隣の部署の人が、どんなスキルを持ち、どんな思いで仕事に取り組んでいるか、意外に知らないことが多いもの。Faber Companyでは2021年末、それぞれのメンバーが専門領域について研究・実践の成果をを発表する社内イベント「職人会議」をリニューアルし、再始動させました。経営陣は「若手を育てたい」。一方、登壇者は「プレゼン力を磨いて、いずれ社外登壇にも挑戦したい」「新しいノウハウを社内に共有したい」など、それぞれに狙いを持って立候補します。「今の自分の基礎を作ってくれたのが『職人会議』だった」と語る小丸広海と白砂ゆき子とに、再始動を企画したワケを聞きました。
左:小丸広海(こまるひろみ)
東京生まれ。28歳でSEOコンサルティング会社の株式会社クヌギに入社し、Webマーケティングの世界へ。29歳でFaber Companyに入社(クヌギ社と合併)。現在は顧客企業のSEOコンサルティングを中心に、社外向けセミナー講師や社員育成、ミエルカのYoutubeチャンネルへの出演など幅広く活躍中。SEOと猫と音楽をこよなく愛する男。最近の趣味は戸建てマイホームのスマート化(音声・遠隔・オート操作)。
右:白砂ゆき子(しらすなゆきこ)
兵庫県立神戸商科大学(現:兵庫県立大学)商経学部 国際商学科 卒業。新卒3年目(2000年)に転身してウェブ業界に。制作会社→ポータルサイト→コンテンツプロバイダー→ECと経験を積んで、2014年Faber Companyに入社。SEO・コンテンツ施策のコンサルタントを4年半経験して、2018年に起業し、株式会社A-can(エイカン)代表取締役に。かねてから構想していた頭皮と髪の化粧水「ビタミンラッシュ」を開発、D2C事業も手がけている。
今の自分を育ててくれた「職人会議」をもう一度。若手にも成長の機会を
ーー職人会議ってどんなイベントなんですか?
小丸:職人会議は2012年5月から毎月1回、各人が専門領域における研究・実践結果を発表する場として始まりました。お客様のお悩み解決やコンサルティングをする上で、培ったノウハウを「書く」「話す」、つまり人に伝えることを通じてさらに精査し、磨くことができるからです。
登壇者が全社員の前でプレゼンする「職人会議」
※Faber CompanyではWebマーケティングの各専門領域のエキスパートを独自に「職人」と呼んでいます。
ーー小丸さんが職人会議に登壇したきっかけは?
小丸:自分は先輩から「小丸くんも出なよ」と勧められたのがきっかけでした。当初は経営陣や先輩から「論理構成がなってない」「そもそもロジカルシンキングの本を読め」から始まって、かなりドぎついダメ出しがありました。作った資料は全部作り直しの“ちゃぶ台返し”もザラで(笑)。でも最後まで頑張って、登壇し終えた時に自分の実力の伸びを感じたのです。
小丸が2015年当時、「職人会議」で発表した資料の一部。自分にとって日常業務のノウハウが他部署にとっては新鮮な情報になることも
ーーちゃぶ台返し、耐えて良かった?
小丸:良かったですね。それがあるから今、外部登壇やYouTubeでも自信をもって話せるベースができたと言っても過言ではないぐらいです。
白砂:私もそうですね。2015年は年4回出させてもらいました。3カ月に1回出ていた計算です。役員陣が一個一個真剣に指摘してくれてプレゼンに挑んだ経験が、外部で講演する時も活きています。
ーー白砂さんの登壇の経緯は?
白砂:私は2014年の入社時に、空気を読まず「職人会議に出たいです」と役員に言ったんです。そしたら「え?」って顔をされて。精鋭部隊にならないと出られないものなのだと知りました。でもどうしても「自分を磨きたい」と思い、「お客様のコンサルで実績を作るから、出させてください」と交渉したのです。カップルアプリのWebマーケティング支援で成果を出して、やっと登壇OKが出たのが2015年2月。「感情検索」をフックに、女性向けコンテンツのキーワード拡張に成功した事例をプレゼンしました。
白砂が初めてプレゼンした時の資料の一部。ユーザーの検索意図をつかんだ施策が功を奏し、利用者数を大幅に伸ばした
業界のエキスパートからの講評が自分を支える自信に
ーー印象的だった出来事は?
白砂:初登壇が終わった後に鈴木謙一さんが講評で近くに来てくれて「登壇は初めて?」と。その後、役員陣に向かって「この子、面白いからデビューさせてあげて」って言ってくれたんです。幸せな瞬間でした。「SEO業界の雲の上のような人に認められた、こんな私でもいけるんだ」って。
小丸:自分も「やっと白砂さんに続いて表で話せる人出てきたと思いました」と謙一さんに言ってもらったことが、いまだに自信につながっています。謙一さんは今や海外カンファレンスでも登壇する、SEO業界屈指のプレゼンターですから。
取締役の鈴木謙一は、欧州最大の検索エンジンマーケティングカンファレンス「brightonSEO」など海外でも登壇。
宿題だけ与えても勉強好きにはならない。「やらされ感」は徹底排除
ーー登壇や寄稿も多いお2人にとって、成長の糧が「職人会議」だったんですね。改めてリニューアル企画を提案したきっかけは?
小丸:大元は経営陣と「若手を育てる社内勉強会をしよう」「SEOコンテンツを書かせてみようか」という話からスタートしました。しかし何回か話すうち、「うちらの話を『聞く』だけで果たして成長するか…?」「言われたことだけやらせると『やらされてる感』がすごいよね」と気づいたのです。
ーー「自発性」がキーだと。
小丸:はい。せっかくSEO技術の第一人者がたくさんいる会社に入ったのに、日々目の前の業務だけでは本人のレベルアップ、スキルアップにつながりません。それならかつての「職人会議」を復活させて、外部登壇にも対応できる人材を発掘して育てていけたら、本人の名刺代わりになり、会社の発信力も増します。
白砂:子どもに宿題だけ与えていても勉強を好きにならないのと同じですよね。大事なのは座学じゃない。目標を作って、それに向かって先輩と一緒に頑張るほうが楽しいし、成長するのかなと思って。
小丸:なので今回は立候補制にして、登壇者本人が「この人に自分を育ててほしい」と見込んだメンターを自分で選べる方式にしました。面倒見が良い先輩も社内に多いのだから、一肌脱いでと。メンターは手を動かして、成長を認めてあげて、プレゼンの日まで伴走します。我々も含めたリハーサルは基本1回。合格できなかったら2回目も行って改善点をフィードバックし、全社員の前でのプレゼンの日を迎えるスタイルにしました。
あの登壇者があのメンターと?意外な組み合わせも
ーー他部署のメンバーから「メンターになってください」なんてこともあるんですね。
白砂:そうです。私も「職人会議」がなかったら仕事での直接のつながりは薄いインサイドセールスの濱田くんから、「白砂さんなら一番育ててくれそうだから」と指名を受けました。
小丸:会社って大きくなればなるほど、誰がどういうことやってるかわからないじゃないですか。メンターを他部署からも選べると、社内の「繋がりの薄い知識人」にも気軽にアプローチしやすくなりますし、指名を受けたメンターからの覚えもよくなりますよね。
小丸広海
ーー社内報によると、古澤さん(代表取締役Founder)の思いも大きかったようですね。
小丸:はい。古澤さんは常日頃、「(世間一般に言う優等生ではない)ならず者の成功を手伝いたい」と言っています。僕らの企画を大歓迎してくれました。
昨年は大きな手術を経験して「将来のある若い子らに、僕が伝えられる事や託せる事がもっとあるのではないか?と思った」と、社内報でも語っていました。
多くのWebマーケターを育ててきた古澤も一人ひとりにフィードバック
「給与が上がらない」?嘆くなら「職人会議」に自分をアピールしよう!
ーー経営者、会社から見たメリットもありそうですね。
白砂:経営陣が「人が育たない」と嘆いていても、現場サイドから見たら「けっこう育ってるのにな?」というケースも多いんです。今回の企画は、「経営陣にも若手の成長に気づいてほしい」という思いがありました。その意味で、職人会議を見た古澤さんが「あいつの能力の使い方わかった!」とひらめいたように言っているのを見た瞬間、企画者としてはガッツポーズでしたね。
小丸:実際、上長へアピール力抜群だと思いますよ。
白砂:そうそう。「評価されない」「給与が上がらない」と嘆いてるぐらいなら「職人会議で話せ!」と。自分の広報活動、売り込みの場ですものね。
ーー10月、12月の登壇者を見たら、本当に幅広い部署から立候補がありましたね。
「職人会議」復刻版 登壇者とテーマ
白砂:一緒に仕事をしていて、この人の話は私も聞きたい!って人には「やってみない?」とスカウトしました。野心があるのに表に出せてこなかった人も、ほんの少しの後押しで、チャンスだなと思ってくれたみたいです。
ーーとはいえ、人前が得意なタイプばかりではないですよね…?
小丸:「得意・特異を活かす」会社ですから、どこか尖っていたら面白い話ができます。アウトプットが苦手でも、いいメンターがつけば及第点に行きますよ。逆にそのギャップで笑いを取って、みんなが「こんなにユーモアある人だったのか!」って驚くことも。
白砂:ほんとそうです。SEO業界は「本来は陰キャ」の人も活躍しています。最初は人前が苦手でも全く問題ありません、慣れですから。また、勝手にこちらが人前が苦手だと思いこんでいたメンバーが一番に「出たい」って手を上げてくれて「尊い…」と感動しました。リハでいっぱいフィードバックしたら、全部一生懸命メモって修正して、努力してくれて。最高の形にできました。
ーー正社員に限らず業務委託のメンバーも登壇者やメンターになっていますね。
小丸:はい。雇用形態なんて関係ない。別け隔てなく、平等に知識や知見、チャンスを得てもらいたいんです。
白砂:業務委託の人もFaber Companyでコンサル経験を積み、知識を取得できる。それを別の事業に役立てることもできる。またその経験をFaber Companyに還元すると、みんなに貴重な知見になります。大盤振る舞いに見えますが、必ず会社に利益が還元できる仕組みですよね。すべてが循環していますから。
白砂ゆき子
小丸:聞く側にも知見は循環しますよね。たとえば営業担当も、エンジニアやアナリストの発表を見て、自分なりの解釈や肉付けをして営業トークに活かせたりもします。伸びる人は勝手に咀嚼して、更に進化させて、自分のものにしていきますから。
職人会議に出るのはスタート。みんなの成長の踏み台に
ーー聴衆にとってもWin-Winなんですね。復刻版の発表を見て、改めてどんなことを感じましたか?
小丸:今回は「スター誕生の瞬間を見たな」と感動したプレゼンが複数ありました。仕事で成果が出なかったメンバーが、ポテンシャルを発揮してほんとに見事に180度人生が変わった軌跡や思いを語ってくれたのですが、これが抜群に面白く、企画者冥利に尽きるなと。また、データ解析の分野で、本来は非常にレベルの高い内容を大衆向けにわかりやすく解析してくれたメンバーもいます。入社3年目ながらセミナー講師候補の筆頭と見なされるようになりました。
白砂:ある登壇者は複雑な概念を狭いスライドでどう見やすくするか、必死で何度も修正するぐらい打ち込んでいましたね。ほかにも、リハーサルですごく緊張して、直前もガクガクしているのを見てて心配だったメンバーが、本番では良い緊張感だけ残して、震えが消えてノッてくるのがわかったのが印象的でした。次回はもっと楽しんでもらえたらと思います。
小丸:全体的に「コンサル時にあるあるの困りごとを、自分はこう乗り越えた」といったノウハウや、資料の作り方、思考の流れなど、他部署でも有用な知見が数多くシェアされた印象でしたね。
白砂:「職人会議」の醍醐味は、最高のプレゼンになるように全員で汗をかく「祭り感」です。ここに出るのをいったんのゴールににはしてほしいけど、むしろそこからスタート。みんなの踏み台になればいいなと考えています。
ーー開催のサイクルは?
小丸:3カ月1度のペースで途切れさせずに、続けていきたいですね。
白砂:登壇希望者が増えて「待ち」が発生するようになったら、1〜2カ月に1回でもいいかな。
小丸:「こんなに話うまかった?」とか「生意気そうに見えて意外と真摯」とか、印象がかなり良い方に変わったメンバーも多く、アピールしたもの勝ちです。メンバーのみなさん、自分の殻を破りに来てください。