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『HOTEL ANTEROOM KYOTO』ができるまで

伝統文化が深く息づきながら、新しいものを模索する空気もあるのが京都。そのため現代アーティストも多く、京都南エリアにも徐々に拠点を移してきた。

2011年4月、そんな今の京都南エリアになるきっかけとも言えるアート&カルチャーの拠点『ホテル アンテルーム京都』が誕生。2016年7月には、アートや和の要素を追加してリニューアルしました。

(Kohei Nawa/Swell-deer/2010-2016/mixed media/courtesy of SANDWICH, Kyoto)


《アートの力で地域を活性化する》

2011年、UDSでは観光スポットから外れた京都駅の南側、比較的人の少ないエリアの学生寮の活用の相談を受けました。当時周辺にホテルは1つもなく、相談をくれた方も「ここじゃ無理だよね……」と言ってしまうような物件でした。


しかし京都駅に近く、近隣にはいくつか大きな企業がある。もしホテルがあれば、ビジネス客にも観光客にも良いのではないか、また地域に人の動きが生まれるのではと考え、プロジェクトがスタートしました。同時期に京都に開業した『ホテル カンラ京都』が地域の文化を吸収してデザインしたのに対して、このホテルではこの場所から何かを発信することで地域に魅力づけをしようと考えました。



京都は昔からアート・工芸に関する人が多く住み、芸術大学も多い。そこで「アートの力で地域を活性化しよう」とコンセプトを据え、ホテルとアパートメントが同居するアートホテルを企画しました。


アパートメントの暮らしの中にも、アートを取り入れたいニーズがあるはず。また、当時ホテルはひとつもなかった九条エリアでホテルが果たして成り立つのか、未知数の部分も多かったため、ホテルとアパートメントが複合した形で計画しました。


《ホテルは、アイデアを生み出すための“媒体”》 

内訳は、61室のホテルと50室のアパートメント。UDSが企画・設計・空間デザイン・経営・運営をします。“アート&カルチャー”をキーワードに、京都の今を発信する。若手の作家やクリエイターがホテルという箱を使って、いかに発信できるか。これを念頭におきながら、企画やデザインを考えていきました。



目指したのは日常の延長。客室コンセプトは、“友人のアーティストの家”です。あえて作り込まず、ラフさも残している。懐かしさを感じ、落ち着ける空間を目指すために、テーブルやイスなどは無垢の板を加工し、時間の経過とともに味が出るインテリアを採用しました。


ロビーに設けられた「ギャラリー9.5」には、京都ゆかりのクリエイターの作品を展示しています。9.5は、同施設が九条と十条の間に位置していることから名付けられました。地域の方や居住者にもロビーやラウンジを利用してもらうことで、宿泊者に地域性を感じてもらえるようになっています。



ホテル名になった『アンテルーム』は、「次の間」「待合室」を意味する言葉です。施設そのものはあくまでも人が集まる仕掛けであって、目的ではない。交流で刺激を受けた人たちが、次の斬新なアイデアやデザインを生み出すための“媒体”となることが、この建物の最大の狙いでした。


《名和晃平氏のアートピースを展示》 

アンテルームの館内デザインは、剥き出しの天井配管やカーペットを剥がした床と、植物の緑やソファの色鮮やかなファブリックで、対比を意識しています。これにより、無機質な空間との対比でアートワークのインパクトをより高めています。


ホテルフロントの壁面には、学生寮で使用されていた靴箱を再利用。一階ラウンジのカウンターテーブルにはターンテーブルを設置し、音楽イベントを行えるようにしています。



インテリアにもこだわり、ロビーのローテーブル一つとっても、西洋家屋で使われていたアンティークドアを天板として使用していたものや、ジュラルミンケースをローテーブルに転換したものといったユニークな製品を使用しています。


客室内はレトロ調に、インテリアも合わせてエイジング加工を施しています。客室廊下には黄色の蛍光灯を使用して、宇宙空間を思わせる雰囲気にしました。


(Kohei Nawa/Swell-deer/2010-2016/mixed media/courtesy of SANDWICH, Kyoto)


象徴的なロビーでは、現代彫刻家の名和晃平氏が手がけたアートピースを展示。2ヶ月に一回程度アート・ファッション・写真・映像など多岐にわたる企画イベントを行っています。また、インテリアデザインやグラフィックデザインなど、当時としては珍しいクリエイターやデザイナーを起用し、従来のホテルにはない独自の空間を作り上げました。


《地域の活性化に伴い、増床リニューアル》 

2011年の開業当時、九条エリアにはホテルがなかったが、5年間で急増し2016年時点で2000室以上増加。まちに活気が出てきたことで、アンテルーム京都も67室の増床に取り組み、2016年7月に客室合計127室のホテルとしてリニューアルオープンしました。



「アート&カルチャー」のコンセプトを継承しながら、新たに「和」の要素を追加。客室やロビーに、和の様式やマテリアルを用いました。


また、アート部分の強化を目的に、「365日アートフェア」というコンセプトを掲げ、約70組のアーティストによる200点以上の購入可能な作品を、客室や共用部などに展示。ホテル全体がギャラリーとなる新しい取り組みを仕掛けました。


(Kohei Nawa/Swell-deer/2010-2016/mixed media/courtesy of SANDWICH, Kyoto)


当時、名和氏は「お客さまが滞在中、完全なるプライベート空間でアートにゆっくり接してもらえることで、購入していただく可能性も高まります。アーティストにとって、この場はまさに“365日アートフェア”状態なのです」と語っている。展示されているアートが購入されると、また新しいアートが展示されることによって、ホテル自体が新陳代謝していくエコシステムを作りあげました。



他にもリニューアルで誕生したのが、名和 晃平氏、蜷川 実花氏、ヤノベ ケンジ氏、金氏 徹平氏、宮永 愛子氏などが手がける8つのコンセプトルーム。部屋にアートを配置するだけでなく、部屋自体をひとつのアートとしてつくり上げた、アーティストの世界観が丸ごと詰まった空間になっています。



例えば、蜷川 実花氏のルームでは、桜の作品のグラフィックを大胆に客室に施し、庭には本物の桜を植え、客室内との関係性を強め、季節の移ろいを楽しむことができます。


アート&カルチャーに「和」を追加

プロジェクトが終わると設計者には「こうすれば良かった」「これを加えたい」という気持ちが出てきます。そうして温めてきたものを、今回のリニューアルに取り入れました。


清水焼を使用したオリジナルのペンダントライトを作成。家具の素材には白木とブロンズメッキを使用し、和の様式を再現。また、カーテンやメモ帳には、デザインスタジオ UMA/design farm による、京都の地図をモチーフにしたグラフィックを採用しています。



フロントの横にはショップを新設。朝食レストランの「ANTEROOM MEALS」の奥にもアトリエが新設され、長期滞在するアーティストの制作拠点になることで、ゲストは朝食を楽しみながら、アートが生まれる臨場感にふれることもできます。



《あとがき》

開業当初は人の少なかったまちに、アートという新しい価値を提案したことで、新たな流れが生まれている。京都芸大やアート制作会社が拠点を設けるだけでなく、行政も後押しすることでまち全体がアートの力で変化してきています。



UDSが目指す“まちづくり”は、まちの数だけ形がある。ここまで「まちと共に育ってきた」といえるホテル アンテルーム 京都はUDSにとっても特別なホテルの一つです。九条のまちも、アンテルーム京都も、そこに住む人々も、常に変化し、変化を楽しんでいます。



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