株式会社スタイル・エッジでデザイナーをしている草川 哲也さんに
AIをつかった、今のデザイナーについてお話を聞きました。
この記事ではデザイナーが取り組んだ「デザイナーAI研究プロジェクト」についてお話しします。
AIが進化し、社内でもAIを取り入れた、本格的な業務改善が始まるなかで、「デザイナーの仕事にもAIを取り入れられないか」という声が上がり、これまで人の手で当たり前のように行ってきた作業が、本当に人間がやるべきことなのか、デザイナーの仕事そのものを見直し、「人にしかできない仕事を再定義する」ため活動してまいりました。その記録をお伝えします。
1.プロジェクトの目的とゴールの設定
このプロジェクトが発足した際にはざっくりとした目的をお聞きしました。
効率化とスキルアップの2軸で生産性と品質を向上
AI ✕ クリエイティブの可能性の探求
と同時に、部長から言われた言葉があります。
“スタイル・エッジの新しいデザイナー像をつくってほしい。”
この言葉が、5か月間ずっと私の背中を押し続けてくれました。
私たちの挑戦は、ここからスタートしました。
まず、具体的なこのプロジェクトのゴールを決めるべく、プロジェクトメンバーで話し合い、3つの目標を決めました。
- AIを用いて「デザイナーがやらなくてもよい作業」の工数を50〜100%削減
- AIをどこまでデザイン業務に活かせるかを検証し、実務が効率化する仕組みや方法を見出す
- AIによるデザイン業務効率化のナレッジを社内外に発信し、他デザイナーの気づきになるような情報を蓄積する
この目的を達成するために、私たちは 「AI研究サイクル」 と呼ぶ5つのステップを回し続けることにしました。
- 仮説 – 仮説を立てる
- 試作 – AIを使った試作を行う
- 効果検証 – Before/Afterで工数比較や精度を確認する
- ブラッシュアップ – プロンプトや手法を改善する
- 発信 – 成果や失敗をnote、社内チャット、社内AI掲示板で共有する
プロジェクトの目的とゴール設定
2.最初の一歩は「AIでできそうな業務」を徹底的に洗い出すことから
最初のフェーズで私たちがやったのは、デザイナーの業務をすべて棚卸しし、その中の「AIで置き換えられそうな課題」を出すことです。
「チェック系」「評価系」「素材生成系」「アイデア系」など、カテゴリーごとにも分け、課題を解決する施策をそれぞれのメンバーが考えていきました。
デザイン業務の工程を洗い出し、その中のAIで解決できそうな課題を洗い出すブレスト
その中である程度結果になった施策をご紹介します。
3.AIが活用できた事例
自社名刺入稿データWチェックを完全自動化【1〜2時間の作業が3分に】
成果が明確に出たのが、「名刺入稿データのWチェック」です。
これは、社名・住所・電話番号・ローマ字表記など記載内容から、入稿データに不備がないかまで細かく確認するタスクで、これまでは1〜2時間かかることも珍しくありませんでした。
この作業をAI化するために、次のようなステップを踏みました。
- チェックシートの精査
「本当に必要なチェック項目はどれか」をチームで議論し、最小限かつ効果的なリストに絞る - AIに質問してスクリプト設計
Illustratorで自動確認できる項目(フォントのアウトライン化、特色の有無など)を洗い出し、必要なチェック項目を整理 - AIにスクリプトを書かせる
整理した項目をもとに、AIに依頼し、Illustratorで自動でチェックしてくれるスクリプトを作成 - AIで記載内容の妥当性を検証
記載内容が正しいか、AIに検証させる“二重チェック体制”を構築 - 意図的な不備データでテスト
フォント未アウトライン化や特色残しなど“不備入りデータ”を用意し、AIが検知できるかをメンバー全員で確認→修正を繰り返す。
AIに作成してもらったスクリプトを読み込むと不備を教えてくれる
問題なければ「チェック項目は問題ありません。」とアナウンスされる
- 実務でテスト運用
AI+人間の併用で10件の案件を運用し、すべて問題なし。精度を確認したうえで完全AI運用に移行
結果、1〜2時間かかっていた作業が約3分に短縮。
しかも精度は人間と同等以上で、より短時間で社員に名刺が行き渡るようになりました。
写真・イラスト素材生成:工夫次第で“使える”レベルまで到達
次に取り組んだのは、素材生成のAI活用です。
「ニッチな素材はいくら探しても見つからない」「資料用のイラストを一から描くのが手間」など、日々の制作で出てくる“地味だけど時間のかかる課題”に、AIはどこまで使えるのかを検証しました。
Geminiのnano-bananaなどの生成AIを使って素材を作成してみた結果、最初は「人物が不自然」「肌が滑らかすぎる」といった違和感が多く、一発で実用レベルになることはほぼありませんでした。
しかし、プロンプト内で年齢・服装・髪型・背景・職業まで具体的に指定することで精度が大きく改善。
「資料やサイトの中で十分に使えるレベル」に到達するケースが増えてきました。
AI作成イラスト①
AI作成イラスト②
いろいろなAIモデルも検証し、画像生成AIではnano-bananaが今のところより実用的な素材を提供してくれることが分かりました。
nanobanana生成写真①
nanobanana生成写真②
nanobanana生成写真③
これらから“AI素材は使えない”ではなく、“使えるようにするための工夫が必要”という学びが得られました。
デザインの「評価・チェック」もAIの得意分野だった
次に注目したのは、「評価」や「品質チェック」の領域です。
人間の判断が必要だと思われがちな分野ですが、評価基準が明確なものほどAIは力を発揮することがわかりました。
- ヒューリスティック評価 → 改善提案まで
AIを使い、UIの問題点を洗い出して改善案を出すまでを任せました。すると、人間のレビューで見落としていた改善点をAIが拾い上げるケースもあり、AIが「第2のレビュワー」として機能する可能性が見えてきました。
AIに相談しながら進めたヒューリスティック評価
- 最低限のデザインクオリティチェック
FigmaのAIプラグインを活用し、余白・フォントサイズ・階層構造といった基本的な品質を自動チェック。「ここがずれている」「この余白は統一されていない」といった指摘を数秒で出せるようになりました。
Figmaプラグイン「AI Design Reviewer」を用いたデザインチェック
作成したデザインを画像に書き出しAIに読み込ませることで、客観的なデザインの改善提案を出すこともでき、どのメンバーも自分で一定のクオリティまでデザインをブラッシュアップでき、人間が確認に使う時間を大幅に削減できました。
デザインチェック
どの部分を修正するかが分かりやすいように赤ペンを入れてもらった
この領域では、基準が定義されているほどAIが強いことが実感できました。
つまり「定量的な判断」はAIに任せ、「定性的な最終判断」は人間が担うという役割分担が見えてきたのです。
デザイン×AIの検証結果の一部
4.「AI研究ナイト」という場が生んだチームの進化
プロジェクトの中期以降、メンバーから「検証の時間が取れない」「一人で触っても進まない」という声が増えてきました。
そこで立ち上げたのが「AI研究ナイト」です。
ルールはシンプルです。
- 週2回、2時間ずつ、業務もチャットも一切禁止
- AIだけに向き合い、全員で1つのテーマに挑戦する
- プロンプトや考え方を持ち寄り、成果や気づきをその場で共有する
場の空気は研究というより部活のようでした。
毎回わいわい意見を出し合い、「このプロンプトすごい!」「その視点はなかった!」と盛り上がる。
そんな時間を重ねるうちに、僕たちの検証は「ツールの検証」から「活用の戦略化」へと進化していったのです。
ただ、すべてが順調に進んだわけではありません。いくつも「これは上手くいかなかった」と言える経験がありました。
- AIでのサイト制作
見た目は整っていても、ブランド意図やメッセージとズレたサイトが生成されることが多く、最終的な構成設計は人間がやる必要があると痛感。
AIで作成した架空のサイトの一部、コーポレートやECなど様々なサイトを作成してみた
- AIでのロゴ制作
同じテーマでもプロンプトの表現次第でまったく異なるロゴが生成され、「指示の精度」が結果を左右することが明確になりました。
AIを用いたロゴ作成①
AIを用いたロゴ作成②
5.失敗とつまずきから見えた「AIが得意なこと」「人間がやるべきこと」
5か月のAI研究で分かったのは、AIの強みは「パターン化」「大量生成」「構造化」の3つに集約されるということでした。
名刺チェックの自動化、素材生成、UI評価など、多くの場面でこれらは圧倒的な力を発揮しました。
しかし同時に、AIがどれだけ進化しても苦手だった領域も、はっきり見えてきました。それは、デザインの現場で何度も直面した“人間がやるべきこと”です。
人間がやるべきこと
- 依頼者やユーザーの“本音”を読み取り、言語化すること
AIは言語化された情報は理解できますが、「本当に困っていること」「言っている内容と実際の問題の差」「行間や空気感」は読み取れません。ヒアリングで本質的な課題を引き出すのは人の仕事だと思います。 - 制約・事情・矛盾をふまえて“現実的な最適解”を作ること
デザインには、法律・ブランド・納期・関係者の意見など多くの制約が同時に存在します。AIが示す“理想的な案”よりも、現実で成立する“落とし所”を作る必要があり、これは人間にしかできませんでした。 - 例外・違和感・リスクの芽を見抜いて未然に防ぐこと
AIは平均には強いですが、例外や微妙なズレには弱いです。画像生成の“不自然さ”、UIの「なんか使いづらい」、ロゴの“危うい既視感”など、事故につながる違和感を見抜くのは常に人ではないかと思います。
AIの強みが明確になったからこそ、人間の価値もはっきり見えてきた。
この役割分担こそが、5か月のAI研究で得られた、いちばん大きな成果だと感じています。
業務ごとの研究記録とAIができることのまとめ
6.AIと共につくる「新しいデザイナー像」へ
名刺チェックのような定型業務はAIに任せ、素材生成や品質チェックはAIと協働し、意図設計や世界観づくりは人間が担う。
その結果、デザイナーは作業者から、より本質的な価値を生み出す存在へと進化できると私たちは確信しました。
この5か月の挑戦は、まだ始まりにすぎません。
実案件の中にAIを組み込み、0→1をAIのみで作ることを目標にツールやプロンプトの検証を続けてまいります。
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