Takeo Inada プロフィール - Wantedly
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スタートアップに必要な「採用・組織づくり」について河合聡一郎氏と探求する新連載。初回は新築・リフォーム・商業などの建設・建築現場で使えるクラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を提供する株式会社アンドパッド代表取締役社長/CEOの稲田武夫氏。「幸せを築く人を、幸せに。」を掲げた「建設DX」の同社サービスは契約社数2500社突破、利用社数60,000社、継続利用率99%というSaaSです。その破竹の勢いの裏には綿密な組織づくりがありました。
株式会社アンドパッド
代表取締役社長/CEO
稲田武夫
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人事・開発・新規事業開発に従事。
2014年アンドパッド(旧:オクト)設立、「現場監督や職人さんの働くを幸せにしたい」という思いで、建築・ 建設現場の施工管理アプリANDPADを開発。スマートフォンを中心に、利用社数6万社、ユーザー数17万人が利用するシェアNo.1の施工管理アプリに成長。全国の新築・リフォーム・商業建築などの施工現場のIT化に日々向き合っている。Forbes JAPANの「日本の起業家ランキング 2021」にてBEST10に選出。
河合聡一郎氏(以下、河合):本日はよろしくお願いします。アンドパッド様は建築・建設業界における施工管理をはじめとした、さまざまな機能をSaaSにて提供するスタートアップとして現在、非常に注目を浴びてらっしゃると思います。業績も非連続に成長されている中で、創業期から現在に至るまで、どのような観点から組織創りに取り組まれていらっしゃるのか。ぜひお伺いさせてください。
稲田武夫氏(以下、稲田):まず創業当初は現取締役CTOの金近と私だけでスタートし、2年間はリフォームポータルサイト「みんなのリフォーム」を作っていました。まだ模索段階だったので、「建築・建設業界のために何かをしたい!」と産業だけを決め比較サイトを作り、お客さんに会いに行くことの繰り返しです。
起業前から3年以上、金近と私は一緒に住んでいました。他にも10数人エンジニアと共同で生活していたので、エンジニアとのつながりは多く手伝ってくれる方も増えていました。
その後、「みんなのリフォーム」の収益化のために「営業組織」を作ることを目指しました。当時は無料でもいいのでリフォーム会社の掲載を増やしたかった。そこで、COO堀井とVP of Salesの藤井にジョインしてもらいました。藤井は大手人材系企業で営業本部長として数百人規模の組織を作った経験がある人物です。藤井が入った翌月には10人規模の営業部隊が狭いオフィスに集まっており、元からいたエンジニアたちが驚いていました(笑)。
その後、お客様からの声で「ANDPAD」というサービスができ、PMF(Product Market Fit)するために、営業とオンボーディングのナレッジを蓄積し、スケーラビリティを検証していった形です。
河合:事業の特性を考えた時に、初期から大規模な営業組織をマネジメントした経験者がジョインされたのは大きいですね。メンバークラスを採用というよりも、事業上で、加速するためのドライバーとなる営業組織の立ち上がりも早かった印象です。一方で、元々エンジニアを中心とされた組織の中で、営業職の人数が増えたことによる、仕事の進め方やコミュニケーションの取り方などのギャップは生じませんでしたか?
稲田:3人目として入社した田村の役割が凄く良かった。田村はリクルート社のSUUMO営業出身です。彼が「100%学びたい」と本当に何でもやってくれました。営業だけでなく、リスティング広告の運用や、WebサイトのディレクションやSEOまで。彼が営業と開発の間を動き回れたので、営業サイドが「プロダクトのことは田村に聞けば分かる」という状態に持っていけたのが大きかったです。
河合:初期メンバーは、役割を限定せず変化を楽しめる方だと、組織にもフィットしますし、そうした方々の動きや仕事への取り組み方が、良い事業の成長や組織文化の醸成に寄与しますよね。
河合:資金調達をして、組織が拡大するフェーズに入ってくると、期待するミッションや組織運営に変化がみられるようになります。よく言われるのが、「30人の壁」「50人の壁」などですね。アンドパッド様ではいかがでしたか?
稲田:シリーズAの資金調達の頃に30人規模、シリーズBの終わりで50~60人規模になりました。この頃はグロースの一言。「創る」か「売る」か、です。個人の戦闘力が高く、ベンチャーマインドフルが高い方を採用していきました。
私たちは建設DXなので、建築・建設に触れたことがない方が興味を持つにはハードルがあります。エージェント採用やダイレクトソーシングの場合には業界に関する興味喚起の醸成から入るのですが、Wantedlyから応募される人材は建築・建設業界に興味関心があり共感を持っているので、基本的に醸成が必要ないので有り難いですね。産業に気持ちを醸成してくるって非常に貴重なんですよ。その点、私たちができる採用マーケティングとWantedlyは一番共感性があります。
他方で、エンジニアの採用は常に大変でした。プロダクトが2年位していくと多少の負債化があったり、SaaSがどんどんメッシュ化していてマニアックになり、フロントエンドエンジニアやアプリエンジニアが足りなくなっていました。そこで、運用タスクを自動化するためのSREなども考えなければいけない状況で、CTOではなくVPoEが必要なフェーズでした。
営業メンバーも増えてはいましたが、売上を作れるメンバーは数名でばらつきがありました。我々のケースだと、入社後3か月でオンボーディングが終わり、4か月目からMRRを獲得できるのが理想でしたが、当時はまだそんなノウハウもなかったので、「営業の標準化」がカギでした。経営陣が関わらなくても安定して売上を作れるのがポイントなので、できるだけ自分で立ち上がれる方を採用していました。実はこの頃の組織づくりには苦労しました。
河合:具体的にはどのような経験をされたのでしょうか?
稲田:たとえば、私たちのようなインダストリーSaaSでは、圧倒的に業界経験があるシニアを採用することもあります。アンドパッドの成長性に興味を持ってくれていましたが、インターネットカルチャーに馴染めないケースもありました。また、IT業界出身で、マネジメント経験が豊富なメンバーが増え、オペレーションの型化の中で、プロダクト・ユーザに視点が向かない社内調整が増えたのもこの頃でした。誤解なく言うと、入っていただいた仲間が悪かったのではなく、フェーズにあった採用・育成をできていなかった経営の問題でした。
この時代の組織構築の試行錯誤を乗り越えたことで、建築産業を深く理解しつつ、インターネットへの造詣も深い、両方に足を置いた会社にしたいという思いが深まりました。
あるべきカルチャーは業界への思いが強い人、大きな産業にテクノロジーを社会実装したい方の共存です。両方とも大きなチャレンジですから、選択を誤れば建築・建設業界にとって使いづらいプロダクトになりつつ、データ活用等もできなくなり崩壊する可能性があるのが怖いところです。ここは今もチャレンジしている途中です。
河合:たしかに業界出身者の方ですと、その知見やネットワークも豊富です。また、ご本人としても、短期間での結果を期待されていることもあり、出身業界のスタンダートに合わせた仕事の進め方や、会社のフェーズを正しく理解しないまま取り組むことはあるあるだと思っています。採用した企業側も、現状や期待値を正しく伝えてオンボーディングしていく必要もありそうですね。
稲田:50~60人での苦労があったので、ミッションとバリューをこのタイミングで初めて定めました。ミッションは「幸せを築く人を、幸せに。」で私たちはミッションドリブンなコミュニケーションで組織は作れていた。でも、その後苦労しましたし、さまざまな1on1を繰り返したのですが、なかなか共通言語がなかったこともあり、バリューを作ったのです。
アンドパッド社が掲げる6つのValue
河合:その前後で採用基準や採用プロセスにおいて、候補者とのコミュニケーションで変えたことはあるのでしょうか?
稲田:ハイレイヤーの方は一緒に経営の議論をするようにしましたね。NDAを結び、事業課題を話して、事業の数字を見て一緒にディスカッションしてもらう。「来年、SaaSとしてのインサイド、フィールド、オンボーディングがこれくらい人数増える際、どうやって採用していくか?」と「どんな組織体制にしていくと回るか?」を考えてもらっています。
ミドルレイヤーでは、「どんな単価の商品をどんなチーム構造でどんな成績評価のもとで売ってきたか、マネジメントしてきたか」を聞きます。SaaSと言っても、低単価から高単価の商品まであるため、合う・合わないがあります。また、著名なスタートアップでも、何人規模で入社されたかによって変わります。営業力がある方でも成果給に振り切ってパフォーマンス主導だった方は当時の我々のフェーズでは合わなかった。ANDPADはフィールドセールスでもオンボーディング工数をもち、業務の境目を緩く置いているため、カスタマーサクセスとの協調性やチーム営業のスタンスも重要です。
一方、エンジニア採用は難易度がより上がっています。ANDPADはBtoBビジネスですがtoCのようにモノを作りたかった。売るのは法人でも使うのは一人ひとりの職人さん。toC向けのコミュニケーション設計やUXを考えられるプロダクトマネージャーを重要視していました。
100人規模まではそれでもよかったのですが。今はシステム規模が大きくなったこともあり、要件定義難易度が上がり、また、建設会社全体の業務理解が重要になっています。そこで、プロダクトをリードするPdMとは別に、より複雑なシステム要件定義の経験があるBtoBのソフトウェア開発をやっていたディレクターをPjM(プロジェクトマネジメント業務)として積極採用してきました。また、業界と向き合って要求をまとめるプロダクトソリューションという職種を新設し、ANDPADならではのプロダクト本部体制を磨いております。
河合:事業の成長に伴い、求めるスキルやアウトプットも複雑化してきますよね。そんな中で、建築・建設の現場も理解しながら原価管理や経営管理にも知見があると言った人材は、採用市場には、なかなか居なそうですね。
稲田:ええ。居ないので育てる前提です。プロデューサーで言えば、「要件定義能力には自信がある。だけど、業界理解をしてコミュニケーションをとるにはそこまで自信がない」という候補者だったら、業界理解を深める動きをオンボーディングに組み込んだり。一方で、「PDM(製品データ管理)は得意だけれど、後ろのシステム要件定義は得意じゃない」という場合には必要な要件定義能力を成長させるのを優先していただいたりします。
河合:今後は更に事業がスケールしていく中で、組織設計やその運用も大きく変わってくるかと思います。その中でどういった計画をお持ちでしょうか?
稲田:アンドパッド社は2021年末に向けて600人規模まで増やす予定です。2020年初に100人規模で、2021年1月現在270名なので、毎年2倍強社員が増える。重要なのは、数百人をマネジメントした経験があるメンバーがどれだけいるか。弊社では執行役員レイヤーが10人ほど居るため、組織づくりに長けたメンバーがいる前提で採用ができています。
もう一つ重要なのは「イネーブル」。営業のセールスイネーブルメントだけでなく、人事にもイネーブル担当が居て、入社からオンボーディングまでのパッケージングを作ってくれています。SaaSは機能単位で動けるのが強みですが、全社的に新しい動きをしようとすると急にアジリティが落ちます。そこで、全体の動きを見られる人材を増やすために社長室や経営戦略部を作りました。たとえば、営業やカスタマーサクセスに居たメンバーが社長室に来てプロダクトを見て全体の動きが見られるPMに育ったら、営業企画やプロダクト企画に戻しています。
組織の自力を上げる取り組みは、組織状態を可視化・診断・改善するモチベーションクラウドの指標をとにかく徹底的に分析して悪いところを表明し、「今期はここを直します!」と四半期単位で宣言して実行し続けています。やり続ければ「この数字が悪いことは問題じゃないよね」と理解できます。悪いことを「悪い」と言えるのも大事ですね。組織づくりにイノベーションは要らないので、やるべきことを徹底的にやることだと思っています。
それから、「マネジメントポリシー」も制定中です。執行役員レイヤーはエン・ジャパンやリクルート、mixiやヤフーなど出身がバラバラで、マネジメントのあり方がそれぞれ違うため、ポリシーを作る必要があります。「期待を超え合う」をコアに置いています。
河合:インターネットのみで完結しないビジネスの場合には多様な人材が必要。だからこそ、経営陣の強いコミットメントとさまざまな基準が合っている前提で、採用基準や日々の業務における意思決定がミッションに紐づいている組織運営が何よりも大切だと思います。アンドパッド様の取り組みを伺い、未来を見据えながらも、同時に足元もしっかり丁寧に打ち手に取り組まれていると感じました。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
(取材・執筆協力/上野智)
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