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五島リトリート ray 山本祐輔が料理長として考えること

考えて、考えて、考える。考えるからこそ、見えてくるものがある。山本さんが「五島リトリート ray by 温故知新」の料理長として、「料理」「人」「環境」…そのすべてと向き合い、考えつづける今。真っ直ぐな姿勢をもつ彼だからこそ見えるものや感じられるもの、そんな“頭の中”やこれまでのことを、今回はインタビューを通じて言葉にしていただきました。

料理の道に進むまで

きっかけは「MOCO’Sキッチン」という、当時放送されていた料理番組だったんです。3年間工業高校に通っていましたが、とはいえ工業系の仕事につきたいという気持ちにはなれず、進路についてもちょうど悩んでいたタイミングでした。そんな時にこの番組を見て、「料理ができたらモテるんじゃないか…!」と思い(笑)挑戦してみようかな、という気持ちで、料理の専門学校に進むことを決めたんです。そこから、出身である青森を出て岩手の専門学校へと進学し、1年のあいだに調理師免許も取得するなかで、本格的に料理人を目指そうという気持ちが芽生えました。

就職するにあたっては、東京に出たい気持ちもあったので。“東京 和食”という形で求人を探し、1番最初のページに出てきた「分とく山」という、東京都内にある日本料理のお店を受けてみようと決意。最終的にその場所で、11年間、勤めさせていただきました。

数あるジャンルの中でも、“和食”を選んだ理由

「子どもたちが好きになれるような日本料理を作りたい」と思っていたんです。
たとえば、誕生日やクリスマスといったイベントやお祝いごと、あるいはお子さまランチ。そういう時に出てくるもののほとんどが、洋食なんですよね。自分もそうだったんですけど、ハンバーグ、エビフライ、オムライス…やっぱり子どもが好きなものには洋食が多いですし、それをふと考えた時に、「どうして日本人なのに和食を食べないんだろう?」という疑問が生まれました。

そこから、“だったらそういう時に和食を食べられる世界にしたい、子どもたちが好きなものを自分が作りたい”と思うようになりましたし、自分も洋食が好きだったからこそ、どこかこう反骨心のようなものもあって、和食を選ぼうと思ったんです。

目標から逆算して、踏み出した1歩

前職に勤めるなかで、よく先輩から言われていたのは『1年ごとの目標と、5年後、10年後、15年後の自分の姿も想像したほうがいい』という言葉でした。

だからこそ自分も、1年後、2年後、3年後と目標を立てるかたわらで、自分の人生設計も立てていたんです。その計画の1つが、“10年後には今のお店を辞めて独立をするか、もしくは他のお店にいくか”…というもの。そこが見えたことで、10年よりも先延ばしにならないためには「何をすべきか」がわかっていましたし、取るべき免許もしっかりと目標としていた期間内に取ることができ、独立を視野にいれた準備も進めていました。ただ、もちろん長く働いていたことで責任もあり、当時の職場の人員体制からもすぐに踏み切ることはできなかったので、11年という区切りで次に動くことに。そこで改めて目標や計画からの逆算で考えた時に、“今独立するよりも、まずは違うお店で働いてみよう”という考えに至り、温故知新への転職に踏み出しました。

“料理長”へのチャレンジ

人生で初めての転職。11年間勤めた日本料理店を離れ、転職するにあたって自分のなかで考えていた選択肢は、東京に残るか、自分の出身である青森に戻るか、もしくは妻の出身である五島に行くか…という3つでした。そこで決め手になったのは、「子育てをする環境」だったんです。

ちょうど2人目の子どもが生まれたタイミングだったこともあり、家族として1番良い環境を選ぶことが重要。そう考えた時に、妻の故郷である五島の地に移り住むことがベストだという答えが見え、それと同じ時期に五島リトリートの求人を見つけたことから、応募に至りました。

とはいえ、すぐに料理長になることには『イエス』と言えなかった

…採用していただくことが決まったものの、自分の中で迷いや葛藤もありました。

というのも、自分自身は五島の地に住んだこともなく、この地域への関わりも浅かったですし、食材のこともほとんど知らない状態で。調理をするにあたって、そんな自分が突然“料理長”として入っても、誰もついてこないんじゃないか…という気持ちもあったんです。なので、すぐに『イエス』と言うことができず、最初は一スタッフとして入社することを希望していました。

ただ、当時の五島の状況を知り、社長の松山さんともお話しをさせていただくなかで、「頑張ろう」という気持ちも大きくなっていき、料理長としてやっていく決心もついたんです。

今はとにかく、調理場のみんながより良い環境で仕事ができるようになればいいな、という思いでいますし、それがホテル自体の底上げにもなると思っているからこそ、料理長として力になりたいという気持ちでもいます。

五島で料理人として働く魅力

きっと、お肉やお魚が美味しい地域はたくさんあると思いますし、五島ももちろん例外ではないです。でも実は、五島の1番の魅力は「野菜」にあると思うんですよね。

農家さんが育てた野菜が朝採れて、その日の昼前にはスーパーに並ぶんです。誰が作ったものかすぐに分かりますし、新鮮さや美味しさといった点でも、やっぱりそうした食材を使って調理するのは、料理人としての醍醐味でもあると思います。島ならではの魅力、この五島で働くからこそ味わえる魅力だとも感じています。

そこからさらに、魅せる料理で「らしさ」を追求する

味そのものを追求するのはもちろんのこと、“写真1つでお客さまを惹きつけられるような料理”を追求しようとするところもまた、この温故知新らしさだと思います。

食べてみて美味しいと感じるだけでなく、食べる前から美味しいと思わせる。それによって訪れる前からゲストを惹きつける。これは料理人にとっても大きなチャレンジになりますし、成長にも繋がります。さらには、そうした温故知新らしさもまた追求し続けることになるのかな、と思いますね。

働くうえで大切にしているもの

コミュニケーションを取ること、しっかりと腹を割って話をすることは、一緒に働く方々に対してはとても大切にしています。

料理人というと、やっぱり「背中で教える」というイメージも強いかと思いますし、実際にそういうスタンスの方も多くいらっしゃいます。でも、自分自身が女性の板前さんが多い調理場で育ったこともあり、どちらかというと「口で説明して教わる」経験のほうが多かったんですよね。だからこそ、自分もちゃんと言葉にして教えてあげたいな、と思いますし、自分が育ててもらったように育ててあげられたら、きっと大きな成長に繋がっていくという気持ちもあります。

なので、そういった意味でも自分の経験そのものも大切にしていますし、そのなかで一緒に働く方にとっての環境を良くすることや、周りの業者さんとの繋がりも大切にしていきたいなと思っています。

どんな方と一緒に働きたいですか?

たとえば、仮に調理師免許がなかったとしても、未経験でも。とにかく「料理をすることが好き」という方と一緒に働けたら嬉しいですね。

その人がなにを思って働いてくれてるのか、そこが何よりも重要だと思うので。好きという気持ちがあれば、こちらもそこに対して思いっきり熱量を注いで育ててあげたい、という思いがありますし、一緒に何年後かの姿を想像して、目標を立てていけたら…きっとここで働く時間も濃密なものになって、大きな成長に繋がっていくと思います。

ライター所感

「地域食材の探求者である料理人」
…これは、温故知新のフィロソフィーのなかにある言葉です。

職人性へのリスペクトを大切にしようとする会社だからこそ、料理人もまた与えられた場で、その地域ならではの食材をどこまでも探求して活かすことができる。そしてそれが、“料理人としての成長”と“ショーケースとしてのホテルの成長”の双方繋がる。

まさに五島なら五島にしか生み出せない、また別の場所ならそこでしか見つけられない“光”があるのが、この温故知新の強みなのだと改めて感じさせられるインタビューだった。

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