ナンバー2のプロとして、IPOへの道筋を描く。〜コーポレート部長が語る、事業成長を支えるバックオフィス論とは〜
国内の半導体大手や外資系、数々の変化に直面してきたベンチャー企業。多様なフェーズでコーポレート業務の研鑽を積んできた、現在Tokyo Artisan Intelligence株式会社(以下、TAI)でコーポレート部長を務める千脇さん。
今回は、IPO準備の真っ只中にあるTAIの現在地とともに、実務を通じた経験から導き出された「事業成長を支えるバックオフィス論」についてお話を伺いました。
【プロフィール】
執行役員 コーポレート部長 千脇 裕之
通信機器メーカーでの半導体購買業務を経て、マクニカ、コヴィディエンジャパン、デジタルガレージ等で経理財務業務に従事。エスキュービズムでは取締役としてバックオフィス全般を統括。2025年Tokyo Artisan Intelligenceに入社。IPOに向けたバックオフィス立上げ、組織基盤強化に取り組む。米国公認会計士、米国公認管理会計士。
「ナンバー1ではなく、ナンバー2のプロでありたい」
―千脇さんは国内半導体大手から外資系企業、CVCなど、多彩なキャリアを歩まれています。ご自身のキャリアの指針はどこにあるのでしょうか。
千脇: 私のキャリアが大きく動き出したのは、2社目の国内半導体大手で勤務していた頃です。当時の研修で「ナンバー2になりたい」と目標を掲げたのを今でも覚えています。もともと表舞台に出るよりも、他のメンバーを支える「参謀」のような役割が自分の気質に合っていると感じていたからです。
その後、外資系企業、IT系企業で経理・財務を中心に経験し、特にCVCの経理担当としてベンチャー投資の評価に関わる中で、企業が成功し、あるいは苦境に陥る姿を数字面から間近で見て、ベンチャー企業の大変さを実感してきました。
その後はベンチャー企業でコーポレート部門全体を管掌する役割を中心に担当してきました。中でも前職では、バックオフィス組織を一から立て直すという、とてもハードな経験をしました。これも、キャリアの大きな転換点だったと捉えています。
―ハードな経験をどのように乗り越えられたのでしょうか?
千脇:
まずは足元の課題を一つひとつ整理し、組織の土台を改めて作り直しました。こうした困難な状況下で組織を再構築した経験が、「何が起きても冷静に対処できる」という今の自分の自信に繋がっています。
特にベンチャー企業においては、業績や環境に変化があると不安を感じる方も多いですが、そこを乗り越えていくプロセスこそが、実務家としての成長に直結すると考えています。
その経験があったからこそ、大きなビジョンに向けて走り出しているTAIという環境に対しても、迷いなく飛び込むことができました。
IPOを目指すための組織作り
―現在のTAIのIPO準備状況を、どう捉えていますか。
千脇: 完成度で言えば、まだ「3割」程度です。基盤も端々もまだまだ脆弱だと考えています。ただ、ここ数ヶ月で大きな変化がありました。経理・総務・情シスなど、コーポレート部門に新しいメンバーが加わり、少しずつですが、体制が整い始めています。これまでは「やれるペースでやる」状態だった業務が少しずつ仕組み化されてきました。
―今、TAIのコーポレート部門のおもしろさはどこにあるのでしょうか。
千脇: 上場企業のような大きな組織で、例えば経理の一部の業務だけを何年も担当するのは、1つ1つの業務の深さは経験できるものの、なかなか経理の全体像が見えず、経理の主要な業務を経験するのに多くの年数を要してしまいます。
現在のTAIは、AIソリューションの提供というソフトウェアとハードウェアを組み合わせた受託開発的なサービス事業とAI半導体の開発・販売という物づくり的な事業の2つを手掛ける特殊な事業構造に加え、 IPO準備やグローバル展開も同時並行で進んでいきます。少数精鋭で広範囲な業務を担う分、会社の成長の過程で多くの課題と機会に直面できる、非常に密度の濃いフェーズです。
ここで自分で手を動かし、試行錯誤しながら仕組みを導入した経験は、何にも代え変えがたい「どのような困難な環境下においても業務を遂行し成果を出すプロフェッショナル」としての土台になると思います。
攻めだけでも、守りだけでもないバックオフィスの在り方
――千脇さんの掲げる「攻めと守り」のバックオフィス論について教えてください。
千脇: 守りとは、単にブレーキを踏むことではありません。
私は過去に所属した組織も含め、正しいことを行うためには「いつ辞めさせられてもいい」と常に思っているんです。そのため、社長に対してであっても、ただ従うだけでなく、バックオフィスとして「リスクがある」と思うことに対しては絶対に口にします。
ただ、重要なのは「会社が目指す目標を実現するための選択肢」を提案することです。リスクを最小限に抑えつつ、どうすれば前進できるか。それを考えるのがバックオフィスの真の役割だと思います。
また、現場とコーポレート部門を分断させないことも意識しています。
ファイナンスや管理会計の教科書的な難しい概念を現場に押し付けるのではなく、数字のプロとして誰にでも分かりやすい方法で経営判断に繋げていく。そうした「実務感のある数字」を通じて、事業の価値を向上させる一翼を担いたいと考えています。
攻めの提案を生むための意識
――今後、どのようなチームを作っていきたいですか。
千脇:
現在は、確かな経験を備えたベテラン層が続々と加わっていますが、将来的にはポテンシャルのある若手を積極的に引き上げられる組織にしていきたいと考えています。
私自身、若手時代に抜擢された経験が今のキャリアの糧になっているので、意欲ある人にチャンスを提供できる場を作りたいです。そのためにも、まずは今いるメンバーと強固な組織の土台を作ることに注力しています。
TAIは今、一気に突き抜ける可能性を秘めたフェーズにあります。「バックオフィスが脆弱だから成長できない」という事態は、絶対に避けなければなりません。自身の経験を活かし、まだ少しカオスな環境を楽しみながら、自らがリーダーとなって体制を構築し、TAIと一緒に成長しながらキャリアを積んでいきたい。そんな想いを持つ方と一緒に、まずはIPOという高い山を登り切りたいと思っています。