将来また変わるかもしれないことを鑑みると,現在の耐震基準を満たすだけでなく将来の耐震基準の変化にも対応できるような構造の開発が求められる.本研究の目的はそのような将来の要求性能の変化を想定し,変化に応じて耐震性能を容易に更新することができる柱構造を開発することである.本研究ではそのような構造を,耐震性能を新陳代謝できる構造という意味を込め,メタボリズム柱構造と名付けた. メタボリズム柱構造は永続的に使用する構造として永続部を柱内部に,取替可能な構造として可換部をその外殻に配置した二重構造で構成される柱構造である.永続部には軸力・せん断力を支持することを要求し,可換部には地震時のエネルギー吸収能を要求する.このような構造とすることで,可換部の取替により耐震性能の新陳代謝を可能にする.可換部取替の際,軸力は永続部に支持されるため,橋脚を供用したまま耐震性能を更新できる.本研究では,永続部として変位制御装置付きゴム支承を検討し,可換部としてRC部材や鋼製部材を用いた構造をメタボリズム柱構造として検討した. 上記構造に対して実施したのは,軸力支持下での可換部取替実験と正負交番載荷実験である.軸力支持下での可換部取替実験により,本構造であれば軸力載荷下での可換部の取替が可能であることが確認された.また正負交番載荷実験からは大きな履歴面積を有する荷重変位関係が得られ,安定したエネルギー吸収能が発揮されたことが確認されたとともに,異なる可換部を取り付けることによりその耐震性能は改変できることが確認された.RC可換部を取り付けたメタボリズム柱構造については,正負交番載荷にともなって徐々に可換部に軸力が伝達していくことによる降伏後剛性の大きな復元力特性が得られた.そしてその復元力特性は,可換部にファイバー要素を用い,永続部が軸力を支持した状態で可換部を結合するという実験状態を模擬した数値解析を実施することで,再現可能であることが確認された.鋼製可換部を取り付けたメタボリズム柱構造については,永続部が圧縮力を負担することにより,永続部の無い中空無補剛鋼製柱よりも塑性変形性能が向上することが確認された. RC可換部を有するメタボリズム柱構造と鋼製可換部を有する構造を比較すると,接合部の影響や塑性変形性能,エネルギー吸収能といった観点では,鋼製可換部の方が優れているが,コスト面ではRC可換部の方が優れていた.このように可換部にはそれぞれ長所と短所があるが,本研究で検討したメタボリズム柱構造であれば,可換部の中からその時の要求性能に応じて最適なものを選択できるため,比較的自由に耐震性能を改変することができると考えられた.そしてこのような自由度の高いメタボリズム柱構造が実現可能とする構造計画について述べ,その実現に向け今後の展望を示した.