テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する建築系スタートアップVUILDは、昨年12月デジタル家づくりプラットフォーム事業、NESTING co-build(コビルド)の1棟目となる住宅を香川県直島にて初竣工しました。NESTINGコビルドは、自分で設計し、仲間たちと「ともにつくる」をコンセプトにした住まいづくりサービスです。
新しいメンバーを迎えるべく、アーキテクトビルダー(設計施工管理)の募集を行っています。そこで、アーキテクトビルダーの仕事内容をお伝えすべく、1棟目施工中の様子を西村俊貴/アーキテクトビルダー(設計施工管理)、井上匡都/コンストラクションマネージャー(現場管理)に話を聞きました。
<写真左>
西村俊貴/アーキテクトビルダー(設計施工管理)
1994年熊本県生まれ。東京大学工学部建築学科修士課程修了。2018年に株式会社鯰組に新卒入社する。2016年RESIDIAリノベーションコンペ入賞、同年建築学生ワークショップ明日香村優秀賞受賞。2021年一級建築士合格。2023年4月にVUILDに入社。学生時代からさまざまなプロジェクトで建築に関するワークショップを手掛けるほか、小皿や蔵カフェの階段等、さまざまな小物制作を行う。VUILDでは、NESTINGの新しいモデル・工法を考える仕事をしている。
<写真右>
井上匡都/コンストラクションマネージャー(現場管理)
香川県小豆島生まれ。マル喜井上工務店代表。高校卒業後、大阪の専門学校でインテリアデザインを学び、卒業後は高松市内の店舗内装会社新卒入社。5年間の全国各地での店舗内装の現場監督業を経て、高松市内のキッチンメーカーにて企画営業職へ従事。28歳の時に実家が営むマル喜井上工務店を二代目として引き継ぐ。
VUILD代表・秋吉との共通の友人を介し、小豆島で工務店を探していたVUILDの建築プロジェクトに参画するように。昨年7月竣工の小豆島ゲートラウンジに続き、NESTING co-buildモデル1棟目となる直島プロジェクトでもコンストラクションマネージャーを務める。
NESTING co-build(コビルド)とは?
理想の住まいを自分でつくることができるデジタル家づくりサービス。昨年リリースした、自分で設計し、仲間たちと「ともにつくる」をコンセプトにした住まいづくりサービスです。
2ヶ月で完成する木造住宅
西村 僕たちにとっても最初のco-buildで経験値がなく、手探りながら、着工から2ヶ月、正味で言うともう少し短かったですが、なんとか無事に竣工させることができました。
直島のプロジェクトでは僕がアーキテクトビルダー(設計施工管理)を、井上さんにはコンストラクションマネージャー(現場管理)として力を貸してもらいました。
西村 NESTINGは、自分で設計し仲間たちと「ともにつくる」をコンセプトにした住まいづくりサービスで、それを念頭においた工法開発や設計がされています。工期を短縮するのに大きく影響しているのは基礎工事で、単管パイプを用いた杭基礎を採用しています。この方法だと2日で基礎を完了することができます。工程がいくつもあるコンクリート基礎と違って、プロが正しい位置さえ出しておけば、素人の人にも杭を打ち込むことはできそうなのでco-buildのコンセプトに合っていると思って採用しました。
ただ、直島は地盤がとても固いところで、あれだけ固い地面に杭を打つのは慣れた人じゃないと難しいだろうと、今回は僕たちが施工しました。立地の条件に左右されるところは残りますが、素人の人たちにも再現性の高い基礎工事だと思います。
他には、できるだけ工場でプレカット・プレアセンブルしたものを現場では取り付けるだけにするようにしています。今回は外壁・天井をパネル化することで、現場の作業をかなり減らすことができました。
最初の施工現場
西村 最初から終わりまでずっとバタバタでしたね(笑)毎日現場を動かしながら平行して決まってないところを詰めたり調整したり、施工中はずっと忙しくしてました。
co-buildは、それぞれの箇所をプロが施工するのか?お施主さんがするのか?によって、納まり、作り方や工程の組み方も変わってくるのですが、最初のco-buildで施工を通してそれも検証予定だったので、着工時点で決まったものはなかったですし、明日から現場入りというタイミングで、壁の一部に内壁を新たに設けるという少し大きめの変更が生じたりもして、もう一人のメンバーと、「どうしようか…」と、相談しながら現場に向かったことを思い出します(笑)。
井上 10月初旬にお施主さんを交えた打ち合わせがあって、「年内に完成させなければならない。」という話を聞いた時は本当に焦りました。その後すぐに2人で必死に工期内に納める方法を考えました(笑)。
西村 基本的な部分は決まっていたのと、井上さんが紹介してくれた大工さんがかなり貢献してくれました。壁の変更は、当初の予定では建て方の後に外壁パネルを構造体の外側に取り付けて内壁もそれで完成する予定だったのが、それでは構造体が丸見えになってしまうため内側にもう一枚壁を追加するというもので、元々は予定していた天井を外したことが連鎖的に影響したものでした。検討から実施まで大変でしたが、終わってみればお施主さんは「仕上がりに満足してます。」と言ってくれているので、納得しないまま引き渡しになるより、ずっとよかったと思っています。工期の終わりが近づくにつれ、現場は週7日稼働しました(笑)。
井上 西村くんが設計してたこと、加えてShopbotの加工チームへの指示出しまで行っていたことは大きくて、プロセス全体を把握していたので、あの状況でもなんとか出来ましたね。
直島は、co-buildというお施主さんやその友人たちが現場作業をする支援に加えて、離島特有の物流の状況があったり、常にフォークリフトが必要だったり、資材搬入や置き場の確保など、スムーズな進行を支える裏方の整備にも多くの挑戦がありました。
co-buildするということ
井上 現場のことを全く知らない人にパッと渡せる仕事は、現場には意外と少ないんです。なので、お施主さんにもできそうな仕事をつくって、職人とお施主さんが同じ空間で一緒に作業しても全体の工程に遅れがでないよう気をつけました。職人にとってはいつもと様子の異なる現場になるので、いつも通りのペースで仕事ができるようケアしたり、先回りしたフォロー等をしています。
西村 今回は大きいところでは、建て方、内壁やウッドデッキの塗装などに参加してもらいました。他にも、断熱材を詰めたり、床材を貼ったり、出来るところはお施主さんに主体的に作業を進めてもらいました。
直島のお施主さんは女性で、できそうな仕事に加えて、重さ(重量)にも配慮しました。毎週東京から来てくれて「次は何をすればいいですか?」と、積極的な方だったので、次はどの作業をお願いしよう?は常に頭にありましたし、井上さんともよく相談しました。
井上 「これなら週末にやってもらえそうだから、職人には先にこっちを進めてもらおう。」といった具合に、その点を考慮して現場を進めました。お施主さんはco-buildすることに前向きで、やりたいです!という人だったので、お願いできそうな作業を見極めつつ、時には伸びしろを出してもらうような作業にもチャレンジしてもらいました(笑)。
やってみてわかったのは、コビルドに対する熱量や作業スキル、理想の完成度合などはお施主さん一人ごとに異なるので、お願いする仕事を考えるにあたって、そうゆう情報をどうやって汲み取っていけばいいのか?
西村 お施主さん自身も施工に参加するのは初めてで、やってみたい気持ちはあっても出来るかどうかはやってみないとわからないでしょうし、実際よりも気軽に捉えていて、やってみたら結構大変だったということもあるかもしれません。一方で普段からDIYに慣れているような方だと、僕たちの手を借りずとも自分で何でもできるという人もいるかもしれません。
お施主さんは様々だと思うので、現場ではじめて会ってそれを見立てるのは難しそうだなと。工程に影響がでてもよくないので、事前にそうゆう情報を把握できたら少しは安心ですね。例えば、短い時間でも一緒に何か作業したりすれば、この方はこのくらいはできそう等と、わかる気がします。
直島はお施主さんが協力的で柔軟な方だったので、それに助けられました。
アーキテクトビルダーのおもしろさ・難しさ
西村 個人的には建て方の、お施主さんや友人の方たちが何人も来て、わいわいみんなで一緒に建てるというのは普段の現場にはない雰囲気で楽しかったですね。「ここはこうしたいです。」とお施主さんの拘りが見えてきたり、家に対する愛着が大きくなっていく様子を間近で見られましたし、完成品をただ受け取られるより、一緒に作業して一緒につくったものをよろこんでくれる方が自分としてもうれしい気分になるんだなという発見もありました。
井上 僕も建て方のときの「みんなで一緒につくる」をみなさんが楽しんでいた様子はお祭りのような雰囲気で、一緒に共有できたのは良かったですね。
少し違う視点からだと、僕は外部協力者なのでVUILDの最新の動向には純粋に興味もっていて、それを近くで見られることにはわくわくしています。
西村 図面と工程表があって決まったことをスケジュール通りに安全に進行させていくのが一般的な現場監督だとしたら、「決まったことへの遂行業じゃない。」ところが、アーキテクトビルダーならではの面白さだと思います。
設計で決まったことでも、お施主さんが「やっぱりこれがいい」となったら現場で変えてしまえばいい。段取りでも「ここはお施主さんが自分でやってみるところ」「ここは逆にプロに任せた方が仕上がりが良くなる」といった話しをしながら、現場でお施主さんと一緒に決めていける。こうゆう柔軟性があるのは、他にはない面白さだと思います。
「図面は着工前に確定しているもの」というのが当たり前に思われていますが、お施主さんにしてみれば見慣れないCGで空間イメージもできてないまま、それでも決めなくてはならなくて、そう決断したことかもしれません。現場に入って自分の目で見て「本当はこうしたかった。」が出てくることだってあるんじゃないでしょうか。
一方で、変更に対応するのは大変なんですが、現場は常に進捗していて、既に資材を発注してしまっていたり、このタイミングで変えるのは…ということもありますからね。それでもその時に残されてる最善の選択をお施主さんと一緒に考えて、決めていける。施工管理よりも両分が広いかもしれないですが、その余白が許容されているところに面白さを感じます。
井上 建築は裾野の広い業界なので施工管理と一括りにしても、住宅と店舗や内装では「現場とはこういうもの。」への認識も違うと思うんですよね。co-buildの現場は、素人のお施主さんと一緒に現場作業するのが前提の場所なので、あれもダメ、これもダメ、だと成立しないし、自分も楽しくないと思うんですよ。
例えば、「足場にあがって屋根の上、見てみたいです!」と言われたら「危ないですよ!」じゃなくて、「今しかそんなことできないですからね。安全帯の使い方教えますね!」なんて言える人はアーキテクトビルダーです。
自分の許容の内側でお施主さんにもできそうな仕事や体験をやらせてあげたり、できるようにしてあげる、そういうことが仕事の一つになってる現場です。
西村 伝えるのが難しいですね。co-buildの現場体験や講習会のような機会を設けて、そこで疑似体験のようなことができるといいですよね。
井上 僕は去年の夏ぐらいから打ち合わせに参加し始めて、プロジェクトの変遷とVUILDの仕事の進め方や雰囲気も見てきたので、施工が始まってからは色々あったとしても、やりやすかったんです。施工から参加した場合を想像すると、結構戸惑っただろうなと思いますね。
あと数棟建てていく内には、仕事の進め方には型が見えてくると思いますが、例えば何かおかしなことが起こったとしても、深刻になるんじゃなくて「おもしろがる」くらいの人がいいですよ(笑)。
西村 ほんと、そうですね(笑)