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『ホテル カンラ京都』ができるまで

京都らしいホテルと聞いて、どんなホテルを想像するでしょうか。古民家ホテル?和モダンなホテル?京都駅から徒歩12分の距離に、京都の“心”を感じられるホテルがあります。2010年にオープンし、2016年に増床リニューアルを遂げた『ホテル カンラ京都』のこれまでを追いました。


《教育施設の校舎を使ったホテル》

2010年、教育施設だった建物の活用相談がUDSに舞い込みます。物件の目の前は幅3メートルの狭い道路で、向かいには普通の民家、エントランスは半地下で天井も低い。一般的に考えればホテルには厳しい条件が揃っていました。



様々な検討を重ね、ホテルの可能性を模索。教育施設だった建物の構造上、客室にするには開口部の関係でどうしても間口が狭く細長い客室になってしまうという設計上の問題にも悩まされましたが、その細長い形を逆手にとって、奥に畳の小上がりをしつらえて、多人数泊まれる仕様にしたら、と考え出したところから企画が一気に進みます。


この企画案により、2人で宿泊したいゲストも、友人や家族など5人までのゲストも受け入れることができるようになり、事業化にこぎ着けました。


京都の心を感じられるらしさをどうやって出していくか。京都の昔ながらの住居である京町家をイメージしながら、ホテルとしての快適さを提案したいと考えました。また、館内全体でも京都を感じてもらいたいと考え、神社や寺院を視察し、着目したのは茶室でした。静寂の空間が醸し出す落ち着きを、ホテルで提供できないかと考えたのです。



そこで、京町家の形状にこだわり、間口が狭く奥行きが深い「マチヤスタイル」デザインとし、浴室ではなく客室内に洗面台を配して京町家の雰囲気をつくりつつ、ホテルの心地よさや快適性を提供しました。


客室の入り口もドアではなく格子戸を設置。開く時の『ガラガラ』という音で、日常から一呼吸おく時間を表現しています。畳の和空間も設けました。



《テーマは“学び”》 

当時のコンセプトは、教育施設であった建物の記憶を継承した遊びと学びを一緒に体験できるエデュテインメントホテル。エデュテインメントとは、遊びと学びを一緒に体験できることを言います。どのように「学び」を提案できるかがカギになると考え、本物の組紐や日本茶を客室に置いて、さりげなく文化に触れられるようにしました。


また、風呂敷や書道、かるたなどの日本文化を紹介する「カンラノート」や、「感謝の気持ちを手紙に綴る」「マイ箸づくり」「食を通して世界に目をむける」など修学旅行専用のプログラムを用意。子どもから大人まで愉しみながら環境にまつわる学びや気づきを得られるきっかけをホテルに落とし込みました。



カンラ(感洛)には、日本が育んできた美・知恵・おもてなしが息づく「洛」の地で、その心 を「感」じてほしいという想いが込められています。デザイン面では、教育施設という建物が持つハードなイメージを、柔らかい優しいビジュアルイメージに転化。上質なグラフィックやアートを付け加えることで、京都にふさわしい、柔らかさと気品漂う空間にしました。


フロントでは、門をくぐって母屋に向かう中庭のような、京都らしい情緒豊かなアプローチを表現しています。石畳の床、茶室、照明、苔、砂利など、様々な要素を調和させました。


(2010年当時のフロント)


また、天井にも京模様をパターン化した動きのあるデザインを施し、常に変化のある空間を生み出しました。接客だけでないおもてなしの方法を考え、人々を楽しませる工夫をしています。



《マチヤスタイルに『継承と革新』を》 

おかげさまで高稼働が続き、隣接する教育施設棟をホテルへコンバージョンして、2016年に増床リニューアルをしました。29室に39室加え、全68室。カフェ&ショップ、鉄板料理、イタリア料理、スパを新設。新たなラグジュアリーホテルとしての「ホテルカンラ 京都」が始動します。



リニューアルでは、「マチヤスタイル」の細長い客室は継承しながら、『継承と革新』をデザインコンセプトに掲げ、伝統技術を取り入れました。


木・石・鉄・緑・土など、人間の心に本質的に響く自然の根源的な素材をアレンジして空間に取り入れながら、京焼や西陣織など素材を繊細に美しく変化させる京都の“本物”の「技術と技法」を落とし込むことで、より京文化を感じ、普遍的に心に響く空間を構想しました。



《“本物”の京文化》 

あらゆるところで、“本物”を感じてもらいたいと考えました。客室や共用部には、オリジナルの京焼のタイルや洗面台、西陣織のフットスロー、京唐紙を用いたふすまを取り入れています。


また、カフェのラグには藍染、客室で使う湯飲みは作家が制作した清水焼、ウェルカムドリンクは宇治の煎茶など、目に触れるものだけでなく、五感で感じられるものにも気を配りました。



エントランスは、既存の吹き抜けを利用した大暖簾と、なぐり加工の木材パネルを貼った外構。また、ホテル・カフェ&ショップ・地下ダイニングと、3つの入り口をエントランスに設けることで、地域に開かれたホテルとしました。


(2016年以降のフロント)


フロントは、空間を広く使えるようになったことで、京都の要素は継承しつつ別の形で表現。暖かく親しみやすいホテルの顔にするために、清水焼のタイルを壁に使いました。一枚一枚職人が手作りしたタイルで、空間に余白を持たせながら、安らぎのあるグレード感を演出しています。



《京焼の器でお茶を飲みながら、金継ぎを眺める》

新たに追加した客室は、コンパクトなダブルルームから、グループで利用できるデラックスツインルーム、さらに坪庭にアウトバスを設けたザ・カンラスイートと、幅広く利用できる4タイプ。客室内には、京都在住のアーティストSai氏が手掛ける砂紋をモチーフとした銅箔を使用したアートを設置しています。



カフェ&ショップ「kanra lounge」では、作庭家 野村勘治氏が手掛ける坪庭を望みながら、加茂自然農園のオーガニックなお茶や、COYOTEのエルサルバドル産100%のコーヒー、京都各地のクラフトビールなどを楽しめます。ショップは、伝統工芸に詳しい永田宙郷氏がディレクションを手掛け、全て日本製にこだわったオリジナル商品やここでしか手に入らないプロダクトを取り揃えます。


カフェに併設の金継ぎブースでは、職人が金継ぎ作業をしています。金継ぎとは、漆や金粉を使って割れた器を修復する日本古来の技法。これは、例えばエントランスに大きな絵画が飾ってあっても目に入らないお客様もいるなかで、京都の伝統や技術を感じてもらいたいという意図があります。



レストランは京都牛など黒毛和牛をメイン食材に、鉄板料理を京都の小規模生産蔵の日本酒と共に堪能できる「鉄板料理 花六」と、旬の野菜や食材をオープンキッチンに備えた薪窯で焼き上げる「THE KITCHEN KANRA」を設けました。



スパ「kanra spa」では、日本の原材料や植物を使用し、日本の伝統や文化のエッセンスを織りなした京都ならではのスパ体験を提供します。4つの個室は、部屋ごとに布・土・木・和紙をモチーフとした優雅に洗礼された寛ぎの空間を創造しています。



また、「artless Inc.」の手により、ロゴも刷新。日本を感じるデザインでありながら、ラグジュアリーさを美しく表現しています。



《あとがき》

リニューアルしても愛され続けるホテル カンラ京都。滞在や体験を通して、表面的なデザインだけでなく、文化や想いに触れられるように設計されていました。文化や想いの深さに触れることで心が満たされていく感覚に、ラグジュアリーの本質を感じました。



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